電動キックボードが「若者の健康」を奪う? タイパ至上の“代償”、スペイン事故3割増の裏で「リスクは公助」という不平等
「電動キックボード常用」というリスク
サービスが始まった頃、路上で目立っていた電動キックボードは、もう都市の風景に溶け込んでいる。私たちの目は、それを見慣れた日常の一部として処理しているだろう。 【画像】「こりゃ怒るわ……」 インバウンドの「迷惑行為ランキング」を見る!(8枚) ただ、この普及の裏には、移動の効率を上げるという名目で、人間が本来持っている体の機能を動力に任せてしまう変化が起きている。渋滞を減らし、時間を節約し、排気ガスを抑える手段として評価される一方で、若い世代の健康と安全を脅かす危険が大きくなっているのも事実だ。 世界保健機関(WHO)は、体を動かさない状態を「世界の健康に対する深刻な危険」と位置づけた。歩いたり自転車に乗ったりする移動を、通勤のような日常の行動に組み込むことが、この危険を避ける最も効果的な方法だという。 この指摘を裏付けるように、補助的な移動手段が若者の運動の機会をどれだけ奪っているかを明らかにする調査が進んでいる。移動の便利さが、体の基本的な能力を衰えさせているかもしれない。
身体活動の低下
英国のケント大学の研究チームが2024年12月に発表した研究は、電動キックボードを長時間、頻繁に使うことで体を動かす機会が減る可能性を示した。42人の健康な参加者(男性25人、女性17人)がトレッドミルの上で実験に参加した。10分間の休憩を挟んで、2つの課題に取り組む。ひとつは時速4.8kmで15分間歩くこと。もうひとつは時速12kmに設定された電動キックボードに15分間乗ることだ。 研究チームが呼気のガスを分析し、エネルギー消費量であるMET(代謝当量)を測定したところ、時速4.8kmの歩行は3.7MET(中程度の運動)だったが、時速12kmの電動キックボード乗車は1.6MET(軽い運動)にとどまった。横になっている状態でも1.0METを消費することを考えると、電動キックボードに乗っているときの体への負荷は、安静時とほとんど変わらない。この数値は、車を運転したり公共交通機関を使ったりするときの1.3METよりは大きいものの、自転車の8METや電動自転車の4から7METと比べれば大幅に少ない。 このデータが示すのは、電動キックボードは自転車の代わりになる健康的な移動手段ではなく、体を守る機能を持たない小さな自動車のようなものだということだろう。移動の効率という目先の利益を優先し、本来保つべき健康を無意識に削り取る行為は、将来の医療費増大という負担を都市に積み上げていく。便利さと引き換えに個人の生命力を奪う構造は、移動市場における歪んだ取引といえる。