千切豹馬に優しく看病されると、むしろ熱が上がっていく。
体調が悪い同棲中の彼女を、千切豹馬が『優しく』看病する話。
千切豹馬のせいで風邪を引き、千切豹馬の看病のお陰で治る、そんな風邪。
風邪を引いた夢主を看病する千切豹馬、そしてありがたいことに、夜逃げのお話のときの夢主というリクエストをいただいたので、書かせていただきました。
素敵なリクエストありがとうございます!
感想やリクエストいつでもお待ちしております。
https://t.co/EJP0RN6BF5
こちらを読んでリクエストしてくださってみたいなので、今回の話は夜逃げしてしばらく経った頃のこの二人の話です。 ↓
千切豹馬に好きって言ってもらえないから夜逃げする。
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千切くんが傍にいないと私は体調が悪くなるみたい。
もしそう言ったら、千切くんはどんな顔をするのだろうか。
そんなこと本人に言えるわけないんだけど。
頭が痛い。
朝起きてすぐに頭が痛かったから薬を探したのに見つからなくて、私は早々に探すのを諦めた。
私はちゃんと救急箱の中身も把握しているし、ないということは前回薬を使った同棲中の私の彼氏、千切くんが中身を別の場所に置いてしまったらしい。
頭痛薬どこ?って聞いてみてもいいんだけど、生憎千切くんは現在サッカーの試合のために海外に遠征中。
わざわざ連絡してまで薬の場所を聞くのも仕事の邪魔になるし申し訳ない。
病院に行くほど体調が悪いわけでもないし、薬もあとで買いに行けばいいか……と放置して、私はいつも通り家事をやり始めた。
・ ・ ・
『今日家に帰る』
体調が悪くなってから数日が経った頃。
私の携帯に千切くんからそんなメッセージが届いた。
私はそのメッセージになんと返信しようか悩んで、
『今日は帰ってこないで』
とだけ返信した。
あのあと体調は治るどころか悪化して熱まで出てきたから、せっかく仕事が終わって家に帰ってきた千切くんに風邪を移したくないからそう言ったのに、
『なんで?理由は?』
私のメッセージにすぐに返信が来てしまった。
風邪引いたんだよね、と正直に言ったら千切くんは帰ってきてしまう気がする。
なので、とりあえず嘘をつくことにした。
『友達が家に遊びにきてて、家に泊まらせようかなと』
『別に友達いても俺部屋にいるだけだから邪魔しないし』
………うーん、確かにそうなんだよね。
この嘘は失敗した。
『実は私の親が来てて』
っていう嘘は、
『じゃ俺挨拶しなきゃだめじゃね?』
………失敗した。
『前に千切くん何度も親に挨拶してくれたじゃん。もう挨拶しなくても大丈夫だって』
って返信しても、
『ちょうどまた話したいと思ってたし』
なぜかたまたま今日に限って千切くんが折れてくれない。
次はなんて言って千切くんを家に帰ってこなくさせようかと考えていると、千切くんがメッセージをやめて電話を掛けてきた。
でも、私は電話を取れない。
多分声を聞かれたら恐ろしく鋭い千切くんに私が風邪引いてるのバレると思う……思うというか、絶対バレる。
そのまま電話を無視したら、急にメッセージがどんどん届いた。
『なんで電話出ないの』
『なんかやましいことでもあるの』
『つーか親来てるとか絶対嘘だろ』
『おいなんか返信しろよ』
私が返信しないうちに、
『今日絶対家帰るから待ってろ』
そのメッセージを最後に千切くんから何も届かなくなった。
この流れは急いで家に帰ってくるやつだ。
寝てるフリをする……というのも考えたけど、いや絶対バレる。
もし本当に寝れたとして、怒ってる千切くんに起こされて結局バレるというオチ。
単純に風邪を移したくないというのもあるけど、なんで病院行かなかったのとか今そういうことを言われたら耐えられる気がしない。
とりあえず千切くんが帰ってきたときのために夕飯の準備でもするかと疲れた身体に鞭を打ちキッチンで料理を始めるとすぐに玄関の扉が開けられて、
「ただいま」
怒り出す寸前みたいな顔した千切くんが私の元までやってきた。
……いくらなんでも帰ってくるのが早すぎる。
「お、おかえりなさ………」
私がおかえりなさい、と言い終える前に、
「何隠してんの?なんかやましいことでもあんの?」
すぐに問い詰められる。
