『メダリスト』を読んだ感想①【1-4巻(ジムバッチ編)】
音楽ブログとして10年くらいやってきましたが、突然ながら漫画の感想記事を書き出します。なぜなら『メダリスト』を読んで、メチャクチャ、いや本当に面白かったからです。
『メダリスト』のあのシーンやらあの漫画描写やらを語りたい。
そういう記事です。読み返すキッカケになれば幸いです。
【作品紹介】に代えての前書き
もしもまだ本編を読んでない人がいたら、個人的には「まずは2巻まで」、何かしら少しでも惹かれるところがあったら「5巻まで」、あとはお任せしますと薦めます。自分は最初から面白いなと思っていましたが、5巻で更に自分内ランクがグッと上がりました。
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『メダリスト』は、幼年期から世界的に競争が始まる過酷なスポーツ競技であるフィギュアスケートを扱ったスポ根 & ジュブナイルであり、かつそうではありません。ここでは思いの強さは結果を左右しません。その世界は子供の夢物語として必ずしもハッピーエンドをもたらしません。しかし一方、「思い・祈りが届いたんだ」と言いたくなる瞬間もあります。
フィギュアスケートという競技の残酷さと美しさ、その美に近づこうとする人たちとその支援者すべてを、作者の漫画技術の限りで描き出さんとする作品です。
そして「他人との関わり合い」をとても現代的に、密に扱った漫画でもある。子供と子供が、子供と大人が、大人と大人がコミュニケーションをとりあう難しさ、素晴らしさがあります。
以上、とりあえず読んでくれ。
俺からはそれしか言えない。
前置き以上。
いくぞ!!!!!
バッチ試験編(~4巻) - 子供と大人の世界
◇圧倒的なパーフェクトコミュニケーション
この漫画を読んで最初に感じたのは、「司先生のパーフェクトコミュニケーションがすごすぎる」でした。"子供 - 大人"の関係性における司先生の対応がすごすぎる。転生者レベル。
緊張しきった子供に対して、「この指掴んで!」と単純な動作を繰り返させて「・・・落ち着いてきたね。」とリラックスさせるの、コーチレベル78くらいの所作じゃないか??
この司先生のもと、主人公いのりが自分に自信をもつことで世界と関わり交流を深めていく姿は、読んでいて素直に元気づけられる。
特に大人と子供、コーチと選手の間で必要となってくる「線引き」のバランス感覚がすごい。
クソ長引用を失礼しますが
「俺の意思を読もうとしちゃだめだ」
「俺にももちろん意見はある。でもこれを機に選択する事に慣れてほしいんだ」
「大会前のジャンプ編成だけじゃない。いのりさんにはこれから何度もこういう選択があると思う」
「何をどれくらい取り入れて何を捨てるか。一つ一つの小さな選択が大きな枝分かれになり、将来かけがえのないの世界に一人だけの個性の選手のあなたを作るんだ」
さらに続く。
「強くなればなるほどいろんな意見を持つ大人があなたの前に現れる。その時にあなただけの行き先を他人にいいように決められない選手になってほしい」
「あなたは大切な人生を懸けているんだ」
「あなた自身が自分の選択を軽んじてはいけないよ」
なんだこの1200点みたいなあまりに立派で美しい日本語は……。
いのりが理解し、考え、躊躇する。
「司先生は私が間違えてもきっと怒らない」
「でも私が司先生が考えてるのと違うのを選んだせいで・・・優勝できなかったら・・・」
司が返す。
「好きな方でいいよ」
「どっちを選んでも俺は必ず優勝へ導くから」
なんだこの12000点みたいな漢は……。
自分の人生にも司先生が必要だった気がする。誰か俺を救ってくれないか。
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序盤はまだ話の規模がシングルループがどうとかで、読者がテレビで見るような大会とはレベルが明確に異なるので、子供の成長を見守るような共感ラインで読み進めていくことができる。
いっぽう、1巻時点で「才能のある子どもの人生に便乗して(自分の)無念を晴らそうとしている訳ではありません」と明言してくる胆力もすごい。現代で「子供と大人」の関係を扱う以上、作者が前提としてハッキリ主張したかったんだと思います。
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◇ファンタジーとしての夜鷹純と狼嵜光 - 子供の世界
まず一つ目の大会、名港杯に向けて。この時点では子供 - 大人、子供 - 子供の世界を中心に描かれており、特に後者の子供の世界が微笑ましい。大人を拒絶して子供だけの世界に籠ろうとするミケとのやりとりは、ジュブナイルそのものです。小中学生の部活スポーツものに近い感触があります。
前後して、ライバルもとい憧れの存在として「狼嵜光」が登場します(本編とは関係ないが、「子供」の顔の書き方について、作者は「乳児」「幼児」「小学校低学年」「高学年」「中学生」のスコープで明らかに描き分けており、怖いスゴい)。
