#593 第1回:Keycloak入門 #1|Keycloakとは何か?認証基盤の基本とSSOの仕組みを学ぶ
Keycloakとは何か:認証基盤の概要
こんにちは。この記事は、オンプレミス環境を管理するインフラ管理者の方向けに、オープンソースの認証基盤 Keycloak(キークローク) について解説する全7回の学習シリーズの第1回です。まずは「Keycloakとは何か」をシンプルに説明し、その必要性や機能、従来の認証方式との違いを紹介します。本記事を読み終える頃には、Keycloakがどんな問題を解決し、何ができるのかをイメージできるようになるでしょう。
認証の課題とシングルサインオンの必要性
ウェブサービスを運用する上で欠かせないのが「ユーザー認証」です。例えばサービスごとにログイン機能を実装し、各サービスでユーザーIDとパスワードを管理する方法があります。しかしサービスが増えると、ユーザーはそれぞれのサービスのログイン情報を覚える負担が生じ、開発者側もサービスごとに認証機能を一から実装・管理する手間とセキュリティリスクが高まります[1]。
こうした課題を解決するのが シングル・サインオン(SSO) です。SSOとは一度のログインで複数のサービスにアクセスできる仕組みのことで、たとえばGoogleアカウントに一度ログインするとGmailやYouTube、Googleドライブなど様々なサービスを利用できるのと同じ原理です[2]。SSOの主なメリットは次の通りです[3]:
· ユーザー負担の軽減:
複数のサービスごとに異なるパスワードを覚える必要がなくなります[3]。
· 開発・運用負担の軽減:
各サービスごとに認証機能を自前で実装・管理しなくて済みます[3]。
· セキュリティ強化:
認証情報やセキュリティ設定を一元的に管理でき、不正ログイン対策や権限管理を統合して強化できます[3]。
このように、認証を集約・統合することはユーザーと管理者双方の負担を減らし、セキュリティ向上の観点からも現代の企業ITに欠かせないものとなっています[4]。
Keycloakの概要
Keycloak は、上記のSSOや認証の一元管理を実現するために開発されたオープンソースの認証・認可基盤(IAM:Identity and Access Management)ソフトウェアです[5]。簡単に言えば、ユーザー認証(Authentication)とアクセス制御(Authorization)の機能を提供する統合プラットフォームです。Red Hat社のJBossプロジェクトによって開発が進められており、Apacheライセンスの下でソースコードが公開されています[6]。KeycloakはJavaで実装されたサーバソフトウェアで、アプリケーションやサービスのログイン処理を肩代わりすることで、開発者は自分たちのアプリに煩雑な認証機能を一から組み込む必要がなくなります[7]。
Keycloakを導入すると、ユーザーは一度Keycloakで認証するだけで社内の複数システムにアクセスできるようになります。また、Keycloak自体に多要素認証(二要素認証など)やソーシャルログイン(GoogleやGitHubなど)、LDAP連携、WebAuthn対応といった企業向けの高度な機能が組み込まれており[8]、堅牢で柔軟な認証基盤を比較的容易に構築できる点も魅力です。さらにオープンソースであるためライセンスコストがかからず、社内サーバにインストールしてオンプレミスで運用できるのもメリットと言えるでしょう。
Keycloakの主なユースケース
それでは、Keycloakが具体的にどのような場面で活躍するのか、代表的なユースケースを見てみましょう。
シングルサインオンによる統合認証:
Keycloak最大の用途は、社内外の複数アプリケーション間でのシングルサインオン実現です。ユーザーはKeycloakで一度ログインすれば、許可された複数のWebシステムに再ログインなしでアクセスできます[9]。これにより、各サービスごとにログインする手間が省け、利便性とセキュリティ管理の両面でメリットがあります。認証基盤の一元化(集中認証サーバ):
従来、サービスごとに個別のユーザーデータベースや認証処理を持つケースでは、ユーザー情報のばらつきや運用負荷が問題でした。Keycloakを導入すると、ユーザーアカウントや認証ポリシーを一箇所で集中管理できます。管理者はKeycloak上の管理コンソールからユーザーやアクセス権を一元的に管理でき、アクセス制御の統一や監査ログの集中管理も容易になります[4]。これにより運用コストを削減し、セキュリティ統制も強化できます。アイデンティティフェデレーション(外部認証基盤との連携):
