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蘇枋隼飛と成り行きで付き合うことになった話/Novel by 嘉月

蘇枋隼飛と成り行きで付き合うことになった話

10,231 character(s)20 mins

成り行きで蘇枋隼飛と付き合うことになった子が、何とかして円満に別れてもらうことを目標にする話。

○原作とは少し違うふわっとした世界線の話だと思ってお読み下さい。
○ネタバレと捏造を含みます
○誤字脱字や辻褄の合わない点はそっとお知らせ下さい
○夢小説や二次創作に理解のある方のみお読み下さい

一番最初は桜くんのケンカシーンをアニメで見て、ドボン。
次にOP映像でドボン。
次にアプリの無料公開で3巻くらいまで読んで蘇枋くんにドボン。
後々サイレントで訂正する可能性ありです。

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花の女子高生、3人集まれば恋バナの始まり。
そんな適当な格言を生み出す程には定番と化してきたこの話題。申し訳ないが私は微塵も興味がなくて、いつも適当に話を合わせていた。
好きな人、高校一年生にもなって未だに出来たことがない。なんか、そういうのに時間を割くより別のことをしている方が有意義だと思ってしまうのだ。

だから友達からこの手の話題を振られた時は、最近有名な俳優さんとか、マンガのキャラクターとかを挙げてたんだけど。
今日の私は少しぼんやりしてて、我ながらガッツリ失言したなって自覚があるくらいには口を滑らせた。

「好きな人ねぇ……、この前見たボウフウリンの、あれ、タッセルピアスしてた人はカッコよかったね。身のこなしが軽やかだった」

そんなシンプルな感想を、本当に何も考えずに言っただけなのに。

滅多に身近にいる人のことを話題に出さない私が、それなりに頑張れば手が届きそうな人の名前を出したことに友達は目を輝かせる。
あ、不味い。そう思った時にはもう手遅れで。何故か光の速さでクラス中に私の好きな人がボウフウリンのピアスの人だって広まる。

女子高生とはなんと恐ろしい生き物か。友人の恋バナという燃料を注がれた暴走列車達は、湾曲された事実を訂正する隙も与えずに、次のステップへと私を押し上げる。
その人に今日の放課後にでも会いに行こう、そう息巻く友達を何とか宥めていれば、教室に聞き馴染みのあるメロディが流れ始めた。いつもは嫌いな授業の始まりを告げるチャイムに救われた私は、隠れて大きなため息をつく。
助かった、あとは放課後にそれとなく別の話題でみんなの気を逸らして逃げ切ろう。うん、それがいい。


そう、思っていたというのに。


「あの、ボウフウリンの人ですよね……」

何故か私はタッセルピアスの人を、わざわざ、自分から声をかけて引き止めていた。
一体全体、どうしてこんなことになったのかというと、遡ること約15分前。


襲いかかる眠気と戦いながら午後の授業を乗り切り、待ちに待った放課後。友達二人の気を逸らす為、街の境目付近にあるクレープを食べに行こうと誘ったまでは良かった。
二人も乗り気で、昼休みの恋バナの事なんて微塵も頭になかったというのに、運悪く私達はその道中で変な奴らに絡まれたのである。

いやもう、何で今日?この街で見付ける方が珍しいナンパ野郎に若干の殺意が芽生えた私の感情が態度に滲み出てしまったのか、ナンパして来た男の一人に腕を掴まれた。
そしてその手にギュッと力を込められ、日常生活で感じることのない強い痛みに顔を歪めたその時。

「何してるの?……その子、嫌がってるよね」

険悪だった空気を切り裂くように、割り込んできたその声に、私は助かったと思うと同時に逃げ出したくなった。
震える手で私の背中にしがみつく友達二人の何処と無く嬉しそうな雰囲気を感じ取り、嫌な予感が頭を過ぎる。そして顔を動かした先にいた人物に、最終的には泣きそうになった。

そこにいたのは今話題のタッセルピアスの人で、しかも一人じゃなくて、合計で三人いる。

これは最悪の展開である、どう頑張っても回避出来ない。助かったのに、助かった気がしない。ナンパよりも恐ろしい展開が来るなんて聞いてないよバカ。

そんな現実逃避をしていれば、本当にあっという間に私の腕を掴んでいたナンパ野郎は宙を舞っていて、私は刻一刻と迫る死刑執行の時に怯えるしかなかった。
強く掴まれ過ぎて痛む腕を摩りながら何とか気配を消していたのに、友達二人にせっつかれ、グイグイと前に押し出され、本当に、本当に仕方なく、去り行く背中に声を掛けたのだ。

