蜂の夢


1985年
核兵器廃棄条例が成立し、所謂最終兵器が世界から一掃されるがある国が全く兵器には見えない最終兵器の開発を始める。
それは遊園地のホログラムを駆使した精巧なホーンテッドハウスのようなモノだった。
計画の名称はΜέδουσα,
マシン本体の名称はOculus Elephantis
マシンは少年の恐怖心から誤作動して7日間で世界を滅ぼしてしまう。
物語は滅びていく世界を7日間それぞれの断片から構成されている。

プロローグ

砂漠の果てにあるカフェに十三人の老人が集まり会合を開いている。
その中の一人に私がいる。
私は緩くて不味いコーヒーにウンザリしながら話を聞いているがあまりにバカバカしくてそのコーヒーの中に机の上を這い回っていた蜘蛛を入れ溺れるのを眺めている。

カップの横には分厚い資料がありざっと目は通したがそれは各廃棄後の安全保障について、かつての核保有国との念書のようなものでありその廃棄も含めた確認要項とそれぞれの国に監査団を常駐させる為の条件やら待遇の確認やら、そんなものが500ページ程もあるがそれは今回の目的ではない。
重要なのはたった13ページの(新たなる保証)というやつだ。
それは核兵器にかわる究極の最終兵器でありこの国が侵略国家による深刻なダメージを受けたあとでもこの世界そのものを滅ぼせるというモノて、しかもそれは秘密裏に完成しているという事の事後承諾というべきものだった。
この訳のわからない計画のための予算と言い訳をずっと議会でやらされていたのだ。
勿論私がやったのは各党と財界をまわっての根回しだったが。
それでもなにを創っているのかはよく分からなかった。
予算は世界を滅ぼすという最終兵器にしては微々たるものだったしそれは国民のための最先端技術を使った保養機関であり海外に対しての技術とこの国が福祉国家へと変化していくというプロパガンダも兼ねていた。
かつての軍事予算に比べればその年間予算の10%にもみたない細やかな予算だったがそれでも保養施設の予算としては破格過ぎる金額だったので調整と予算確保は一筋縄でいくものではなかったのだ。
あと まだ、これは解決していないがこの最終兵器は決してそうは見えない偽装して秘匿兵器なのに。本来存在してはならない最終兵器がある事を他国にどうやって認知させ核に変わる新たな脅威として喧伝していくかだがそれについてはまだ議論さえ始まっていなかった。
なにしろこれが起動する範囲や条件や結果などについてもこの13ページには何一つ記載されていない。
秘密を守る為だろうがこれではまるで遊園地のお化け屋敷のパンフレットとまるでかわりないじゃないか。
全くこんなものの為に何年も振り回され絡んでいた事故やら事件やらの揉み消しまでやらされていたかと思うと心底ウンザリする。
それに
これが終わると また長い時間とても乗り心地が良いとは言えない軍用車に揺られなければならないのだ。

パンフレットから目を離し
カップを覗くとそこには蜘蛛の姿はなくそれでなんとなくホッとする。

新しいコーヒーを貰いたいと思うが誰に言えばいいのだろう?

第一夜

少年と老婆

人工的に作られたピラミッドのような山の上に巨大な遊園地があり、その北端の波打ったように土が盛り上げられた縁に椅子が並べられ十三人の老人とその関係者らしき二十人くらいの世代も性別もバラバラな人間が座っている。

私は少年だった。

まだ15歳くらいだろうか?
10歳になったばかりの弟を連れて父親が所長をしている研究施設に来ている。
人工的に造られた山でその頂上に父親が造ったお化け屋敷がある。
その試験公開に呼ばれたのだ。
弟は久しぶりに父に逢えるのではしゃいでいるが私はそうでもない。
並べられた簡単なパイプ椅子に座り13人の老人達と一緒にその試験公開に参加する。
父はまるで生き物が壊れたピアノのようになっている機械の前にすわり音の無い演奏を始める。
それで悪夢が始まったのだ。
それは悪夢がそのまま現実として体験させられる恐ろしいものだ。
自分が恐れている全てが心を読み取られるように実体験として再現されるのだ。

キーボードを叩く父の背中がボヤけるとそこから悪夢が始まった。
立体ホログラムと教えられていたがかなりリアルで実際にそこにいるように思える。
自分と弟がフライングダッチマンのぼろぼろの帆船に乗せられていた。