「いや、あの〜……夕飯をまだ作ってなくて」
「は?さっきのメッセージそういう感じじゃなかっただろ」
私がさりげなくキッチンから逃げ出そうとしたら、
「逃げんなよ」
足で壁ドンされた。
雑なんだよ千切くんは。
普段なら笑っていたかもしれないけど、生憎今は頭が痛い。
「帰ってこないでって言ったじゃん……」
私が思わずそう呟くと、
「ここ俺の家なんだけど?」
正論を返される。
同棲してるとはいえ私が家事担当、大黒柱は千切くんなのだから出ていくべきは私なのかもしれない。
「わかったよ、じゃあ私が出ていくから」
「は?何言ってんのお前」
ぐい、と腕を掴まれたタイミングで、頭がずきりと痛む。
立っていられないほどの痛みに私は思わずしゃがみ込んで、
「薬どこ……」
って無意識のうちに千切くんに聞いていた。
「…………は?薬?」
急に話が変わったから千切くんがぽかんとしている。
「頭痛薬…千切くんがどっかに置いたんじゃないの…?」
「………いや、それは前にお前が場所移動させておくねって言って本棚の上に置いてたじゃん……?」
………頭が痛すぎて、どこにものを置いたのかすら思い出せなくなっていたらしい。
「てか頭痛いならさっさと言えよ。薬持ってくるから……いや待って」
千切くんが私を掴んでいた腕を強く掴み直した。
「お前熱あるじゃん」
「…………ない」
「熱あるだろうがふざけんな」
何故か怒られた。
だから千切くんに帰ってきてほしくなかったのに。
「……もうやだ、千切くんどっか行って……」
「はいはい。体調悪い奴の話なんて俺聞きたくねぇから」
しゃがみ込んでいる私を千切くんが無理矢理抱き上げた。
その振動すら辛くて、あと身体に力が入らないから抵抗することもできなければ千切くんにしがみつくことすらできない。
「とりあえず病院連れてく。保険証どこ」
「ほけんしょう………」
言葉が上手く頭に入ってこない。
ほけんしょう、ほけんしょう……どこに置いたっけ?考えようとすると、ガンガン頭が割れるように痛む。
あまりの痛みに無意識のうちに涙が溢れる。
痛い、寒い、苦しい……そう思いながら、私は意識を手放した。
・ ・ ・
思い返せば、私は誰かに看病された記憶があまりない。
そもそも体調不良になったこともほとんどない。
だけど千切くんと同棲して、その千切くんが海外に行って…やっと一人の時間になったら、一気に疲れがどばーっと溢れ出して……つまりこの体調不良は、全部千切くんのせいだ……。
なんていう少々理不尽なことを考えていたら、目が覚めた。
ぼんやりする視界の中、私は部屋のベッドで寝かされているんだと理解した。
私が起きたとは気付いていない千切くんが私の横に座って本を読んでいる。
………『正しい看病の仕方』という、謎のタイトルの本を読んでいた。
どこで売ってるのそんな本。
私はといえば相変わらず頭は痛いし、身体中が冷えていて寒いのに熱いというか、完全に熱がある人の症状である。
「………あ、起きた」
私が起きるなりすぐに反応した千切くんが私の顔を覗き込みつつ、手に持っていた体温計を私の口に突っ込んだ。
雑なんだよ千切くんは。
そう言い返してやりたかったけど、口で体温計を咥えるしかないので喋れない。
「さっき診察終わって、今家に着いて10分経ってないぐらい。お前さっきめちゃくちゃ意識朦朧としてたけど、病院行ったの覚えてる?」
って体温計を測り終えるまでに千切くんが聞いてくるから私が覚えてない、と首を横に振ると、
「あっそ。残念。お前が俺に歩けない、抱っこして〜、とか注射怖いよ〜とか大泣きしながら言ってきたの覚えてないんだ」
………恐ろしいことを言われた。
冗談だよね?の意を込めて千切くんを見つめると、
「まぁ半分冗談だけど」
って千切くんが笑った。
じゃあ半分本当ってことじゃん。
どこが本当の話だったんだろう、怖くて聞けない。
「とりあえず病院連れていって点滴打ってもらったからしばらくしたら熱下がると思うけど」
という千切くんの話を聞いていると、ぴぴぴ、と体温が測れた音がして私が体温計を手に取って先に見てみると、
『39.1度』………と、表示されている。
………夢かな?寝たい、もう一回寝たい。
「何度?」
って千切くんが聞いてくるのも辛い。
正直に言ったらなんか怒る気がする。