「助けてくれてありがとうございました……」
「どういたしまして、怪我はない?」
「お陰様で……」
「それはよかった、じゃあこのあとも気を付けてね」
「あー……、あの、」
「ん?」

痛い痛い、分かってるからそんなに強く叩かないで。もう殆ど殴ってるのと変わらない力の強さでバンバンと私の背中と肩を叩く友達二人の圧に負け、心の底から嫌だが少女マンガとかでお決まりのセリフを口にした。

「あの、貴方のことを、前からカッコイイなぁって思ってたんです、もし良かったら連絡先とか教えてもらえませんか……」

ごめん、流石に告白は出来なかった。
好きでもないのに付き合って欲しいとか口が裂けても言えない。後ろからきゃあきゃあと黄色い声が聞こえるし、ボウフウリンの人達からも驚きの声が上がっていた。
でも私はそんなこと気にしてる余裕がなくて、視線を斜め下に向けながら気まずい沈黙を破るように「いや、あの、ごめんなさい、忘れて下さい」と早口で言えば。

「……いいよ、というかお付き合いしよっか」
「へ?」
「オレのことカッコイイって思ってくれてたんだよね?なら付き合おうよ、オレも君のこと気になってるし」
「いや、いやいやいや」
「スマホ出して、連絡先交換しようよ」

予想の斜め上どころか、想像していた答えと真反対の言葉が返ってきて脳が処理落ちした。呆然とするしかなくて、その場で上手く返事が出来ず。これが借金の取り立てとかだったら確実に多額の負債を背負わされてる。誰か弁護士に連絡してくれ。

心の中で必死に助けを求めていたというのに、時間は待ってくれなくて。混乱する私を置いて、いつの間にか周囲の人達によって私のスマホには新しい連絡先が増えていた。
ふーん、この人、蘇枋って書いてスオウって読むのか。初めて知ったなぁ、……って違う。そんなことが知りたかったのでは無い、むしろ一生知りたくなかった。

「後で連絡するね」
「あ、はい……」

それなのに、サラッとそんなことを言って、今度こそ立ち去って行った蘇枋さんは、左右にいた白黒ツートンカラーの子と金髪の子にやいやいと絡まれている。
かく言う私も友達二人の甲高い悲鳴に鼓膜が破られそうになっているので、もしかしたら似た者同士なのがしれない。

てか待って、半分くらい理解出来なかったけど、さっきお付き合いって言った?誰と誰が?え、meとyou?は?嘘だろ勘弁してくれよ。

「……ははっ、終わったな」

さよなら私の平穏な高校生活。強く生きろよ、未来の自分。数時間後も生きてたらな。
左右から激しく揺さ振られる私は、その場で見上げた空のあまりの綺麗さに、何故かとても泣きたくなった。





マナーモードに設定しているスマホが、メッセージの受信を知らせる。暗かった画面に浮かび上がった送り主を見て、もう何度目か分からないため息をついた。

「蘇枋くんってマメな人だな……」

メッセージの送り主は、つい先日連絡先を交換したばかりの蘇枋くんで。
スマホにダウンロードされたアプリの中で交わされているのは、中身のない適当な会話なのに、蘇枋くんはその全てにちゃんと返事をくれるのだ。それにそっけない返事をすると、何だかこっちの方が申し訳なくなってくる。だから私は出来るだけ言葉を選んで、早めに返事をするようしていた。

「えっと、明日は、通常授業だから、16時には終わるよ、っと」

何気なく始まったやり取りの中で、今所属してる部活とかバイト先の話をすれば、蘇枋くんは風鈴高校と全然違うねって興味津々そうな感じで。
それがちょっとだけ私に優越感を与えたので、蘇枋くんには普通の、まぁ女子校だから普通とは少し違うけど、比較的一般的な高校の話しをするようにしてる。
本心はきっとどうでもいい、退屈な話だろうけど、蘇枋くんは何でも初めて聞いたって反応を返してくれるから、人の話を聞くのが上手なんだと思う。詐欺師とか向いてそう。

「明日も早いから、おやすみ、っと」

もう毎日の恒例となったおやすみの挨拶も、彼はきっちり22時にくれる。
蘇枋くんは私が22時半には寝て、6時に起きることを知ってるから。そういうところ、本当に出来た人だなぁって思う。
見た目は完全に不良なのに、やっぱり風鈴高校の人達はよく分からない。

