北米

2026.02.01 12:00

試練の時を迎える「博士号」、トランプ政権が大学研究・大学院教育の支援削減

Shutterstock

Shutterstock

米国において博士号は、さまざまな厳しい状況に直面している。独立した研究と学術活動によって学者が獲得する学術的達成の頂点として長らく位置づけられてきたが、今や強い逆風にさらされている。とりわけ、ドナルド・トランプ大統領の指導の下で連邦政府が大学研究と大学院教育への支援を削減したことが大きい。

全米の主要な博士課程プログラムは新規学生の受け入れを絞り込んでいる。留学生は大学院進学先として他国へ目を向ける傾向を強めている。博士号を持つ職員は連邦機関から大量に離職している。従来、博士課程への進学者に占める人種・民族の偏りを是正し、十分に代表されてこなかった少数派の学生をより多く取り込もうとしてきた長年の取り組みも攻撃対象になっている。

こうした縮小は、博士号取得者の過剰供給を是正する「遅すぎた適正化」だという主張もある。しかし多くの観測筋は、最近の動きが米国の大学院教育における伝統的な主導的地位、とりわけSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に何を意味し得るのかについて、強い警戒を示している。

大学が博士課程の入学枠を絞っている

昨年、全米有数の研究大学のいくつかが、博士課程への将来の入学者数を減らす、または凍結すると発表した。8月にはシカゴ大学が、増大する財政的圧力により複数分野で入学者受け入れを一時停止するか縮小すると述べ、高等教育界に衝撃が走った。特に社会科学、芸術、人文系が大きな打撃を受けるとされた。

シカゴ大学だけではない。10月にはハーバード大学が、新規に受け入れる博士課程学生の数を大幅に減らす方針を示した。イェール大学、コロンビア大学、ブラウン大学、南カリフォルニア大学、ボストン大学、ペンシルベニア大学なども、新規受け入れの縮小、内定取り消し、一時停止、停止といった対応を取った例である。ウィスコンシン大学、ミシガン州立大学、ワシントン大学といった大規模な州立大学も同様の措置を講じた。

全国的に入学受け入れの減速がどの程度なのかを見積もるのは難しい。中央の大学当局の指示がないまま、各プログラムが静かに定員を減らす判断をした例について、信頼できる集計が存在しないためだ。断片的な情報からは、こうした判断が広範に行われたことがうかがえる。

博士課程の縮小は続いている。今月、ジョージ・ワシントン大学は博士課程学生への支援を7%削減すると発表した。同大学は13プログラムで受け入れ人数を減らし、5分野──臨床心理学、人類学、人類古生物学、政治学、数学──では新規入学を行わない。臨床心理学の受け入れ停止は特に注目に値する。多くの大学で同分野は歴史的に応募者数が最も多いプログラムだったからだ。

ジョージ・ワシントン大学の生物科学部長ギジェルモ・オルティは、「大学院生の博士課程枠は、どの大学でも研究プログラムを維持するための生命線です」と述べ、さらに「学生を勧誘するための博士課程支援パッケージを削れば、大学の研究能力を削っているのと同じです」と付け加えた。

こうした削減は、政権が研究への連邦支出を減らす意向を公言していることの、ほぼ避けがたい帰結である。とりわけ科学分野では、博士課程の訓練プログラムの多くにとって主要な資金源は研究費である。トランプ大統領は、米国立衛生研究所(NIH)、米国立科学財団(NSF)などの連邦機関に対する大幅な予算削減を提案している。議会は現時点ではこうした削減を退ける方向に傾いているように見えるが、連邦レベルの不確実性が今後も続く可能性が高い。多くの大学は、研究と大学院教育へのコミットメントについて極めて慎重に構えている。

他国は、米国の不安定な資金環境を好機として生かそうとしている。カナダは12月、主要な国際的研究者や研究チームを国内の大学へ呼び込むための積極的な戦略を打ち出した。その取り組みに、カナダドルで約17億ドル(約1933億円)を投資する意向だ。これには、最大で有望な博士課程学生600人とポスドク研究者400人がカナダへ移ることを促すために3年間で1億3360万ドル(約207億円)を支出する計画も含まれる。多くの米国研究者がこのオファーを受け入れると予想されている。

これに加え、米国のビザおよび移民政策の最近の変化が、他国からの大学院応募者の大幅な減少の原因だとして批判されている。他国からの応募は、従来、STEMプログラムにとって関心の豊かな供給源であった。

