【第57回】「実地検査」「立入検査」「調査」は何が違うのか
――補助金行政で混同されがちな言葉を法的に整理する
ここまでの記事で、「実地検査」という言葉が繰り返し登場してきました。
しかし、この言葉、実は法律上かなり曖昧です。
現場ではよく、
実地検査
立入検査
調査
といった言葉が、ほぼ同義のように使われています。
ですが、法的にはまったく別物です。
今回は、
「どこまでが任意で、どこからが拒否できないのか」
を整理しておきます。
① 「立入検査」――最も強い権限を伴う行為
まず一番分かりやすいのが立入検査です。
これは典型的な行政権限の行使で、
法律に明確な根拠が必要
対象・範囲・方法が法定されている
原則として拒否できない
場合によっては罰則規定がある
という性質を持ちます。
食品衛生法、建築基準法、労働基準法などで規定される
「立入検査」はこの類型です。
重要なのは、
「立入検査」と名乗る以上、必ず根拠条文が存在する
という点です。
② 「調査」――法的意味は文脈次第
次に「調査」。
これは一番幅の広い言葉で、
法定調査(法律に基づくもの)
任意調査(協力ベースのもの)
の両方を含みます。
問題なのは、
「調査です」と言われただけでは、
それがどちらか判別できないという点です。
したがって、
どの法律に基づくのか
協力義務があるのか
不応答の不利益はあるのか
を確認することは、
極めて正当な対応です。
③ 「実地検査」――法律用語ではない
そして最大の問題が、実地検査です。
結論から言います。
「実地検査」は
原則として法律用語ではありません
少なくとも、補助金行政の文脈においては、
補助金適正化法
行政手続法
のいずれにも、
「実地検査」という独立した権限類型は規定されていません。
つまり、
実地検査という言葉自体に
自動的な調査権限や立入権限はない
ということになります。
④ なぜ問題が起きるのか
ここで、現場で起きている問題の正体が見えてきます。
「立入検査」と言うと法的根拠を求められ、返還を迫った時に行政訴訟法の対象となってしまう
でも「調査」だと曖昧
そこで「実地検査」という
便利で強そうな言葉が使われる
しかしこれは、
法的根拠が曖昧
義務か任意か分からない
事業者が断りづらい
という、最もトラブルを生みやすい状態です。
⑤ 補助金行政で許されるのはどこまでか
補助金の場合、
補助事業の実施確認
設備や工事の存在確認
書類との整合性確認
こうした行為自体は、
一定の範囲で合理性があります。
しかしそれはあくまで、
補助金交付規程
事前に明示された運用
任意協力を前提とした確認
である必要があります。
「法律に基づかないが、検査だから当然」
という説明は、法治国家では通りません。
このスタンス驚くことに中小企業診断士は同じように言います。
かなり、遵法意識の低い士業なのか?と疑います。
⑥ 事業者が取るべき最低限のスタンス
実務的には、次の3点を押さえておけば十分です。
根拠の確認
どの規定・どの条文に基づくのか義務か任意かの確認
拒否した場合の法的効果は何か範囲の明確化
閲覧・説明・提出の範囲はどこまでか
これを確認することは、
協力拒否でも、敵対行為でもありません。
制度を正常に保つための最低限の確認行為です。
最後に
「実地検査」という言葉が
万能の免罪符のように使われ始めたとき、
制度は静かに壊れていきます。
支援のための制度が、
いつの間にか
疑うための装置に変わっていないか。
今回の整理が、
少しでも冷静な判断材料になればと思います。


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