スパルタダーリンな千切豹馬。
わがままお嬢千切と恋人になった場合の話。
千切がわがままでスパルタで彼女のことが大好き。
‥‥…………彼女も彼女で実は満更でもない。
感想いただけたら嬉しいです。
https://t.co/EJP0RN6BF5
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スパダリ、という言葉をご存知だろうか。
巷ではスーパーダーリン……何でもできる完璧な男性を指す。
ハイスペック男性が持つ高学歴・高身長・高収入という条件だけでなく、性格や顔も良い女性の理想を詰め込んだ男性です。
と、ネットに書いてありました……。
つまり私は何が言いたいかと言うと。
「ねぇ、1分間で天国にイケるっていうキス試してみない?」
私の目の前に座る彼氏、千切豹馬くんはスーパーダーリン改め、スパルタダーリンなのかもしれない。
・ ・ ・
千切くんと付き合い始めて早一ヶ月。
浮かれに浮かれまくって私の中間テストの点数は下がった。
恋して成績下がるとかアホすぎる。
期末テストは点数を落とすわけにはいかない。
これはまずいと、私は千切くんに期末テストまでデートしないと言った。
図書室に篭って勉強するとも。
しばらく会うのもやめようと言った。
絶対、言ったのに。
『あの子をどきどきさせる100の方法』とかいう頭の浮かれた人が考えたようなタイトルの本を広げた千切くんが私の目の前に座っている。
図書室に、千切くんがいる。
しかも1分間で天国にイケるキスを試そうとか言ってくる。
「無理」
「は?試してもないのに逃げるの?」
「図書室ではお静かに」
「キスしたいの、したくないの」
「勉強に集中したい」
「キスの勉強もした方がいいと思わないわけ?」
悲報・お嬢、話が通じない。
これは困った、まっっったく勉強に集中できない。
しかも千切くんがイケメンすぎるせいで図書室に浮きまくっていて目立っている。
きゃー、という黄色い歓声すら聞こえてくる。
勉強にギャラリーとかいらない。
「図書室に用ないなら帰ってくれないかな」
「は?読書しに来ただけなんだけど?」
「そのふざけたタイトルの本を読むぐらいなら、別の席で読んでくれないかな」
「たまたま図書室に来て、たまたま読みたい本があったからたまたまお前の目の前に座っただけなんだけど?」
たまたまが多いよ。
席は他にもあるからほんと移動してくれないかな。
「っていうか俺がいるぐらいで集中出来ないんだったら勉強なんかどこでしても出来ないと思うけど」
急に正論っぽいこと言ってくるし。
でも確かに本当に集中してれば千切くんの声なんて耳に入らないはず。
そう、千切くんの存在ごと無視すれば良い話だ。
「…………」
「この本に書いてあるギャップ萌えってやつ、本当にときめけると思う?」
「…………」
「眼鏡を掛けて、女の子をときめかせようとか意味わからなくない?」
「…………」
「ネクタイ解いたらときめくの?はぁ?お前もそうなの?」
千切くんがうるさい。
集中したいのにめちゃくちゃ話しかけてくるじゃん。
しかも今の質問に対する答えは全部かっこいいんじゃないかな、って感じだ。
千切くんの眼鏡姿とか千切くんがネクタイ解くとか、鼻血案件、救急車搬送案件である。
「ねえ」
「……………」
「……無視すんなし」
ペンをノートに走らせていた手を握り込まれる。
握るんじゃない、握り込まれる。
ふーん、えっちじゃん。
「これで勉強出来なくね」
千切くんの超名案思いついたみたいなドヤ顔が超かっこいいですよありがとうございます。
ってことを思っても口には出さないけどね。
隙を見せたら千切くんは絶対つけ込んでくる。
「べ、別に今から暗記科目とか英単語とか覚えてやろうと思ってたから、もうペン使わないし」
めちゃくちゃ強がっておく。
「は?」
わがままお嬢千切くんは、頑なに勉強をやめない私にあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべた。
「あー、i don't want to talk………意味、あなたと話したくない」
「喧嘩売ってんの?」
「千切くんに話しかけてないし〜。英単語覚えてるだけだしぃ」
「あぁそう」
千切くんがついに自分が読んでいた本をしおりをはさんで閉じた。
怒って帰ってくれるのかもしれない。
「You take my breath away」
千切くんが私を見て言った。
いや去らんのかい。
発音良っっっ。
えっっっろ。
きゃあああ、と女の子達から歓声が上がる。
なんて言ったのかまでは分からなくてもすこぶるエロい発音の英単語が聞こえてきたらときめけるのかもしれない。
「お前は言ってる意味分かっただろ?」
ニヤリとした笑みをこちらに向けてくる。
分からない、と惚けてもいいけどこれぐらいの言葉を理解できないと思われるのも癪だ。
「…………………息が出来ないくらい、あなたのことが好き」
「はいよく出来ました」
「……」