「まぁ、そんな人に成り行きとはいえ告白した私も変人か」

中学生の頃からお世話になっているイスの背凭れに背中を預け、天井をぼけーっと見上げていれば、スマホがポコンッとメッセージの受信を知らせる。見れば可愛らしいスタンプが送られて来ていたので、私から切り上げたトーク画面を消して、枕元の充電コードにスマホを差し込む。
途中までやってた課題は明日提出じゃないから取り敢えず片付けて、授業の用意と忘れ物がないかカバンの中身を確認してから私はベッドに潜り込んだ。

時刻は22時15分、いつもより少し早いけど今日はもう寝よう。
蘇枋くんは何時に寝るんだろう、もしかしたら寝てないのかもしれない。
偏見だけど、不良の人達って夜更かしするイメージがあるからさ。明日連絡が来たら聞いてみようかな。そんなことを思っていた私は、数分後には無事に布団の中で寝落ちしていた。



起床時刻午前6時、洗顔をして、軽くベースメイクだけして、着替えて、ご飯を食べて家を出る。
いつもと変わらない授業を受けて、お弁当を食べて、また眠い授業を乗り越えて、いざ迎えた放課後。
友達二人と靴を履き替えながら、せっかくフリーの放課後なんだから喫茶店でパフェでも食べよ〜とか言ってたのに。

「やっぱり出来たてが一番美味しいね」

一体全体どうして私は蘇枋くんと商店街のコロッケを食べているのだろう。


友達と一緒に歩いていた時までは良かった。
問題はその後である。

大して広くもない学校の玄関ロビーを抜けてグラウンドを歩いていると、私の目に酷く珍しい光景が飛び込んできた。その光景というのは、学校の正門に人集りが出来ているというもので。特に行事があるとか、そういうことを聞いていなかったので気にせず、心做しか騒がしい正門に近付いた時。

「お疲れ様」

目の前に踊り出て来たのは、長めのタッセルピアスと眼帯がトレードマークの蘇枋くんだった。
突然の登場に、驚き過ぎて思わず後ずさった私に「面白い反応するね」って笑う蘇枋くんは、体の後ろで手を組んでいる。

え、何、もしかしてこれからどっか連れて行かれる感じ?お願いだから命だけは助けて欲しい。
そんなことを思っていれば、いつの間にか手を伸ばせば触れられる位置に蘇枋くんが立っていて。彼は相変わらず人の良さそうな笑みで私にこう言った。

「デートしようよ」
「……はい?」
「今日は商店街のお肉屋さんで数量限定のコロッケが売られてるんだ、一緒に行こう」
「コロッケ……」
「うん」

いやごめん、どっからそんな話が出たんだ。まずはその経緯から説明してもらってもいいだろうか。
記憶が正しければ、私はこれから友達と喫茶店でパフェを食べるはずだった。そう思って友達を見れば、二人は何故かもの凄くいい笑顔で私の背中を押し始める。ちょ、ちょっと待って!「どうぞどうぞ」じゃない!私の意思を聞いて!

「友達もこう言ってることだし、早く行かないと売り切れちゃうよ?」
「え、あ、ちょ」
「じゃあちょっと借りていくね」

やけに爽やかな態度で私の友達にそう言った蘇枋くんは、とても自然に片手をこちらへ差し出して「はい、手貸して」と言う。
その言葉の意味がよく分からなくて、カバンを持ったまま首を傾げれば、蘇枋くんは笑いながら「手を繋ごうって意味だよ」って私の手を握った。
あわわわわ、早い、展開があまりにも早い。こういうのは付き合ってる男女が、……ってそうか、私と蘇枋くんは付き合ってるのか。
周りにせっつかれて成り行きで付き合ったから、うっかりすっかり忘れてた。

「オレも好意でもらって初めて美味しさに気付いたんだけど」
「はぁ……、そうなんですか……」

学校からずっと、私の手を引きながら遅くもなく早くもないスピードで歩く蘇枋くんは、スマホでのやり取りと同じような何気ない話を続ける。
それに適当な返事しか出来ない私を責めるわけでもなく、ただひたすらにゆるっとした話をする蘇枋くんは、何度も私の手を握り直した。
手が離れることはないけど、指が何度も私の手の甲を軽く叩く。
その仕草の真意を考えていれば、いつの間にか目的のお肉屋さんに着いたみたいで、蘇枋くんは店員のおじさんにコロッケを二つ注文していた。