その辺りしか記憶には無かったが乗せられているのをみているのではなくて確かに自分はそこに座っていたのだ。

硬くて妙に冷たい椅子でどうしてもそこから離れられなかった。

全てが終わり一緒に見ていた老人達も帰り父親は弟を連れて下の街に食事に出かけて行った。
私は疲れていたし父親と居るのが煩わしかったので誰もいなくなった施設を見て回る事にしたのだ。
保管庫のような所には綺麗な結晶鉱石やよく分からない精密な機械が展示されている所があってそこを眺めていたら老婆とその息子らしい太った大男が現れてその鉱石の納められたケースを壊し始める。
止めようとしたが、大男が怖くてケースを壊すのをやめさせられなかった。
元の地権者だと主張する老婆は、これは自分の土地から出た物を勝手に持って行ったので返してもらうだけだと言う。
暫く押し問答となり老婆は大男を私にけしかけた。
大男は知能に障害があるようで老婆の言いなりだ。

私は逃げ場を失い父親のピアノのぶつかりそれで悪夢を見せられれば大男が怯むかもしれないと思いやみくもに鍵盤を叩く。
やがて
とても大きな
サッカーボールより大きな蜂が
大男を襲い始める。
彼は子供のように泣き叫んだ。
男の意識が伝わってくる。
まるで伝染するかのように記憶や思念が私に入ってくるのだ。
それは男の恐怖と記憶だ。
まだとても小さかった頃にやはり蜂に襲われてそれで彼はなにもかも失ったのだった。
蜂は大男を何度も刺し、彼を殺してしまう。
ウイルスに感染してそのまま廃棄された豚のように死んでいた。
後から来た老婆は死んで動かなくなった大男を見て激怒し私に杖を振りかざした。
でも、それが当たる前に老婆は墓掘り人夫に捕まり生き埋めにされ、最後に汚れた土の中から皺くちゃの手がそれでも空を掴もうとする。
墓掘り人夫のスコップがそれを斬り落とすとその手首は、大きな蜘蛛のように素早く跳び私の首を捻じ切り始めた。
死ぬまでのそう長くない間私は、悪夢の中で魅せられた母親の死を思い出していた。

第二夜

不死
私は兵士だった。
階級は大尉。
一個分隊を率いて命令を受けた戦地へ向かったのだがそこはあまりにもパカパカしくあまりにも突拍子もない現実離れした戦場だった。
緊急出動の命令を受けて先遣隊として出動した分隊がそのまま連絡不能となり結果として大隊規模の戦力が投入されている筈だった。
だがなんの結果も出せないまま既に本部との交信すら儘ならぬ状況になり、支援戦力も当てにはできないだろう。
巨大なコンクリートで固められたピラミッドの周囲は大きな堀でとても濃い塩水に満たされている。だがそのピラミッドに登るルートは五メートル幅の橋しかなくそこが主戦場になっているのだ。
そんなところに大隊規模の兵力を送り込んでも戦力として機能する筈もない。
戦車や回転翼機なども投入されているがあくまでも対人兵器であって神やら悪魔のような存在に対抗できるものではない。
最新鋭のケースレスブレットを装備し自動標準システムを備えた自動小銃も対象は同じ人間であって口の中に目がありそれで捕食した兵士を眺めながら飲み込むような怪物などはなから対象外なのだ。
少なくとも私の分隊は歴戦の猛者でかためられている。
世界の至るところでの紛争に介入し政府の要求を叶えてきた。
最初に送り込んだ分隊が現着から5分もしないうちに連絡が途絶え続いて小隊規模で何度かレンジャーも送ったがそれもやはり連絡が途絶えそれで我々に白羽の矢が立ったのだ。
只事ではない。
装備も最悪の事態を想定して最新鋭の銃火器を用意して臨んだがどうしようもなかった。
分隊自慢の回転翼機も十メートルを超える巨大な蝙蝠に蛇の頭をつけたような怪物に紅蓮の炎を吐かれて焼き尽くされるようではどうにもならない。
橋の袂では神と悪魔が交互に現れて兵士達を殺戮している。
馬の頭に下半身が蛇になったような怪物が虎の子の戦車に絡みつき全身からなにか強力な酸のようなモノを出して溶かしている。
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
折角の自動照準がこの怪物達相手では全く機能せず最新鋭の自動小銃はただのお荷物に過ぎない。
兵士達は火炎放射器かグラネードランチャーで戦うしかなかったがそれは仲間達に被害を与えるだけだった。
いつのまにか同僚は散り散りになりずっと背を守りあってきたLloydだけがそばにいた。
おい!あれみてみろ!
そこには女神らしき女性が立ち足元には兵士達が平伏していた。
俺らもアソコに並ばないか?こんな戦闘してたって結局殺されるんだろ?

