中国人比率が高い埼玉県蕨市の駅前(PHOTO:PIXTA)

在日中国人の増加に伴い、その経済圏も拡大している。

前回の記事では東京23区内でとくに中国人が増加している地区などを紹介したが、出入国在留管理庁の統計を見ると、全国の地方自治体や市町村でも中国人の人口は増加している。

東京都を中心に、まるで円を描くように郊外へとその輪が拡大しているのだ。その中国人たちに話をきくと、日本でありながら中国人だけで完結する経済ネットワークが構築されつつある、という事実が浮かび上がってきた。

今回は、日本に住む中国人への取材を通して、日本人の目には分かりにくい場所でじわじわ広がる中国人経済圏の実態に迫った。

全国の「中国人が多い町」

出入国在留管理庁の統計(24年6月末)によると、中国人が多い市町村(横浜市など政令指定都市を除く)の上位は以下の表の通りだ。

中国人が多い市町村トップ5(政令指定都市を除く。出入国在留管理庁の統計(24年6月末)をもとに作成)

一方、「中国人比率」が高い市町村の上位を見ると、以下の表の通りとなっている。

中国人比率が高い市町村トップ5(政令指定都市を除く。出入国在留管理庁の統計(24年6月末)をもとに作成)

これらを見ると、東京都以外では千葉県と埼玉県でとくに多いことがわかる。メディアでよく報道される埼玉県川口市以外にも、目立たないが、小さなチャイナタウンがあちこちにできているということだ。

川口市の場合は、中国人が住民の約半数を占めることで有名な芝園団地があったり、JR西川口駅付近に中華料理店が集積したりしていることから、見た目に「中国人が多い町」だとわかりやすい。

だが、そうしたもの(集積)がなくても、実はじわじわと各地の中国人の人口は増えており、彼らだけで構築する経済圏もできあがっている。

中国人比率1位の蕨市は「隠れ川口市」

東京・池袋駅からJR埼京線と京浜東北線を乗り継いで、わずか20分強で蕨駅に到着する。ここは、前述した芝園団地の最寄り駅で、少し歩くと川口市に入るが、芝園団地とは反対側の方向に進むと蕨市になる。

蕨駅前は、西川口などと比べると中国語の看板や中華風の装飾を施した店は少なく、ごく一般的な駅前にも見える。

そんな蕨駅から徒歩10分ほどの地区の一軒家に住む、中国人女性のAさん。以前は芝園団地に住んでいたが、夫と2人でお金を貯め、蕨市内に住宅を購入した。

「最初は芝園団地に住んで、数年後に蕨市内に一軒家やマンションを購入し、芝園団地を出ていくというパターンの中国人は、私が知るかぎりかなりいます」(Aさん)

蕨駅が蕨市と川口市の2つの市町村にまたがっていることはあまり意識していないそうだが、蕨駅の近くにスーパーや病院があり、少し歩けば芝園団地や中国人経営の中華料理店もあるため、このエリアを選んだとAさんは言う。

「芝園団地にいたときの住民のSNSグループにもまだ入っているので、物々交換とか、食品の直接販売なども行っています。つまり、蕨に住んでいるものの経済圏は川口というか、芝園団地が拡大化している、という感じです」

Aさんの家には小さいものの庭もあり、バラや藤などを育てているという。都心にある勤務先までは電車で1時間かからない立地で、交通の便もよく自然もあるため、気に入っていると語った。

蕨駅前の商店街(PHOTO:PIXTA)

蕨市の人口は約7万6000人(25年4月)。そのうち中国人は5834人(24年6月末、出入国在留管理庁)で、中国人比率は7.7%と2位の北海道占冠村(5%)を引き離している。市の人口の割に中国人が多いからだ。

川口駅から徒歩数分の場所にある、中国人の小中学生向けの日本語学習塾に通っていた中学生に以前取材したのだが、自宅は蕨市にあると話していた。

その中学生の父親は川口市の飲食店でコックをしており、顧客のほとんどは在日中国人だという。

そうしたことから、学校や職場は川口市にあるが、住居は隣り合わせの蕨市という中国人も多いということがわかる。つまり、蕨市は「隠れ川口市」ということだ。

在日中国人だけでマーケットを構築

蕨市のほかに中国人が多い都市は、先述の2位の千葉県船橋市、3位の千葉県松戸市、4位の市川市だ。

千葉県の県庁所在地は千葉市で人口98万5000人(25年4月)だが、第2の都市は船橋市だ。市のホームページによると、人口は約65万人(25年4月)で、全国1741市町村と特別区(東京23区)の中で26番目に多く、政令指定都市と特別区を除くと最も人口が多い都市だ。

