落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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かつてハーメルンに存在した超名作に多大なるリスペクトを込めて



第一話

 

 

 

 いかなる分野においても、上に立つ者は強靭な意思を持ち、血の滲むような努力を重ねている。

 

 

 

 そんなものは幻想だ。

 真の天才には努力など必要ない。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の人格形成を語る上で、第二次リーマンショックという出来事は欠かせないだろう。

 

 過熱しすぎた投資ブーム、バブル、少子高齢化による日本経済の弱体化、アメリカのウォール街で再び起きた大規模な空売り、円安……。そう言う色々な物が重なり合って、日本の、いや、世界中の経済が大打撃を受けた事件のことだ。

 

 まだ幼稚園に通っていた俺には、テレビ画面上で踊るそれらの言葉は理解できなかったが……その後に来た就職氷河期で、どれだけ多くの人が苦しんでいるのかという事だけはありありと分かった。

 

 いい大学を出ても就職先がない。

 採用を絞りたい企業による圧迫面接で心を病む若者たち。

 リストラされた大企業の社員が、今は工場の派遣で貧乏暮らし。

 

 順風満帆な人生を送っていた者が、一瞬でドン底へ転落する恐怖。

そういう薄暗い、見ているだけで鉛を飲み込んだような気分になるあれこれは、俺の人格に大いなる影響を及ぼした。

 

「……安定が一番だ。国家資格を取って公務員になろう……」

 

 激しい成功はいらない。

 穏やかで、波乱のない、平凡だが何より安定している人生。

 植物のように、根を張りずっしりとした人生がいい。

 華やかに成功したとて、一寸先が闇かどうかなんて誰にも分からないのだ。

 

 

 そういうわけで、俺は安定した仕事を求めて破軍学園に進学した。

 

 

 寄らば大樹の陰。公務員は不遇だという人も多いが、俺にとっては雇用主が国という事が大切だった。国も潰れるときは俺もクビだろうが、少なくとも企業よりは潰れにくいだろう。

 

 伐刀者の素質は1000人に1人。社会的責任は重いが特権もある。国に身分を保障される、いわば受験条件が厳しいタイプの難関国家資格。

 卒業後は個々の適正によるが基本的に引く手数多。万が一、億が一クビになったとしても、伐刀者であればどこかが拾ってくれる。

 

 こんなありがたい話が他にあるだろうか? 感謝のワニ、アリガテーアリゲーターだ。

 

「んんんwwwwwそのポケモンは役割が持てませんぞwwwww」

「は? いまインパクト押したって……押したってぇええええああああ煽るなぁああ!!」

「ヒグッ…グスッ…」

「こいつ、エアライダーやりながら泣いてる……」

「Soraの櫻井です(激渋)」

「櫻井さん!?」

 

 水は低きに流れる。類は友を呼ぶ。

 学園ではなんかこう…生徒会がめちゃくちゃ強い自治権を握っていたり…強さでランク付けされたり…学園の序列を決める大会があって、上位メンバーがもっとデカい大会にでたり……。

 

 そういう熱めのやつが色々あって、実際それが主流派なのだが、しかし全員が全員そう意識高くいられる訳でもない。文化祭や体育祭で盛り上がれず、教室の隅でゲームしているような奴らはどこにでもいるもので、俺はそういうグループにぬるっと入り込むことが出来た。

 

 平均的な成績を取っていれば留年はしない。

 何かとんでもない不運があって滅茶苦茶に落ちこぼれようが、魔導騎士というだけで最低限の就職先はある。給料も保障される。同類の友人もいる。

 

 感謝します…日本国家…そして俺を伐刀者に産んでくれた両親…。感謝のネズミ、アザーマウス…。

 

『ザザ……ザ……。生徒会より、生徒のお呼び出しをいたします。1年・甘木悠さん、甘木悠さん。生徒会室までお越しください』

 

 幸運に感謝しながらPokemon Uniteでサポタンをやっていると、突然校内放送が聞こえてきた。甘木悠…? 俺じゃん。何故…? なんの呼び出し…?

