電動キックボードが「若者の健康」を奪う? タイパ至上の“代償”、スペイン事故3割増の裏で「リスクは公助」という不平等
失われていくもの
調査結果を見ると、歩行や自転車の代わりに電動キックボードを長く使い続けると、体を動かす機会が減り、長期的な健康に悪い影響が出る可能性が浮かび上がる。電動キックボードや電動自転車は、自分で体を動かす移動手段ではなく、受け身で補助的なものだ。歩いたり自転車に乗ったりする機会を奪うことで、日常の運動量を著しく減らしてしまう。 若者が15分の散歩を5分の電動キックボード利用に置き換えると、日々の体を動かす時間と、周囲の環境とつながる大切な部分を失う。何百万人もの若者がこれに当てはまれば、長期的な健康への危険が高まり、公衆衛生への悪影響は無視できなくなるだろう。 これは個人の健康問題にとどまらず、都市における人の流れの質が変わることを意味している。高速で都市を通り抜ける移動の仕方は、路面の状態や周囲の気配を感じ取る機会を奪い、都市空間との密な対話を遮ってしまう。 電動キックボードの利用が社会的なつながりに及ぼす悪影響も心配されている。これは極めて個人的な移動手段であり、公共交通機関などでの移動によって得られる人との交流の機会を減らし、会話や体験を共有する場を失わせる。歩くことで生まれていた店への立ち寄りや、他人との不意な目の交差といった、都市の活力を支える偶然の接触を、時間効率を最大にするという考え方が排除していく。 移動が短くなればなるほど、都市の公共空間は意味を失い、個人を目的地へ運ぶだけの無機質な通路に変わっていくのかもしれない。
高い事故率
健康を保つ妨げや、人とのつながりの質の低下に加え、小型の移動手段の普及は、事故件数の心配すべき増加を招いている。スペイン交通総局の統計によると、2024年にはスペインで個人用の移動車両(主に電動キックボード)による事故で459人が入院しており、これは2023年より34%増えた。この期間中、死亡者数は10人から19人と 「ほぼ倍増」 している。一方、ドイツでは電動キックボードでの死亡者数が27%増え、負傷者の半数は25歳未満だった。 2022年のノルウェーの研究では、若者の間では電動キックボードによる事故が自転車よりも多く、 ・複雑骨折 ・頭の外傷 ・脊髄の損傷 などの重い怪我を引き起こしていると報告されている。車両の速度、小さな車輪の構造的な不安定さ、そして専用の道路設備の不足が重なって、電動キックボードでの移動はこれまでの交通手段よりも怪我をする確率が高いことが明らかになった。 物理的な車両の特徴と、既存の道路環境との間にある埋められない溝は、事故の深刻さを増す。小さなタイヤは路面の割れ目やわずかな段差に弱く、動きの乱れを制御しきれないまま乗っている人が硬い路面へと直接放り出される。これは移動の便利さを最優先し、衝突時の衝撃を吸収することを考えない車両が公道に出された当然の結果ともいえるだろう。 事故によって生じる医療費や将来の働き手の損失といった費用は、事業を展開する側ではなく、社会保障という公的な財産によって肩代わりされている。利益が私有化される一方で、危険が公的に押し付けられる歪んだ経済の仕組みが、この急速な普及の裏にある。 また、誤った安心感、ヘルメットをかぶる人の少なさ、交通安全教育の不足、そして混雑した都市部における若者の運転技術の未熟さも、高い事故率を支える要素になっている。技術の社会への導入が安全管理の枠組みを追い越して進む現状は、都市における移動の安全性を根底から揺るがしているのだ。