【第55回】売上ゼロ事業者に「実地調査」をかけるという暴挙について
最近、補助金界隈で静かに、しかし確実におかしなことが起きています。
それが「売上ゼロの事業者に対する実地調査」です。
一見すると、「不正防止のために厳しく見ているだけ」と聞こえるかもしれません。
しかし、実際の現場を見ている立場から言えば、これは制度の趣旨を完全に取り違えた運用だと感じざるを得ません。
売上ゼロは「異常」なのか?
まず前提として確認したいのは、
補助事業の初期段階で売上がゼロであることは、何ら珍しいことではないという事実です。
・設備導入前
・工事中
・テスト生産段階
・販路開拓前
これらはすべて、事業再構築や新規事業では「普通に起こる状態」です。
むしろ、売上が立つ前に投資を行うからこそ、補助金制度が存在しています。
それにもかかわらず、
「売上がゼロである」という一点を理由に、
まるで何か悪いことをしている前提で実地調査に踏み切る。
これは、
まだ走り出していないランナーに対して、
「なぜゴールしていないのか」と問い詰める
ようなものです。
実地調査の“目的”がすり替わっている
本来、実地調査の目的は明確です。
補助事業が実際に行われているか
設備や工事が計画通り進んでいるか
虚偽や不正がないか
つまり、「事実確認」です。
ところが最近見聞きするケースでは、
売上が出ていない理由を問い詰める
事業計画そのものの妥当性を後出しで否定する
申請時には求められていなかった説明を要求する
といった、審査のやり直しや粗探しに近い運用が目立ちます。
これは実地調査ではありません。
事後的な価値判断の押し付けです。
事業者側の“萎縮効果”が一番の問題
この運用が続くと、何が起きるか。
答えはシンプルです。
真面目な事業者ほど、補助金を使わなくなる
まだ売上が立っていないから怖い
途中経過を見せたら突っ込まれそう
何をもって「不適切」とされるか分からない
こうした不安が先に立ち、
本来チャレンジすべき事業者が最初から手を引く。
結果として残るのは、
事務対応に慣れた事業者
最初から余力のある企業
制度が支援すべき層から、どんどん遠ざかっていきます。
「不正防止」と「疑心暗鬼」は違う
誤解してほしくないのですが、
不正を防ぐこと自体を否定しているわけではありません。
問題なのは、
売上ゼロ=怪しい
という短絡的な発想です。
これはもはや行政判断ではなく、
感情論に近い疑心暗鬼です。
制度は「疑うため」にあるのではなく、
挑戦を前提に、失敗も含めて支えるためにあります。
最後に
売上ゼロの事業者に実地調査をかけるという行為は、
一つひとつは「形式上は可能」なのかもしれません。
しかしそれが積み重なったとき、
制度全体が挑戦を罰する仕組みに変質してしまう。
私は今、その分岐点に来ていると感じています。
現場を知らないチェックリスト運用が、
どれだけ多くの芽を摘んでいるのか。
そろそろ、
「正しさ」よりも「妥当さ」を
取り戻す議論が必要ではないでしょうか。


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