【深層レポート】カンボジアをハブとする巨額資金洗浄網と「日本ルート」(連載 第5回 / 全15回)リアル洗浄の極意①迫る国際包囲網と「建設錬金術」の崩壊
市場原理を無視した「建設の永久機関」
中国の不動産バブル崩壊をよそに、カンボジアのプリンス・グループなどは異常な建設ラッシュを続けています。シアヌークビルでは数百棟が未完成で放置されていますが、新規計画は止まりません。
現地の平均月収は数百ドル程度ですが、供給するのは実需とは大きく乖離した高級物件です。専門家はこれを「建設行為自体を資金洗浄装置として利用している」と指摘します。居住ではなく、建設費名目で巨額資金を動かすこと自体が真の目的とみられています。また後述するような複数の目的もあると言われています。
「福建人脈」による循環出資の疑い
この不可解な循環を解く鍵は、プリンス(不動産)とフイワン(金融)を結ぶ、福建省にルーツを持つ強固な「同郷ネットワーク」にあります。
専門家は、両社などが資産価値を過大に見せる「循環出資」に類似した構造を悪用しているのではと指摘しています。「A社がB社、B社がC社、C社がA社に出資する」という無限ループを作り出し、実体のない資金を回転させる手口です。Moody's Analyticsの分析でも、こうした複雑なネットワークは「指数関数的リスク」を生み出し、追跡を断絶させる「迷宮」として機能するとされます。
この循環構造によって、完成物件を傘下のペーパーカンパニーや、FATF(金融活動作業部会)が警告する「名義人」に購入させ、売上を偽装します。無人のマンション売買を通じて、犯罪収益を「正当な不動産利益」へと洗浄している疑いがあります。
世界で狭まる包囲網、米・タイ・台湾での一斉摘発
今、国際的な包囲網が急速に狭まっています。口火を切ったのは米国です。25年10月、米司法省は同グループ会長の陳志氏らを詐欺および資金洗浄等の共謀罪で起訴。台湾の検察当局は11月、不動産洗浄の容疑で約200億円の資産を没収しました。続く12月にはタイ警察が関連網に対し、資産を差し押さえ、逮捕状を請求。シンガポールでも同様の資産凍結が進んでおり、世界中で隠し資産が「ドミノ倒し」のように摘発されています。
自作自演の「テナント」たち
プノンペン等の高層物件の一部は、夜も明かりが少ない「空箱」ですが、帳簿上は収益を生んでいる可能性があります。
これを説明するのが、GFIが指摘する「自作自演のテナント(Typology 5: Leases)」です。支配下のシェル企業を入居させ、汚職・詐欺で得た違法収益を「家賃」名目で管理会社へ還流させます。汚れた現金はこうして「合法的な賃貸収入」へと洗浄され、銀行口座へ入金されるのです。
商業用不動産の高リスク性と住宅市場の「カモフラージュ効果」
犯罪組織は、その資金規模に応じて不動産を巧妙に使い分けています。GFIの調査(2021年)によれば、米国で特定されたマネロン事件の91.07%に住宅用不動産が関与していました。これは、住宅が単なる居住空間ではなく、犯罪者にとって「最も汎用性が高く、安全な資産の保管庫(セーフヘイブン)」として機能していることを示しています。生活の基盤として購入を装えるため疑われにくく、価格変動も比較的安定している住宅は、マネロンにおける「基軸通貨」のような役割を果たしているのです。
一方で、商業用不動産の関与も35.71%に上ります。件数こそ住宅より少ないものの、商業案件は1件あたりの取引額が桁違いに大きく、巨額資金を一気に洗浄する「受け皿」として機能するため、金額ベースでのリスクは極めて高いと分析されています。
FATFやOECDも、こうした不動産取引が「ライフスタイル・ロンダリング(生活を装った洗浄)」の温床であると警告しています。膨大な取引数の中に紛れ込める不動産市場は、犯罪者にとって追跡を逃れるための巨大な迷彩服となっているのです。
リノベーションとローン・バック
「リノベーション(改装)」費用の悪用も、国際的な類型のひとつ(Typology 4: Renovation)です。購入後に高額な改装費を払い、手元資金を「価値向上」として資産に組み込む手法です。GFIは「所有者の身元と資金寄与度を曖昧にできる」と分析しており、悪質な業者がこの脆弱性を、犯罪収益を合法化するインフラとして悪用している懸念があります。
また、犯罪組織は「ローン・バック(貸付返済)」も多用します。海外の隠し口座から自らの国内企業へ「貸付金」として送金し、①違法収益の正当化(借入金偽装)と、②利子支払いの経費化による脱税という、二重の利益を得る手口です。税制を逆手に取り、利益を生むのです。
※本稿は、公益目的の観点から、公開情報・報道・当局発表等に基づき、資金洗浄の実態と構造的リスクを分析・考察したものです。
Quote
カンボジア太郎
@Cambodiataro
【深層レポート】カンボジアをハブとする巨額資金洗浄網と「日本ルート」(連載 第4回 / 全15回)犯罪インフラ「フイワン」の正体——拷問器具から個人情報まで売買される「闇のアマゾン」
USDT経済圏の可視化と「日本向け窓口」 x.com/Cambodiataro/s…
Show more