中国人の人口は8192人で比率は1.3%と少ないが、地元に住む中国人は「京成船橋駅から京成本線で成田空港まで1時間で行けるので、中国に帰るのに便利なのが船橋」と話す。

「千葉に住んでいる中国人の多くは、来日したときに千葉県内の日本語学校に通い、居心地のよさや都心へのアクセスのよさから、そのまま住み着いた人が多いのではないでしょうか」(千葉に住む中国人)

船橋市(PHOTO:PIXTA)

千葉県国際交流センターのホームページによると、県内に日本語学校は48校あり、千葉市のほか、船橋市、松戸市、市川市に多い。

船橋市に住む中国人男性のBさんは、自動車修理関係の仕事に従事しており、顧客の多くは地元に住む中国人だという。

中国のSNS(ウィーチャット)で宣伝したところ、あっという間に近隣の町に住む中国人から問い合わせがきたと語る。

「修理に関して、日本語では細かい説明ができないので困っていたところ、うちを見つけたそうです。いまは日本のディーラーで働く中国人も多いので、そことのつながりもあり、同じ中国人同士ということで、うちを紹介してくれることもあります」(Bさん)

筆者の以前の著書でも紹介しているのだが、在日中国人の中で近年増えている職業のひとつが、この自動車修理業だ。ほかに中古車販売、不動産、建築・リフォーム、内装、飲食、美容整形、ネット通販などが多いと言われている。

在日中国人のマーケットが、市町村レベルでも大きくなっているので、日本語があまりできなくても顧客を獲得できる。

彼ら自身はそれを意識しているわけではないが、結果的に、日本にいながらにして中国人の経済圏、経済ネットワークを構築できるからだ。

PHOTO:PIXTA

以前取材した建築リフォーム会社の場合、資材の調達、顧客対応、内装工事のすべてを手掛けるのが中国人で、取引先の7割が中国人だと話していた。

昨今は一般住宅の内装を行うだけでなく、移住してきた富裕層が購入した民泊用の不動産の内装を受注することもあり、仕事が増えているという話だった。

一棟買いをする富裕層もいるので、それを受注すれば、かなり大きなビジネスになる。

広がり続ける中国人の経済圏

また違った形の経済圏もある。市川市に住むCさんは、以前は23区に住み、日本企業に勤めていたが、数年前に独立してビジネスを始めたのをきっかけに市川市に移り住んだ。

一軒家を建てたいという希望があり、妻と相談して、子育ての環境がよく23区よりも地価が高くない市川市を選んだという。

自宅の一部を事務所としており、通勤の必要はないが、折に触れて周辺に中国人が多いことを実感するという。

私立小学校受験のために子どもがJR市川駅の近くの塾に入ったのだが、1クラス8人しかいない中で、その子どもを含めて2人が中国人だったそうだ。

その塾は日本人が経営しているというが、「親が日本語ペラペラならば、私立小受験を視野に入れることも多いので、こういうケースは増えると思います」とCさん。

つまり、経営者は日本人でも、顧客は中国人ばかりになってしまう、というケースだ。

「ちなみに妻は地元の中国人ママのSNSグループに入っています。市川と同じJR総武線沿線の本八幡、小岩、新小岩、平井、亀戸などに住む中国人同士でつながっているようです」(Cさん)

PHOTO:PIXTA

SNSで保護者同士の教育グループを作り、そこで学校や学習塾の評判などを情報交換するケースは各地に見られる。

以前取材した別の男性も同じ市川市在住だったが、最寄り駅は東京メトロ東西線の行徳で、その付近に住む中国人同士の教育グループに入っていると話していた。

また、この男性は行徳、妙典、南行徳の3駅に住む中国人限定の食品売買グループにも入っており、そこで紹介された中国野菜や鴨肉、アヒルなど、中国人が欲しい食品を購入していると話していた。

こうした現象は、中華料理店や団地とは異なり、日本人の目にわかりにくい。

だが、人口増加の郊外への広がりと比例するように、目に見えない経済圏も広がっていることを裏付けているといえるのではないだろうか。

中島恵