『成瀬~』が大ヒット!新潮社の大幅組織改編と出版戦略
2025年は文庫のヒットが多かった
新潮社を支える屋台骨のひとつが新潮文庫だが、2025年4月に就任した大島有美子部長兼編集長に話を聞いた。若者の文芸離れなどと言われる中で2014年、新潮社は「新潮文庫nex」というラインナップを立ち上げた。その編集長を21年から24年まで務め、その間文庫編集長、そして今回、文庫部長に抜擢された。「文庫を束ねるとなると重責ですね」と言うと、「文庫編集部はもう長いのですが、責任者となるとプレッシャーもあります」と感想を語った。文芸離れとも言われる若い読者をどう獲得するか。その話から始めることにした。 「新潮文庫nexを立ち上げた時の方針は、ラノベとは少し違う、キャラが立ったエンターテインメントを届けたいということでした。その新潮文庫nexの最近のヒットは、町田そのこさんの『コンビニ兄弟』で、全5巻で累計59万部ととてもよく売れています」 イラストの表紙にキャラの立った文芸という意味では、大ヒットした『成瀬は天下を取りにいく』以降の「成瀬」3部作もそうかもしれない。『成瀬は天下を取りにいく』は2025年7月に文庫化され、これまた大ヒットしている。 「この作品は、もともと若い人に読まれて単行本もとてもよく売れたんですが、文庫も25万部からスタートし、版を重ねて12月に累計42万5000部になりました。文庫で630円と買いやすいこともあって、若い読者がどんどん増えています。2024年にヒットした文庫『百年の孤独』のように、今後、IP事業本部と出版部、文庫の担当者とで一緒に、IP展開なども考えていきたいと思っています。成瀬というキャラクターでグッズやLINEスタンプを作ってみたり……あとは朗読劇も行い、舞台も決まりました。もちろん映像化も目指しています。そうした二次展開を活発に実施していこうと考えています。 『成瀬~』は新潮文庫nexではないのですが、文芸でもキャラが強いと広く読者が獲得できるのだなと実感しています」(大島部長) 2025年は文庫のヒットが多かった。村上春樹さんの『街とその不確かな壁』上下巻が4月に文庫化された。2020年に文庫化されていた柚木麻子さんの『BUTTER』も海外で話題になり国内でも売れた。 「『BUTTER』は国内だけで単行本と合わせて12月で累計50万5000部、海外を合わせると150万部を超えています。いまのところ日本よりも世界各国版の部数の方が多く、イギリスだけで73万8000部、海外全体で98万部も売れています。 この本は文庫化してから4年が経って、イギリスで翻訳されブレイクしました。その後、イギリスの書店の賞を取ったり、ダガー賞にノミネートされたりといったニュースが国内の売上を引っ張ったという、弊社としても初めての事例だと思います。 最近、海外で日本文学が注目されており、新潮社の海外出版室という部署でも、日本の作品を積極的に紹介して、どんどん海外で翻訳していただいている状況です」(同) 2024年に文庫化された『#真相をお話しします』も映画の大ヒットに連動してよく売れた。24年に社会現象を巻き起こした『百年の孤独』も引き続き売れているという。また同年、ドラマのヒットで改めて話題になったのが早見和真さんの『ザ・ロイヤルファミリー』だ。 「『ザ・ロイヤルファミリー』は単行本の発売が2019年で、文庫化は2022年でした。2025年にTBSの『日曜劇場』でドラマが決まった時期から重版のスピードが加速しました。単行本は1万6000部でしたが、文庫は累計25万部まで行っています。 既刊本が映像化で売れた例はほかにもあって、例えば畠中恵さんの『しゃばけ』がもう刊行から25年経っていますが、2025年に満を持してアニメ化され、とてもよく売れています。文庫だけで本編22巻に外伝2巻もあるのですが、12月現在、単行本と合わせた累計で1000万部を超えています」(同) 『十二国記』のミュージカルが2025年12月に始まるなど、映像化や舞台化の話は他にもある。前述の『コンビニ兄弟』も2026年にNHKでドラマ化される予定だ。 そうした中で年末恒例の『このミステリーがすごい!』で、新潮文庫『私立探偵マニー・ムーン』が海外編第1位に選ばれた。担当した新潮文庫編集部の竹内祐一さんに話を聞いた。竹内さんは4年前に文庫編集部に異動してきて、海外ミステリーを担当しているという。 「この作品は1948年から51年にかけて海外の専門誌に掲載されていたもので、その中から中編7編を一冊にまとめて7月に文庫オリジナルで刊行したのです。言うならば、屋根裏の奥から忘れられていた作品を見つけ出して新たに刊行したという話です。それと現代の最新の作品と、2つの方向で出版してきたことが、25年は新旧取り合わせて評価されました。『このミステリーがすごい!』の20位内に新潮文庫オリジナルを4冊も選んでいただきました」 大島部長が補足する。 「海外のミステリーは、エージェントから紹介されるものと、編集者が自分で発掘するケースとがあるのですが、新潮文庫の場合は竹内が一人で発掘し、コンスタントなペースで刊行しています」 発掘は具体的にどうやっているのか。竹内さんに聞いた。 「自分の知識と、足を使って神保町の古書店で探したり、オークションで買ったり、あとは過去の名作の映画の原作だったり口コミだったりとか、あらゆるところから発掘します」 12月に『このミステリーがすごい!』で海外1位が決まってから『私立探偵マニー・ムーン』は3刷の重版を決め、「第1位」という大きな帯を巻いて出荷した。累計3万2000部のうち2万5000部が今回の重版だという。