やめとけ、とりあえず生き残る事だけ考えてりゃ良いんだ。
それにさっきあれに似たようなのを見たぞ。

言い終わらないうちに女神の身体は頭から真っ二つに割れるとそのまま大きな口になり平伏した兵士達を食い散らかしていた。

おお、くわばら、くわばら。おまえの言う通りだな、まずは生き延びることだな。

そうだな、本部はどうなってる?
まだ通信はつながってるんだろ?

いや、繋がってはいるが聞こえるのは金切り声と銃声だけだな。

じゃあ基地に帰っても仕方ないか、じゃあなんとか、橋を越えるか、

正気か?

Lloydは顎で橋を差した。
神と悪魔は既に姿を消していたがそこには大きなカニのような怪物がバラバラにした兵士の肉片を透明な犬が食べていた。
犬のなかには兵士達が、バラバラになって収まっていてゆっくり消化されている。

無理だ、俺はあんなザマになるのは真っ平ごめんだね。

でもな、ここに居てもおそかれはやかれああなるんだよ。
基地に戻ることも出来ないなら当初の命令通り橋を越えて山の頂上部の施設を破壊する。
それしか生き残る方法はない。

まあ、それはそうなんだが。
でもどうやって橋を越えるんだ?

堀をヤツらの死角から渡るだよ、
ここの水はとても濃い塩水なんだろ?
だったら俺たちは浮く。
それで、そのままゆっくり進んで行けばいいんだよ。

死角って?

橋の真下さ。

Lloydは嫌がっていたが周りの部隊のあらかたが喰われ破壊され焼かれたのをみて漸く塩水に入った。
予想通り身体は武器を装備したままでも浮いていて二人でそのまま岸を目指した。

だがなんとか着いたのは元の橋の真下だった。

何度か繰り返してみたが如何やっても対岸には着けずもといた場所に戻ってしまうのだ。

Lloydはすっかり疲れ果ててポケットから煙草を出して火をつけた。

そしてその刹那走って来たサイに踏まれてそのまま死んでしまったのだ。

そうだ、サイは森の消防士とかって。
でもあれは伝説だろ?

悲しくさえなかった。

起き上がるともうそこには動くものはなにもなく、遠くの街から火の手があがっているのがみえた。

何故自分だけがなんの影響も受けず生き延びたのかは全く分からなかったが兎に角街に向かう事にした。

まだ兵士としてやれる事があるように思えたからだ。

まだ動く車両をみつけてそれから街に向かおう。

私はなんとなくだがやるべき事がわかったように思えたのだ。

第三夜

チャシャ猫

目が覚めたら私は、干からびた老人で目の前には何処かであったか、どうしても思い出せないが良く見知った顔があった。
よく動く剥き出しになったような目玉が、私を眺めている。
それはうすら笑いを浮かべているようで、その表情を何処かで見た事があるように思ったのかもしれない。
それは言った

ようやくお目覚めだね?

中々起きないから退屈してたんだ?

その問いに応える間もなく記憶を整理する。
Oculus Elephantis
が、試験運転の帰りに暴走したという連絡が入りそのまま緊急避難用に設定されていた最寄りのシェルターに他の十二人の閣僚達と入り入り口を閉ざしたのだ。
Oculus Elephantis
は人の意識の奥底にある恐怖そのものを抽出してそれを拡大反転してその意識に戻し人を壊す。
ウイルスのように人から人へと感染し一つの都市や国家もその人口密度や範囲にもよるが1日もあれば壊滅させる事が、出来るだろう。
でも性質は、放射線に似ていて鉛やコンクリートなど密度の高いものは、突破出来ない。
それで核シェルターとして作られていて核廃棄条約で無用の施設となったここを緊急避難用に確保しておいたのだ。
元々この核シェルターは、政府要人と選ばれた人間達の為のものだったが、それでも百人規模の人間を凡そ10年は生存可能とする物資を蓄えた施設だったのだ。
それでこの後始末をどうするか話合う筈だったのだが私しか居ないし、どうも椅子に座ったまま眠っていたようで体の節々も痛かった。

さて、どうしようか?


