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Mr.CHEESECAKE創業者・田村浩二は、 なぜ大きな成功を手にできたのか? 13の成功法則(後編)

 販売されるのは、週に2度だけ。オンラインであっという間に売れてしまうので「幻のチーズケーキ」とも呼ばれる、Mr.CHEESECAKE。昨年は、セブン-イレブンとのコラボレーションも話題になりました。

 このMr.CHEESECAKEの創業者であり、社長を務めるのが田村浩二さん。
 実は、かつては星付きのフレンチレストランのシェフをしていました。シェフからオンラインでケーキを販売する経営者への転身。これはなかなかないこと。なぜ彼は、料理人として新しい生き方に踏み出したのか。そして、なぜ彼は事業に大成功したのか。
「13の成功法則」を探っていく後編です。

6.ツイッターでお客さんに聞いてしまう

 シェフ時代にブログを始め、その後noteに移管。自分の思いを発信し続けてきた田村さんですが、最も手応えがあったSNSはツイッターだと語ります。自分のツイートがバズって1日で1万人ものフォロワーが増えたり、10万人のフォロワーを持つ人がチーズケーキを紹介してくれて注文が一気に殺到したりしましたが、田村さんはびっくりのツイッター活用をしていたのでした。
「注文が殺到するまでは、1日16本のチーズケーキしか作っていなかったんです。まだ大して売れてもいませんでした。しかし、そのツイートで数時間で200本もの急な注文が入ってしまって」
 すぐに在庫を止め、どのくらい時間がかかるか、連絡を入れることになります。しかし、1日16本しか焼いていないので、200本焼くには10日以上かかってしまいます。
「その間もずっと問い合わせが来てしまうので、どうしようかと思いました。それで、ツイッターでアンケートを取ることにしたんです。いつでも買えるけど、いつ届くかはわからない、というのと、週に一度しか買えないけど、購入できたらその週のうちに届く、のどちらがいいか、と」
 結果は後者でした。そこで、後にこれもまた話題になる、1週に1度(後に2度)だけの販売に切り替えることになります。

7.あざといマーケティングはやらない

 Mr.CHEESECAKEといえば、週に2度しか買えない。しかも、すぐに売り切れてしまうので、お客さんにとっては飢餓感をかきたてられて、ますます欲しくなる。実際にこういうことが起きているわけですが、ともすれば、わざと販売回数を減らした、あざといマーケティングとも受け取られかねません。しかし、Mr.CHEESECAKEはそうはなりませんでした。
「今の販売方法の起源は、特にマーケティングとかそういうものを意識したやり方ではなく、本当にユーザーとの対話で作った形だったんです」

 そして田村さんは、本音の発信を意識していました。
「当時、僕はまだレストランのシェフをしていたので、朝4時に起きて4時半にはキッチンに行き、9時までにケーキを作り終えて、それから夜11時、12時までシェフの仕事をしていました。家に帰って寝るのは2時過ぎでした」
 なんと睡眠時間2時間の日々を、3カ月も続けていたのです。
「注文が1日にまとめられると、店が休みの日に発送処理などができた。僕にも都合が良かったんです。結果的に生産数が増えて届けられるケーキが増えたほうが、本質的な意味でお客さまにとってハッピーなのではないかと思ったことも、この方法を採用した理由でもあります」

 ただ、そうはいってもアンチもいます。もっと作れ、という声が飛んできたそうです。
「だから、朝4時10分から、おはよう、というツイートをしていました。本当に朝4時に起きて、夜2時に寝る生活をしているので、もう許してほしい、とやんわり発信してみたら、ゆっくりでいいので作り続けてください、という方が増えていきまして」
 リアルな現場の状況をお客さんが理解して、応援してくれる側に回っていったのです。

「やっぱり人の手で作っているものなので、どうしても数は作れない。それを上手に伝えながらでないと、すぐに見向きもされなくなってしまったと思います。逆に欲しいのに手に入らなくて、愛が憎しみに変わってアンチになるパターンもありますから」
 こういうことをどうやってやんわり回避していくか、ということにも意識をしていたのです。