「…………37.1度」
「へぇ。体温計貸せよ」
絶対信じてない。
私が体温計を取られまいと手に握り込んで布団にうつ伏せになると、
「はい没収」
千切くんが私の上に覆い被さって体温計を奪ってくる。
「つーかこんなしょうもない攻防してる場合じゃねぇよ。寝てろよ」
今更千切くんが正論を言ってくるけど、じゃあそもそも千切くんが体温計を奪いにこなければよかったのに。
千切くんが私から奪った体温計を見て、
「………お前さぁ、2度も体温誤魔化して嘘言う奴初めて見たわ。流石に俺そんなの信じるほど馬鹿じゃねぇし」
体温計に表示されている数字を見るなり舌打ちした千切くんを見て、涙が出てきた。
こんなことで普段は絶対泣かないのに、熱のせいで私は完全に弱っている。
「なんで体温計奪うの千切くんの馬鹿ぁ……」
目に涙を溜めて千切くんを睨みつけると、千切くんが目を丸くした。
「重いよぉ……」
とりあえず覆い被さってくる千切くんが重いので辛いと訴えると、
「あーごめん」
千切くんがすんなり私から離れてくれた。
「なんかしてほしいことある?」
千切くんが優しく問いかけてくれるから、
「部屋から出て行って……」
風邪を移したくないから、の意を込めて言ったのに千切くんには伝わらなかったらしい。
「ふざけんな。お前が治るまで傍にいてやる」
何故か千切くんの看病スイッチが入っている。
「なんか食べたいもんある?薬飲ませたいから、その前になんでもいいから胃に入れとけよ」
って言うから、
「…………アイス」
ってリクエストしてみた。
「アイスは無理。今は身体冷やしちゃだめ」
なんでもいいって言ったくせになんでも良くないらしい。
千切くんの馬鹿。
「まーいいや、適当になんか作ってくる」
と立ち上がろうとした千切くんの手を思わず掴んでしまって、
「何?」
きょとん、とした千切くんと目が合った。
無意識のうちに掴んでしまったけど私も別に用事があったわけじゃない。
ただなんとなく、部屋から出ていく千切くんを引き留めたくなっただけ。
自分でもよくわからないこの気持ちに千切くんがニヤニヤしながら言った。
「あ〜俺が部屋から出て行っちゃうの寂しい?」
………完全に馬鹿にされている。
「寂しくない。さっさと出て行って」
「風邪引くとお前って毒舌になるんだ。知らなかった」
「毒舌じゃない、意味わかんない千切くんのアホ」
「はいはい。早く戻ってくるから大人しくしてろよ」
子どもをあやすように頭を撫でられて、その手がひんやりしていて気持ち良い。
「きもちいい……」
思わず千切くんの手に頬を擦り寄せたら、
「可愛いことすんな。俺をムラムラさせまくったら襲うからマジで大人しくしててくれない?」
と言われたので、私は大人しくすることにしました。
・ ・ ・
千切くんが料理作れるなんて初めて知った。
あのあと早々にお粥を作ってきた千切くん。
お粥自体は美味しそうで問題はないのだけど……。
「はい、あーん」
なんとしてでもあーんをしようとしてくる千切くんに問題がある。
「…………無理」
「あーん♡」
「…………無理だって千切くん」
「………早く口開けろよ俺が作ったお粥が食べられないって言うなら話は別だけど」
………あーんが恥ずかしいという感覚が千切くんにはわからないらしい。
ただあーんするだけではなく最初に千切くんがふーふーして冷ましてくれたお粥。
「恥ずかしいから」
仕方なく私が恥ずかしいと正直に伝えてみても、
「ふーん、恋人とあーんするのが恥ずかしいんだ、へぇ」
千切くんが不機嫌になるだけ。
お粥を掬ったスプーンをぐりぐり頬に押し付けられたから仕方なく、
「あ、あーん……」
と、一口いただくも、緊張しすぎて美味しいんだか美味しくないんだか。
でもやっとあーんをしたから機嫌を直してくれたかな?と千切くんの顔を見ると、ばっちり目が合った。
「何?」
と聞きながら、次のあーんをすべく千切くんが新たにスプーンにお粥をセットし始めた。
「…………もうこれやめない?」
「やめない」
「食べるのにいつもの倍疲れるんだよこれ」
「疲れたら早く寝れるし体調治せそうじゃん」
「…………」
話を聞かないな千切くんは。
結局最後の一口まであーんで食べ切った私は、食べ終わった瞬間に疲れ果ててベッドに倒れ込んだ。
「口の横ついてる」