その干からびた老人は切り出した。

他の連中を、知らないか?

さあね?俺はしらないよ。誰か探しているのかい?

誰でもいいんだが、誰かみなかったか?

そういうのなら今おまえをみているよ。

そう言ってニヤニヤ笑う。

チャシャネコだなと思う。

探してみれば良いじゃないか、俺は邪魔しないよ。居れば見つかるし居なければみつからない。

私は相手にするのをやめた。
それで椅子から立ちあがろうとするのだが体がうまく動かない。
それでも壁を伝ってなんとかドアのところまで辿りつく。
まずは一緒にきた人間達を探してそれからどうにかさせるのだ。
こうなってしまっては、本来政府と軍の調整を担当している私に出来る事などもうなにもない。
この馬鹿げた計画のための予算を審問を避けながら工面する事もないのだ。
まず、食料や当面必要なものも確保しないといけないだろう。
それで格納庫に繋がる扉を開けたのだ。
それでやっと全てが、理解出来た。
格納庫には食料も水も必要な物は何も無かった。
核兵器という脅威が無くなり嫌というほどの大金が注ぎ込まれたこの施設も無用となりやはり無用となった半分解体された核兵器の廃棄場所になっていたのだ。
格納庫には半ば露出した核弾頭がそのまま放置されていた。
そんなに強くはないにしても辺りは放射線で満たされていたのだ。
不調なのにはちゃんと理由があったのだ。
それでようやく干からびた老人が誰なのかを理解できた。
彼はいつの間にか私の前に立ちまたニヤニヤ笑いを浮かべた。

俺はね、あんた達の言う所謂死神ってヤツなのさ。むかしはAnubisって呼ばれてて神として祀られてた事もあるんだぜ、

俺が見えて話せるって事はアンタの死が確定したと言う事でもあるんだよ。
いや、でも良かったよ。
この変な シェルターだっけか? 
なんとなく入ってみたら蓋をされちゃってずっと出られなかっんだよ。
腹も減るしな、
どうなるかと思ってたらあんたらが入って来た。

それで皆頂いたのさ。
元々俺は墓場の上を這い回り屍を喰らう黒犬だったからな。

あんたが最後の一人 十三人目だ。
指の一本まで美味しく頂くからまあ勘弁してくれや。

第四夜

鬼が来る

私はまだ10歳の少年だ。
そんな年齢でなにがわかるというのだろう。
ずっと兄と二人で寄宿制の学校にいてクラスメイトが夏休みで家に帰る時も兄と二人で部屋にいるだけだ。
でも、久しぶりに本当に久しぶりに父親に逢えると聞かされて少年はとても嬉しかったのだ。
兄は少し面倒そうだったがその理由まではわからなかった。
約束の日駐車場からとても長い坂を上がって着いたのは遊園地のようなところだった。
観覧車や回転木馬はあるけれどどこかとってつけたような違和感がある。
その奥には屋根のないホラーハウスのようなものがありさらにその奥には壊れたピアノのような物の前に座る懐かしい姿があった
お父さんだ!
少年は思わず声をだして兄に叱られる。
やがて妙な振動と機械が焦げたような匂いがして来たがそこで意識は途切れていた。
兄はとても怖いモノを見たと教えてはくれたがそれがなにかはわからなかった。
父親が折角美味しいものを食べに行こうというのに兄は疲れたから行きたくないという。
でも少年はそんな事はどうでも良かった。
父親と一緒にいれるというだけで、もうそれだけで良かったのだ。
母親が鬼に殺されてから父親は鬼を全部殺すからと言って少年と兄を置き去りにした。
仕方ない、だってお母さん殺されて悔しくないわけないよ、お父さんだって苦しいんだよ、鬼を皆殺さないとお母さんだって天国にいけないんだよ!
でも
お兄ちゃんはそうは言わなかった。
お母さんを殺したのはお父さんが作らなくてもいい機械を作ったからなんだ。
だから皆が怒ってお母さんを殺したんだ。

お母さんを殺したのは鬼なんだよ?
お父さんがそう言ってたんだよ?

