小さなマルシェがひらく地域と出版の回路…ブックマルシェin西早稲田に出店
2025年12月13日、東京・西早稲田の東京DEWで開催された「ブックマルシェ・イン・西早稲田」に、カフェバグダッドとして出店した。小規模出版社や個人制作者が集う、10数ブースほどのこぢんまりとしたブックイベント。ZINEや単行本に加え、焼き菓子、音楽CD、雑貨まで並び、作り手と来場者が自然に言葉を交わせる場所だった。
イベントを主宰したのは、翻訳者であり都内で「ひとり出版社」スタジオペガサスを営む久米由加利さん。学生街・西早稲田という土地柄を意識し、一部出展者とともに、近隣や中央線沿線の古書店に足を運んでチラシを配布するなど、地道な広報を重ねて本番にのぞんだ。その姿勢からも、このマルシェが単なる即売会ではなく、地域と出版をつなぐ試みとして構想されていたことが伝わってくる。
実際、このブックマルシェの大きな特徴は、地域コミュニティとの関係性を強く意識していた点にある。象徴的だったのが、早稲田大学の雑誌サークル「早稲田乞食」の出展。全編手書きという独自の制作スタイルで知られる学生雑誌で、最新号に加えてバックナンバーも並んだ。私のブースの隣が「早稲田乞食」だったのだが、当日はサークルのOBが次々と訪れ、現役の学生たちと談笑する姿が見られた。学外のイベントに出ることで、世代を超えた接点が生まれ、サークルそのものの「場」が更新されていく。その可能性を実感した。
また、地元・早稲田商店会の副会長である佐藤靖子さんも会場に姿を見せていた。商店街とブックイベントが直接連携することは、多くないのではないか。だが、本と人が集まるこのような催しと、地域商業とのコラボレーションは、今後十分に考えうるのではないか。西早稲田という土地が持つ「学生街」「生活の場」「文化の蓄積」という複数の顔が、重なってみえた。
個人的な出会いもいくつかあった。早稲田でシリアの雑貨も扱う喫茶店「雑貨と喫茶しゃーむ」を営む、中東研究者の高岡豊さんがふらりと訪ねてくれた。研究と日常、商いと文化実践を行っているのが高岡さん。また、文京区千石で長年ブックイベントを続けている編集者の松本貴子さんも来場しくれた。千石で積み重ねられてきた実践は、今後この西早稲田の試みにとっても、学べる点がいろいろあると思う。
出店者の顔ぶれも多彩であった。ファッション史を軽やかなイラストでひもとく書籍、グルテンフリーの米粉マフィンとミャンマーコーヒー、日常をすくい上げるお弁当ZINE、サステナブルな暮らしを考える雑誌、中東・南アジアの食品や天然石、アラブ音楽のCDと古書、精神世界を探究する同人誌、食文化を軸にした観察記、子どもから大人まで楽しめる絵本や図録、フェアトレード食品――。異なる品々が、同じ空間に調和しているかのように並んでいたのが印象的であった。
カフェバグダッドのブースでは、増補改訂版『日本で食べられる中東料理ガイドブック』をはじめ、『中東カフェを旅する』やバクラヴァのガイドブックなどを販売した。来場者だけでなく、出展者同士の会話も活発で、東南アジアのお菓子について執筆・翻訳を進めているライターの方、日本人女性と結婚するために来日し現在日本企業に勤めるトルコ人など、思いがけず興味深い人々と出会うことができた。こうした横のつながりが自然に生まれるのも、規模が小さく、滞在のリズムがゆったりしているイベントならではだろう。
初開催ということもあり、決して大規模なイベントではなかった。しかし、地域コミュニティとの関係性を重視するという明確な軸を持ち、その上で独自の形に育っていく可能性を感じさせる一日であった。久米さんのアイデアと実践は、今後のブックイベントのあり方を考えるうえでも、非常に示唆に富んでいる。
本と人が出会い、思わぬ会話が生まれ、参加者や来場者がゆるやかにつながっていく。やはり、ブックイベントは面白い。そう改めて実感した、早稲田界隈での冬の一日であった。
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