GEBS(Global Enrolment Benchmark Survey:世界入学ベンチマーク調査)の結果によれば、米国で新たに入学した留学生の大学院生は昨年19%減少した。米国の大学のほぼ3分の2(63%)が、大学院の留学生入学者数の減少を報告している。対照的に、他地域では留学生の大学院入学が増えている。アジアの大学は3%増、欧州の機関と英国の機関はそれぞれ5%増、3%増だった。

大学が将来の受け入れにブレーキをかける以前から、博士課程の在籍者数は伸び悩んでいた。2025年秋に米国の高等教育全体の在籍者数が1.0%増加したものの、その増加は主として学部生の増加によるものだった。最新のNational Student Clearinghouse Research Centerの在籍者数報告では、博士課程の在籍者数は昨秋に0.3%の小幅減となり、これは2000人超の減少に相当している。

次ページ > 被害は瞬く間に起きるが、その負の影響は長く尾を引く

翻訳=酒匂寛

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事

Forbes BrandVoice!! とは BrandVoiceは、企業や団体のコンテンツマーケティングを行うForbes JAPANの企画広告です。

2026.01.23 16:00

売上120%増を実現。創業200年の老舗菓子店が挑んだ「副業プロ人材」との協業

人口減少が進む地域において、歴史ある老舗企業がいかにして革新を遂げるか。福井県小浜市で200年以上の歴史を誇る和洋菓子店「志保重(しほじゅう)」は、パーソルキャリアが展開する副業・フリーランス人材等の、プロフェッショナル人材総合支援サービス「HiPro(ハイプロ)」を通じて、大手自動車メーカーに勤務する“プロ人材”とタッグを組んだ。創業家出身の社長と異業種の副業人材。異なる背景をもつ両者が交わることで生まれた化学反応と、地域企業が抱える課題解決への道筋を追った。 


「志保重」は、福井県小浜市にある文化3年(1806年)から続く老舗菓子店だ。江戸後期から昭和40年ごろまでは酒饅頭一本で商いをしてきたが、高度経済成長期における洋菓子ブームの到来とともに、和洋菓子店へと業態を転換。現在は8代目の清水雅彦が代表取締役として洋菓子部門を、弟の清水勇志が副社長として和菓子部門を統括し、人口約3万人の小浜市内で2店舗を展開している。

200年を超える暖簾を守り続けてきた志保重だが、長年ある課題を抱えていた。それは自社ブランドの核となるアイデンティティが定まっていないことだった。 

特に2011年頃からSNSが普及し、市外の百貨店などへポップアップ出店する機会が増えると、清水は自社のブランド力の弱さを痛感する。消費行動の変化や地元の人口減少に伴ってECの強化を図るも、"普段遣いの店"という印象は拭えなかった。さらに24年初頭に旗艦店の設備の老朽化を機にリニューアルを決断した際も、同じく統一されたブランド像がないという課題が立ちはだかった。 

「自社の商品がギフトとしても選ばれるためには、ただ『美味しい』だけでなく、購入した方が『贈る自分を誇らしく思えるブランド』へと昇華することが必要でした。ただ、長年重ねてきた歴史はあるものの、『志保重といえばこれ』という確固たるブランドが定まっておらず、パッケージやロゴも統一できていませんでした。また、社内には購買データはあるものの分析ができておらず、ターゲットや課題も曖昧なまま。小浜市内にはブランディングを相談できる専門家も見当たらず、誰に何を頼めばいいのかすら分からない状態でした」(「志保重」代表取締役・清水雅彦)

清水雅彦 志保重 代表取締役社長
清水雅彦 志保重 代表取締役社長

転機が訪れたのは、取引先の信用金庫からの提案だった。経営相談のなかで、パーソルキャリアが提供するプロフェッショナル人材総合活用支援サービス「HiPro」を紹介された。「まずは気軽に相談してみるのはどうか」という信用金庫の後押しもあり、清水は半信半疑ながらも相談を決めた。

決め手になったのは、当事者意識 

「こんな地方の、いち菓子店のブランディング案件に、一体誰が興味をもってくれるのか」

当初の清水の不安をよそに、エントリー開始から2週間足らずで約20名の応募が殺到した。応募者リストには、上場企業に勤めるビジネスパーソンからデザイン事務所のオーナーまで、そうそうたる経歴の人材が並んでいた。そのなかから清水がパートナーとして選んだのは、大手自動車メーカーで事業戦略の策定などを担う海野良太だった。

