食べることで、世界とつながる…『季刊アラブ』の連載開始から1年
季刊雑誌『アラブ』(日本アラブ協会発行)で始まった中東料理の連載が、最新の2025年秋号で4回を数えた。
この一年、私は日本各地を歩きながら、食と、その向こうにある人々の暮らしを見てきた。食べることで、私たちは世界とつながることができる――そう実感した一年でもある。ここでは、各回の内容を簡単に振り返ってみたい。
第1回(2025年冬号) 名古屋圏のトルコ料理…「異国趣味」の先へ
いま、中東料理を食べるなら名古屋へ。そんな言葉が、もはや冗談ではなくなった。
愛知・津島のトルコ菓子店〈ベイザーデ〉は2024年夏に新装オープンし、
ショーケースにはバクラヴァやポアチャが並んでいた。その向こうに、店主の故郷サフランボルの風景が見えてくるようだった。
名古屋市港区のエジプト料理〈セドラ〉では、鉄板で焼かれるフィティールの香りが満ちていた。
どの店にも、異国趣味ではない「日常の味」が息づいている。取材のあと、熱いチャイを飲みながら思った。この街では、中東料理が“特別”ではなくなりつつあるのかもしれない。
第2回(2025年春号) 名古屋に吹くトルコの風…“定番の外側”を食べに行く
前号に続き、愛知県のレストランを紹介した。「ケバブイスタンブール」のテプシケバブ、「トルコクラス」のイシュケンベ・チョルバス、「オットマンキッチン」の朝食プレート……。いずれも日本のトルコ料理店の“定番”ではない。
こうした料理が提供されている背景には、家屋解体業などに従事するトルコ人コミュニティの定着がある。黒海沿岸から来日した人びとが、仲間のために、ふるさとの味を再現してきた。
「トルコの味を日本で忘れたくない」と語った店主の言葉が今も記憶に残っている。名古屋の食卓には、もうひとつのトルコが息づいているのだ。
第3回(2025年夏号) 関東で味わうナイルの恵み…エジプト料理店で羊の丸焼き
東京から少し北へ。茨城県坂東市の〈アヤ・キッチン〉を訪ねた。友人が企画した子羊の丸焼きを食べる会に参加するためだった。脇を固めるファットゥーシュ、ホンモス、ババガヌーシュといった前菜も滋味深い。
東京・神楽坂の〈アブ・イサーム〉では国民食コシャリを。レンズ豆と米とパスタが層になり、フライドオニオンが香ばしく舞う。
水道橋の〈スフィンクス〉では、古代エジプト風のインテリアに囲まれてコメの腸詰「モンバール」を味わった。エジプトの庶民料理が、東京の真ん中でしっかり根を下ろしていると実感した。「本場の大衆料理を日本できちんと紹介したい」という店主の言葉が心に残っている。
第4回(2025年秋号) 英マンチェスター・カレーマイルの変貌…移民がつむぐ中東の味
最終回は、英国の中東料理を取り上げた。マンチェスターの「カレーマイル」は、いまや中東移民の街でもある。イラクのクージー、イエメンのアグダ、シリアのシャワルマ。これらの料理は、難民として英国にたどり着いた人たちの故郷の味の記憶だ。
リバプールの「ガルフ・ハウス」で食べたマンディの香り。マンチェスターの食材店で見つけたガザ・コーラの赤い缶。食が、戦争や移動の記憶をも包み込みながら、人々の生活を支えていることを感じた。
食べることは、つながること
取材を通じてわかったのは、料理がいつも、その土地の記憶や人の生き方を映しているということだ。食べることは、世界とつながること。そして、他者の人生にほんの少し触れることでもある。これからも、人と料理のあいだに生まれる物語を見つめていきたい。
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