「おじさん、コロッケ2つお願いします」
「蘇枋くんじゃないか!いつもありがとね!……おっ、もしかしてお隣の子は彼女かい?」
「そうなんです」
「へぇ〜!嬢ちゃん、蘇枋くんと付き合えるなんて幸せ者だね!」
「あ、あはは……、そうですね……」
「いやいや、幸せなのはオレの方ですよ」
「そうかい!」

いかにも昭和生まれ、と悪気無く呼べる人情味のあるお肉屋のおじさんは、商店街中に響き渡るような大声で私のことを蘇枋くんの彼女だって話すから、一瞬にしてその事実が周囲に知れ渡る。
しかも蘇枋くんがお手本みたいな素晴らしい答えを返すから、生暖かい視線が私に突き刺さった。あ〜、居た堪れない。

「はいよ、コロッケ2つ!」
「ありがとうございます」
「あ、蘇枋くん、お金」
「いいよ、今日はオレの奢り」
「でも」
「次は奢ってくれると嬉しいな、はいどうぞ」
「ありがとう、ございます……」

次って言った、この人次って言ったぞ。まさかこのデートとかいう名の逢い引きはまだ続くのか?
いかん、早くこの関係を解消してもらわなければ。蘇枋くんにも私にも不利益しかない。

お金を払う為に離された手で、蘇枋くんからコロッケを受け取れば、熱々のそれからは揚げたてのいい匂いがした。
……放課後の買い食い、なんて素晴らしいんだろう。

ついさっきまで不安なことでいっぱいだった脳内は、コロッケの誘惑と空腹に一瞬で塗り替えられて。両手で掴んだそれをじぃっと見つめていると、蘇枋くんが「あっちに座ろうか」と公園の方を指さした。
だから二人でそっちに移動して、公園の中にあった遊具に並んで座る。
そしたら蘇枋くんが「さ、出来たてをどうぞ」って言うから、私は遠慮なく美味しそうなコロッケに齧り付いた。

「……あつッ、うん、でも美味しい」
「それは良かった」
 
言われた通り、出来たてで熱々のコロッケはめちゃくちゃに美味しくて。今までスーパーとかで買ってたコロッケとは比較出来ないくらいの美味しさだった。概念が覆されるとはまさにこの事。

あまりの美味しさに、つい夢中になってコロッケを食べ進めていた私は、途中でハッと蘇枋くんを放置していることを思い出して声を掛けた。

「蘇枋くん、あ、蘇枋さんは」
「君付けでいいよ、むしろ名前を呼び捨てでもいいくらいなのに」
「それはちょっと、ハードルが高いと言うかなんと言うか」

同じ大きさのコロッケを食べていたはずなのに、蘇枋くんはもうとっくに食べ終わっている。男の子って食べるのが早い、口が大きいからかなぁ。

ずっと勝手に蘇枋くんって呼んでたから、無意識に口から出た君付けに彼は怒らなかった。
むしろ名前呼びでもいいよって言ってくれたんだけど、流石に恐れ多すぎて呼べない。蘇枋くんのファンに殺されそう。
いやもう既に殺される要因が多すぎて、おちおち街を歩けないじゃないか。夜道には気を付けなきゃ……。

「ここのコロッケも美味しいけど、ニ件隣のケーキ屋さんのシュークリームも美味しいよ」
「シュークリーム……!」
「あはは!……シュークリーム好きなんだ、分かりやすいね」
「うえっ、お、お恥ずかしながら……」
「可愛くていいと思うよ」

サラッと可愛いと言ってくる蘇枋くんは、非常に長い御御足を優雅に組みながら私の顔を覗き込んできた。控えめに言っても心臓が飛び出しそうなのでやめていただきたい。
でもそんなこと言える訳もなく、結構蘇枋くんは私がコロッケを食べ終わるまでずっと私の顔を見ながら笑っていたのだ。



高校生になったらすぐにバイトをしようと決めていたから、スマホで商店街とかその周辺での求人を探していた。
騒がしい飲食店でのバイトはやりたくない、同級生が大勢来そうなチェーン店も避けたい。だから小さな老舗の和菓子屋さんでバイトを始めることにした。

もうかなり高齢の店長と奥さんで営んでいる小さなその店は、殆ど地元の常連さんしか来なくて。最近の売上はちょっと厳しいけど、店長はそれなりにバイト代をくれる。まぁ個人的にはお金より環境の方が大事だと思ってるから、ここで働けたことは幸運以外の何物でもない。