もともと本業でも商品戦略や商品企画を手がけていた海野は、キャリアを重ねるにつれ、ヒト・モノ・カネを統括的に見る役割へとシフトしていた。その一方で、商品そのものにも関わり続けたいという思いを抱いていた。また、海野の実家は静岡の茶農家で、廃業が続く茶業界を目の当たりにして「いつかマーケティングやブランディングの力で地元の商品を盛り上げたい」という想いを秘めていた。こうした背景から、さまざまな企業の案件・プロジェクトへの参画を募る「HiPro」での挑戦を決めたのだった。

「志保重の案件を見たとき、『ブランディング』『200年の歴史』というキーワードに惹かれました。単にパッケージのデザインだけを請け負うのではなく、上流から関われると書かれていて、自分のやりたいことと通ずるところがあると感じたのです。それに、なかなか副業でそこまでやらせてくれる企業はありませんから」(海野)

海野良太
海野良太

一方の清水は、以前クラウドソーシングサービスを利用した際、要望通りに対応いただいたものの、やり取りが一方通行になり、深い議論や課題の掘り下げまで十分な時間を割けなかったと感じていた。だからこそ、清水はスキルセットに加えて「対話の質」や「伴走の姿勢」も重視することに。海野の熱意と誠実な人柄、そして課題解決に向けた丁寧なコミュニケーションに惹かれ、単なる受発注の関係を超え、ビジネスパートナーとして迎え入れることを決断した。

「複数の方と面談しましたが、海野さんはこちらの言語化できない想いや課題を汲み取り、『それってこういうことですよね』と、漠然としていた課題を引き出してくれたんです。自分のスタイルを重視されるデザインの専門家などもいましたが、海野さんは話していて『相手のいいようにやられる』という心配がなく、真摯に向き合ってくれる安心感がありました。最終的な決め手は『一緒に頑張ってくれそうだな』という人柄でしたね」(清水)

週末に京都でフィールドワーク、泥臭い伴走

プロジェクトの開始当初、清水は海野に対し、志保重をより深く理解してもらうために損益計算書(PL)や売上データなど、社外秘ともいえる情報を包み隠さずすべて開示。「とにかく見てくれ」とさまざまな情報を伝えた。海野は経営情報を開示してくれるほどの信頼に驚きながらも、それらを詳細に分析し、「なぜやるのか(Why)」「何をするのか(What)」といった根本的な問いを整理。和菓子と洋菓子の売上比率や原価構成、利益率の低い商品が売れすぎている現状など、経営の根幹に関わる課題を次々と浮き彫りにしていった。

そして、地域に愛されてきたいつもの味と、刷新すべきブランド価値のバランスをどう取るか。海野は相反する要素の狭間で、清水とともに"志保重らしさ"の最適解を模索し続けた。

海野の"自ら動く"姿勢を象徴するのが、京都でのフィールドワークだ。海野は週末などを利用して京都へ赴き、宇治などの老舗菓子店を何軒も回った。そして、「この店は老舗ならではの伝統を守りつつ、現代的にこうアレンジしている」「コストを抑えつつパッケージ展開をするには、こうした工夫が必要だ」といった情報を、写真とともにチャットで清水へ送り続けた。その熱心な姿を、清水は印象深く記憶している。

海野にとって、それは単なる善意ではなかった。「菓子店のブランディングという未経験の分野に挑戦する以上、応募時点から、かなり背伸びをしているという自覚がありました。だからこそ、清水さん以上に歴史ある菓子店がどのように転換してきたのか、パッケージや商品そのもののあり方含めて詳しくならなければならないという責任感があったのです」と語る。

この泥臭いまでの伴走が、和菓子と洋菓子が併存する店舗コンセプト「和モダン」へのブランド統一といった具体的な戦略へと結実していく。

老舗に吹き込んだ新しい風で「売上120%増」を実現

プロジェクトの成果は、リニューアル後の店舗ではっきりと表れた。外観を一新し、店頭には海野の提案で設置した大きな暖簾が風に揺れる。当初は「顔に当たって邪魔では」と反対した清水だったが、そのインパクトは絶大で、佇まいを見て入店する20〜30代の若い客層も増え、リニューアル店舗の売上は前年比120%を達成した。