私の口の端についたご飯粒を千切くんが指で取ってから、
「舐める?」
って聞いてくるけど、舐めたら千切くんの指舐めるってことになるし、そんなの恥ずかしすぎて無理。
私が首を横に振ったら、
「あっそ」
千切くんがぺろりと舐め取ってしまった。
私の口の端についていたやつを。
「………??……!??」
私が驚いて何も言えないうちに、千切くんが笑った。
「何今さら。キスしたことあるのに」
「それとこれとは話が別だよ………」
千切くんのせいでまた熱がぶり返したらどうしてくれるんだ、と私は千切くんを睨みつけることしかできない。
・ ・ ・
薬を飲んで、ぼーっとしていたつもりがいつの間にか夜中になっていたから私は寝ていたらしい。
寝たり起きたりを繰り返して、その度に千切くんが手を握っていてくれていたから私は安心できた。
今私は自分の部屋のベッドで横になっていて、その横に座る千切くんが私の手を握っているから、あぁこれは夢かな、と思った。
だってもしこれが現実なら、千切くんは私が寝ている間ずっと手を繋いでいてくれたことになってしまう。
「ねぇ千切くん………?」
夢の中だけど千切くんに呼びかけると、
「ん、どうした?」
優しい顔をして私を見てくれるから、
「千切くん好きー」
と言ってみると、千切くんがピタリと動きを止めた。
しばらくしてから、
「…………あー、うん。俺も」
にっこりと微笑んでくれたから、完全に夢だなこれ。
私から好きだと言って、千切くんがからかってこないわけがない。
そんなことを考えていると千切くんが私の額に自分の額をくっつけて、
「ん、だいぶ熱は下がったな」
って言うから顔が近い。
「…………おい、今熱が上がったんだけど?」
千切くんの顔が近いせいで顔が赤くなったとは気付いていないらしい。
「千切くん、ずーっと私の傍にいてくれた?」
「いたけど、何?傍にいたら邪魔?」
「ううん。むしろ傍にいてくれないの寂しいの」
「へぇ、そうなん……………は?」
また千切くんがフリーズした。
心なしか千切くんの顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。
気のせいだな、だって千切くんが照れたところとか見たことないし。
私が黙っていると、千切くんが口元を手で隠しながら私に問いかけてくる。
「………俺がいないと寂しいの?」
「うん」
「だよな、寂しいとか素直にお前が言うわけ…」
そこまで話して千切くんが一旦言葉を止めて私をまじまじ見つめてくる。
何がそんなに不思議なんだろう、というぐらいには目を見開いて私を見ている。
やがて千切くんが口を開いた。
「………えーっと、俺がいないと寂しいの?」
なんでわざわざもう一回聞いてきたんだろう。
そう思いつつも私は頷く。
「うん」
「………俺のことが好きだから?」
「うん……なんなの?千切くん」
「いや……なんでも、ないけど……」
千切くんが小さな声で呟く。
「…熱があるとめっちゃ素直になるじゃんお前」
「………??私はいつも素直だけど……」
「………ははっ、それはないな」
楽しそうに笑った千切くんが、
「もっと甘えてくれてもいーよ?」
と言うので、私は両手を千切くんに広げる。
「…………ん、何?抱き締めればいいの?」
首を傾げた千切くんがなんだかぼんやりとしていて、さっきから視界がぐにゃぐにゃしているところを見るに、私は熱が下がりきっていないらしい。
だから、
「千切くんちゅーして」
………と言った自分をぶん殴ってやりたい。
そこでやっと意識がはっきりした。
いやいやちゅーって。
私は何歳だ、子どもじゃあるまいし。
………ていうかさ、うん、なんだろう、あの、これ。
夢じゃないかもしれない。
ほっぺをつねってみたら痛いし。
やばい現実だこれ。
「無理、今言ったの冗談だから」
早口でそれだけ言うと布団の奥底に潜る。
夢だと思ってたから、私変なことを口走ってたかもしれない。
思い返したくもない。
恥ずかしくて死ぬ。
「冗談って何」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、千切くんが布団を捲ろうとしてくるから全力で阻止する。
「だから、ちゅーしてほしいとか私が言うわけない」
「いや今お前が言ったんじゃん」
「言ってない!!夢の中の千切くんと会話してたんだもん!!!」