あれはただの人間だよ、
恐怖と猜疑心に取り憑かれた沢山の人たちだったんだよ。

猜疑心?

お父さんが作ったのは人の心をのぞく機械だったんだ。
それでみんなが自分が考えてる事を他の人や会社や社会に知られてしまうのが怖くて嫌でそれで研究をやめさせようとして怒った沢山の人間がお父さんの会社に押し寄せたんだけど父さんは居なくて、でも誰かが家を知っていて家まで来てしまった。
お母さんはなんとか彼等から俺たちを守ろうと必死になってとめようしたのだけど揉み合いになっているうちに激昂した群衆に殺されたんだ。

おまえはまだ本当に小さくてさ、お母さんの事だってあまり覚えていないんだろ?

覚えてる、お母さんは鬼に殺されたんだ。
だからお父さんが鬼を皆殺す!って約束してくれたんだ!

ほら!

鬼がお母さん食べてる!!

目が覚めたのは腕や足が焼けるように痛かったからだ。
少年は暗い洞窟の中でトラックの荷台に設えられたベッドに寝かされていた。
痛くて暑くて起きあがろうとして足掻いたが上半身を起こす事さえ出来なかった。

お父さんと車に乗ってレストランに行く筈だったんだよ

でも途中でお父さんが、慌て始めて、それで何かにぶつかって。

お父さん!お父さん!

お父さんはすぐそばに居たんだ、
でも凄く疲れていて怪我もしてる
それでも僕を心配してくれてるんだ。

大丈夫か?
やっと目が覚めたな、よかった、本当に良かった!

お父さんが守ってるからな!最後まで頑張るんだ!そのうち助けがくるからな!

え?守るって何か怖いものがくるの?

鬼が  鬼が来るんだよ。
お母さんを食べた鬼が今度はおまえを食べに来たんだ。

お父さんここに来てからずっと戦っているんだよ。

え?ここは鬼が出るの?

そう言っているはなから鬼は現れた。
父親は慣れない大型の銃で鬼を撃つのだがあまり効き目はなく鬼は少年の腕をもぎ取っていった。

でもその痛みは不思議な事にあまり無かったがそれでも恐ろしかった。

父親は必死で戦ってくれていたが鬼はもぎ取った腕を喉を鳴らしながら食べてしまった。

鬼は夜になるとやってくるのだ。

母親が鬼に喰われたのも夜だったから習性とかそういうのがあるのかもしれない。

鬼は毎晩現れて少年の手足をもいで食べていった。

父親は車に残っていた手榴弾と爆薬を洞窟の入り口に仕掛けていた。

もう助けは来ないかもしれない。
だからせめておまえだけでも助けたい。
今日鬼が来たら入り口を崩して鬼ごとこの洞窟を封じてしまうのだ。
ここは方鉛鉱の洞窟でもともとOculus Elephantisの影響は受けない筈だったのだけど助けが来るかと考えて入り口は塞がなかった、でもそれで鬼が入ってきた。
だからこれを潰して
鬼が入れないようにする。

お父さん、もういいよ、お終いにしてもいいから横にいてよ、

この洞窟を塞げばあとはずっと横にいるよ。

そう言ってお父さんはゆっくり笑っていた。
多分それが最後の夢だったんだ。

日が落ちて鬼がいつものように洞窟に入って来ようとするその刹那物凄い轟音とともに洞窟が崩れて砂埃でなにも見えなくなった。
車から引いた電灯に憔悴して座り込んでいる父親の姿があった。