 

「え~…試合時間あと5分残ってるんだけど…」

「降参しとけ降参。どうせ負け試合だろそれ」

「うーん…まあ早めに行った方がいいよなあ」

 

 画面右上から降参ボタンを押すと、一瞬で同意を示す緑が四つ点灯。試合は俺たちのサレンダー負けとなった。なんだ、俺含め全員心折れてたのね……。

 

「さて…魅せますか…」

「それ天内悠ね」

 

 ちょっと名前が似ている刃牙キャラの真似をしながら、俺はおっかなびっくり生徒会室へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 破軍学園は生徒の自治権が強い。

 己の魂を霊装にして戦い、伐刀絶技という異能さえ扱う伐刀者たち。彼らを育てるにあたっては、教師による押し付けよりも、のびのびとした自治こそが魂を成長させるとかなんとか、そういう感じの理由だ。よく知らない。嘘ついてたらごめん。

 

 ともかく、この学園の生徒会長というのは結構尊敬される存在なのだ。強いし。大抵、その学年のトップランカーが生徒会の席に就くことが多い。

 

「……甘木悠さん」

「はい」

 

 破軍学園生徒会長。Bランク騎士、東堂刀華。二年生。秋の選挙で先代から会長の地位を引き継いだ才媛だ。

 学生の身ながら既にプロの領域に手を掛けている彼女は、なぜか重々しい表情をしている。怒っているのか…? 怖い。不機嫌な人が近くにいるってシンプルな恐怖だ。

 

「……あなたに、決闘相手として要請が来ています」

「はい……?」

 

 どういうこと…? 決闘?な、なぜ……?

 

「…あなたと同クラスに、黒鉄一輝という方がいるでしょう?」

「え?ああ、はい」

「……彼には、魔力量の低さや授業欠席率の高さ、騎士としての適性不足から、留年処分が下されました。しかし、一部教師はこれに反対しており、会議が割れている状態です。本人の強い希望もあり、処分取り消しを賭けた決闘を行う事になりました。貴方は、その決闘相手に選ばれています」

「はぁ……。え? なんで俺が決闘相手に?」

 

 今は1年生の3月。終業式直前だ。出席日数がギリギリだったり、熱血教師がお目こぼしをしようとしてくれたり、何だかんだで『もう決闘しかねぇ』という事になったのだろう。それはいい。

 だが、俺が決闘相手というのはどういう事だ? 理屈がないだろ理屈が。黒鉄とも殆ど話したことないぞ。

 

「決闘に負けたら、代わりに俺が留年するとか無いですよね……?」

「有りません。貴方が決闘相手に選ばれたのは……あなたが、()()()()だからです」

「だったら余計決闘相手に選んじゃマズいと思うんですけど(名推理)」

 

 黒鉄は破軍学園史上初の、魔力がFランクの伐刀者と聞いている。

 低すぎ。

 代わりに伐刀絶技が超凄いとかも無く、ただの身体能力強化なのだとか。

 

 じゃあ弱いじゃん。

 じゃあ俺が勝っちゃうじゃん。

 俺が黒鉄に恨まれちゃうじゃんって!!

 

「あ……あれか、箔付けとかですか? 八百長、忖度的な? 俺がわざと負けて、七星剣王に勝った黒鉄スゴい、留年回避決定! みたいな……。黒鉄って名家出身でしたっけ? すみません、あんまり知らなくて……」

「……違います。貴方を指名した職員からは、『騎士として全身全霊の勝負を行う事を望む』と言付けを預かっています」

「……???」

 

 黒鉄一輝と言えば、あの黒鉄家の一員だったはずだ。なんか勘当されてるとかされてないとか、ごちゃごちゃしててよく分からなかったが、その筋の話かと思ったのに……。それもどうやら違うらしい。

 

「え……? 俺、これ、勝っていい奴ですか……? “よくもうちの嫡男を”とか言って黒鉄家に消されたりとかしませんか……?」

「……そのような事は絶対に有り得ません。破軍学園生徒会長として断言します。貴方はただ、決闘に臨むだけなのですから」

「ええ……でもなぁ……そもそも黒鉄に恨まれるのも嫌っていうか」

 

 留年ってシンプルに辛いだろうし……。恨みを持たれて、後々嫌がらせとかされたくないし……。黒鉄家と言えば、あの【大英雄】黒鉄龍馬に連なるスーパー名家だ。一般市民出身の俺とは家柄が持つパワーが違う。

 役所の申請が何故か通りにくくなったり、就職をなぜか渋られたり、軽犯罪でも警察が逮捕状持って特攻してきたり、そういう有形無形の圧力を受けそうというか……。

 

 そんな事を悩んでいると、隣に控えていた御祓副会長が少し不快気に眉を顰めて言う。

 

「……流石、刀華を下した《七星剣王》だね。決闘に勝つことは前提かい」

「え? まあそりゃ……っ、いえいえ! そうですね、確かにその通りです!」

 

 やべやべ。まさか話しかけてくると思わなかったから本音が漏れ出てしまった。

 

「勿論、勝負は時の運ですからね! お互い正々堂々神聖なる決闘をして、どちらが勝っても恨みっこなし! いやいや、御祓副会長の言う通りです! へへっ……どうもすみません、まだまだ精進の身でして……」

 

 あーあ、七星剣武祭で東堂会長に負けとけば良かったな。

 御祓副会長には何となく目を付けられるし、あの貴徳原グループの御令嬢である貴徳原会計もちょっと思う所ありそうだし。うまいこと勝ちを譲っておけば良かった。

 

 でもなぁ……『手加減はしないでください。正々堂々勝負です!』って、他ならぬ東堂会長が言ったんだし。あそこで手を抜いたらもっと嫌われたかもしれないし。詰みじゃんねこれ。

 

 余は―――!

 そう……貴様は……。

 詰んでいたのだ 最初から

 

 みたいな感じ。カスわよ。

 

「ッ……いや。そうだね、君の言うとおりだ。余計な事を言って申し訳ない」

「え? ああはい」

 

 何かボディーブローを食らったみたいな顔で、御祓副会長が一歩引きさがる。どうしました? 変な事言ったんだったら指摘してほしいんですけど。

 

「ウタく……いえ、御祓。控えなさい。申し訳ありません、甘木さん。教務課からは、この決闘に負ける事によるペナルティ等は一切無く、評価に影響もないと伝えられています。また、勝負を受けた時点で特別報酬があると」

「報酬?」

「特殊功労金という形での金一封。そして準備期間と休養期間として、決闘日前後に1週間ずつ、合計2週間の特別休暇が与えられるそうです」

「あ、それは普通にありがたいやつ……」

 

 黒鉄と戦うだけで2週間休み。俺は寮も一人部屋なので、思う存分ゆっくり出来る。

 御祓副会長が『真剣に戦って負けるならしょうがないよ』ってヒントくれたし(言ってない)、多分これは普通においしい話だな。こういう良い話が転がり込んでくるのも七星剣王の特権というやつか。就職に有利になると思って取ってよかった、この資格。卒業後も擦り倒すぞ。

 

「こほん。それで、どうなさいますか? 重ねて申しあげておきますが、どのような結果になろうが貴方に一切損はないと約束します」

「勿論、やります。騎士として全力でお相手しましょう」

 

 最初にガッと行って、あとは流れで負ければ良いでしょ。

 何度も言うけど黒鉄に恨まれたくないし、負けても俺に損はないらしいし。

 

 黒鉄くん! 七星剣王()に勝った君が次代の勇者だ!

 

 

 

 

 

 

「甘木くん……やはり、君は……」

 

 目の前で、袈裟懸けに斬られた黒鉄が崩れ落ちる。

 

「そこまで! 勝者、甘木悠!!」

 

 …………。

 勝っちゃったよ。

 

 言い訳として、とあるプロ野球選手の逸話を引用したい。球界を彩る名バッターの話だ。

 あるベテラン投手の引退試合があったとする。大抵、引退投手と対戦するバッターはわざと空振りし、引退に華を添えるものなのだが……彼は、なんとホームランを打ってしまったのだ。

 『力を抜いて軽くスイングしたら、たまたまクリーンヒットしちゃった』と彼はのちに語ったという。

 

 そういう事が、俺と黒鉄の試合でも起こった。

 

 刀を片手で振り上げたまま歩いて近づいて、ゆるーくふわっと振り下ろした。

 そしたらなんか、うまい具合に黒鉄を斬ってしまった。

 

 倒れる黒鉄を見下ろす俺の周囲で、この決闘を企画した教員や学園関係者の方々がざわざわとどよめいている。

 

 

「いやはや……さすがは《七星剣王》ですな。ただ一合の打ち合いさえ無いとは」

「なんたる足運びの玄妙さ、そしてなんたる剣の冴え……。恐ろしい、見ていたこちらさえ鳥肌が立ちましたぞ。意識の裏をするりと斬る、流水のような剣でしたな」

「いやいや、あれは黒鉄を不甲斐ないと見るべきでは? 伐刀絶技も使わず、ただの剣一振り。七星剣王は汗一つかいていませんぞ」

「然り然り。全く、あれを擁護していた教員どもは節穴としか言えませんな」

 

 

 うるせ~~~~~~~~~~~!!

