「来年の分も死んでいる」カキの大量死で悲鳴、救うカギは「海底」にあった? コントロールできない天候に知力とデータで立ち向かう若者たち

中身がなく口を開けたカキ=2025年11月18日、広島県呉市音戸

 広島県の名産、カキ。水揚げのピークである11月中旬、カキ産地の港は例年、殻から小さなピッケルのような道具を使って身をはずす「カンカン」という音や、採れたカキがいっぱいに詰まったコンテナを引き上げるクレーンの音でにぎやかになる。

 だが、2025年は違った。広島を中心に瀬戸内海で養殖カキの大量死が広がったからだ。しんと静まりかえる港。「来年の分も死んでいる。どうすればいいのか」と養殖業者からは悲鳴が上がった。

 打撃は大きく、2026年秋以降の安定した水揚げに向けた対応策が求められている。課題解決につながる研究として期待されているのが、低温で栄養豊富な「海底」に着目した広島大・小池一彦教授(水産学)の取り組みだ。(共同通信=斉藤祥乃)

 ▽異変

 昨年11月中旬、呉市のカキ養殖業者、名原大輔さんの養殖いかだを見せてもらった。港から船で十数分、「音戸の瀬戸」近くにあるいかだに到着した。名原さんが約10メートルのワイヤに連なったカキを水中からクレーンで引き上げると、姿を現したのは口を開いて中身がなくなった大量のカキ殻だった。かろうじて生き残ったカキも茶色で水っぽいなど身入りが悪く、商品にするのは難しいという。

 呉市や東広島市は海水がきれいなため、検査の厳しいEU向けの輸出ができる県内でも数少ない海域に指定されている。塩分濃度も高く、濃厚な味わいのカキがとれる。一方で海水中の栄養が少ないためカキが大きく育つのに時間がかかり、結果として、例年も他の地域と比べて死んでしまう割合が高い。広島県水産海洋技術センターなどによると、原因は長時間続いた高水温と高塩分やえさ不足だという。背景には夏の異常な暑さや雨不足があるとみられ、業者は「天候はコントロールできない。対策が難しい」と頭を抱える。

 ▽海底を耕す?

 広島のカキ養殖はこれまでにも危機に陥ったことがある。魚の養殖に稚魚が必要なのと同様に、カキ養殖でもホタテなどの貝殻に「カキ種」を付着させ採苗することから始まる。このカキ種の主要採苗地、広島湾ではカキ種が2017年に大不漁となった。広島市から相談を受けた広島大の小池教授が対応策として提言したのが「海底耕運」。栄養分の多い海底の海水と泥を、網や大きなすきのような道具で海面付近まで巻き上げるというものだ。2021年に小池教授らが広島湾で実験したところ、カキなどのえさとなるクロロフィルの増加が確認された。県が呉市で行った検証事業でも貝類などの生物が増加したという。この海底耕運を応用して小池教授が開発した装置が「SPALOW」(Solar Powered AirーLift for Ocean Water)。低温かつ栄養豊富な海底の水を養殖のいかだ付近までポンプでくみ上げる機械だ。エアコンの室外機ほどの大きさで上部にソーラーパネルを備えており、いかだの上に設置して使う。

 東広島市三津湾で2024年から行っている実証実験では、装置を設置していないいかだと比較して平均水温は約0.7度低く、カキの餌となるプランクトン量も高水準で安定、むき身の重量は約1.5倍となるなどの成果が出ている。小池教授のこの取り組みは、市が学術研究と社会課題をマッチングさせ、解決を目指す「コモンプロジェクト」の一環として行われている。市は研究費の提供や協力者紹介などを行う。

 ▽スマート水産業へ

 カキ養殖にも今、データが欠かせない。小池教授のゼミ生、広島大大学院博士課程2年で、「マルムラ美野水産」の後継者でもある美野森也さん(27)は「これからはデータに基づいた効率的な養殖に取り組む必要がある」と重要性を語る。

 小池教授や美野さんによると、カキは水温が25℃を超えるととたんに弱り出す。また、カキが弱る原因となる産卵も高水温を感知することで行われる。フグやエイなどによる食害は15℃以下になると格段に減るという。何をするにも水温管理は重要なのだ。

 データ測定には最新の機械を導入している。研究室の学生が水中に沈めた白い筒状の測定器を、スマートフォンを確認しながら引き上げていく。スマホには水温、塩分や酸素濃度、餌の量など7項目を水深ごとに測定した結果がリアルタイムで送信されていた。カキ生産量の安定のため広島県が推進する「スマート水産業」の理想型の一つとも言える姿だ。「手軽にデータが見られるようになれば、もっと気軽に若い人も参入できるようになると思う」と美野さんは期待を寄せる。

 小池教授の研究室の学生らは、2023年から蓄積している海水のデータを活用し、カキの身入りを予測するシステムも開発中だという。

 ▽壁越え地元の力になりたい

 小池教授によると、SPALOWはまだ8台しかなく、広範囲で使用できるようになるには機械の製造コストが課題だ。機械の維持や管理体制整備など、ほかにも実用化に向けクリアすべき壁はあるが「学術研究はなかなか現場に還元されない。困っている地元の力になれたらと思います」。

 東広島市農林水産課農水産振興係の平木悠一郎主任主事は「市としても学術的な知見を取り入れることで原因究明や対策がしやすくなる。市のネットワークを研究に提供できるので、双方にメリットがある」と期待を示している。

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