SNSのマッチングアプリなどで既婚者が独身を装って異性と交際する「独身偽装」が問題となっている。こうした被害を防ぐため、相手に戸籍謄本の提示を求める人もいるという。
独身偽装をめぐっては、既婚者であることを隠して交際した相手に対し、賠償を命じる判決も出ている。しかし、裁判に至るケースは氷山の一角とみられ、被害者が泣き寝入りしているケースも少なくないようだ。
そこで、交際前に戸籍謄本を見せるよう求めることで独身かどうかを確認しようとする動きがあるようだ。
交際相手に戸籍謄本の提示を求めることに法的なリスクはないのだろうか。また、戸籍謄本ではなく独身証明書を取得してもらう方法は有効なのか。独身偽装の被害を防ぐための法的な注意点について、男女問題に詳しい和氣良浩弁護士に聞いた
●お手軽なマッチング“アプリ”ゆえのニーズ、「独身証明書」提出はマッチしない
――交際相手に戸籍謄本の提示を求めることに法的なリスクはありますか。また、アプリ側で独身を保証する仕組みは作れないのでしょうか。
相手に戸籍謄本の提示を求めること自体に法的な問題はありませんが、相手が拒否する権利もあります。また戸籍謄本を使って悪用されるリスクも考えられ、画像やコピーを気軽に相手に渡すようなことは避けるべきです。
そもそも、マッチングアプリの最大の売りは「手軽さ」です。結婚相談所のように入会時に戸籍謄本や独身証明書の提出を義務付けて厳格な本人確認を行えば、独身偽装はほぼ確実に防げます。
しかし、それでは「気軽に始めたい」というユーザー層にとってはハードルが高くなりすぎてしまい、サービスとして成立しにくくなります。
アプリ側も、免許証による本人確認などで一定の安全性は確保していますが、独身であることまでの厳密な保証は、「手軽さ」とのトレードオフで、あえて行っていないのが現状でしょう。もちろん、なかには独身証明書を提出するアプリも出てきています。
「知らない人と簡単に出会える」というアプリの利便性は、裏を返せば「素性の知れない相手と関係を持つ」という危険性と隣り合わせであることを、利用者はまず理解する必要があります。
●「独身証明書」は有効な自衛手段
――戸籍謄本ではなく独身証明書を取得してもらう方法は有効でしょうか。
有効と考えられます。最近では自治体によってオンライン申請やコンビニ交付に対応しているところもあり、取得のハードルは下がっています。
独身証明書や、より確実な情報が載っている戸籍謄本を確認できれば、独身偽装を見抜く決定打になります。
真剣に結婚を考えている相手であれば、こちらの不安を解消するための資料提出に応じてくれる可能性は高いでしょう。逆に、頑なに提出を拒む場合は、何かやましいことがあると疑った方が安全です。
●裁判で勝っても「マイナス」? 騙される前に見抜くしかない
――その他、独身偽装問題に関して特筆すべきことはありますか。
非常にシビアな現実ですが、独身偽装の被害に遭った場合、「裁判で訴えて慰謝料を取ればいい」と安易に考えるのは危険です。
既婚者であることを隠されて肉体関係を持たされた場合、貞操権侵害として損害賠償請求は可能です。しかし、裁判で認められる慰謝料の相場は、せいぜい100万円程度にとどまることが多いのです。
そこから弁護士費用を支払い、裁判にかかる長い期間や精神的なストレスを考慮すると、金銭的にも精神的にも「勝ってもマイナス」というケースが少なくありません。費用対効果が全く合わず、結局は被害者が泣き寝入りせざるを得ないのが実情です。
つまり、この問題は「騙されてからでは遅い」のです。一度騙されてしまえば、その時点である意味「負け」が確定してしまうようなものです。だからこそ、交際前の「自衛」が何よりも重要になります。
――具体的にどのような点に気をつければよいでしょうか。
典型的な「怪しいサイン」を見逃さないことです。
たとえば、「土日や休日に決して会おうとしない」「特定の曜日にしか連絡がつかない」「頑なに自宅や最寄駅を教えない」といった行動は、家庭を持っている既婚者の典型的なパターンです。
アプリのプロフィールやメッセージだけで相手を信用せず、違和感があればすぐに立ち止まる勇気を持つこと。そして、真剣な交際へ進む前には、独身証明書などの客観的な証拠を求めること。自分の身を守れるのは、最終的には自分しかいないという意識を持つことが大切です。