 知らね~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

 

 お……俺は本当に手加減したんだ! 信じてくれ!

 舐めプとかしてない、煽ってもない! シンプルに“留年とか可哀想”と思っただけなんだ!

 

 ご……ごめん、黒鉄……! その……まあ、黒鉄家産まれって時点で上級国民だし、食いっぱぐれることは無いと思うから……! 留年しても全然問題ないから……!

 

 ん? いや、実際マジで問題ないな。黒鉄家ってマジでTier1の名家だし。

 たとえ退学になろうが実家に泣きついたら何とでもなりそう。成人後は一等地のタワマンとか渡されて、管理人として一生家賃収入で食っていけるんだろ?

 

 (・д・)チッ。これだから実家が太い野郎はよ。謝罪は撤回だ。

 羨ましい……妬ましい……。俺にもおこぼれください。

 

「……では、自分はこれで」

「おお、甘木くん! いやいや、ご足労おかけしました。どうでしたか、黒鉄一輝は?」

「え゛? ええ……まあ……ねえ? えへへ」

 

 見とったやろがい今の戦いを。“強かった”って褒めたいけど何一つ褒めるべき点がねえよ。黒鉄、一歩も動かなかったもん。あんなにわかりやすく『上段から振り下ろしが来ますよ~』ってアピールしたのに。

 この状況で何褒めても、もう一周回って馬鹿にしてるだろそれは。“家柄が良い”って褒めたろけ? ああ!?

 

「……別の道が沢山あると思いますよ(タワマン管理人とか)」

「ぶっ……ふはは! ふふっ……いやいや、それはさすがにねえ!? いくら黒鉄君が弱かったとはいえ、流石に無礼にあたるのでは!? ふふふっ、いやいや……ここだけの話という事にしておきましょう、ねえ。んふふっ……」

 

 ウケすぎちゃう?

 なんか爆ウケしてるこのお方は、確か倫理委員会の代表とかだったはずだ。なのに一番倫理ないじゃん(ないじゃん)。

 

「金一封と休暇、本当にありがとうございます。またこういう話がありましたら是非」

「ええ、はいはい! 勿論! またお願いすることになると思いますよぉ、ふふふ……」

 

 よし、楽しく話せたな。Perfect communication。

 こういう権力者の方々には積極的にゴマを擦っていくのが俺の生き方である。寄らば大樹の陰。権力サイコー。

 

 俺に負けた黒鉄はそのまま留年した。本当に申し訳ないと思っている。

 こう……彼も決闘前に『僕の最弱でもって、君の最強を打ち負かす!』みたいなカッコいい事言ってたし、結構公正明大な性格イケメンらしいし。きっと、俺を恨んで闇討ちとかしたりしないだろう。多分。お願いします。

 

 

 

 

 

 

 破軍学園一年、甘木悠。

 七星剣王の座を戴く、学生最強の伐刀者。

 

 彼が封筒に入れられた万札の厚みに驚きながら笑顔で帰っていく様子を、赤座守はエアコンの効いた校舎の一室から見下ろしていた。

 

「んっふっふ……全く、聞きしに勝る扱いやすさですねえ。《天譴(てんけん)》甘木悠。たかが数十万であの笑顔。七星剣王の善良な支援者としては、悪い大人に騙されないか心配になる程です」

 

 ぐふぐふ、と脂肪に埋もれた喉で笑う。

 

 七星剣王、甘木悠。

 彼は、学園関係者や黒鉄家関係者など、いわば権力者達からの評価が非常に高い。

 

 それは何故か。

 

 彼が、七星剣王レベルの伐刀者としては異常なほどに()()()()()からだ。

 

 指示に従う。

 こちらの事情を詮索しない。

 言われたことだけをこなし、言われていない事は一切やらない。

 

 言ってしまえば、どれもこれも人として当たり前の事ばかり。

 だが、これだけの事が、曲者揃いの伐刀者たちの中でいかに貴重か。

 

 魂を固有霊装として出力し、魔力を用いて人間の限界をたやすく超える伐刀者たち。

 己の魂を研ぎ澄まし、強者としての階段を登り詰めていくには、当然ながら並々ならぬ努力と、苦行を断固として行うための精神力、想いの強さが求められる。

 

 魂を磨く事は己に根差す根幹的な欲望、根源的欲求と向き合う事でもあるため、修行の過程で伐刀者たちの自我は硬く鍛え上げられていく。

 

 その結果として何が起きるか?