夜鷹純と光はどこか浮世離れした、この時点では「フィギュアスケートの神・天使」のようなイメージとして現れます。光がジャンプする見開きは、いのりからみて「美しく、はるか遠い」ことがパッと伝わる素晴らしい一枚絵です。
光は「氷に乗れない人の言葉なんて信じなくていいよ!」と喝破する。これは明確に子供 - 子供の世界であり(コロコロコミックに近い)、ゆえに司では踏み込めない領域から、いのりをこの上なく勇気づける。
◇名港杯 - いのりの自立
このファンタジー、つまり「夢」に向けて、いのりは自身の気持ちを確として自立させるに至るのが、名港杯。
直前練習が上手くいかなかったことで、お母さんと司先生、つまり大人 - 大人の世界が揺らぐのをいのりは捉える。
「まただ・・・」
「お母さんは多分私を庇ってくれている」
「先生は困ってる」
「出来ないせいで大人の人を困らせて・・・スケートをはじめたのに何も変わらない」
だけど、外の子供が言葉を投げかける。
「見て!お姉ちゃんたち綺麗だねぇ」。
いのりは外から見てもう立派なフィギュアスケート選手なのです。この言葉をうけて、いのりは意識を変えます。大人たちの世界に、自分の意思でもって踏み込む。
バッチ試験編は、この「子供」「大人」の世界の交錯の仕方が本当に見事だと思います。
そしてこれは、オリンピックが見えてきてより"プロ"※に近い競争が行われるフェーズでは描きづらい、この時点だからこその描写です。その自立のキッカケとなった「外見的な衣装」を調整したのが、「外からの声」に苦しんだお母さんである構図も美しい。
つづく西日本大会編で、蛇崩先生(←すき)/絵馬選手との試合を経て、いのりはスポーツ選手として完全に自立します。
「小さいうちから積み重ねた量の差を私はこの先ずっと超えることはできない 遅く始めた分の時間は取り返せないんだって・・・」
「だから」
「私はそれを諦める理由に絶対にしない」
『メダリスト』あるあるだと思うんですが、全員あまりに立派過ぎて読んでて「お、おでは……」になる。人間としての金メダリストしかいない。お前たち満点だ。俺は、ゼロ点だ……。
★鴗鳥理凰くん登場 - 少年の自立
そして少年がひとりメインキャクターとして現れます。鴗鳥理凰くんです。自分が推す3人のうちの1人目。この子は非常にコロコロ読者的にもなじみ深いというか、自分の少年時代を思い出しながら共感&応援したい感がマックスになるキャラとなっています。卑屈な物言いをしてしまうところ、諦めきれなかったところ、頭を下げて自身の目標カードを明浦路先生に渡すところ、好感度MAX。
『メダリスト』の大テーマのひとつに、環境や才能、選択について「持っている・いない」「選んだ・選ばなかった」の両ルートを肯定しようとする姿勢があると思う。
今後も沢山出てくるので、これを「肯定の双翼」とでも呼びましょう。
いのりと理凰は「環境」における一例です。
環境を持たなかったいのりは、(もちろん司先生による自己肯定感の支えがあってこそですが)狼嵜光つまり"フィギュアスケート世界への憧れ"によって自立に至る。ゆえに「私がスケートを特別にするんだ」。
いっぽうで環境を持っている理凰は、明浦路司の道程と体現、つまり"人間的な共感と尊敬"によって自立に至る。
一見どちらも司が導いたようですが、根本において、いのりは光、理凰は司からと、異なる感情・異なるアプローチでもって救い上げられています。ちゃんと違うドラマを浮かびあげているんです。物語全編に言えるんですが、この視界の広さはすごい。
『メダリスト』では、多様なバックグラウンドを持った人たちが、その多様さの交錯によって他人を救い上げていく。こうした構図が全編に敷き詰められている。
理凰が過去の自分を振り切り、「どうだ!」とばかりに笑顔を見せるシーンでは思わず拍手をしたくなりました。父親たる鴗鳥慎一郎がのちのち延々と司に感謝を告げに走ってくるのも理解できる(のちの巻を踏まえてから読み返すと本当(マジ)でよく理解できる)。そして理凰くんが司先生に向けた笑顔には作者の癖(へき)が少し漏れてると思う。
ところで(唐突)、ふたりの関係性はとても良いと思う。"ラブコメの波動"を感じる。感じないか?いのりが「もう~!」と向かっていく男子は理凰だけなのである。感じろ。いのりを小突いて「そんなになる必要ない」と言うところの理凰の表情、作者気合いれすぎだろ……。
4巻までで、ふたりは"フィギュアスケート選手"として自立します。
そして物語はスポーツ競技として、より過酷な世界に入っていく。子供 - 子供の無邪気な世界から離れていく。色々書き殴ったけど、『メダリスト』全体として、4巻まではまだまだ序章だと思います。アニメも1期はここまででしょうか?ここからさらに駆け上がっていくんですから。
次回はノービス編。
自分が推す3人のうちの2人目が登場する。
八木夕凪です。
【関連作】
「パーフェクトコミュニケーション」感として、『スキップとローファー』の1年目とすごく近いものがある。どちらもアフタヌーンですね。
(続)
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