鬼はやっと退治したよ。
私が作ったのか、おまえが作り出したものか、それはわからないがそれでも鬼は退治した。

これから外の世界の鬼は皆自分の鬼に喰われて死んでいくんだよ。

お母さんを食べた鬼は皆居なくなる。

そうなる事をどこかで望んではいたがこんなに早くこの世界が潰えるとは思っていなかった。

あとは二人でここで世界の行末を眺めながらお母さんの所に行こう。

お兄ちゃんはもうお母さんのそばにいる筈だからな。

第五夜

吸血姫

妻はずっと眠っている
私は彼女に全て否定された異端の考古学者だ。
教授という立場がなければ墓荒らしと言ってもいいかもしれない。
だがまずは妻の事だ。
彼女は私だけでなく全てを拒絶して勝手に眠り姫になったのだ。
彼女の意識に繋がれたモニターにはまず海が映される。
それは殆どの被験者が海をみるとなんらかの反応をするからだ。
それでも反応が無ければそこにさらに映像を追加するのだ。
この場合は妻が子供の頃から大好きだったアリスのウサギだ。
このウサギは物語のなかの道案内でもある。
だからベストな配役と言えるだろう。
それをピンクの船に乗せて海に浮かべる。
だがそれは直ぐに沈んでしまうのだ。
それが彼女の返事なのだ。
それは彼女が生を拒否し眠りについた日から延々と繰り返されている。
生命維持装置に繋がれてただ息をしているだけの存在だ。
それでも彼女を手放す事は出来ない。
彼女の父親は学会の重鎮であり
私がどれだけ無茶をやってもとりあえずはやっていけるのは彼のおかげで教授職を得られているからだ。

私のなにが気に入らないのか?

鬱になりアルコールと薬物に溺れ自殺未遂を繰り返し紹介された医者にも見放され結局怪しげな精神感応機械の開発に行き詰まっていた学者に多額の支援金を出してこの機械を手に入れたが治る見込みはなかった。それでもその学者によればこの機械のおかげで自死だけは防げているというがそれもいつまで持つかはわからないという。
もう一度彼の手を借りたいと思うが政府の特別諮問機関に配属されたとの事で連絡もままならないのだ。

墓跡

その遺跡は本来なら入れない場所だ。
そこは現在まで、続く王家の墓の一つでありそもそもがその血統自体があやふやな事もありあまり積極的な調査は禁忌となっていたからだ。
だが
既に王家はこの国での政治的な権力者ではなく、その存在自体さえも曖昧な古い時代の墓にまで口出しされる言われはない筈だ。
確かに私の独断によるものだが結果さえ出せれば誰もが納得するだろう。

そもそも私は異端だ。

妻の父親の後押しがなければとっくに大学からも放り出されているだろう。

学会で相手にされていないがその極端な学説と強引な盗掘とも取られかねない発掘調査は一部の熱狂的なファンを生み出してもいてどちらかと言えば興味本位のゴシップ誌のような関連雑誌にも扱われるようになっていたので私の存在そのものも忌避されるようになっていたのだ。

今回は神話の中にある恋焦がれるあまりに鬼となり領民の血を飲む物怪となり封じられたという王家の血族の遺跡に入ったのだ。

その姫は情念の怪物として神話に描かれている。
姿、カタチを変え情念の赴くままに領民を支配、簒奪し最後には物怪となり生き血を吸い400年生きたと。

もちろん正当な許可など取り付けていない。

それにあくまでも個人の活動であるために発掘した物は須く彼の私邸に運び込まれた。

吸血姫の棺を妻の病室に隠す。
少し気が咎めたがだが、
ここなら誰も入れない。

+ + + +

しばらくして外から学生達の叫び声が聞こえた。

先生!!大変だ!!化け物が!!

見れば三メートル程はあるワニの頭部に殻をまとったような奇妙な生き物が学生達を襲っていた。

どうしたんだ!!

先生が棺を入れた部屋の窓から出てきたんだ!

最初は小さかったからヨサムが捕まえようと近寄ったらいきなり噛まれて。。

ヨサムはどうしたんだ?

ホースがあったから水をかけたらその怪物が離れたんだ、それで今はなんとか運びだして応接室に避難させました。

教授、あれは水が苦手みたいですよ!

それで水をかけながら追い込んでいくと足場が組んであってそこは建物の外装処理でペンキを塗っている現場だった。

そこに揮発性のペンキや溶剤があるのを見つけたので

よし、皆んなこれをかけて燃やすんだ!!