リニューアル後の店舗
リニューアル後の店舗

また、売上全体の約1割を占めるEC事業をより伸長させるため、25年12月には名物であるプリンを扱うブランド「SIHO」のサイトを公開。海野の分析に基づいたターゲット設定やランディングページの改善により、リリース直後から予約が入るなど、確かな手応えを感じている。

成果は数字だけではない。清水自身のマインドセットや組織にも変化が生まれた。これまでトップダウンで物事を進めがちだったが、海野との協業を通じて「自分にない価値観を外部から取り入れる重要性」を痛感。店舗改装の際、作業台の高さや動線について現場スタッフの意見を取り入れたところ、従業員のモチベーションも向上し、コミュニケーションの面でも良い影響が生まれたという。

「スキルリターン」が地方とプロ人材を豊かにする

今回のプロジェクトは、志保重にとって単なる課題解決以上の意味をもった。「助けてくれる人は探せばいる。すべてを自社だけで抱え込まず、外部の力を借りることで飛躍のきっかけが掴める」と語る清水。

特に、本プロジェクトでの支援はフィールドワークを除き、すべてをリモートで推進した。場所や時間の制約を受けず、迅速かつ効率的に成果を創出できたことは大きな価値である。

このように移住や雇用といったハードルの高い方法ではなく、オンラインも活用しながら、プロジェクトや業務単位でプロフェッショナルな知見を借りられる"いいとこ取り"ができる点は、地域企業にとって大きな希望となるだろう。

一方、海野にとってもこの経験は大きな転機となった。

「当初は将来的にお茶のブランドをつくりたいという個人的な想いから始まりましたが、志保重さんとの関わりを通じて食品業界全体の面白さに気づき、自分の視野が広がりました」(海野)

現在、海野は個人でデザイン事務所を構え、本業の傍ら、志保重のように課題を抱える企業の伴走支援をライフワークにしようとしている。さらに、この副業経験は本業にもポジティブな還流を生んでいる。「やる気や想いが強ければ、未経験の領域でも必ず道は開ける」という自信は、本業での新規プロジェクト推進におけるチャレンジ精神の向上につながっているという。

都市部の副業・フリーランスといったプロ人材がもつスキルを、人材獲得に課題を抱える地域企業へと還流させる「スキルリターン」。それは単なる労働力の移動ではない。「志保重」の事例が示すのは、異なる背景をもつ個人と企業が同じ目的に向かって、強い想いで結びつくとき、そこに経済的な成長だけでなく、関わる人々の仕事を豊かにする化学反応が生まれるという事実だ。

「名刺を何枚ももつようなパラレルキャリアが当たり前になり、自分の故郷や地方の歴史に関心をもち、仕事やスキルで還元していく。そんな社会になれば、企業も個人ももっと幸せになれるはずです」(海野)

「私自身、商工会議所などで『こういう仕組みがあるからもっと使っていこう』と広めていきたいと考えています。そのためにも、志保重がもっと成長し、『なぜあんなに伸びたのか?』と聞かれた際に、『きっかけは副業人材との出会いでした』と胸を張って言えるようにならなければなりませんね」(清水)

HiProとは

「HiPro(ハイプロ)」は、課題に向き合う企業と、副業・フリーランス人材をつなぐ、副業・フリーランスのプロフェッショナル人材の総合支援サービス。

地域企業と経済の発展への寄与を目指す取り組み「スキルリターン※」に取り組んでいる。

※スキルリターン
HiProが推進する、都市部ではたらきながらも、「地域を発展させたい」「この企業の可能性を信じている」という想いを持つプロ人材のスキルを“ふるさと”に還元(リターン)する取り組み。労働力不足を解決する手段の1つとして、1社でも多くの地域企業にとって、プロ人材の活用が当たり前になることを目指し、2023年6月にプロジェクトをスタート。

『スキルリターン』Webサイト
https://hipro-job.jp/skilljunkan/skillreturn/

パーソルキャリア
https://www.persol-career.co.jp/


しみず・まさひこ◎志保重 代表取締役社長。創業200年を超える和洋菓子店「志保重」の8代目。家業を継承後、時代に合わせた業態変革やブランディングに取り組み、地域に根ざした菓子づくりを追求している。

うんの・りょうた◎大手自動車メーカー勤務。事業戦略や企画業務に従事する傍ら、副業として「HiPro」を通じて志保重のブランディング支援に参画。現在は個人事業として、『KANATA DESIGN』を立ち上げ、企業のブランド伴走支援などを行っている。

Promoted by パーソルキャリア / text by Michi Sugawara / photograph by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro