「千切くんのことなんて好きじゃない、告白されたから付き合っただけ」と言ってるところを千切くんに聞かれた。
千切のことなんて好きじゃないと言った嘘を本人に聞かれてしまう話。
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Q,千切は彼女のことをどう思っていますか?
A,「世界一可愛いと思ってる」
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「千切くんのことなんて好きじゃない。告白されたから付き合っただけ」
私は嘘をついた。
そして嘘をついた私を、千切くんが教室の入り口の壁にもたれかかって見ていた。
「……今の話、聞いてた?」
「聞いてたけど」
……聞かれてたんだ。
千切くんの目を見るのが怖くて私は俯いてしまう。
「……あの、今の話は」
何を言い訳すればいいのかわからないけど何か言わなくちゃと思っていると、千切くんが私の言葉を遮った。
「いいよ別に。わかってるし」
「……え?」
わかってるって何?『千切くんのことなんて好きじゃない、告白されたから付き合っただけ』って言葉を、本当だと思ってるの?
違う、私は本当に千切くんのことが好き。
「……っ」
でも言えない。
早く誤解を解かないといけないのに。
私は俯いたまま拳をぎゅっと痛いほど握り込む。
千切くんはどうして平気そうなの?
私、千切くんのことを好きじゃないって言ったんだよ?
千切くんは、本当に私のことが好きなの……?
・ ・ ・
「あんた、いつになったら豹馬と別れるの?」
千切くんと付き合って、同じ学校の人からこういうことを聞かれることがよくある。
私のような平凡な人が、千切くんと付き合ってはいけないらしい。
……根掘り葉掘り千切くんのことについて聞かれることにうんざりしていた。
今すぐ別れろって、いつも言われる。
私は本当に千切くんのことが好きだから絶対別れる気なんてない、と言い返す勇気はなくて嘘をついてしまった。
「千切くんのことなんて好きじゃない。告白されたから付き合っただけ」
……そしてその嘘を千切くんに聞かれてしまった。
なのに。
「最近寒くね?」
「……」
「俺の話聞いてる?」
「……えっ、あ、うん、聞いてる聞いてる」
「……」
えーっと。
千切くんがいつも通り、私の話を聞いたことなんてなかったかのように私の隣を歩いている。
放課後、電車に乗って帰る私を駅まで千切くんが送ってくれるのだ。
これはいつものことなんだけど……いいのかな?
「……なんで駅まで送ってくれるの?」
「は?いつも一緒に帰ってるじゃん」
「うん、そうなんだけど……そうじゃないっていうか……」
私達、別れたわけではないのかな?
私が好きじゃないと言ってるところを聞いた上で千切くんはわかっていると言っていたし……。
え?好きじゃなくてもいいから付き合いたいとかそういうこと?
考えることが多くて私が混乱していると、千切くんが突然私の手を握ってきた。
「うみ"ゃあ!」
「何その猫みたいな悲鳴」
変な声を上げた私を見てけらけらと楽しそうに笑いながら、千切くんが指を絡めるように手を握り直してくる。
恋人繋ぎだ。
「うわ、お前の手超冷たい」
「……千切くんは暑がりだからそう感じるんだよ」
「俺さっき寒いって言ったよな?やっぱ話聞いてなかっただろ」
少しだけムッとしたように私の頭を千切くんがぐりぐり撫でてくる。
「ちょっとやめて、髪が崩れるから……っ!」
「はいはい、お前は髪が崩れても可愛いって」
「適当なこと言うのやめて……!」
どうせ千切くんは可愛いとか適当に言っただけだってわかってるのに、私は千切くんに可愛いと言われただけで嬉しくなってしまう。
本当は頭を撫でてもらえることが嬉しい、なんて。
そんなこと、思っていても言えないんだけど。
一生一緒にいたい、と千切くんは告白してくれた。
私は嬉しくて舞い上がって、でも素直になれなくて、
「……まぁ、そこまで言うなら付き合ってあげてもいいけど」
なんて言ってしまった。
でもそんな私を見て千切くんが優しく笑ってくれたその顔を、私はずっと忘れないと思う。
・ ・ ・
「あ、豹馬の彼女だ」
