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日本に現れた中東料理の風景――連載「日本に広がる中東料理の世界」の途中経過

「中東料理」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
ケバブ、ホンモス(フムス)、ファラーフェル。――もちろん間違いではない。けれど、日本で実際に食べられている中東料理は、もっとバラエティーに富んでいる。

季刊雑誌『アラブ』(日本アラブ協会発行)で去年1月から始まった連載「日本に広がる中東料理の世界」は、そうした日本で進行中の中東料理の風景を、できるだけ具体的な皿と人の姿から描こうとする試みだ。開始から1年余り、5回まで無事に書き進めることができたので、ここで一度、振り返ってみたい。

なぜ「料理」だったのか

中東を取材してきた記者として、政治や紛争を語る機会は少なくなかった。だが同時に、料理ほど雄弁に社会を語るものはない、とも感じてきた。
人は移動し、土地は変わる。それでも、食べるという行為は、暮らしの最前線に残り続ける。

この連載では、「料理を通して中東を見る」のではなく、日本の各地に現れた料理の風景を、中東の歴史や記憶と地続きの一場面としてとらえることを意識してきた。

各回の概要

ここで、各回の内容をまとめておきたい。

第1回 名古屋周辺がいま熱い!

名古屋を「中東料理の街」として再発見する導入回。トルコ菓子店ベイザーデやエジプト料理店セドラを軸に、中京圏の中東料理店の厚みと多様性を描く。単なる珍しさではなく、在日コミュニティの存在が店の味や雰囲気を支えていることにも触れ、名古屋という土地の意外な特色を浮かび上がらせた。

第2回 名古屋周辺、トルコ料理レストランが急増!

トルコ料理を「定番ケバブ」から解放する回。ハタイ県の郷土料理や内臓スープなど、日本では稀少な料理が登場し、店主やスタッフの出身地が味を規定している事実が明らかになる。移民の来歴がメニューに刻まれるという視点が提示され、料理が地理と歴史の延長線上にあることを実感させる。

第3回 関東で味わうナイルの恵み

関東のエジプト料理店3軒を巡り、「国民食」から祝祭料理までの幅を描写。子羊の丸焼きやコシャリ、モンバールなどを通じ、エジプト料理が「B級」とごちそうを自在に行き来する文化であることが示される。

第4回 英国特別編:「カレーマイル」の変貌

イギリス中部マンチェスターとリバプールを訪れ、移民食文化の現在地を考察。かつて「カレー」で象徴された通りが中東料理へと塗り替えられ、戦争や難民の記憶が味覚として保存されている現実を描く。料理を通して政治と個人史が交差していることを紹介し、食の背後にある「怒りと悲しみ」にも踏み込む。

第5回 元中東記者が作るコース料理

三重・美杉の古民家で、かつて中東に駐在していたジャーナリストが作る中東料理コースを通じ、実は「素材」がとても重要な中東料理の新たな側面を紹介。自ら育て、獲り、調理する姿勢は、中東料理を決まりきった「型」から解き放ち、日本の自然と接続する試みとして示される。

連載で描こうとしたこと

この5回を通して描いてきたのは、中東料理の「正解」ではない。
むしろ、正解が存在しないこと、その多様性と「揺らぎ」こそが中東料理の本質である、という感覚だ。

移民が移動し、土地が変わり、素材が変わる。それでも「これは自分たちの料理だ」と言える何かが残る。その残り方を、名古屋、関東、英国、そして三重という場所で見てきた。料理は保存される文化であると同時に、更新され続ける文化でもある。その二面性を、できるだけ現場を場面を描くことで伝えたかった。

ZINEに収録

この連載のうち、3本は『日本で食べられる中東料理ガイドブック』第2版に収録した。このZINEは、ガイドブックと名付けてはいるが、単なる店リストではない。「なぜこの料理が、いま日本にあるのか」を考えるための、図鑑+エッセイ集だと思ってもらえればうれしい。

季刊アラブと、日本アラブ協会について

この連載を掲載してくださっている『季刊アラブ』は、日本アラブ協会が発行する機関誌である。政治・経済・文化といった幅広い分野について、中東を専門にする研究者、ジャーナリストが寄稿している稀有な媒体だ。

速報性よりも蓄積を、断定よりも理解を重んじる編集姿勢は、料理のようなテーマを書くうえでも非常にありがたかった。「中東料理」という、一見やわらかい題材を、社会の話として扱うことができたのは、この雑誌だったからこそだと思っている。

連載はまだ続く予定だ。
書きたい料理も、会いたい人も、まだまだ尽きない。

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