金沢に還る…新聞記者時代の記憶と「ZINEフェス」の風景
金沢と聞くと、私の胸にはまず「記者時代の原点」という思いがわきあがる。最初の赴任地であり、あらゆることが新鮮だった若い日々の舞台だった。その金沢でzineフェスが開かれると知ったとき、迷うことなく出店の申し込みをした。過去と現在が一つに結びつく機会を逃す手はない、そう直感したのだ。
勤労者プラザ、記憶の継ぎ目で
会場は金沢駅西口からほど近い勤労者プラザ。築40年の建物は、私にとっては「取材現場」としての記憶が刻まれた場所だ。会議や集会を取材に訪れ、記事を書き上げた夜の空気が蘇る。だが今回は、机の上に自らのzineを並べている。あの頃の「聞く側」から、「語る側」へと立場が変わったことを感慨深く思った。
駅西口の景色も変貌を遂げていた。かつては広坂にあった県庁が移転して久しい。高層ビル群の間を抜ける風景には、都市としての時間の積み重ねが凝縮されている。
70のブース、ちょうどいい規模
会場には70のブースが並んだ。規模は大きすぎず、しかし十分に多彩。空き時間には全てのブースを見て回ることができ、未知の表現に出会える。アートと工芸の街・金沢らしく、紙や装丁にこだわった作品が目を引いた。視覚的な完成度の高さが、この街の文化的土壌をよく物語っていた。
私は既刊の「日本で食べられる中東料理ガイドブック」などを並べた。金沢に中東料理店は多くなく、関心の高まりはまだまだと感じたが、それでも熱心に質問をしてくる方もいて、さすが豊かな食文化を育んできた街だなあ、と思った。
熱い砂で沸かすトルコ・コーヒーの店が金沢にもあった。トルコに行くとよく見かける光景だけど、日本にはめったにない。イスタンブール出身のトルコ人が営む雑貨屋兼カフェ「ハーネ」。お菓子のバクラヴァやアイスクリームのドンドルマ、ケバブや惣菜パンの「ポアチャ」も出しているようだ。 pic.twitter.com/ESW603C056
— カフェバグダッド/CAFE BAGHDAD (@cafebaghdad) September 19, 2025
隣人と再会の物語
偶然にも、隣のブースは地元新聞社で記者をしていた女性。今は七尾市の食品会社に勤めているという。彼女が並べていた短編集は、星新一のショートショートをおもわせる軽妙さで、ページをめくる手が止まらなかった。新聞記者から物語の世界へ。そんな転身に、どこか同業者としての共感を覚えた。
さらに、地元紙の記者が取材に訪れ、カフェバグダッドのブースに立ち寄ってくれた。現在おもに文化欄を担当ベテラン記者で、思いがけず昔話になった。例えば、谷本正憲前知事が初当選した県知事選のこと。当時、連立与党と自民党が激突した激戦を取材し、わずかな票差で谷本氏が勝利した瞬間にたちあった。谷本氏はあれから7期連続で知事をつとめ、3年前に勇退した。時間容赦なく流れることを実感する。
街を歩きなおす
今回はひがし茶屋街や浅野川近くの古民家ゲストハウスに宿泊した。記者として忙しく走り回っていた頃には気づかなかった金沢の魅力を、初めてゆっくりと味わうことができた。石畳を踏みしめる足音に重なるのは、外国人観光客の笑い声やシャッター音。かつては「ただの取材対象」としか見えていなかった街並みが、いまは生きた時間の豊かさとして迫ってくる。
ふたたび訪れたい場所へ
ZINEフェス金沢は、単なる出店の機会ではなく、自分の過去を照らし直す旅でもあった。かつての現場、かつての人々、そしていまの街の姿。そのすべてが一つのフェスの空間に折り重なり、私自身の時間の歩みも映し出している気がした。
金沢は、記者としての出発点であり、いまは表現者として戻ってきた街だ。夕暮れどきにひがし茶屋街や浅野川のほとりを歩きながら、私はまたこの街に帰ってこようと心に誓った。
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