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大雪だけが原因だったのか 札幌圏ダイヤ混乱で浮かび上がったJR北海道の課題

鉄道ライター
2月1日午後の札幌市内の様子(筆者撮影)

 ここ一週間以上、北海道内では大雪の影響が続き、JR北海道の札幌都市圏を中心に列車ダイヤの乱れが発生している。運休や遅延、時間帯によっては列車本数の調整が行われるなど、利用者の移動に少なからず影響が出た。

 筆者自身も、この期間中にJR北海道を利用する中で、乗車した列車の遅れに遭遇したり、夕方以降の列車の間引き運転が始まる前に予定を切り上げざるを得なかったりと、行動に制限が生じた。こうした状況は、通勤・通学や旅行など、日常の移動を支える鉄道の役割をあらためて考えさせるものでもある。

 JR北海道が雪に弱くなってしまった背景にある、国の運輸政策上の問題点については、筆者の記事(「冬こそJR」はどこへ行ったのか 雪に弱くなったJR北海道は変えられるのか)でも触れている。では、特に問題が大きく報じられた1月25日の新千歳空港で、7000人が滞留し夜を明かすことになった事態は、現場でのオペレーションの工夫により混乱を軽減・回避することができなかったのだろうか。

単なる豪雪ではなかった今回の混乱

 北海道の鉄道政策に詳しい北海道教育大学の武田泉准教授は、「今回の混乱は、単なる豪雪だけでは説明できないのではないか」と指摘する。

 まず武田氏が問題視するのは、有事対応における運行判断そのものだ。

「平時・有事の列車運行の判断の誤りが、被害を拡大させました」

 その背景として挙げるのが、札幌駅構内が抱える構造的な制約である。

最大の問題は札幌駅構内の複雑な配線による構造的なボトルネックでの列車運行の判断を誤った点にあります。 当日、一部の列車は午前中に動いていたものの、札幌駅手前でまず特急列車が停止。そのまま本線を塞ぐ形となり、後続列車が数珠つなぎに滞留したのです。

 結果として、列車が数時間から長いものでは10時間近く動けない状態が発生しています。 札幌駅構内は、1988年に高架化された当時の配線のままで、列車の本数や運行形態、さらにはホームの使い方が変化したにもかかわらず、ポイントの位置も固定的で、本線からの交差支障が多く同時発着が難しい構造が残されたままです。

 そのため、平時でも札幌駅構内都合による信号待ちで数分程度の遅れが常態化していましたが、豪雪時にはこの弱点が一気に増幅してしまいました」

別の運行判断はあり得なかったのか

 武田氏は、別の判断もあり得たとした上で、具体策を挙げる。

「列車を早く止めて、逃がすという選択肢はあったと思います。

 例えば、旭川方面からの特急であれば厚別や白石、小樽方面からであれば琴似、千歳方面からであれば新札幌といった、地下鉄に乗り換え可能な駅で早い段階で旅客を降ろす。列車自体は側線や札幌貨物ターミナルなどへ退避させ、本線を空けるという判断はできたのではないでしょうか。

 空港アクセスについても、快速エアポートを最小限の本数に絞り、編成を増結した9両ないし12両編成での約20分間隔のピストン輸送に切り替えるために、ポイントを固定し転換を極力減らしつつ、少なくとも南千歳までの最低限の輸送を確保する方法は考えられたのではないでしょうか。新千歳空港駅には6両以上は入らないので、千歳・南千歳で6両ずつドアカットの上、2本の列車に乗り換えて空港駅まで運ぶ方法もあり得たと思います」

有事を前提とした駅構造への見直し

 武田氏の指摘は、有事を前提とした札幌駅構内の改修の必要性にも及ぶ。

「警報級予報の有事にもかかわらず平常運転に近いことを続けたことが今回の混乱を拡大させた原因の一つにあります。

 複雑な配線での進路構成を前提に、多くの列車を動かそうとした結果、ポイントの切り替え不転換が頻発し、かえって列車が動かせなくなってしまいました。本線上で列車が滞留し続ける状況は、その象徴と言えます。

 再発防止策としては、同時発着が可能な進路構成のための渡り線の新設や、ポイント周辺部を覆ってしまうシェルターの設置など、札幌駅構内の本格的な改修が不可欠ではないでしょうか」

情報提供と現地対応の課題

 混乱を拡大させた要因は、列車の運行判断だけにとどまらなかった。

「情報提供の弱さも、混乱を助長しました。

 電光掲示板では、新型のものを含め遅れ時間や列車の発車順序が非常に分かりにくく、改札前やホームでのアナウンスに頼らざるを得ない状況でした。また、公式サイトやアプリの情報でも、掲載の順序や掲載方法の整理が不十分で、必要な情報にたどり着きにくい状況が続いていました。

 有事の際には、運休や遅れの状況だけでなく、今後の見通しとその根拠と詳細、次に情報が更新される時刻を明示することが重要です。

 また、現地での案内要員が不足し、混雑の著しい箇所とそうでもない箇所が生じるなど、混雑整理や誘導が十分に行われなかった点も、利用者の不安を増幅させていました」

事業者任せにされてきた交通調整

 さらに武田氏は、鉄道事業者単体では解決できない構造的な課題にも言及する。

「今回の事態は、JR北海道単独の問題ではありません。

 JR、バス会社、航空会社、自治体を束ねる存在がなく、対応がばらばらだったことも課題と感じます。国の出先機関である北海道運輸局は、新千歳空港での7000人の滞留発生数日後になって、大谷地便臨時バス等一部で機能していたようですが、本来であれば、国が主導して交通全体を調整すべきでした。

 新千歳空港への集中を前提とした国の交通政策そのものを見直し、道内の複数空港の活用や代替着陸、航空会社への欠航要請、緊急時のアクセス確保まで含めた議論が必要です」

将来投資の中で見落とされた視点

 議論は、今回の混乱対応にとどまらず、将来を見据えたインフラ整備の在り方にも及ぶ。

「現在、札幌駅では、北海道新幹線の新駅工事の建設が進んでいますが、仮に在来線の上に新幹線新駅を設けていれば、在来線全体を覆う形となり、雪害対策として大きな効果を発揮していた可能性があります。

 また、現在建設中の新幹線札幌駅付近での新幹線用のシェルター工事を、在来線側まで一体化させて工事を行うという方法もあり得たと思います。

 新幹線建設予算に地元負担もあるにもかかわらず、鉄道運輸機構は柔軟性に欠けると言わざるを得ず、必要なら北海道開発予算を活用し北海道開発局の支援事業とする方法もあり得ます。結果として、在来線側に雪に弱い構造を温存したまま新幹線計画が進んだことは、将来に向けた大きな機会損失だったのではないでしょうか」

「雪国だから仕方がない」で終わらせないために

 今回の混乱は、雪そのものではなく、構造、制度、判断が積み重なった結果として生じたものと考えられる。

「雪国だから仕方がない」で片付けてしまえば、同じ事態は今後も繰り返されるだろう。札幌駅の構造的課題、有事の運行判断、情報提供の在り方、そして国が関与すべき交通全体の統括体制――。これらを一つひとつ見直すことなくして、「冬に強い鉄道」を取り戻すことはできない。今回の事態を、次につなげられるかどうかが、いま問われている。

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ありがとうございます。
鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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