Keycloakは他の認証プロバイダーと連携し、「アイデンティティブローカー」として機能することもできます[10]。例えば、社内に既にあるActive DirectoryやLDAPサーバと接続して既存社員のアカウント情報を取り込んだり、GoogleやFacebookといった外部のアイデンティティプロバイダーで認証したユーザーをKeycloak配下のサービスにログインさせることが可能です[9]。この ユーザーフェデレーション機能 により、複数の認証源にまたがるシングルサインオンや、社内システムへのソーシャルログイン導入がコード修正なしに実現できます[11]。既存の社内認証基盤との橋渡し役としてKeycloakを配置することで、段階的な認証基盤のモダナイズも図れます。
Keycloakの主要な要素と機能
Keycloakが提供する認証基盤としての代表的な要素や機能を整理しておきましょう。以下に、Keycloakのキーワードとなる概念と機能を簡単に説明します。
レルム (Realm):
Keycloak内でユーザーやクライアント、ロールなどを管理するための独立した領域を指します。いわばテナントやプロジェクトのようなもので、用途別に複数のレルムを作成できます[12]。レルムごとにユーザーや設定を分離できるため、マルチテナント環境にも対応可能です[13]。クライアント (Client):
Keycloakに認証を委託するアプリケーションのことを指します。例えば社内のWebアプリ、REST API、モバイルアプリなどはKeycloak上でクライアントとして登録します。クライアントごとに認証の設定(利用プロトコルやリダイレクト先URL、認可設定など)を個別に調整でき、サービスごとに適切な認証フローを適用できます[14]。ユーザー (User):
システムを利用する人のアカウント情報です。ユーザーごとにユーザー名やメールアドレス、パスワードなどの認証情報を管理します[15]。Keycloakではユーザーをグループ化することもでき(例えば「営業部」「開発チーム」などのグループ)、ユーザーは複数のグループに所属することも可能です[15]。これにより組織や役割に応じた管理がしやすくなります。ロール (Role):
ユーザーやグループに割り当てる権限の単位です。例えば「管理者」「一般ユーザー」などのロールを定義し、それをユーザーやグループに付与することで、アプリケーション上のアクセス権を制御できます[16]。ロールによるアクセス制御(RBAC: Role-Based Access Control)を用いることで、権限管理を一元的かつ分かりやすく行えます。認証フロー (Login Flow):
ユーザーがログインする際の手順やシナリオをカスタマイズできる機能です。Keycloakは標準で多彩な認証フローをサポートしており、例えばユーザー自身による新規登録、パスワードリセット(忘れた場合の再設定)、メールアドレス検証、初回ログイン時の強制パスワード変更といったステップを組み込むことができます[17]。また、ワンタイムパスワード(OTP)による二要素認証を組み込むことも容易です[18]。これらのフローはKeycloakの管理画面から柔軟に設定でき、アプリケーション開発者が個別に複雑な認証処理を実装しなくても高度なログインプロセスを実現できます。LDAP連携:
Keycloakは社内の既存ディレクトリサービスとの統合をサポートしています。LDAPやActive Directoryとの連携機能(ユーザーフェデレーション)を使うことで、既存ユーザーアカウントをKeycloakに同期させて利用できます[19]。これにより、従来からある社員のID管理基盤を活かしつつKeycloakでSSOを実装したり、ユーザー情報を一元化した認証管理が可能になります[19]。OpenID Connect / SAML対応:
KeycloakはOIDC (OpenID Connect)、OAuth 2.0、SAML 2.0 といった業界標準の認証プロトコルを幅広くサポートしています[20]。そのため、Keycloakを導入することで、標準プロトコルに対応した様々な外部サービスや自社システムと認証連携が容易に行えます[21]。たとえば、SAML対応のクラウドサービス(SalesforceやGoogle Workspaceなど)や、OIDC対応のアプリケーションとの間でシングルサインオンを実現したり、OAuth2を用いたAPI認可を一元管理することも可能です。標準規格への対応は相互運用性を高め、将来的なシステム拡張や他サービスとの連携にも役立ちます[21]。