8.競合は気にしない。それより考える

 そもそもシェフをしているのに、なぜチーズケーキを作り始めたのか。ここには、料理を作ることが大好きだった、田村さんの原点への思いがありました。
「賞を獲ったことがきっかけで、同業の方が増えたり、自称フーディのような方が増えたんです。おいしいものを食べに来ているというより、調べに来ている。それで、ダイニングの雰囲気が悪くなってしまった気がしたんです」
 賞を獲るには、自分の個性も出さないと、といろんな挑戦もしていました。しかし、賞を獲った結果は、自分の求めていたものと違ったのです。

「一般の方に、より多くの人に、誰が食べてもおいしいと思ってもらえるものを、どこよりもおいしく作りたいな、と思うようになりました。そのとき、自分が好きだったチーズケーキを、とにかくおいしく作ってみようと思ったんです」

 ここで興味深いのは、田村さんは一切、リサーチをしなかったことです。
「僕は基本的に何を作るときもそうなんですが、競合のことはまったく気にしないんです。とにかく自分がおいしいと思うもので、今まで食べたことがない味を作ることが自分のルールでした」
 唯一、考えたのは、有名なお菓子という土俵で戦ったときには、同じやり方をしては絶対に勝てないということ。
「だから、レストランデザートのようなギリギリのなめらかさや儚さを生み出せるチーケーキにしようと考えました」
 リサーチはしていないけど、よく考えられています。とにかく新しいものを生み出して、深く考えずに売る、などという安易なことはしないのです。
「努力は好きですけど、最小の努力で最大の成果を出すためにどうしたらいいかを常に考えていました」

 シェフがチーズケーキをオンラインで売ることを考えたのもそうです。それこそ今からシェフとして三つ星を獲るには、どれくらいのお金と時間がかかるか。それよりも、自分の独自のポジションを取りに行ったほうが、世に出るのは早い可能性がある。
「そう考えたとき、やるべきはレストランではないかもしれないな、とはっきりわかって。このジャンルで突き抜けたほうが、自分にはいいと確信したんです」

9.ネーミングにはこだわる

 シェフをやりながらのチーズケーキづくり。最初はインスタグラムに載せただけだったそうです。それを欲しいという人が現れ、そのうちの一人がインフルエンサーで、ブログ掲載されるとまた連絡が入り、最初の1カ月で90万円ほどが売れました。その後、BASEでショップを作ります。

 僕が秀逸だと思ったのは、Mr.CHEESECAKEというネーミングです。わかりやすいのです。
「最初はフランス語にしようと思って友人に相談したら、フランス語なんて誰もわかんないからMr.CHEESECAKEくらい簡単なほうがいいよ、と言われて。この名前、めちゃくちゃいいなと思って、友人に許可をもらって、この名前にしたんです」
 会話の中でポッと出てきたものが今の名前になったというのです。
「名前は大事です。特にスイーツは、商材的にマスを相手にしないといけないものなので、わかりやすさがとてつもなく重要だというのは、運営していても実感します」

 売り上げは2ヵ月目には200万円を、3カ月目には300万円を突破します。ここでも、BASEとツイッターの連携が効果をもたらしたと語ります。
「食べる方が増えると、食べたよ、と投稿される文化が徐々にできていったんですよね。これもまた、作り出せたな、と思うんですが、レストランでもない限り、わざわざ食べたものを写真に撮ってアップするって相当な労力なわけです。これを皆さんが普通にしてくださっているというのが、このブランドのすごいところだな、と思います」

10.ビジネスを作り込み過ぎない

 そもそも、なかなか買えないチーズケーキ。それを食べて、アップするというところまでが、一つのステータスになったのかもしれません。こうしてファンが、また新たなファンをつくっていったのです。
「当時はパッケージもなかったので、銀の保冷バッグに手書きで書いて売っていました。よくあれで売れたな、と思いますが、こういうライブ感を含めて、ちょっとお祭りっぽい感じになっていたのかもしれません」
 アイドルのファンのように、一緒に育てて応援する、という空気が生まれていったのです。しかも、作り手は一人で朝4時に起きてやっている。シェフもやりながら、フラフラになりながらやっていたというのも、スタートとして良かった。

