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404/515

403.幕間  サンドラの話

2024/09/15 修正しました。





「――ユシータ、届け物」


「――え?」


 派閥の仲間と朝食を取っていた、ユシータが振り返ると。


 カシスが立っていた。

 布に包んだ長い板を二つ持って。


「合理の派閥」が拠点としている地下迷宮。

 出入り口に近い一室は、広間となっている。


 派閥のメンバーが集まる時は、だいたいここだ。


 また、隣に台所がある。

 だからここで食事をすることもできる。


 言わば休憩室、あるいはダイニングである。


「私に?」


「ええ。今『調和』の代表が来て、渡していった。あと手紙も」


「そう。ありがとう」


「ねえ、これ何?」


 板を差し出すカシスに聞かれた。


 同じテーブルに着いている友人たちも、興味津々という顔だ。


「たぶん飛行盤だね」


「調和の代表」シロトが来たらしい。


 彼女とは一週間くらい前に会った。

 例の試乗会で。


 きっと正式に発売が始まったのだろう。

 だから渡しに来たわけだ。


「飛行盤?」


「見ていいよ」


 飛行盤のことは仲間たちに任せ、ユシータは手紙を開く。


「――何これ?」


「――飛行盤、でしょ? 飛行盤っていうくらいだから、飛ぶんじゃない?」


「――飛ぶ? ……飛ぶ!?」


 仲間たちが騒ぎ。

 同じ広間にいた者たちが、なんだなんだと近寄ってくる。


 その横で、ユシータは手紙の確認だ。


 内容は短い。


 やはり特許を得て販売が始まったことが書かれている。


 それと。


 正式名称は「魔道式飛行盤」に決まり。

 お礼を兼ねて、試乗会に拘わった者、皆に完成品を渡すことに決めたそうだ。


「調和」のオースディだけに試作品を渡すのは不公平だから。


 彼にも「売る」のではなく。

 全員に配る、という形にしたらしい。


 追伸で「これ見よがしに乗り回して、ぜひ販促をお願いする。」と書かれていた。


「そっか……」


 シロトらの意図はわかった。


 貰えるのは嬉しいが。

 しかしユシータは、これは得意じゃない。


 バランス感覚が悪いと思ったことはないが。

 案外悪いのかもしれない。


 練習するべきか。

 何せ飛ぶのだ、乗れれば非常に便利である。


 それとも、乗りやすい形に改造するのが無難だろうか。


 確か円盤型なら安定するとか言っていたが……。


「ちょっと乗ってみようぜ」


「この足跡のところに足乗せて、魔力を通せば飛べると見た」


「――あ、待った待った」


 ユシータは仲間たちを止める。


 試すのはいい。

 だがここは屋内だ、さすがにここで乗るのはまずい。

 落ちたら大惨事である。


 それに加えて。


「それ、私用だから。水属性しか使えないと思う。

 あと乗るなら外で乗ってね」


 全属性分は作れるはず。

 しかし、属性ごとに構造が違う、という話だったはず。


 魔術師なら誰でも乗れるが。

 しかし、専用の飛行盤が必要なのだ。


「え? 水?」


「そっか。じゃあ私が乗っちゃおうかな」


 わいわい言いながら、メンバーは休憩室を出て行った。


 残ったのはユシータとカシス、そして数名だけ。


 一緒に食事していた友人たちも行ってしまったようだ。


「あんたは行かないの?」


 と、まだ一枚板を持っているカシスが問う。


「私あれ苦手なのよ」


 試乗会で散々落ちた。


 あの時は草原だったから、まだいいが。

 硬い地面の上で乗りたいとは、絶対に思えない。


「カシス、もう一つは誰に渡すの?」


「うちの代表。――あの時の用件が今わかった、って感じ」


「あの時?」


「ユシータ、飛行盤に試しで乗ったんでしょ?