その怪物は燃え燻りながら小さくなりやがて人の姿になった。

それは伝承にある吸血姫の姿そのものだった。

彼女は棺のある部屋に逃げ込んだ。

あたりからは燃え燻った酷い匂いがしている。
そのまま追いかけてドアをあけるかどうか逡巡していると、ドアノブは悶え苦しむヒトの顔へと変貌していった。

吸血姫の断末魔の苦しみかそのままドアノブに転化されているのだ。

だがこれでなんとか騒ぎにならずに済む。
しかし、同時に中で寝ている妻の事も気になる。

割れた窓のところにまわれば様子も分かるだろうがまだ吸血姫に力があれば飛び出してきて反撃されるかもしれない。それに武器になる溶剤ももう無い。

ドアの前でなにも出来ずに立ち尽くしているとキキイと音を立ててドアが開いた。

思わず身を引いたがそこに立っているのは眠り姫となっていた筈の妻の姿だった。

彼女は今まで見た事がないような笑みを浮かべて

おはよう

と言ったのだ。

これからはずっと一緒ね。

と。

もう妻の目はかつての怯えたような目ではなかった。
とても強い意志を秘めた目だった。

それで漸く伝説が事実である事を理解し、こ自分が何処に立っているのかも理解出来たのだ。

それは終局という場所なのだ。

第六夜

二つの首を持つ駝鳥 

橋での戦闘から離脱し、50キロ程を走行し街に入ったが既に街は破壊され尽くし瓦礫の山と化していた。
火が残っていて煤と煙で視界が確保出来ず戦闘車両でなければまともに走る事も出来ない。
だが並外れた走破力を誇るこのパトリアでも中心部に入るとあまりの障害物の多さで動けなくなってしまった。
とりあえず持てるだけの火器を装備し車から降りる。
発信機を作動させどこからでも車に戻れるようにする。
まずは生存者を探すことだ。
すでにあたりは、明るくなり始めていてそこかしこに人だったものの残骸が転がっているのが目に入る。
だがそんなものは紛争地帯に入ればそう珍しい事ではないしそういうものには慣れている。
集音器を稼働させてなにかしら生存者の手がかりを探していると直ぐそばの建物にそれらしいものがある事が分かった。
それは病院か、なにかそういう施設のようだったが看板もなにも入り口が崩壊しているような状態なのでそれは分からない。
足場を確認して中に入ろうとしたら不意に声をかけられた。

あんた?なんで生きてるんだ?

見れば瓦礫の上に同じ軍服を着た痩せた男が、こちらを眺めながはニヤついている。

それはでもまあいいや、
生きてるってだけでなんとなくわかるからな。

なにをしようって言うんだ?
ここでさ。
あんたに出来る事も必要な事ももうなにもないんだぜ。

お前 階級は?

は?
今更そんな事に何の意味があるかね?
あんたの軍隊なんてとっくに壊滅してるってのに?

まだ、自分とお前がいるだろ?二人だけだとしてもそれならまだ軍として果たすべき義務があるだろ。

はあ、熱心だね、まあ、いいや、退屈してたしな、大尉殿。

階級章は軍曹か?

は、そのようであります。

で、状況は?

そりゃ見ての通りだろ?もうなにも、ないよ。

その建物は?生存者はいないのか?

うーん、まあいるにはいるような。。

はっきり、答えろ!

います、中に十五名ほど。

じゃあ中に入って保護しないとだな。

いや、それは辞めた方が。

何故だ?

ろくな事にはならんから…であります。大尉殿。

案内させて中に入る。
それはある種の養護施設だった。
ただ入っているのは重度の知的障害者の子供達で私達が保護しなければ一週間と生きる事は出来ないだろう。

軍曹は対応はいい加減な印象だったがやるべき事はそれなりでもやってはくれた。

だが夜になると頭が二つある駝鳥が現れて子供たちを食べてしまうのだ。

それまでの怪物達と同様でやはり倒す術はない。

それに関しては軍曹はただ見ているだけで攻撃には参加しなかったが子供達を逃したり隠したりはしてくれたのでそれについては私も放任していた。
どのみち戦闘に参加させてもなんら効果がない事は大隊そのものが何の役にも立たず壊滅してしまっている事で実証されている。

そうやって瓦礫のなかを逃げ回っていたがそれもさして役にはたたなかった。

五日が経過して子供は最後の1人になってしまった。

だからやめとけって言ったんだよ。
俺達が関わらなければいずれ餓死にとかはしたかもしれないがこうもパカパカとはあの鳥の餌にはならなかったさ。

どういう事だ?

まだ気がつかねぇか?あの駝鳥はアンタが創り出してるんだよ?

え?

