【深層レポート】カンボジアをハブとする巨額資金洗浄網と「日本ルート」(連載 第4回 / 全15回)犯罪インフラ「フイワン」の正体——拷問器具から個人情報まで売買される「闇のアマゾン」
USDT経済圏の可視化と「日本向け窓口」
カンボジアでは、プリンス傘下のスーパーにおいて、店頭に巨大なLEDで「美金(USD) = USDT = 人民元」と表示し、暗号資産を米ドルや人民元と等価で決済可能にしている実態が確認されています。
また、現地ポータルサイトやSNS上で、「仮想通貨を現金化」する日本語広告が堂々と掲載されています。これらは日本の証券会社での取引者や、税金・手数料に悩む層に対し「秘密厳守」を訴求する、規制をかいくぐるための「日本向け窓口」です。
米当局による「完全遮断」
しかし、こうした抜け道を利用する日本人は、今まさにリスクに直面しています。事態は「制裁リスク」の段階を超え、現実の「摘発」へと移行しました。
2025年10月14日、米国財務省は、カンボジアを拠点とするフイワン・グループに対し、愛国者法第311条に基づく「米金融システムからの完全遮断」を決定しました。当局は、フイワンが北朝鮮のサイバー部隊や詐欺組織のために40億ドル以上を洗浄したと断定しています。
プリンスグループ会長の起訴と「連座」のリスク
さらに衝撃的なのは、冒頭のスーパーマーケットを運営するカンボジア最大級のプリンス財閥への措置です。創設者の陳志会長が、強制労働とマネーロンダリングの罪で米司法省に起訴されると同時に、同グループは「国際犯罪組織(TCO)」に指定されました。
これにより、フイワンやプリンスの経済圏に関与するあらゆる資金は、国際的な凍結の対象となります。「秘密厳守」を謳う日本語サービスなどの背後にこれらのネットワークが少しでも介在していた場合、その利用者は「国際犯罪組織への資金供与者」として、資産凍結はおろか、法的責任を問われる局面に立たされかねません。
規制回避と独自コイン「USDH」
なぜ彼らはUSDTの店頭決済や独自コインにこだわるのでしょうか。背景には、2025年に入り世界的に強化された「トラベルルール」と、Tether社による凍結措置があります。FATFの規制強化により取引所間の送金が困難になり、さらに既存のUSDTですらFBIによる凍結リスクがあるため、彼らにとって「透明すぎる」のです。そこで組織側は、銀行システムからの排除を予期し、「凍結不可能」を最大の特徴とした独自のステーブルコイン「USDH」を発行しました。
彼らは、中央銀行ライセンスを持つ正規アプリ「Huione Pay」を表の顔、Telegram上の闇市場「Huione Guarantee」を裏の顔として使い分け、資金を還流させることで追跡を断ち切る仕組みを構築しています。
拷問器具まで売買される「闇のアマゾン」
Huione Guaranteeは単なる資金洗浄の場ではなく、犯罪産業のサプライチェーンそのものです。
そこはまさに「闇のアマゾン」です。数千のチャットグループでは、詐欺の標的となる「カモリスト」や犯行ツールが公然と取引されています。中には「日本人のFX投資経験者」や「資産1億円以上の富裕層」といった名簿が、資産規模ごとにランク付けされ、高値で売買されている実態も確認されました。また、犯罪者同士の裏切りを防ぐため、運営元が代金を一時預かる「エスクロー(仲介保証)機能」が完備されており、これが市場の爆発的な拡大を支えています。
さらに衝撃的なのは、詐欺施設で労働者を支配するための「手錠」「電気ショック警棒」「足枷」といった拷問器具までもが、日用品のように写真付きで陳列され、スマホ一つで即日配達されている現実です。
今回、米司法省がプリンスグループ会長を起訴した容疑の中にも、こうした施設での「強制労働」や「拷問」が含まれており、闇市場で売られる道具が実際の残虐行為に使われていたことを裏付けています。
官僚化された資金洗浄システム
こうしたインフラの上で、資金洗浄部隊も組織的に動いています。内部マニュアルによると、資金洗浄拠点「水房」や実行役「車手」の行動が厳格に規定されています。特筆すべきは、口座凍結リスクを管理する「リスクコントロール(風控)」の徹底ぶりです。被害者が銀行へ返金要請を行った際や、実行役が逮捕された場合を想定し、緊急度に応じた対応フローが詳細に記されています。
ここには、銀行のコンプライアンス部門に対抗する「逆コンプライアンス」部門が存在します。彼らは「リスク項目は軽度から重度へ」といったルールベースで、感情を排したアルゴリズム的な損切りを実行します。この「犯罪の官僚化」とも呼べる高度な組織構造こそが、当局による追跡を困難にしている最大の要因なのです。
※本稿は、公益目的の観点から、公開情報・報道・当局発表等に基づき、資金洗浄の実態と構造的リスクを分析・考察したものです。
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カンボジア太郎
@Cambodiataro
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