今日も今日とて閑古鳥が鳴くとまではいかないお店で、私は少し前から腰を悪くした店長に変わって力仕事も始めた。
シャッターを開けて、店先に新商品の名前が書かれた旗を立てるために、自分より少し背の高い支柱を抱えて自動ドアをくぐる。

「よいしょっと……」

ずっと外に置きっぱなしの台座に支柱を立てて、ぐしゃぐしゃになった不織布で出来た布を広げれば、そこには新商品の名前が書かれていて。
今日から売り出すフルーツ大福、味見させてもらったけど本当に美味しいのでみんなに食べて欲しい。イチオシはパイナップルだけど、何だかんだで定番のイチゴも捨て難いんだよね。まぁ私は数量限定のマスカットが一番好きだけど。

「これでよし」
「へぇ〜、フルーツ大福なんて売り始めたんだ」
「そうなんですよ〜、美味しいですよ〜、ッ」

ひと仕事終えて、腰に手を当てながら旗を見ていれば、後ろから声が聞こえたので振り返ってびっくり。何と私の後ろには蘇枋くんが立っていた。
しかも予想外に近くにいてよりびっくりした。思わず仰け反ったことを許して欲しい。
驚いた所為でドキドキしてる心臓に手を当てて、私は取り敢えず大きく深呼吸をした。

「蘇枋くん、何故こんなところに……」
「君がここでバイトしてるって言ってたから、遊びに来ただけだよ」
「さいですか……」
「フルーツ大福美味しそうだね、オススメは何?」
「あ、オススメは、ん〜っと、」

本当に何でもないように「遊びに来た」と笑う蘇枋くんに、私はもう突っ込むことを止める。だってこの数日で何を言っても無駄だって分かったし。
見た目は常識人、ってことはないけど割とまともそうに見える蘇枋くんは、意外にも私の予測出来ないことをするのだ。神出鬼没で、気配がない。まさに今みたいに。

「……中に並んでるから見る方が早いかも」
「じゃあお邪魔します」
「どうぞ」

腕を組みながら色々頭を悩ませたけど、やっぱり実物を見て選んで貰うのが一番だと思うから、蘇枋くんを店の中に案内する。
中はショーケースが売り場の半分以上のスペースを取ってるから凄く狭いけど、逆にそれが落ち着いて私は好き。人一人立つのがやっとなその通路で隣に並んだ蘇枋くんに、ついさっき並べたばかりのフルーツ大福を端から順に説明していく。

「これがパインで、こっちがブドウ」
「断面が綺麗だね」
「でしょ?私もこの断面好きなんだ〜」
「そうだなぁ……、個人的にはこの伊予柑が気になってるんだけど」
「わ、蘇枋くんお目が高い」

蘇枋くんの言葉に私は思わず声を大きくしてしまった。
そう、一見すると数量限定のマスカットが一番お得に見えるんだけど、実はこの伊予柑もかなりお得なもので。店長さんが好きで作ったメニューなんだけど、これはちゃんと生産者さんに会いに行って仕入れてるので味はピカイチ。
あ、勘違いしないで欲しいんだけど、他のフルーツもめちゃくちゃ美味しい。試作品の段階で全種類味見したから間違いない。

「これね、作ってる人から直接仕入れてる伊予柑なんだけど、そのまま食べても凄く美味しいんだよ」
「そう言われると俄然これが魅力的に見えるね」
「私が一番好きなのはマスカットだけど、伊予柑も買って後悔しないと思う」
「なら、伊予柑とマスカットを2つずつお願いしようかな」
「お買い上げありがとうございます!」

ニコッと笑いながらそう言った蘇枋くんは、制服のポケットからシンプルで小さめのコインケースを取り出す。
私は自分のオススメした商品が売れたことが嬉しくて、軽く跳ねるようにしてショーケースの裏に回り込んでレジを打った。お釣りの出ないちょうどの金額を蘇枋から受け取って、レシートを渡そうとしたら要らないって言われた。
うん、確かに蘇枋くんはレシートとか溜め込まなさそう。逆に私は結構溜め込んでしまう。後でお小遣い帳に書こうと思って忘れて、最後にはまとめて捨てるタイプ。きっと一番中途半端でダメなやつだ。

そんなことを思いながら、ちまちまとお店の名前と連絡先のスタンプを押した紙袋に、出来たてのフルーツ大福を崩れないように入れようとしたんだけど。

「あ、待って」
「ん?」

蘇枋くんが急に待ったをかけた。だから私が首を傾げると、蘇枋くんは面白そうに笑いながらショーケースの上の大福を指差した。その指に誘導されるように、私は視線を大福へと向ける。
 