あんたが子供達と接触しなければ喰われる事は無かったのさ。

なんとなくこの約束事のようなものがわかり始めていた。

あれを見てみな、

軍曹が指差す方向には奇妙な像がカラスケースに収められていた。

それは芸術作品のようでタイトルがある。

Agape et Ego

それなら分かる

神と人間だ。

そうさ 無償の愛と自我だ。相反するこの二つだがヒトが求めた永遠の真理でありヒトが本来目指すべき方向であり我々はその為の番人なんだよ。

なんだ、それは、我々?軍がって事か?

まだ覚醒しないのか?
しょうがない、おまえは2000年も世界を、徘徊していたからな。

だが、もう目が覚める。
また駝鳥が現れたぞ。
お前が一番気に入っていた無垢な魂を持ったその子をな。

そして俺はその子の魂を刈るために此処で待っていたんだ。

俺達にとっての約束の日がとうとう来たんだよ。

私は必死に戦ったがやはり何も出来なかった。

駝鳥は消え去り手には子供の小さな手だけが残されていたのだ。

軍曹は耳まで裂けた口で実に楽しそうに笑いながらその手を奪い黒い大きな羽を広げて黒く沈んだ空に帰って行った。

私は漸く全てを思い出し理解していた。

黒く重く曇った空が割れて光の筋が降りてくる。

約束の日だ。

遠くでラッパの音が聞こえる。

私は解放されやっと父の元に帰るのだ。

第七夜

エピローグ

神は六日間で天地万物を創造し七日目を休息日にあてた。

人が作り出した亜神Oculus Elephantisは意図的偶発性により起動し六日間で世界を滅ぼした。

七日目には、取り込んだ全ての人類の恐怖という感情とそれに連なる記憶、人と言う種が(紡ぎ)あげてきたそれまでの種には無かった非常に複雑な文化、文明という独自の生存システムとその葛藤と、血生臭い歴史の全てが、データーとして飽和状態となり溢れた水のようにこの星に残された全ての生物に伝播して行った。

そのあまりにも過多な情報は一個体でとても支え切れるようなものではなく、それぞれの生物の個を守るものとしての皮膚も細胞膜も溶けるように崩壊し、全ての生物は急速に融合していった。

恐怖という感情は生存本能に直結する一番強いものでそれは生きる願いでもある。

やがてこの星そのものを飲み込むほどの巨大な粘膜状の生命へと変化していった。
それはかつて人類までの進化の原初の生命と酷似した存在であり、原初のカオスそのものだった。
かつての人類の研究によりこの星の生物の共通の祖先とされたウルバイラテリアとほぼ似たような存在だったがそれは群体でありここまで極端な個体ではなかった。

そこまで至るのにどれだけの時間がかかったのかはもう誰の知るところでもないだろう。

時間というものは人類が創り出した概念に過ぎず人類が存在しない世界では何の意味も持たないからだ。

時間も凡ゆる法則さえ意味をなさなくなった原初の世界に漸く神が降り立つ。

世界が崩壊してから人類の時間に換算して7年後の事だ。

黙示録の世界の終焉に神は収穫のために現れたのだ。
自らが種子をまき
監視させながら育てた
その結果を刈り取りに現れたのだ。

だが

よくわからない軟体生物に覆われ尽くした星を眺めて神は深いため息をついた。

これではナメクジではないか。

こんなもののために

教え

導き

罰するために

私は存在していたのか。

再び深いため息をつくと

神は去った。

予言するものはもう居ないのだ。

それでも生命は成るように成るべきものに成るだろう。

誰が望んだ事でも神が決め作り出したものでもなく、意図的偶発性とその合間に積み上げられた膨大な人々の死に。
それは、神による黙示録ではなく
ヒトの手によるcatastropheであり
それこそがヒトによる結末だったのだ。

だから、

今はゆっくり 

眠り

遠い月に照らされていよう。

誰も居なくなった海に

壊れた世界を浮かべよう

だがこれは

決して

感傷などに

浸っているわけではない

end

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美術作家、骨董商 2010年雑誌夜想の拠点パラボリカビスで個展開催。ヤンシュヴァンクマイエル氏より「マンタム氏のオブジェを見ていると蝙蝠傘とミシンが手術台の上で素晴らしい会合をするというロートレアモン伯爵の名句から飛び出して来たとしか思えない」という言葉が贈られている。
蜂の夢|マンタムmantamu
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