イスラエル・パレスチナの多文化土壌を聴く…『魔法が私に流れ込んでくる』
英語タイトルは、『A Magical Substance Flows Into Me』…不思議な題名だ。
上映前、作品紹介すらほとんど読まぬまま客席に座った。「魔法の物質」とは何を指すのか、音楽映画なのか、政治的ドキュメンタリーなのか。しかし、始まってすぐ、そのタイトルの曖昧さは、ジュマーナ・マンナーア監督流の観客を引き込むための表現だったことに気づく。
観る者を解説ではなく感覚の入口から作品世界に招き入れる。脳ではなく、まず身体で理解させるタイプの映画だ。
映像は静かに始まる。やや歪んだ音質の古い録音…ドイツ系ユダヤ人で、オリエンタル音楽研究者のローベルト・ラハマンによる1930年代のラジオ放送が流れ出す。実際の音源を基にゆるやかに再構成されたものだという。歴史の「おり」のようなノイズを含むその声は、過去から立ち上る亡霊の語りにも似て、作品全体に漂う「揺らぎ」の源泉でもある。
やがて、次々と音楽の場面が現れる。ベドウィンの弓奏楽器ラバーバの乾いた響き、クルド系ユダヤ人が奏でるサズのうねる旋律、オリーブ油のブリキ缶を打楽器に変えて歌い出す男、そしてモロッコ系ユダヤ人女性が歌う、現代アラブ歌謡とも異なる独自の歌謡。いずれも音楽の“商品化”とは無縁の音だ。さらに圧巻なのは、ネイ(中東の縦笛)が削られ、磨かれ、息を吹き込む管へと変貌していく様子が、職人の手のアップによって克明に描かれる場面である。音が生まれる過程を映すことで、その土地の文化的循環を示している。
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