406.ついに解禁!
「――あ、シロト嬢だ」
シロトがいた。
「調和の派閥」代表としてのシロトが。
クノンは「調和」の拠点である背の低い塔へやってきた。
朝一番。
それこそ自分の教室に行く前に。
それくらいの大問題を抱えているから。
「クノンか。どうした?」
拠点内に入ってすぐの広間に、彼女がいた。
「シロト嬢は朝からモテモテですね。僕も紳士らしく、あなたのモテモテの一部になっちゃおうかな」
同じ拠点のメンバー十名に囲まれていた。
自然な動きでクノンも加わり、これで十一人である。
「言っている意味がわからんが、モテてはいないぞ」
ここのところ、シロトとは毎日会っている。
そして今日も会う予定があった。
引き続き、魔人の腕の観察である。
最初は異形だった腕は。
緩やかに、彼女の一部になっていっている。
実に不思議で興味深い現象だ。
最初から関わっているのだ。
ぜひ、最後まで見届けたい。
――が、それはさておき。
「例の飛行盤のことを色々聞かれていただけだ。次の入荷はいつだ、とかな」
飛行盤。
先日できたばかりの魔道式飛行盤のことだ。
よく見れば、「調和」以外のメンバーも混じっていた。
「合理」のサンドラもいたりする。
まあ、見えないが。
「店では早くも在庫切れになったらしい。売れているようだぞ」
「それは嬉しいですね」
――クノンはまだ気づいていない。
シロトを囲んでいる人たち。
それが、今はクノンも包囲していることに。
彼らにとっては、飛行盤開発者の一員が増えたのだ。
シロトに加えてクノンまでいるのだ。
逃がすわけがない。
「おまえはどうした? 誰かに用事か?」
「あ、はい。ハンクに会いに来ました」
ベーコンの件である。
厚切りベーコンがない日なんて、クノンは耐えられないから。
早急なる問題解決のため、はせ参じたのだ。
「シロト嬢は? モテモテになりにきたんですか?」
「モテてない。
これでも代表だからな。できるだけ顔を出すようにしているだけだ」
「お昼に引き上げます? でしたらこの紳士と、お昼はどこかで食べて行きませんか?」
「いや、先生が待っている。おまえが昼食を食べに来い」
「わかりました。ではそうしましょう」
で、だ。
「それで、ハンクはいますか?」
周囲を伺えば、ここにはいないようだ。
そして、気付いた。
……なんだか囲まれているような気がする。
特に、真後ろにいるサンドラ。
彼女の強い視線が、後頭部に突き刺さっている気がする。
「ハンクか。あいつは……なんだ、クノンはまだ知らないか?」
「え?」
「あの森に行ったはずだぞ」
あの森。
あの森と言えば。
「え!? 旧第十一校舎を壊したあの森ですか!?」
あの森は、クノンもずっと気になっていた。
何せ、皆より少しだけ先に、正体を知ってしまったから。
あの森には、霊樹輝魂樹があるのだ。
おとぎ話や昔話で聞く、神話に出てくる伝承の樹である。
そんなの気にならないわけがない。
それが、ついに解禁になったらしい。
「そうだ。昨日通達があった。
さすがに森に入るには、申請が必要らしいが。
何しろどんな植物も育つ場所だそうだ。
繁殖力が高い種を植えたら、大変なことになりかねない」
「へえ! 行ってみたいなぁ!」
森そのものも。
自生している植物も、非常に気になる。
なんでも、聖女が教室に置いていた植物の種が、全て芽吹いたとか。
花も、果物も、貴重な薬草も、食虫植物も。
霊草も。
あの森ですくすく育っているのだとか。
季節も気温も土の環境も、まるで関係なく。
それらも充分気になるが。
――でも、やはり本命は輝魂樹だ。
神話の樹である。
どんな存在なのか、ぜひ確かめてみたい。
「ハンクはそこに?」
「ああ。まだ見ぬスパイスを探すとかなんとか言っていたかな」
スパイスを。
「ハンク……僕のために新作ベーコンを作ろうとしてるのか……」
クノンは感動した。
「おまえのためかどうかは知らないが、会いたいなら行ってみればいい」
「わかりました! 行ってき――」
言葉はそこまでしか言えなかった。
捕まったから。
――飛行盤を作ってくれ、ぜひ。
そう乞われて、シロトと一緒に難儀した。
需要があるのはありがたいことである。
ある、が。
需要がありすぎるのも考えものである。
「――わかった! 一旦落ち着いて服を離せ!」
意志も圧も強いシロトでさえ、断り切れなかった。
さすがに男はないが。
女たちに服を掴まれ、脱がされそうになり、ついに音を上げた。
「これから午前中は生産を行う!
だいたいの形を伝えるから、おまえとおまえは飛行盤本体を作れ!
おまえとおまえは術式を描く私を手伝え!
他の奴は材料の調達だ!
一人でも手を抜いたらこの話はなしにする! いいな!?」
さすがは派閥の代表。
やると決めた時は統率力を発揮する。
「クノン、おまえは行け!」
「え!? て、手伝いは!?」
「ハンクに会って用事を済ませて暇なら手伝え! そうじゃないなら行け!」
なんと頼もしい先輩だろうか。
これはモテモテにもなるだろう。
こうなったら、何が何でも手伝わねばなるまい。