「I’m addicted to you」
「………私はあなたに夢中」
「I will always be there for you」
「いつでもあなたのそばにいる。………………あのさ。愛の言葉縛りやめてくれないかな」
「はは。いーじゃん全問正解。ご褒美あげようか?」
ご褒美の内容が気になるところではあるけど。
今それどころじゃないんだよね。
「英語やめる。数学にしようかな。えーと」
1008Σ[n=1~∞](n^5)/(e^(2πn)-1)。
「答えは2」
千切くんが即答しやがった。
途中式も書いてよ!!と怒りたくもなる。
「適当に言ってるんだよね?」
「いや、2だから」
「ちょっと解いてみる」
「2だってば」
ちょっとうるさい千切くんを無視して途中式もちゃんと計算して答えを導き出して………。
2だわ…………。
やる気を出せば千切くんも学年でかなり頭が良いんじゃないのかな。
本人のやる気は本当に無さそうだけど。
「数学やめる。保健体育………」
「手取り足取り教えようか」
きゃー、やめて、そんな子に近づかないでー、というギャラリーの声が本当にうるさい。
いい加減うんざりしてきたし、最近テスト勉強漬けで寝不足だから頭も痛くなってくる。
私がどれだけ勉強しても、なんか馬鹿みたいだ。
「千切くん」
「何、勉強やめる気になった?」
「次のテストも私が点数落としたら別れよう」
・ ・ ・
しん、と図書室中が静まり返った。
さっきまでの空気が嘘みたいだ。
「………………あ?」
そして次に聞こえてきたのは、目の前から発せられたドスの効いた声だった。
千切くんと喧嘩したことはあれど、ここまで怒っているのは初めてかもしれない。
完全に地雷を踏んだ。
「そうだよ、そんな勝手な子なんて別れちゃいなよ千切くん!」
ギャラリーがまた何事かと騒ぎ出す。
「うるせぇよ」
ガシャン、と大きな音を立てて千切くんが近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
また図書室が静かになる。
「お前今何つった?」
千切くんが射抜くような視線で私を見る。
「別れる。……………千切くんといると、疲れる」
「あっそ」
さっきはあれだけ言っても去ってくれなかったのに、あっさり千切くんは立ち上がって、
「勝手にしろ」
それだけ吐き捨てるように言って、帰ってしまった。
ギャラリーも千切くんがいないなら図書室に用はないとばかりに居なくなって、図書室は私の貸切状態になる。
別に、千切くんが帰ろうとどうでもいい。
むしろ勉強が捗るし。
っていうか、もうテストでいい点取ろうが取るまいが、もう今千切くんと別れたのかもしれない。
あれだけ図書室にいたときは千切くんがうるさくて仕方なかったのに、いないだけですごく静かだ。
千切くんがそのまま置いていった『女の子をどきどきさせる100の方法』の本をなんとなく開く。
しおりが挟んであったページは、
『あの子ともっと仲良くなる方法』。
たくさん話しましょう、たくさん一緒にいましょう。
と、書かれている。
「全然どきどきさせる方法読んでないじゃん馬鹿……」
私の呟きは、誰にも聞こえることなく図書室に溶けて消えた。
・ ・ ・
期末テスト当日が、あれから千切くんと一切話さないまま来てしまった。
そもそもクラスが違うから会うこともない。
あれだけ用がなくても私に構ってきた千切くんは、もうどこにもいない。
正直テストを頑張る理由もない。
だけど勉強した成果を発揮しなければと、ただひたすら無心で問題を解く。
そして答案用紙を回収したとき、それは起きた。
「先生、この子テスト中に何か見てました」
クラスの女の子が手を挙げて私を指差す。
何事だ、と周りは私を見る。
先生も机の中を見せてみろと言ってくる。
もちろん私はやましいことなんて何もしてないし、持ち物を検査されたところでどうでもいい……と、思ったけど、いつの間にか机の中に解答が書かれたメモが入っていた。
しかもご丁寧に全教科分。
私がカンニングしたと言い張るその子の顔を見て、そういえばこの子って千切くんのファンクラブみたいな女の子だったっけ?と思う。
付き合ってる私に腹いせで罪を着せるとか、いい度胸してる。
でもテスト前に机の中を確認しなかった私も悪い。
っていうか、もう全部どうでもいい。
「なんだこれは」
先生がカンニングペーパーを指差して、私に聞く。
「カンニングしました」
「…………は?」
「だから、カンニングしたんです。私が」
・ ・ ・
「なんでこんなことしたんだ」
放課後職員室に呼び出されて何度も先生に問い詰められるけど、私は何も答えようがない。
冤罪ですとか言っても信じないだろうし、だからといってやってもないことに理由をつけて説明するのも面倒だし。
「もう次はカンニングしないんで。本当にすみませんでした」
適当に謝っても先生は解放してくれない。
「正直に言ってくれればいいんだ。そうしたら許してやるから」
許してやる、とは?