「最初はウェブサイトを含め、あまりガチガチに作り込みないほうがいいのかな、という気はしますね。中には、いくらお金かかってるんだろう、とちょっと心配になるくらい、手の混んだスタートをされるケースもある。もうちょっとリーンな感じでスタートしたほうが、特にシェフがやるのであれば、いいと思います」

 実際、今の世の中の空気では、大きな資本をかけたものは避けられている印象があります。レストランも、チェーンより個人の店を好む、という人が多い。マスマーケティングはもう難しくなっているのです。もっとセグメントされた狭いところでマーケティングをしていく必要がある。マーケティングという言葉すら、もう違うのかもしれません。しっかりファンを作らないといけないということです。
「おそらく何をやるにも、ニッチを相手にうまくいかなければ、マスは絶対にうまくいかないです。ニッチマーケットをどう開拓していくのか。そこから派生してマスにどこまで広げられるのか。そこに戦略が立っているほうが大事な気がします」

 Mr.CHEESECAKEは、オーガニックにやり始めて、オーガニックに大きくなっていったのです。
「常に考えながらやってきたことが、いわゆるマーケティングっぽい思考に見えたりしているだけかもしれません。モノづくりの考え方がエンジニアっぽいと言われることもありますが、よく考えるということが、すべてに生かされているのかな、というのは実感しています」

11.ネガティブをポジティブに換えてしまう

 Mr.CHEESECAKEで僕がとても興味を持ったのは、通販だと冷凍しないといけないことでした。冷凍したチーズケーキを届けるのは、簡単ではない。シェフなら、店で作ったほうがいいものができるはずなのです。なのに、あえて冷凍の通販を選択した。逆張りともいえる発想です。

「物理的にそうしないといけない理由がありました。冷蔵でも崩れてしまうのであれば、冷凍しないと届けられません。ロスを出すことが僕は一番嫌なことだったので、ロスを出さないためにも冷凍が必要でした」
 そしてそのために、冷凍し、解凍しても状態がぶれないようにするためにはどうすればいいか、最初の時点からレシピを考えていたのだそうです。そして作っているときに、田村さんは気づきを得ます。

「料理人って、せっかちなので、解凍まで待てないんですよ(笑)。それで半解凍くらいのときに食べてみると、味が変わっているわけです。食感も冷たくておいしいし、変化があるな、と気づいたんです。さらに解凍すると、より甘さが出てきて、香りの立ち方も変わって、同じケーキなのに違うケーキみたいな体験ができた。これは、僕の中ですごい発明でした」
 冷凍だとどうしても送料が高くなり、価格にも反映しなければなりません。それをどうポジティブに捉えてもらうか、というところで、この価値が生きます。

「時間を楽しんでもらう、ということです。冷凍だからこそ、楽しめる味の変化を体験してもらえる。コンビニのスイーツなどとの差別化の意味でも、これは面白いと思いました」
 実際、本来なら解凍して食べてください、というところを、冷凍の状態からも食べられますよ、とメッセージします。これはおそらく誰もやっていないことだったと思います。冷凍というネガティブな土俵を、思い切りポジティブに換えてしまったのです。
「冷たいほうが甘みを感じにくいんですよ。ということは、酸味を感じやすい。酸味が好きな人は、冷たいほうが好みなんです」

 これがまた副次的な効果を引き起こしたといいます。
「一般的なマスの方は酸味が苦手な方が多い。だから、コンビニの商品などに酸味が強いものがないのは、そういう理由です。苦手であれば、完全に溶かして食べてもらえばいいんですが、酸味が好きな人は冷たい状態で食べる選択がある。温度帯で味が変わるので、一つの商品でいろんな味覚を提供できることがわかったんです」

 もうひとつ、冷凍で小分けしながら食べてください、というメッセージもしています。
「一般的なケーキは、もらったら2日目、3日目と食べないといけない。でも、冷凍なら、好きなときに少しずつ食べればいい。だから、とりあえず買っておこうということにもなる。この意識の変化を作れたのも大きいですね」
 デメリットに見えた冷凍が、いろんなメリットを生んだのです。

