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「ウィキペディアの死神」の正体

ウィキペディアの死神

今年2022年は本当に著名人の訃報の多い年ですね。毎年々々言っているような気がしますが、今年こそ多いでしょう。さて、著名人の訃報とウィキペディアに関わる、興味深い言葉があります。”ウィキペディアの死神”です。

曰く、「ウィキペディアの死神」と呼ばれるユーザーがいるらしい、と。曰く、著名人の訃報が流れ瞬時にウィキペディアを更新するらしい、と。都市伝説の文脈から語られることもあるようです。

そんなユーザーはいません。

そのような特定のユーザーはいません。著名人の訃報があると、ウィキペディアにすぐ反映されるのは事実です。しかし、すぐ反映しているのは、特定の個人ではありません。複数名です。

著名人の訃報を、ウィキペディアにすぐ書き込みたい連中がいるのです。

彼らが素早くウィキペディアに書きこむことで、むしろほかのウィキペディアンの手間が増えます。私はウィキペディアの死神なる連中が結構キライです。この文章は、ウィキペディアの死神なる連中に対して敵対的であり、中立性を欠いています。ウィキペディアなのに。

ウィキペディアの死神の正体

なぜ著名人の訃報がウィキペディアにすぐ反映されるのでしょう。ウィキペディアの死神の正体は、大ニュースに慌てた人々です。まずは具体例として、古谷一行をあげます。

9月2日に事務所から発表され、同じ日にIPユーザーが、(つまりアカウントを作っていない人が)命日を書き込みました。このユーザーはこれ以外の編集を行っていません。

さらにエリザベス2世を例にとっても同じです。

初めに逝去を書き込んだのはIPユーザーであり、このユーザーはこれ以外の編集を行っていません。

IPユーザーであること、つまりアカウントを作らずに編集することはあまり褒められたことではありません。IPアドレスが公開されてしまいます。アドレスが変わるたびに編集履歴が途切れます。

ではなぜアカウントを作らずに編集しているかというと、それこそ著名人の訃報という大ニュースに慌てて、聞いたその場ですぐさま編集したからではないか、と私は推測しています。

ウィキペディアの死神の正体 その2

ゴルバチョフはどうでしょう。(日本時間の)8月31日に発表されました。

やはりIPユーザーによって反映され、このユーザーはこれ以外の編集を行っていません。8月30日に書き込まれました。まるで発表される前の日に書かれたように見えます。もちろんそんなことはありません。原因は時差です。日本語版ウィキペディアは世界標準時を使っているのです(個人設定で日本時間に変えることもできます。)。

反映がとてつもなく早く見える一因に、おそらく時差もあるのでしょう。「発表○時間後にすでに書き込まれてるぞ!?」「発表前にウィキペディアに載っている!? どういうことだ!?」と、ときどきニュースになります。

海外のウィキペディアの死神

面白いことにこのウィキペディアの死神と呼ばれる現象は、日本語版だけにとどまらないようです。ウィキペディアの公式ツイッターアカウントはとあるコラ画像をリツイートしました。エリザベス2世に「was」という単語を叩きつけようとするウィキペディアの図、のようです。

エリザベス2世の第一報が入ってから数秒以内に命日が書き込まれ、その後の15分で55回編集されたそうです。第一報の3分後に[[Death of Elizabeth II]]、10分後には[[Reactions to the death of Elizabeth II]]が作られました。[[Charles, Prince of Wales]]という記事は、正式に発表されるまでに名前が5回変わったそうです。

ウィキペディアの死神は悪いことなの?

では、なぜ私はいわゆる「ウィキペディアの死神」がキライなのでしょう。なぜ著名人の訃報を即座にウィキペディアに書いてはいけないのでしょう。上に挙げた三人の編集履歴へのリンクはどれも即時的な、拙速な編集です。性急な編集とも呼ばれます。

どの編集も、記事の上の方に命日を追記しています。記事の下の方にはカテゴリがあります。カテゴリの中には「存命人物」というものがあります。

どの編集も、命日を書き込みながら存命人物のカテゴリをそのままにしています。

最終的に存命人物のカテゴリが除去されたのは4年後だった、なんて記事もあります。

カテゴリだけではありません。そもそもウィキペディアでは、拙速な編集は好ましくなく、巧遅な編集が望まれています。

ウィキペディアはニュースメディアではないので、特オチを恐れる必要はありません。
ウィキペディアはタイムトライアルの場ではないのです。記事の質・量と特筆性がおろそかな状態で記事を作成するのは、ウィキペディアにおいてはけして褒められた行為ではありません。最初にゴールテープを切ることに意味はないのです。たとえ最後にゴールしようとも、しっかりと出典に裏打ちされた、中立的で内容の充実した記事を投稿すれば、直接・間接をとわずたいへんな賞賛を集めることでしょう。

Wikipedia:締め切りなんてないより。2022年8月16日14:30(UTC)の版。(CC BY-SA 3.0)

上に挙げた記事で言えば、ゴルバチョフの命日は「出典がない」との理由で一度さしもどされています。

巧遅か拙速か

では出典さえあれば、ウィキペディアの死神的な行動も許されるのでしょうか? 私は許されると思います。

ウィキペディアは紙製の百科事典ではないためタイムリーな編集自体は問題とはされず、むしろ歓迎されます。しかし、特に速報的な編集では「定説」が形成されていないため独自研究に陥りやすく、一方的な思い入れによる中立的な観点に欠けた記載も多く見られます。こうした事態を避けるため、タイムリーな編集を行なう場合には必ず出典を明記してください

Wikipedia:最新情報の反映 2020年10月6日 (火) 11:05(UTC) (CC BY-SA 3.0)


ウィキペディアの長所は、紙ではないことです。紙ではないので、誤りがあればすぐに直せます。普通の辞典なら版を更新するまで長い時間がかかります。簡単に更新できるのが、ウィキ(Wiki)の長所です。素早く情報を追加できるのは良い事です。問題の芯は、出典なく追記されることなのです。

著名人の訃報や大事件の後は、どうしたって情報が錯綜します。そんな錯綜している状態で信用のおける情報源から情報を手に入れるのは難しい話です。信用できる出典がなければ、ウィキペディアのルールとしてはその情報や記述は除去せざるを得ません。

しっかりとした出典があれば、タイムリーな編集でもいいのです。独自研究に陥っていない出典を付ければ、巧遅でも拙速でもない、いわば「巧速」な編集はできます。

そして、そんな良いとこどりは難しいのです。安倍晋三銃撃事件の記事には、事件発生から一時間後にようやく最初の出典が付きました。大事件が起きてから数時間の報道は、どれもこれもウェブニュースの速報記事ぐらいしかありません。ウェブの速報記事は一か月もしないうちに消えてしまいます。

巧遅でも拙速でもない、「巧速」な編集ができればそれが一番いいのですが、それは一番難しいことでもあります。巧遅な編集か拙速な編集か、この二つから選ぶなら、私は巧遅を選びます。出典がついているからです。

拙速を選ぶ人々、あるいは大事件に驚いて慌てて編集する人々、そのような人々による性急な編集を、世間では「ウィキペディアの死神のなせる業」と呼んでいるようです。

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