なんでそんな上から目線なのかと思うと鼻で笑ってしまう。
人の話を聞かないなんて、まるでどこぞのお嬢だ。
いや、あのお嬢だって理不尽に人を責めることなんてしないのに。
「失礼しまーす」
職員室の入り口から聞こえてきた声に、びくりと身体が反応する。
振り返らなくてもわかる。
千切くんの声だ。
「生活指導の件できたんですけど〜、髪の長さが長いとかで。俺髪結んでるから良くないっすか?」
私の横まで来る。
私に用があった訳ではなくこの話を聞かない教師に用があったらしい。
しかも髪の長さが原因で。
何をやってるんだ千切くんは、と保護者目線になってしまう。
「………あ」
私の横まで来て初めて千切くんが私に気付いた。
「おお、千切か。今ちょっと取り込み中だから後にしてくれないか?」
「取り込み中?コイツと?……………生活指導?」
私と先生を交互に指差す。
人を指差すのやめなさい。
「違う。こいつがカンニングしたから、理由を聞いてるんだ」
えーーーー。
先生口軽いな。
確かに私のクラスの子がもう他クラスの子とかに言いふらしてるかもしれないけれども、それでも他クラスの人に言うのはなんか違くないか。
「……………は?」
千切くんが私を見てくる。
もしかして千切くんも私のことをカンニングしたヤバいやつって思って幻滅したかな。
いや、別にもう別れたなら関係ないけど。
「何。お前って必死こいてテスト勉強してそんなに馬鹿なの?」
傷口に塩を塗っていくタイプですかお嬢は。
「そうだぞ。いつも学年一位で前回学年三位に下がったからって何もカンニングすることはないじゃないか」
先生、恐ろしく口が軽いです。
私は千切くんにテストの点数が下がったとしか言っていない。
千切くんは人の成績とか興味ない人だから私の成績を知らなかったのだけど、学年三位なら勉強しなくてもいいじゃんと言われかねない。
…………っていうかさ、横からめちゃくちゃ怒ってる気配がするんだけど怖くて見れない。
「『テストの点数が下がったからしばらく会うのやめよう』」
前に私が言った言葉を千切くんが復唱する。
「……………ナメてんのか?この俺を」
アッ、やばい。
殺される。
・ ・ ・
職員室から逃げ出した。
ええ逃げ出しましたとも。
カンニングがばれて逃げ出したと言われようとも。
千切くんに捕まるよりマシなのである。
職員室の窓から飛び降りるというハリウッド映画ばりの身体能力で逃げ出した私は、とりあえず何処でもいいから走り出す。
幸い窓は小さくて千切くんは通れなかったし、教師はもちろん、というか誰も真似しないで下さい。
校舎を全力で走っても、テストが終わって早く帰れた生徒達はもういなくて、ほぼ誰もいない校舎だ。
職員室から一番遠い図書室まで駆け込んで、図書室の鍵を掛ける。
図書室は一番奥で窓もないからこれでもう誰も入れまい。
ガン、ガン、ガン。
「開けろ」
鍵をかけたばかりの扉から悪魔の声が聞こえた。
いくらなんでも来るのが早すぎる。
千切くんってそんなに走るの早いんだっけ。
早いんだった。
「今すぐ開けろ」
ガァン、と一際大きな音を立てる。
「扉ぶっ壊すぞ」
洒落にならない。
しかも何故かいる場所バレてるし。
最初に言った通り図書室は窓がないからもう逃げ場がない。
「もう別れたからほっといてよ!」
バキィッ、と音を立てて扉が破壊された。
「あ………?誰がいつ別れたって?」
「勝手にしろって言ったじゃん」
「あぁ勝手に『勉強してろ』って意味なの伝わんねぇのか、学年一位さんは?」
学年一位にブチギレである。
全力で走って息が切れている私とは対照的にまだ余力がある千切くんに勝つ方法はない。
打つ手なし。
千切くんが私に近づいて、片手を振り上げる。
殴られるかも。
殺される、と反射的に目を瞑る。
「………別れるとか二度と言うな馬鹿……」
すごく小さな声と共に、私の頭に手刀が落とされた。
それ自体は全く痛くなかったけど千切くんの声が悲しそうで、聞いているこちらが辛くなる。
恐る恐る目を開けると千切くんが俯いていて、長い髪のせいで表情がわからなかった。
「………私のこと怒ってないの?」
「絶賛ブチギレ中だよアホが」
ですよね。
「デートしたくねぇなら先に言えよ学年一位」