「メルヘンすぎるだろ何言ってんのお前」
「ていうかいつから夢じゃなかったの」
「千切くん好きー、ってところは現実」
「最初から現実ってことじゃん!」
布団から出ないまま、私は呟く。
「これ夢に決まってるのに。だって今日一日千切くんちょいちょい不機嫌だったし、私に優しい千切くんなんて絶対変」
「お前って意外と失礼だよな」
千切くんが布団から私を出すのを諦めたのか元の位置に座り直す気配がして、そのまま話し出す。
「そりゃ普通に不機嫌にもなるだろ。海外に遠征行って、やっと久しぶりに愛しい恋人に会えると思ってたら『帰ってこないで』ってメッセージが送られてくるし」
「…………それは、ごめんなさい」
「で、帰ってみれば体調崩してるから心配したけど、いやそもそもなんで隠してたんだよってムカついたし」
「…………ごめんね」
「別にもう怒ってないけど」
でも、と私は言わせてもらう。
「看病の仕方が雑だし」
「は?あんなに優しく丁寧に看病したのに?」
看病が雑なのはわざとではないらしい。
「あんな看病されたら余計熱が上がるもん」
「あー、そうだ。そういえばさ」
千切くんが私が油断している隙にガバッと布団を一気に捲ってきたので、ばっちり千切くんと目が合う。
「さっき寝てるときも、病院行くときもお前がうなされて、『体調が悪くなったのは全部千切くんのせい』って言ってたんだけど、あれ何?」
…………私の寝言やばいな。
「気のせいじゃない?」
惚けてみても、
「100億回ぐらい言われたから聞き飽きたんだけど」
100億回は冗談にしても、惚けるのには無理があるらしい。
「で、俺のせいって何?」
一度興味を持った千切くんは、答えを聞かなければ満足しない人だということを私は知っている。
「答えたら、寝かせてね?」
そう願いすると千切くんが頷いてくれたので、さっさと話して去ってもらおう。
「…………たら、…………なった」
小さな声で呟くと千切くんは聞こえなかったようで、耳元を私の唇に近づけた。
「ちょっと聞こえなかっ………」
「海外に千切くんが行っちゃって、ちゃんとご飯食べてるかな、とか、家事とか出来てるかな、とかちゃんと眠れてるかな、とか考えてたら体調悪くなった!!」
「え」
「もう寝ても覚めても四六時中千切くんのことばっかり考えてたら体調悪くなった!!以上です!!!」
睨みつけて言ったら、千切くんがしばらく呆然と私を見ていたけど、やがて私の寝ているベッドの隣に倒れるように横になって、
「あはははははははは!!!!」
めちゃくちゃ笑われた。
「え、そんな理由なの?本当にお前俺のこと大好きじゃん」
「大好きなんて言ってない!!」
笑いすぎて苦しそうにしている千切くんが私の方を向くと腕を伸ばして、
「おいで」
私を抱きしめてそのまま腕枕してくれる。
「………帰ってこないで、ってお前が言うからさ」
千切くんが私の耳元で呟く。
「お前が浮気でもしてんじゃねぇかって一瞬疑ってた」
「……千切くんでも不安になることあるんだね」
「お前は俺を何だと思ってんの」
ぎゅ、と抱きしめる手に力を込めた千切くんが笑う。
「今後も結構俺海外に行っちゃうけど、一人でお留守番できる?寂しくない?」
「………馬鹿にしないで」
「馬鹿にしてないし。ていうか、熱があってもなくてももっと俺に甘えてくれない?お前甘えるの下手すぎ」
そう言って千切くんが私の唇にキスしようと……。
「だめ!!!」
自分の口を手で覆うと、千切くんがあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「………何?お前からさっき『ちゅーして千切くん♡』って言ってきたくせに」
「そんな言い方してないし」
怒っている千切くんに言ってやる。
「………風邪が千切くんに移ったら困る」
「俺のため?」
「…………」
今度は私からじーっと千切くんを見つめると、千切くんがにやにやしているからなんかむかつく。
「じゃあ尚更キスした方がいいじゃん。俺のせいで風邪引いたなら、俺に移して治せば?」
ちょっと納得しかけたけどそんなのだめに決まってる。
また顔を近付けてきた千切くんを止めるべく叫ぶ。
「本当にだめだってば!口はだめ!!」
「……………『口は』だめ?」
