中国当局は24日、軍の最高指導部である中央軍事委員会の制服組トップ、張又俠副主席ら高級幹部2人に対し「重大な規律・法律違反」の疑いがあるとして、調査を開始したと発表した。習近平国家主席直属の軍中枢部にとって異例の事態で、専門家は「新中国成立以来、最大規模の軍指導部粛清」と指摘している。軍内部の混乱が予想され、中国が統一を主張する台湾への軍事的圧力にどのような影響を与えるかが焦点となっている。
中国国防省の発表によると、新たに調査対象となったのは張又俠氏と、中央軍事委委員で軍の作戦指揮を統括する統合参謀部の劉振立参謀長だ。
今回の調査を受け、習氏がトップの主席を務める中央軍事委は事実上、機能不全に陥ったと言える。更迭や調査の対象となっていない軍事委メンバーは、習氏を除く6人のうちわずか1人だけとなった。
米アジア・ソサエティー政策研究所中国分析センターのニール・トーマス研究員は「習氏は中華人民共和国の歴史上、最大規模の軍指導部の粛清を成し遂げたことになる」と分析した。中国軍および中国全体への影響は未知数だが、一部の専門家は、台湾に対する中国政府の次の動きに波及する可能性を指摘している。
張氏らの粛清が持つ重要な意味について、以下の要素が挙げられる。
軍粛清の背景
国防省は2人に対する調査を発表したが、具体的な容疑については言及しなかった。翌25日付の軍機関紙、解放軍報は社説で、詳しい理由の説明を避けつつ、今回の処分は「重大な規律・法律違反」の疑いによるもので、腐敗を処罰する中国の決意を示していると述べた。腐敗撲滅は、習氏が最高指導者となった当初から推し進めてきた政策だ。
今回の調査については、交流サイト(SNS)上のうわさや一部(海外メディア)の報道で取り沙汰されていたが、公式発表はこれまでなかった。
米研究機関パシフィック・フォーラムの非常勤フェロー、トリスタン・タン(湯広正)氏は「中国当局が公表、あるいは選択的にリークする証拠が、張氏解任の核心的な理由を反映しているとは限らない」と指摘。「重要なのは、習氏が張氏に対し処分の決断を下したことだ。一度調査が始まれば、ほぼ必然的に(不正)問題が発覚する」と述べた。
アナリストらは、一連の粛清は軍の改革と習氏への忠誠を確実にするのが目的だと分析している。習氏が2012年に権力を掌握して以来、20万人以上の当局者を処罰してきた広範な反腐敗キャンペーンの一環でもある。
張、劉両氏の調査に先立ち、中国共産党は昨年10月、もう1人の軍事委副主席だった何衛東氏を党籍剝奪処分とした。何氏の後任には軍事委の委員だった張昇民氏が昇格。現在は同氏が軍事委に残る唯一の制服組メンバーとなっている。
AP通信が軍の声明や国営メディアの報道を集計したところ、12年以降、少なくとも17人の人民解放軍将校が職を解かれており、うち8人が軍事委メンバー経験者だった。
台湾情勢への影響
実質的な解任である今回の発表が台湾に対する中国の決定に影響を与えると考える見方もあるが、先行きは決して明らかではない。
中国は台湾を自国領土とみなしており、必要であれば武力による統一も辞さない構えを見せている。軍事的圧力も強めており、昨年12月には米政府による台湾への武器売却の発表を受け、台湾周辺で2日間の大規模な軍事演習を実施した。
アジア・ソサエティー政策研究所のトーマス氏は、今回の粛清により「台湾に対する中国の脅威は短期的に弱まるが、長期的には強まる」と予測する。
トーマス氏は、短期的には「最高司令部の混乱」により、台湾に対する軍事的エスカレーションは高いリスクを抱えることになると指摘。しかし、長期的にはより忠実で腐敗が少なく、軍事能力の高い指導部を持つ軍隊が形成されることを意味していると述べた。
軍トップの解任が「中国は戦争の準備ができていない」という見方を強めるかとの問いに対し、パシフィック・フォーラムのタン氏は「その評価を根本的に変えるものではない」と分析。一方で「とはいえ、人民解放軍の即応態勢が深刻な混乱に陥っているとも思わない」と付け加えた。
不透明な軍事委員会の今後
一連の処分や調査により、中央軍事委は現在、トップの習主席とメンバー1人のみで運営されることになる。解放軍報の社説は、張、劉両氏への調査を受け、共産党が「人民解放軍の若返りを促進し『強軍建設』に力強い勢いを注入する」動きを進めていると主張した。
しかし、空席となった五つのポストがすぐに補充されるのか、それとも新たな共産党中央委員会(軍事委メンバーの任命も担当する)が選出される27年まで習氏が待つのかは定かではない。
パシフィック・フォーラムのタン氏は、習氏にとって短期間のうちにポストを埋める圧力はないと見ている。「委員会に残る唯一のメンバーである張昇民氏への内部的な対抗馬を作る目的がない限りは」とタン氏は語った。