米国が目指すデンマーク自治領グリーンランドの領有を巡り、トランプ大統領は反対する欧州8カ国からの輸入品に2月1日以降、10%の追加関税を課すと公表した。しかし、これはすぐに取り下げた。米国と欧州の間で新たな摩擦が生じている。
これまでの考えからみれば、かなり唐突に思えるが、トランプ大統領の中では首尾一貫している。
昨年末に発表された米国の国家安全保障戦略は「米国第一」を掲げ、西半球(南北米大陸)の防衛を最優先する方向に転換した。ドナルド・トランプと元々のモンロー主義を掛け合わせた「ドンロー主義」と言われ、グローバルな覇権関与から、自国の影響圏である「西半球の地域覇権」にシフトした。ただし、東半球でも、台湾海峡における現状を一方的に変更するいかなる行為も支持しないとしている。
こうした安全保障戦略の方針転換からみると、先のベネズエラ作戦も独裁国家からの民衆の解放であるとともに、米国の安全保障のために親中国家であるベネズエラから危険を除去したと見ることができる。その上で、西半球戦略からグリーンランド問題を考える必要がある。
トランプ政権としては、何もしなければ、いずれロシアや中国が領有してしまうと思えるほど、グリーンランドは戦略上の要衝のみならず地下資源が豊富な場所だ。この島をデンマークだけで守り切れないし、NATO(北大西洋条約機構)が出て行くとなれば、米国とロシアや中国との間に深刻な対立が待っている。それであれば、今のうちにカネで解決した方がいいとなる。
そもそも米国の領土拡大の歴史は、1803年にルイジアナをフランス、19年にフロリダをスペイン、67年にアラスカをロシアからそれぞれ購入している。48~53年にカリフォルニア、ネバダ、ユタなどをメキシコから戦争によって割譲。戦争なしでカネで解決するのであれば、その方がベターだ。
中国に接近するカナダに対して関税をかけるというのも、「西半球の地域覇権」からみれば自然だ。さらに、カナダに対し51番目の州にすべきだと発言していることも、トランプ流の考え方だ。
一方、西半球の地域覇権からみれば、NATOは重荷なので脱退も辞さない。米国が脱退しても、グリーンランドを欧州だけで守れるかということだ。グリーンランドは関税の問題ではなく安全保障の問題だ。
(たかはし・よういち=嘉悦大教授)