 それに代表も誘われたみたいでね。


 そのお誘いの手紙を私が渡したの。読む時も傍にいたしね」


 そして今、また。

 飛行盤やら手紙やら渡すよう、カシスが言付かったわけか。


 なんだか縁がある話だ。


「これ飛ぶの?」


「飛ぶよ。結構制約もあるから、風属性ほど自由ってわけじゃないけどね」


「ふーん」


 しげしげと、ルルォメットに渡す予定の板を見詰めるカシス。


「風属性としては微妙?」


「ん? ぜーんぜん。私の『飛行』を超えてるとは思わないから」


 なるほど、とユシータは頷く。


 カシスは性格はアレだが、魔術の腕は非常にいい。


 特に「飛行」だ。

 三派閥あわせてもトップクラスだろう。


「それよりこれ、誰が作っ――」


 と、カシスが何か言い掛けたところで。


「――ユシータいるか!?」


 同じ派閥のサンドラがやってきた。


 小脇に飛行盤を抱えて。


 そして、さっき出て行ったメンバーたちも続く。

「返せ」だの「持ってくなバカ」とか言いながら。


「ここ。どしたの?」


 手を上げると、彼女はまっすぐにやってきて。


 なんだか土汚れだらけの姿で、言った。


「これ、しばらく貸してくれ!」


「飛行盤?」


「ああ! 私たぶん、これで魔力のコントロールが身に付きそうだ!」


「え?」


 聞くところによると。


 あれこれやっていた集団に乱入したサンドラは、試しに乗ってみて。

 動かせなかったらしい。


 飛行盤は、魔力を流して操作する。


 魔力のコントロールが非常に苦手なサンドラは、強い魔力を流したせいで、反応しなかったらしい。

 恐らく事故防止の制御機能に引っ掛かったのだろう。


 少しずつ魔力を弱めることで……今度は急発進して、直後に落ちたらしい。ごろごろ地面を転がったらしい。


 で、今に至る、と。


「練習の仕方さえわからなかった魔力の操作だが、これならできると思うんだ!

 弱い力じゃないと動かせない! その感覚を憶えたい!」


 大出力の魔術が得意なサンドラ。

 大規模魔術に限れば、彼女ほどの魔術師は稀有である。


 しかしその反面、細かな操作は苦手だ。


 だから、大出力が必要ない開発や実験には向かない。

 特に細かい、ちまちました作業は致命的に向いていない。


 そのせいで、毎年単位に難儀しているのは、皆が知っていることだ。

 ゆえに協力したり実験に混ぜたりもするが……。


 ……一応本人も、悩んではいたらしい。


「まあ、貸すくらいならいいよ」


 ユシータは、飛行盤が苦手で。

 サンドラは、己の問題解決、欠点克服のために欲している。


 ならば、断る理由はない。


「あ、ありがとな!」


 ――そしてこの日の夕方。


 真っ二つに折れた飛行盤が、ユシータの手元に戻ってくることになる。





 サンドラ・ドナ・アコビスタ。


 アクサリス王国の辺境伯の娘。

 王家の血を引いている、歴としたアコビスタ家の姫君である。


 魔道式飛行盤。

 後にサンドラは「運命の出会いだった」と語る。


 実際、大きな影響を与えた。


 細かい魔力操作が必要な魔道具との出会い。

 直感で感じた通りだ。


 これを通して、サンドラは魔力のコントロールを身に着けることに成功する。


 ただし。


「――貰い物なんだけど!」


「――ごめん! ほんとごめん!」


 犠牲になる飛行盤の数は、少なくなかった。





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― 新着の感想 ―
サンドラお姫様だったのか お姫様がパン買って来ました!ってパシってたの面白すぎる、漫画版では満面の笑顔で可愛いかったな!
おいガキナンパ!これもっとくれ!
[良い点] 安定のサンドラw あっさり壊すあたりが実に彼女らしい。 アレで姫とかウソでしょww
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