校内を歩いていると知らない先輩も後輩もなぜか私のことを知っていて、そしてみんな私を千切くんの彼女だ、と言う。
「よく豹馬と付き合ってられるよね、釣り合ってないってわからないのかな」
私だって、自分が千切くんと釣り合ってるだなんて思ってない。
千切くんはかっこよくて、頑張れば勉強だってできちゃうし、運動神経抜群だし。
一生懸命朝セットした髪もメイクも全部嫌になって、女子トイレの洗面器で洗い落としてしまう。
鏡に映った私は、全然可愛くなんてない。
「……ブス」
自分の顔に悪態をついてから女子トイレを出てしばらく廊下を歩いていると、職員室から千切くんが出てきて私の元に駆け寄ってきた。
「どうした、びしょ濡れじゃん」
そう言われて、そういえばセットした髪を適当に水で元に戻してメイクを落とした顔も適当にタオルで拭いただけだからびしょ濡れだということに気付く。
「……さっき顔洗ったから」
「お前は顔洗うとき頭から水被ってんの?」
「……」
黙り込んだ私の手を引くと千切くんは空き教室の椅子に私を座らせた。
「あー、今日ゴム持ってきてねぇわ」
と呟いて千切くんはたった今自身が髪を緩く一本に纏めて結んでいたゴムを解いて私の後ろに立つ。
「今日はどんな髪型にしますか、お嬢さん?」
突然美容師ごっこが始まった。
千切くんは本当に気まぐれだから、たまにこうして私の髪を結んでくれようとするときがある。
「……私ブスだから、結んでくれなくていい」
私が立ち上がろうとするより先に千切くんが私の髪を弄り始めた。
「そんじゃ、超絶派手な髪型で」
「……!?絶対やめて……!」
「冗談。でも次ブスとか言ったら怒るから」
怒る、なんて言ってるくせに千切くんはすごく優しい手つきで私の髪に触れる。
「千切くんはさっきなんで職員室から出てきたの?」
「大事な話してた」
「告白?」
「そう、先生に告白されて……って違ぇよ。ハゲの教頭と話してた」
「……ふふ」
千切くんが珍しくノリツッコミしてきたから肩の力が抜けて少しだけ笑ってしまう。
「お前は、」
千切くんが言いかけた言葉を私は遮る。
「笑ってるほうが君は可愛いよ、とか言われたら気持ち悪くて鳥肌止まらないから絶対言うのやめてね」
「言わねぇよそんなこと。つーか誰だそのキャラ」
千切くんは呆れたように言い返してから、言いかけた言葉の続きを話す。
「お前は笑ってなくてもいいよ」
「……え?」
「笑ってるほうが可愛いとかよくわかんねぇわ。だってお前はいつも可愛いし」
「……それは千切くんの目が、どうかしてる」
と言いながら私は手で顔を覆ってしまう。
「(……いつも可愛いって何)」
私、今絶対変な顔してる。
可愛いなんて言わないで。
……嬉しくなるから。
「はい完成」
いつの間にか千切くんは私の髪を結び終えていたらしい。
私はポケットに入れていた手鏡を飛び出して髪型を確認すると、器用に編み込まれた、普段千切くんがよくやる髪型にされていた。
「これ、千切くんヘアーじゃん」
「なんだよ千切くんヘアーって」
ツボったのか千切くんはお腹を抱えて笑い出したけど、笑い事じゃない。
「……こんな髪型してたら、私が千切くんの彼女ですって言いふらしてるようなものじゃん……」
「そうだけど」
「え」
「言いふらせよ、千切豹馬の彼女は超絶可愛いって。だって俺の彼女が可愛いのは当然のことだし」
真面目な顔して何言ってるの、って言い返そうとしてやめた。
私が何に悩んでるとか、千切くんは全てを知ってるわけじゃなさそうだけど、私の悩みを吹き飛ばすのが千切くんは上手だと思う。
「……千切くんのばか」
何を言えばいいのかわからなくてそう呟くと、千切くんはやっぱり笑った。
・ ・ ・
サッカーの強化指定選手に選ばれたから、しばらく千切くんが学校に来なくなる。
そんな噂が学校中で流れ出した。
怪我をしてサッカー部の練習に出なくなった千切くんは、もうこのままサッカーを辞めるのかなって勝手に思ってたけど違ったみたいだ。
……でも問題はそこじゃない。
私が、千切くんになんの相談もされてないことに問題がある。
しばらく学校に来なくなることだって、全部噂で知った。
私は彼女なのに。
千切くんはどうして私に何も言ってくれないの?
「あー……寒い」
今日も放課後千切くんは私を駅まで送ってくれるらしい。
千切くんは寒いと言いながら上着を脱いで私に着せてきた。
「お前寒がりだし、風邪ひくなよ」
なんて言いながら笑っている。
なんでそんなにいつも通りなの。
ねぇ、なんで。
「あのさ……俺、しばらくこうやってお前と一緒に帰れなくなる」
そんなの、知ってるよ。
「……強化指定選手に選ばれたから?」
私が千切くんと目を合わせないように俯いて立ち止まると、千切くんも立ち止まった。
「……なんで知ってんの?」
なんで知ってるのってことは、本当なんだね。
「噂で聞いた。千切くんが、またサッカーするって」
「あー……まぁ、またサッカーするっていうか、サッカー辞めるためのケジメをつけるために行くっていうか」
そんなのどうでもいい。
「千切くんにとって、私って何……?」
「は?」
「私には何も相談してくれないし、千切くんにとって私って都合の良い彼女なの?」
ずっと溜まっていた不満が溢れてしまう。
一度溢れたら、それはもう止められない。
「なんでそうなるんだよ。俺は、」
「触らないで!」
私に向けて伸ばされた手を振り払うと、千切くんの手が行き場をなくしたように虚空を掴んだ。
私は最後まで顔を上げずに言う。
「帰ってこないでいい。もう千切くんなんて、どこかに行っちゃえ」
そう、本当に心の底からそう思ってる。
……でも、本当は。
私、千切くんのことが。
「別れよう」
本当は別れたくなんてないのに、私は嘘ばっかりついてしまう。
千切くんから逃げて私が千切くんを避け続けていたら、千切くんは本当に遠くへ行ってしまった。
きっともう、会うことはないんだろう。
・ ・ ・
千切くんへ。
手紙を書いてみたよ。
サッカーを辞めるためだとしても、千切くんがもう一度サッカーをしようと思ってくれたこと、本当は嬉しかった。
私に相談しなかったことは許してないけど。
あと千切くんが出てる試合、見たよ。
千切くんが走ってるところを見れて嬉しかった。
かっこよかったよ、すごく。
ねぇ千切くん。
帰ってこなくていいよ、本当に。
千切くんなんてどこかに行っちゃえばいい。
走って、どこまでも好きなところに行けばいい。
だって私は千切くんのことなんて好きじゃない。
告白されたから付き合っただけ。
追伸
大体、千切くんっていつも勝手だよね。
一生一緒にいるって約束、守ってくれないし。
すぐに私以外の新しい彼女作ったら呪ってやる。
気まぐれでわがままな私の彼氏、千切豹馬。
大嫌い。
ようやく別れられて清々した!……ばいばい。
・ ・ ・
朝、インターホンが鳴ったから玄関の扉を開けると扉の前に千切くんが立っていた。
「おはよ」
「……」
「……」
「……おーい、寝ぼけてんの?」
千切くんが私に呼びかけてくれるけど、私は返事ができない。
だって千切くんがなんでこんな朝早くに、私の家の前にいるの……?
まさかこれって幻?
それとも千切くんによく似た別人……?
いやでも、こんなにかっこいい人が他にいるわけない。
私がぽかんと口を大きく開けて固まっていると、千切くんが手に持っていた封筒をゆらゆら振って私に見せつけてきた。
それは私が書いた手紙が入っている封筒だ。
「手紙、貰ったから。会いにきた」
「嘘でしょ……」
手紙って。
それはファンレターとして送った手紙。
千切くんはもう人気者になって何万通とファンレターが届くから、手紙を読んでくれる保証なんてどこにもなかった。
なのに千切くんは私の手紙を見つけて、そして手紙を読んで私に会いにきてくれたらしい。
「私、手紙に帰ってこなくていいって書いたじゃん。なんで来たの。帰ってよ」
私が扉を閉めようとすると、千切くんが長い足を扉の隙間に差し込んで閉められなくしてくる。
なんてお行儀が悪いんだろう。
「やだ。帰らない」
千切くんはいつの間にか震えていた私の手を握った。
そして、俯いている私と目線を合わせるためにその場に片膝をついて跪くと、私の手の甲にキスをした。
「うみ"ゃあぁ!」
「ははっ」
変な声を上げた私を見て笑い出した千切くんを睨みつけると、千切くんはふっと表情を和らげる。
「やっと目が合った」
「……な、なんなの、手の甲にき、きき、キスするとか、少女漫画に出てくるキャラでも許されないから」
「俺は許されてるから」
どういう理屈なのよ、と言い返そうとするより先に、千切くんが私に言う。
「お前が手紙に書いたんじゃん。"走って、どこまでも好きなところに行けばいい"って。だから、お前に会いにきた」
「……え」
「俺の行きたいところは、お前のところだよ」
「……」
「一生一緒にいたいって気持ちも変わってない」
嘘だ、と私が言おうと唇を動かしたけど声にならなかった。
私が首をぶんぶん横に振ると、千切くんが眉を寄せて私を見る。
「俺ってそんな信用ない?」
「……だって別れようって私が言ったとき、千切くんは何も言わなかったじゃん」
「お前が何も言わせてくれなかったんじゃん。すぐ逃げるし」
「……で、でも」
いつの間にか私の声も震えていた。
「私が千切くんのことなんて好きじゃない。告白されたから付き合っただけって言ったとき、千切くんは『わかってる』って言ったじゃん。あれは私のことなんてどうでもいいって意味じゃないの……?」
「全然違う」
千切くんが私の両頬をむぎゅっと引っ張って言う。
「わかってるっていうのは、お前が嘘ついてるってわかってるよってこと」
「え」
「だってどう見てもお前は俺のこと好きじゃん。そんなバレバレの嘘つかれても反応に困るんだけど」
「え……」
千切くんの言う『わかってる』って……そういう意味!?
私は全身の力が抜けてその場にしゃがみ込むと、千切くんがぽんと私の頭を撫でた。
「俺達って別れたことになってんの?」
「……そ、そうだよ、別れてる」
「じゃあ俺と付き合って」
「へ」
私が間抜けな声を出して千切くんを見つめ返すと、千切くんの瞳に私が映っていた。
私は寝起きで髪もボサボサで、服もパジャマだということに今さら気付く。
「……ちょっと待って。私、寝起きだからあんまり見ないでくれない?」
「は?そんなの今さらだろ。つーか俺言ったよな?お前はいつも可愛いって」
「……」
「好きだよ」
「………」
「……なんで顎しゃくれさせてんの?」
私が突然変顔をしたら、千切くんが怪訝そうな表情を浮かべて私の頬を突いた。
「今俺めっちゃ真面目な話してんだけど」
「私だって大真面目だよ……!」
そう、私は真剣なのだ。
「……す、好きとか、あんまり……千切くんが言ってくれないから、嬉しくて……変顔しないとニヤけそう……」
今にも緩みそうな頬をなんとかするためにもう一度変顔をし直すと、ぷはっと千切くんが吹き出した。
「……お前可愛すぎんだけど!」
「ぜっ……絶対嘘だ!顎しゃくれてるなんて可愛いわけないでしょ!?」
「いや、超可愛い。好き。大好き」
「〜〜〜〜っ」
可愛いも好きも言われ慣れてないから顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。
変顔する余裕もなくなった私の頬に千切くんの手が触れた。
「で?俺の告白の返事は?」
返事なんてわかってるくせに、わざわざ聞くのは意地悪じゃない?
「千切くんのことなんて好きじゃない。……けど」
「けど?」
「……告白されたから、付き合ってあげる」
私の答えを聞いた千切くんは、眉を下げて呆れたように笑う。
「……お前って本当に素直じゃない。俺じゃなかったら付き合い切れねぇからな」
なんて言いながら、千切くんが私の額にキスをした。
・ ・ ・
千切くんはまたサッカーをするために遠くに行ってしまうらしい。
また離れるのは寂しいけど、もう不安はない。
離れるまでの間少しでも長く一緒にいられるように私の家に泊まりに来た千切くんは、ソファに寝転んで私からもらった手紙を読み返していた。
もう恥ずかしいから捨てて欲しいんだけど。
千切くんの手から手紙を奪い取ってやろう、と隙を狙っている私に千切くんは声をかけてきた。
「あと、ずっと気になってたんだけど」
「……何?」
「この手紙の追伸の部分って、縦読み?」
「……」
「……」
「……なっ……なんのこと?」
「縦で読んだら、だいす……」
「やめて言わないで手紙捨てて!!」
「やだ」
ねぇ、千切くん。
だいすきだよ。