 異常な強さと自我を持った、国家権力としては非常に扱いづらい化物どもが誕生するのだ。

 

 まったくもって冗談ではない。

 

 彼らは独自の規範で動き、己の美学や信念に沿わない事には絶対に頷かない。ただ命令を無視するだけならまだしも、勝手な義憤でこちらを攻撃、妨害してくる事さえある。

 日本の伐刀者だって例外ではない。自由気ままな“夜叉姫”はもちろん、“世界時計(ワールドクロック)”だって厄介だ。今回の決闘だって、学園の()()を務める彼女の異議が大きかったと聞く。

 

「ま、これで新宮寺教諭もやっと大人しくなりますな……。全く、これだから強力な伐刀者というのは扱い辛い……」

 

 魔剣、妖刀のような物だ。強大だが扱い難く、少し誤ればその身を裂く。

 

 元KOK・A級リーグ選手であり、本年度から教員として採用された新宮寺黒乃。

 彼女がこの破軍学園に種々の改革を齎そうとした事――

 

 ――そしてそれらを完全には防ぎきれなかった事を思い出し、赤座は顔をゆがめた。

 

「……チッ」

 

 舌打ち。

 強力な伐刀者は扱い辛く、反抗的で、全くもって忌々しく―――だが。それでも、やはり彼らは()()のだ。

 

 今や、世界は伐刀者無しでは回らない。綺羅星のように煌めく彼らを中心として、今の世界秩序は成り立っている。

 

 それは例えば、第二次世界大戦において日本を救った大英雄、黒鉄龍馬のように。

 

 彼の血を引く黒鉄家の分家でありながら、赤座は強くなることは出来なかった。彼の才能は平凡だった。彼は武で身を立てることを諦め、黒鉄家のコネクションや資産を使い、ダーティーな手段を駆使し、時には家中からさえ忌み嫌われながら成り上がった。

 

 そこに、何らかのコンプレックスが無かったのか。

 

 

 清廉潔白なまま強い/強くなろうとする者への憎しみが無いかと言われれば、嘘に―――。

 

 

「―――赤座委員長?」

「っ……。ええ、すみません。話の途中でしたね。んっふっふ」

「いえいえ。それで、ウチの七星剣王、甘木は如何でしたでしょうか? 我々としては――」

「ええ、素晴らしい剣才でしたねぇ。連盟所属のプロに勝るとも劣らない。彼を育成した破軍学園への増資はほぼ確定的かと――」

 

 立て板に水の調子で舌を回しながら、赤座は脳内で考える。

 

 甘木悠は、()()。七星剣王として売り出すに相応しい。

 その従順さ。穏やかな物腰。一般家庭出身という経歴も、大衆の支持に上手く使える。

 

 

 何よりも―――その強さが、全て“()()”によるものだという事が、最高に素晴らしい。

 

 

 彼が一切努力をせず、研鑽していない事は調査で分かっている。何処かに師事していた形跡も無く、リトルリーグの出場歴も無く、鍛錬の形跡も無い。七星剣王となった時も、彼は試合直前までMOBAと呼ばれるゲームをしていた。

 

 

 ―――必死に努力する周囲の人々を、ただの才能だけで蹴散らしている事。

 そしてそんな彼が、“連盟”の命令には忠実に従う事。

 

 

 強くなることを諦めてしまった赤座には、それがただただ痛快なのだ。

 

 

 長年の停滞を経て、ついに七星剣王を輩出した破軍学園への視察、および増資の検討。

 その裏に隠れた、黒鉄家の落ちこぼれである黒鉄一輝の進級妨害。

 

 両方の目的を華麗に達成した赤座は、にちゃりと汚い笑みを浮かべて七星剣王()を見送った。

 

 

 

 

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