3年間暴力団に潜入し懲戒免職・服役…「警察組織に梯子を外された」元警察官が語る"潜入捜査"の実態
■10年以上前、導入に前向きな提言 金高さんは警察庁刑事局長時代、海外の組織犯罪対策を調べたことがあります。国家公安委員長主催の研究会で、捜査手法の高度化を検討する一環です。 英、米、独、仏、伊、豪州、韓国、台湾、香港を調べたところ、仮装身分捜査は米、独、仏、伊、豪州で制度化されていました。潜入捜査は韓国と台湾以外の国・地域が実施していました。2012年に出た研究会の最終報告では、仮装身分捜査について導入に前向きな提言をしています。 2025年に開始するまでの十数年間、日本警察はいったい何をしていたのでしょうか。いかにも遅い。あれこれ聞きました。 ■元警察庁長官が語る「犯罪組織の捜査」 ――イタリア在勤中、マフィア撲滅に尽力した判事と会った時の話を。 【金高】ファルコーネさんです。徹底した調査と捜査で多数のマフィア幹部を摘発した。高速道路を車で走行中、道路に仕掛けられた爆発物で暗殺された。摘発のための情報をマフィア内部から取っていたようで、犯罪組織の人間を協力者にすることの大切さを教わった。 協力者にしたからには本人も家族も徹底して保護する。他国に移住させて守るとも聞いた。 ――相手の情報を取ることは不可欠だが、日本の場合それが十分ではない。それどころか犯罪組織担当の捜査員が取り締まり対象の組織に捜査情報を漏らして逮捕されている。 【金高】かつては捜査員が暴力団などと一定の付き合いをしていたが、いまはできなくなった。そうした不祥事をおそれるためだ。組織内部に分け入っていく術がどんどん限られている。 ――打開策は? 【金高】警察庁次長の時、米国、英国、イタリアに行って潜入捜査や通信傍受の実態を見聞きした。日本の組織犯罪対策にも必要だと思った。高橋さんのような人の経験を聞き、活用するべきだ。 ――昨年逮捕された警視庁暴力団対策課警部補の情報漏洩先は、「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」とみられる。トクリュウは警察の命名だが、はなからお手上げを宣言しているようで情けない。 【金高】摘発対象を「わかりません」と言ってどうする。これまでの暴力団対策で一定の実績はある。捜査はやりやすくなっているはずだ。 ■劣勢の警察、どう立ち向かうのか 犯罪組織とつながりのある取材先の暴力団元幹部は「警察官を味方につければやりたい放題だ」と話します。実際に、これはという警察官に目をつけて家族構成や借金の有無、配偶者以外の異性との交友関係などを調べると言います。 ある警察官の名前を挙げて「反社会的勢力に捜査情報を漏らしているようだ。こちらの言うことを聞かないと警察の監察にちくる(通報する)ぞ、と持ち掛けるのも手だ」と話します。 仮装身分捜査をめぐっては2025年6月、警視庁がこれを活用して特殊詐欺事件の容疑者を摘発した、と発表しました。全国初とのことです。詳細は明らかにされていません。 仮装身分捜査の導入で、犯罪組織側の警戒は一層強まっています。警察官を取り込もうとの動きも活発化しています。劣勢の警察はどう立ち向かうのでしょうか。 ---------- 緒方 健二(おがた・けんじ) 元朝日新聞編集委員 1958年大分県生まれ。同志社大学文学部卒業、1982年毎日新聞社入社。1988年朝日新聞社入社。西部本社社会部で福岡県警捜査2課(贈収賄、詐欺)・捜査4課(暴力団)担当、東京本社社会部で警視庁警備・公安(過激派、右翼、外事事件、テロ)担当、捜査1課(殺人、誘拐、ハイジャック、立てこもりなど)担当。捜査1課担当時代に地下鉄サリンなど一連のオウム真理教事件、警察庁長官銃撃事件を取材。国税担当の後、警視庁サブキャップ、キャップ(社会部次長)5年、事件担当デスク、警察・事件担当編集委員10年、前橋総局長、組織暴力専門記者。2021年朝日新聞社退社。2022年4月短期大学保育学科入学、2024年3月卒業。保育士資格、幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取得。得意な手遊び歌は「はじまるよ」、好きな童謡は「蛙の夜まわり」、「あめふりくまのこ」。愛唱する子守歌は「浪曲子守唄」。朝日カルチャーセンターで事件・犯罪講座の講師を務めながら、取材と執筆、講演活動を続けている。「子どもの最善の利益」実現のために何ができるかを模索中。著書に『事件記者、保育士になる』(CEメディアハウス)。 ----------
元朝日新聞編集委員 緒方 健二