「伊予柑とマスカット、それぞれ一個は君にあげる」
「えっ、な、何で……?」
「オレからの差し入れ」

なんと蘇枋くんは買ったばかりの大福を私にくれるも言うのだ。しかもさり気なく私の手を取って、手の平に大福を二つ乗せて、ギュッと軽く握る高等技術まで披露してくれた。
一瞬だけ心臓が止まった、口から「ウッ」って変な声が出た気がする。ひょえ〜〜、待って待って、近い近い、アッ、顔がいい。
蘇枋くんはずいっと私の方へ顔を寄せて、いつもの可愛い笑みじゃなくて、こう、目を細めて微笑むって言うのが正しい顔で続ける。

「本当は一緒に食べたいけど、君はこれからバイトだし我慢する。だからささやかだけど応援だけはさせて?」
「いや、そんな、こんなモノをいただく訳には……」
「どうして?君はオレの可愛い可愛い彼女なんだから、ありがとうって受け取ってくれる方がオレも嬉しいな」
「ア〜〜〜、これは非常に慣れていらっしゃる〜〜」

受け取れないと遠回しに伝えるも、やはり蘇枋くんの方が何倍も上手なようで。すぐに顔をしょんぼりとした表情に変えて、ちょっとだけ下から私の顔を覗き込むのだ。この蘇枋くんに勝てる女がいるのか?私は勝てない、瞬殺である。しかもオーバーキル。

「あ、ありがとう……、休憩時間に食べるね……」
「うん、オレも君のことを思いながら食べることにするよ」
「思わなくていいです……、フルーツ大福に全集中して味わってください……」
「あはは、面白いこと言うね」

全く何も面白くないが?こちとら毎回シールド張る間もなくガンガン削られるHPに瀕死寸前なんですけど。ご丁寧に回復してからダメージ与えにくるの止めてくれませんか?もしかしてわざとなのか?余計にタチが悪いぞ蘇芳隼飛。

「今日は諦めるけど、次の休みはどこかに出かけない?」
「あぁ、はい、うん」
「良かった、中華料理とかどう?」
「いいね、……ん?中華料理?」
「ならちょっと遠出して中華街に行こっか、また連絡するね」
「待って待って待って、蘇枋くん待って、話聞いてなかった!」
「じゃあね〜」
「あぁ……!あからさまに無視しないで欲しい!蘇枋くん!待って〜〜〜!」

心此処にあらずというのが相応しいくらいに余計なことを考えていたせいで、適当な空返事をしていた私は、途中で何やらトンデモない方向に話が進んでいることに気付いた。だけれども、気付いた時には時すでに遅く。
絶対に聞こえてるのに、下手くそな聞こえないフリで店を出て行く蘇枋くんに手を伸ばすも、ショーケースが邪魔して届かなかった。

「……ッ、も〜〜!」

成す術をなくし、ショーケースに軽く拳を叩き付けると同時に突っ伏した私は暫くそのまま動けず。
今更ながら、何だか蘇枋くんの良いように手の平で転がされてる感が否めない。どうして、一体何故こんなことに。もしや全ての原因は私が蘇枋くんに話し掛けたことなのか?クラスメイトに蘇枋くんの話題を出したからなのか!?

「…………別れたい」

再起不能一歩手前の今の私の気持ちはもうそれ一色で。今後の目標が瞬時に脳内へと浮かび上がる。

そうだよ、どうにかして蘇枋くんに別れてもらえばいいんだ。付き合った経緯も分からないけど、向こうだって一時の気まぐれだろう。
うん、そうしよう。次、中華街に行った時に伝えよう。そうすれば万事解決!私の胃に穴が空く未来もなくなるはず!

「よし、目指せ円満離婚、じゃない、何だろ……」

まぁ、何でもいいや!蘇枋くんと別れる、そう思うと少しだけ気持ちが軽くなって、日付未定の中華街へ行く予定がちょっぴり楽しみに思えた。
マイナスだった体力ゲージが10くらいは戻ったから、がばりと体を起こして頬を叩く。すると今まで気配を消していた店長の奥さんが出て来て、静かに私に「青春、ね」と笑うから、私は清々しい笑顔でこう言った。

「はい!もうすぐ終わる青い春ですけど!」


Comments

  • 音澄
    July 8, 2024
  • あかり
    June 28, 2024
  • apocalypse0135
    June 8, 2024
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