にぃ、と口角を上げた千切くんが身体を起こすと、私に覆い被さってくる。
「んじゃ、口以外にキスしてやるからよろしく」
「……!!…違、えっと、く、口もだめ!!」
言い直しても、
「もうだめ。言質取ったから」
意地悪な千切くんは話を聞いてくれない。
「口以外の場所にめっちゃキスしてやるから、あとで口にキスしてほしくなっても絶対してやらない」
そう言って、千切くんがまず私の太腿に唇を落とす。
「………んっ」
声が出るのが嫌で口元を手で押さえても、
「だーめ」
外されるし、千切くんの手でもう押さえることは出来ないように固定される。
そのまま抵抗出来ずに口以外の場所にキスされて、
「熱上がりそう………」
と呟けば、
「俺も」
千切くんが楽しそうに笑った。
「もし俺に風邪移ったら、めっちゃ優しく看病しろよ?」
・ ・ ・
まぁ、馬鹿は風邪を引かないと言いますし。
千切くんに風邪が移ることがなかったのは、千切くんが優しく看病して、とか言えちゃうぐらい下心があるからなのだろう。
ちなみに翌日私はすっかり元気になって、千切くんに風邪が移ることもなかった。
千切くんのせいで引いた風邪が、千切くんの看病のおかげで治るというなんとも言い難いこの状況。
「おはよ、体調どう?」
朝リビングに行くとソファに座っている千切くんがそう聞いてくるから、
「元気」
とだけ返す。
「ねー俺のこと好き?」
って聞いてくるから、
「………ふ、普通……」
と言えば、
「マジで元気になったんだな。やっぱり素直なのは熱があるときだけかぁ。あーあ、昨日はあんなに可愛かったのに」
と、なんともイラッとするお言葉をいただいた。
なので、ソファに座る千切くんの唇に私の唇をちゅっと一瞬だけ触れさせてみる。
昨日看病してくれたし、お礼も兼ねて……とか言い訳しないと自分からは到底キスなんてできそうもない。
珍しく私からキスしたのに、千切くんは一言も喋らなくなった。
「……………」
「……………」
「……………朝ご飯を食べませんか」
沈黙が気まず過ぎてそう言うと、千切くんがガバッと立ち上がって私を一気に抱き上げた。
「ねぇ、めちゃくちゃお腹空いてないなら今からベッド戻らない?」
「え」
「お前のこと抱きたい」
「……!?え、でも、あの」
「昨日めちゃくちゃ『優しく』看病してあげたお礼もしてほしいし」
優しく看病してもらった覚えはないし、それにお礼は今のキスがそのつもりだったのに。
「それは今のキスが、」
と言おうとすれば、
「足りねぇし」
千切くんが少しだけ私の首筋に唇を押し付けてから、また私を見た。
至近距離で見つめられると、私は何も考えられなくなってしまう。
瞳に吸い寄せられたまま、
「…………私、は」
私が次の言葉を紡ごうとしたとき、ぐおおおお、とお腹の虫が鳴った。
………私の。
「ぷはっ」
小さな吹き出した千切くんが、
「やっぱり朝ご飯食べてからご褒美貰うわ」
と言って抱き上げた私を下ろそうとするから、私は千切くんの首にぎゅっとしがみつく。
「いや首にしがみつかれたら首締まって死ぬ……」
と言いかけている千切くんの耳元で、千切くんにだけ聞こえるように私は囁く。
「………ご飯、後回しじゃだめですか」
「なんで敬語」
楽しそうに笑っている千切くんをまっすぐに見つめると、千切くんも見つめ返してくれた。
「………千切くん」
「ん?」
「………ご褒美を、あげたい………です」
「…………お腹空いてるんじゃねぇの?」
そこは指摘しないでもらいたい。
確かにお腹は空いているけど、でも。
「今すぐ千切くんが欲しい」
そう言うと、千切くんがほんの少しだけ顔を赤くして呟く。
「もしかして俺今甘えられてる?」
「…………うん、だめかな」
「いやそうじゃなくて」
千切くんが私の頬に軽く口付けた。
「超可愛い。今から死ぬほど甘やかしてやるから覚悟しとけよ」
「…………」
「あ、顔赤いけど熱あるんじゃね?」
恥ずかしくて黙り込んだ私にわざわざそんなことを聞いてくる千切くんは本当に意地悪だなぁ、と思う。
「千切くんのせいで熱が上がった!」
と頬を膨らませて言えば、
「今からもっと熱上げちゃうけどいい?」
私が断るわけないとわかって聞いてくるの、本当に全然千切くんは優しくないと思う。
でもこんな風に甘やかしてくれるなら、たまには私から甘えてみるのも悪くないかもしれない。