感情移入をさせるのが上手い文章で、手練れな作家さんの雰囲気です。
なのに、付き合いが長く毎回どこかしら褒めてくれていた編集者から、すごく言葉を選んで「今のままではどこに行っても成功しない」と言われてしまったと…。
あなた目線では、没ネームも溜まり、自信がなくなくなっていたタイミングだったのか、「その通りだよな」と思ってしまって、受け入れるしかない自分が情けなくて、それでも描きたくて、畑中に喝を入れて欲しいとのこと。
これは全て本音だと思うのですが、編集者目線では1つミステリーが起こっています。
なぜ…編集者は「どこに行っても成功しない」なんて言ったんですかね?
結構リスクが高い発言で、なんのためにここまで言う必要があったんでしょう??
没と言わざる得ないなら、「うちでは載せられません」とだけ言えばいいし、なんなら他の出版社や編集部にチャレンジすることを勧めた方が編集者側も気が楽じゃないですか?
元々人間性に問題があるヤバい編集者がデリカシーなく言ったというなら解ります。
でも、一番付き合いが長く、これまでは「毎回どこかしら褒めてくれる方」が「すごく言葉を選んで」わざわざ「どこへ行っても」と言ったわけですよね?
これは…同業者として凄く引っ掛かりの覚える内容です。
ネームも見てないですし、あなたの担当者のことも知らないので、当たるも八卦ぐらいで聞いて欲しいですが、もし私がこんな発言をするとしたら、それは「あなたを助けたい」と思っている時だと思います。
具体的には、作家さんがなんらか「思い込み」に囚われているとか、目を覚まして欲しい時、ですかね…。
目を覚ますっていうと、言い方がキツイかな…。
一生懸命ドアを叩いて押して「なんで開かないの!!閉じ込められた!」と泣き叫んでる人に、「いや、それ引き戸だよ!」って言う感覚というか…。
なにが起こってるんだろうな…。
一番あるあるだと、「人は変わっていく」「時代も変わって行く」ということが、すっぽり頭から抜け落ちてしまってるパターンです。
デビューした時には得意だった作風が、作家自身の興味も変わり、時代も変わり、得意ではなくなっていくということはよくあります。
実際、初期のヒット作とガラッと作風を変えて新たなヒットを出してる作家さんっていっぱいいますよね。
だから、あなたが「得意」とか「売れ筋」とか「こういうのを描かなきゃ」とか思い込んでるものが、今のあなたとはミスマッチを起こして、技術力は上がっているはずなのに、作品としての面白さは減っている可能性はおおいにあります。
これは…編集者に対しても言えて、作家さんの輝いてた過去作こそがその方の個性だと思い込んでいて、現状は「変わってしまった」「調子を崩している」と考え、なんとか戻そうと必死になってしまって助けるつもりで結果作家さんを追い込んでしまうこともありえます。
…作家さんの状況によりケースバイケースなんで、一概にダメというわけじゃないのですが…。
うーん…経験上は「その作家さんの昔の姿」を追いかけて、昔のような作品を求めるというのは酷で、「今の作家さんの個性」を先入観なく見つめる方が上手くいくことが多いです。
この見極めは本当に難しく、自戒を込めて書いています。
担当から「お薦めされた作品」というのは、どんな意図のものだったのかなぁ…。
助けたいと思って紹介したんでしょうが…こんなにあなたが傷ついてるってことは功を奏してないってことなんで、一旦忘れましょうか。
あなたは文章を読む限り、一定以上の実力がある方だと思います。
伝える技術がある。
とりあえず、「技術力」で描く話をチャレンジしてみてはどうですか?
「感性」だけに頼るのではなく、「取材」して描く話、「調べて」描く漫画です。
興味深い事件や、珍しい仕事、気になる場所…なんでもいいです。
描いてこなかったけど好きな「趣味」や「スポーツ」なんかがあるなら、それでもいいです。
とにかく、一旦意識を自分ではなく、外の世界に強制的に向けてください。
それだけで自動的にインプットの幅が増えますし、新しいチャレンジをすることで、なんらか手癖みたいになっている思い込みから外れるとも思います。
描いてない漫画のテーマなんて、山ほどあるはずなんで。
「こういうのは苦手」と思い込んでたり、「描いたことない…」と尻込みする気持ちがあれば、それは自分を思い込みという檻に閉じ込めている証拠なので、むしろそういうジャンルほど一旦試してみてください。
考えるだけでもいいです。
…もしこれまで似たような話を描いて、似たような話ばかりインプットして来たなら、そりゃ誰だって発想が狭くなっていきますよ。
知らず知らずに飽きることもあります。
上手くいかない理由を自分のせいにしないで、方法論に目を向けてください。
表現豊かなその才能を、自分がいかにダメか、情けないかと打ちのめす攻撃に使わないでください。
苦しみすぎてます。
私の予想と違って、長年の担当編集者はクソ野郎で、あなたがスランプに入ったからと牙をむいてきたのかもしれません。
でもね、そんな風に嫌な方向に想像力という才能を使うのは、自分を傷つけるだけです。
普通の人の何倍も強い作家の想像力で、自分自身を攻撃する武器を作らないでください。
「私とまだまだ仕事を一緒にしたいと思って、言ってくれた!」と想像した方が、絶対にあなたを助けてくれます。
想像してみてください。
自分はなにか、盲点になっていることがある。
まだまだ描いてないテーマで一杯で、ワクワクすると。
こんなものも描いてみたい! あんなものも描いてみたい!!
あなたのその表現豊かな才能を、自分を救う方向で使ってください。