12.クリエイティブにこだわる

 僕が何より最初にMr.CHEESECAKEでいいな、と思ったのは、ビジュアルの良さでした。写真もイラストも、センスがいいし、インパクトがあった。
「まだ一人でやっている頃に、ケーキをちゃんとブランド化していこうと思っているので写真を撮ってほしい、とプロにお願いしたんです。レストランのように接客できないので、写真でどこまで世界観を届けられるのか、これがポイントになると思いました。クリエイティブ含めて、こういうところにも美意識を伝えていかないと、と考えていました」

 そしてびっくりしたのは、チーズケーキを入れる化粧箱があることです。
「普通は保冷バッグなんですが、やっぱり贈答品としてちゃんと大切に愛される商品になってほしいな、というのと、ジュエリーとか時計みたいに大切な商品という感覚を持っていたかったんです。なので、ちゃんとした化粧箱を用意したかったんです」
 中がサテンの布で巻かれていたり、ジュエリーを意識した仕立てになっています。
「ある程度、価格をいただく上では、外装の高級感は世界観を作る上では大事です。おいしさだけでなく、考え方や価値観を含めて、すべてを伝えたいという思いがあるので、パッケージまでもちゃんと突き詰めて作ることが、僕のやりたいことでした」

 ウェブサイトも、中身からしっかり作られています。僕が面白いと思ったのは、商品やニュースだけでなく、「JOURNAL」という思いを伝えるコンテンツを大きく打ち出していること。


「シェフ時代も思ったんですが、作り手の思いはほとんど伝わらないんです。実際に思いや考えを伝えると、食べた料理の答え合わせができるみたいで、納得しました、腑に落ちましたみたいなことを言っていただけて。だから、やっぱりもっと伝えるべきかと」
 Mr.CHEESECAKEのアナザーストーリーを伝えていくことで、より自分たちの価値を上げられる。お客さんにとっての価値も、上がっていくと考えているのです。

「ただケーキを売って利益を上げたいというよりは、自分たちのやっていること一つひとつを価値のあるものにしていきたいし、それを理解してくれる人が増えていく世界を目指しています。それが、ブランドを育てていく上では大事になると思っています」
 これも、ブランドが長く続く秘訣なのではないかと思いました。

13.自分ではチーズケーキは作らない

 最後にピックアップしたいのは生産体制。シェフをやりながらの時代は自分で作っていましたが、2018年に12坪のキッチンを作り、5名のスタッフを雇ってからは初日の1、2回を除いて、あとはすべてスタッフに任せたのだそうです。

「みんなびっくりしていましたね。でも、実際の作業には僕は入らないと決めてスタートしましたので。不安でしたけど、会社としてやる上で、僕が労務や経理、総務などもすべてやらないといけないし、マーケティングやPRもやらないといけないとなったときに、僕が作っていたら、誰がこの会社の舵を取るんだろうという恐怖心のほうが強くなりました。だから、意識して任せられるようなオペレーションを作りました」

 もちろん緻密に考えているからこそ、任せられているのです。
「誰がやってもミスをしない、は当たり前ですが、僕と同じ能力の人が2人、3人、4人と増えたほうが絶対に会社としてもいいですから。自分が育てるという感覚と、育つためにはどこを意識したらいいのかを常に伝え続けることを意識しています」

 Mr.CHEESECAKE・田村さんの話を聞いて改めて感じるのは、考えることの大切さです。ただ仕事をするのではなく、考えて仕事をする。ただ受け入れるのではなく、改めて考えてみる。突き詰めて考える習慣があったから、Mr.CHEESECAKEをここまでの存在にできたのだと思います。そして今も彼は考え続けています。

 コロナがやってきて、常識や前提が大きく変わり始めています。自分で考えて動く。常識や前提を疑い、とことん考えてみる。これからますます重要になってくる意識です。

本田直之

(Text by 上阪徹

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