従来の認証方式との比較
最後に、Keycloakによる統合認証基盤が従来のシンプルな認証方式と比べて何が優れているのか、簡単に整理します。
各アプリケーション個別のログイン:
以前はアプリケーションごとにログイン画面やユーザー管理を実装し、サービス単位で認証を行うのが一般的でした。例えばApacheサーバーのBasic認証を使う方法では、Webサーバ設定でユーザー名・パスワードを固定し、リクエストごとにブラウザが資格情報を送信して認証します。しかし、この方法ではサービスごとに都度ログインが必要であり[22]、複数サービス間でのシングルサインオンは実現できません[22]。またBasic認証は非常に簡易的な仕組みのため、ログアウトの概念がなくセッション管理や多要素認証、パスワードポリシー適用といった高度な機能も持ちません。結果として、サービスが増えるほどユーザーは何度もログインを強いられ、管理者は分散したユーザー情報を個別に管理・設定しなければならず運用負荷も高くなっていました。Keycloakによる集中認証:
Keycloakを導入すると、一つの認証サーバで全体のログインを取りまとめるため、「一度のログインで複数サービス利用」が可能になります[9]。ユーザーは共通のIDでログインし直す手間が省け、サービス間をシームレスに移動できます。また管理者にとっても、ユーザー登録やロール付与、パスワードポリシーの設定などをKeycloakの管理コンソール上で一括して行えるため運用が大幅に効率化されます[4]。さらに、標準プロトコル対応によって社内外の様々なサービスと連携できるため、新しいサービスを追加する際も既存の認証基盤を使い回せます。セキュリティ面でも、認証処理が統合されることでアクセスログや不正検知を一元的に監視でき、アカウント管理の抜け漏れ防止や権限設定の統制が強化されます[4]。要するにKeycloakは、従来分散していた認証機能を一つに集約し、利便性と安全性を両立するソリューションと言えるでしょう。
おわりに:次回はインストールと初期セットアップ
本記事では、Keycloakが何をするソフトウェアで、なぜ現代の認証基盤に必要とされるのかについて、その基本概念や特徴を説明しました。まとめると、Keycloakは複数サービスのログインを一括管理し、ユーザー認証の開発・運用負荷を軽減するとともに、標準プロトコル対応や高度な拡張機能によってセキュアで柔軟な認証基盤を構築できるツールです。初めてKeycloakに触れる方でも、その目的と利点がお分かりいただけたのではないでしょうか。
次回の記事では、実際に Keycloakをオンプレミス環境へインストールし、初期セットアップを行う手順 について詳しく解説します。Keycloakサーバの起動方法や管理者ユーザーの作成、基本的な設定項目など、導入に必要なステップを一緒に確認していきましょう。第2回もぜひお読みいただき、実際に手を動かしながらKeycloakの導入を体験してみてください。
参考資料:
この記事ではKeycloakに関する公式ドキュメントや有志の記事から情報を参照しました[5][23][24][25][17]。続きを読むことで、より実践的なKeycloakの使い方を身につけていきましょう。
[1] [2] [3] [12] [14] [15] [16] [18] [20] [21] [23] [24] 初級エンジニアのためのKeycloak入門:シングル・サインオン認証基盤を理解しよう|けんじ
https://note.com/sf_kenji/n/ne21427ae3e0b
[4] [5] [6] [8] [9] [11] [13] Keycloak 詳細情報 | OSSサポートのOpenStandia™〖NRI〗
https://openstandia.jp/oss_info/keycloak/
[7] Keycloakを学ぶ①導入編 - サーバーワークスエンジニアブログ
https://blog.serverworks.co.jp/2025/04/10/153808
[10] [17] [19] [25] Keycloakとは #Java - Qiita
https://qiita.com/daian183/items/30f01e162e03567ff21b
[22] 〖入門〗認証方式とサーバーの設定をわかりやすく解説 | ほげほげテクノロジー – IT 技術学習サイト
https://hogetech.info/network/authentication



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