「違う。デートしたくないじゃないよ。………千切くんと付き合って浮かれて馬鹿になる自分が嫌だったの。千切くんのギャラリーとかファンクラブの子に、大したことない女と付き合ってるなって思われたくなかったの」
自分でも言っていて、つまらないプライドだなと思う。
「成績学年一位と学年一カッコいい男が付き合ってたらお似合いかなって」
千切くんは知らない。
私は千切くんが思っている以上に、千切くんのことを好きって思っていることを。
「違うだろ」
千切くんがやっと顔を上げて、いつものふてぶてしい偉そうな表情を浮かべていた。
「成績学年一位と、世界一カッコいい男に訂正して」
「………………うっざ」
私は笑った。
「……私カンニングしてないよ」
「だろうな。でも俺やってない証拠とか出せないから」
「それはいいんだけどさ」
私は精一杯のドヤ顔で宣言する。
「追試やることになったらオール満点取るから待ってて」
「……………」
千切くんがきょとんとしてから、しばらくするとふっと笑みを浮かべた。
「流石俺の彼女。かっこいい」
千切くんが私を信じてくれている。
それだけで、今の私は満足だ。
「オール満点出来るもんならやってみろよ。出来たらよしよししてやる」
千切くんが笑ってくれるだけで、私は最強になれる気がする。
・ ・ ・
カンニング事件は収束した。
追試でオール満点取って、私がまたカンニングするかもしれないということで厳重に監視されている中、自分の実力で全国模試で一位を取ったのだからもうケチのつけようがない。
かくして私は自分の力で名誉を挽回したのである。
「ふざけんな」
図書室の奥で参考書を探していた私に千切くんが言う。
「あの勉強するから近付かないで期間が全国模試のせいで増えたと思ったらまた勉強かよ。デートは?」
「今図書室デートしてる」
「ふざけんな」
何と言われようとも千切くんなんてもう怖くないもんね、とベーっと舌を出す。
「千切くんは今日は何の本読んでるの?『女の子とイチャイチャしたい猿の本能』かな??」
「そんな本ねぇよ。つーか、あんま俺を舐めんな」
ぐい、と腕を引かれて壁に押しつけられた。
「前に言ったよな?1分間で天国にイケるっていうキス試してみないかって」
目が本気である。
「え、は、無理無理無理」
「いや俺が試そうって言ったときお前が勉強に集中したいから無理っつったよな?次は俺に付き合えよ。そろそろ限界」
いいよなんて言ってないのに、千切くんは私の唇を奪う。
「………んん、!!」
身体は壁に押しつけられてるから逃げられない。
舌を入れようとしてくるのやめてほしい。
唇を固く閉じていると、千切くんの空いた手が私の太ももに触れる。
「ふぁっ……!?」
変な声が出たタイミングで舌が入ってくる。
くちゅ、という水音が聞こえる。
何度も角度を変えて、唇が重なる。
1分間長いって。
「………は」
千切くんが離れて息を吐く。
「どうだった?」
唇の端についた涎をぺろりと舐めるところが妙に艶めかしい。
「……私のこと殺す気?」
「ははっ」
千切くんが楽しそうに笑った。
「笑い事じゃないんだけど」
「図書室ではお静かに」
いつか私が言ったことを真似するように千切くんが言う。
「…………馬鹿」
照れて顔が赤くなったとか、絶対認めてやらない。
夕陽のせいだと言いたいけれど、この図書室に窓がないからそういう言い訳も出来ない。
図書室の一番奥に来ているとはいえ、人がいるからあんまり騒ぐのも迷惑だろう。
そう思ったらしい千切くんは、そのまま歩き出そうとして、
「ん?勉強の続きをやるんじゃねぇの?」
その場から動かない私を不思議そうに見た。
「千切くんは待ってる間暇なんじゃないの」
「本読んでるからいいよ別に」
「あのさ、今日の放課後デートなしにしない?」
「断る」
「その代わりさ」
千切くんがいつも頼み事をする時のように、上目遣いで挑発的に煽ってみる。
「今のキス、やり方覚えられなかったからもう一回教えて」
「…………………そういう誘い文句、どこで覚えてくんのお前」
するり、と腕が背中に回される。
「お前マジ最高」
もう一回教えて、って言ったのに、結局わがままお嬢が満足するまでキス漬けにされた。
やっぱり私にとってのスパダリは、スーパーダーリンなんかじゃなくって、スパルタダーリンなんじゃないかなって思う。