鹿児島睦さん(撮影 石塚定人)
肩書は陶芸家。しかし手がけている作品は陶器にとどまらない。ファブリックからペーパープロダクト、はたまたウォールペインティングに至るまで、鹿児島睦の才能を前にして、肩書とはあまり意味のないものだと気付かされる。
この秋、昨年に続いて2年目となる「鹿児島睦の図案展」が、東京・北青山のショップ「doinel(ドワネル)」で開催された。「図案」とは、柄や文様のこと。一般的には素材や技法に合わせて図案を変えることが多いなかで、テキスタイルに施す図案と同じものを陶器にも施しているのが、鹿児島さんの作風の魅力。
鹿児島さんが制作拠点とするアトリエは、生まれ育った福岡にある。大学を卒業後、地元のインテリア会社に3年勤務した後、創作活動をするかたわら、福岡のザ・コンランショップでディスプレーからマネジメントまでの幅広い仕事をこなし、35歳で陶芸家として独立。
「会社員時代に学んだのは、お客さんとの接し方や交渉の仕方。それは陶芸家を生業とするいまでも生かされています。だから陶芸という仕事を特別な職種ととらえていません。数ある仕事のひとつと変わらないです」と鹿児島さんは言う。
個展に向けて作陶している時間以外は、展覧会や新作の打ち合わせなどで、国内外を出張することが多い。取材当日も、ロンドンで行われる個展の初日に立ち会い、帰国したばかりだった。
買い物が大好きで、ファッションも好きな鹿児島さん。そのスマートな横顔に、新しい陶芸家像を見るようだった――。
装いは訪れる場所への敬意
――鹿児島さんは、作家活動をされる前は会社員だったんですね。
大学を卒業してすぐに就職しました。設計室があるインテリアの会社で、京都の市原平兵衛商店の箸から、カッシーナ、B&B、アルフレックスなど世界の名家具までがそろう会社で働き、そのあとザ・コンランショップに勤めました。トータルで12年、サラリーマン生活をしましたね。
――サラリーマンをされてよかった点は何ですか。
22、23歳の若者が、現場で自分の親よりも年上の職人さんに指示しなければならないわけです。会社の先輩も意図的に勉強させたんだと思いますが、取引先との仕事の進め方とか交渉の仕方とかはそこで学びました。いまの自分があるのも、サラリーマン生活があったからです。遠回りに見えて、じつは僕にとっては、これが陶芸家への近道だったんだと思います。
――ものづくりの仕事を志願する若者が増えています。
いろんな仕事をさせていただいたなかで、陶芸もたくさんある仕事のうちのひとつだとも思っています。べつに特殊な仕事じゃない。いまでも陶芸だけでなくほかの仕事もできると思っていますよ。
――ものづくりにもビジネス感覚が必要だと。
ものづくり仲間に、「私はマーケティングを意識して作っている」と言う人がいます。つまり自己満足で作ってないってことですよね。ギャラリーやショップなど、サポートしてくださる人たちが周囲にいるからこそ、個展や企画展が行えるということをしっかり意識しないと、という意味です。私も同じアプローチだなと思いました。
――お客さん相手だということでしょうか。
考え方とか主義主張を訴えていくのがアートだとすると、そもそも陶器とは用途があるものだから前提が違います。良し悪しを決めるのは私ではなく、それを使うお客さんです。だから私は、創作に対して、つねに客観的というか、距離感を意図的につくるようにしています。もちろん楽しんで作ってはいますが、自己満足では作ってはいない。動物や植物をモチーフにしているのも、個人的な好みもあるけれど、それを嫌う人がいないというのが最大の理由です。
――来年は「ミッフィー」とのコラボ企画があると聞きました。
来年は「ミッフィー」の生誕60周年。記念企画として60体のミッフィーを世界中のアーティストが作ることになって、そのうち15体を日本人が作ります。イラストレーターの福田利之さんとか、きゃりーぱみゅぱみゅのアートディレクションをしている増田セバスチャンさんらと一緒に、私も選んでいただきました。
――いまは作品を制作中ですか。
もうだいぶ完成しています。ディック・ブルーナさんの絵って、黒い線は点描なんです。なので、私は彼の点描をリスペクトしようと思っています。他の作品に比べて、見た目は面白くないかもしれないけど、ブルーナさんが点描で描いていたってことを、多くの人が気付いてくれたらいいなと思います。
――陶芸以外の活動も年々広がっています。
私としては、まじめに陶芸をやっているつもりですが、同業者からは「お前はもう陶芸家じゃない」と言われますよ(笑)。でもたぶん、グラフィックではなく、陶芸をやっている私だから、いろんな仕事をいただけるのだと思います。自分自身、絵がうまいわけでもないし、パソコンで完全版下を作れるわけでもありませんが、平面構成はすごく面白いなあと思っています。
――海外で個展をすると、どんな反響がありますか。
まず、日本の作品って言われたことがないですね。いつもプロバンスや、スペイン、メキシコ、北欧の作品だろうと思われています。見た目だけだと、どこの国の誰が作ったのか分からないから。それでも、最終的に「日本人の作家です」って伝えると、「あ〜、なるほど」ってなるんですけど。
――海外に行かれることが多いのですか。
そうですね。仕事以外では行きません。基本的に休日をとらないので、「出張が休み」みたいな感覚。だから最近は出張大好きです。
――ショッピングは好きですか。
仕事の合間に行くことが多いです。とくに旅先でのショッピングは楽しみのひとつ。
――ファッションもこだわりがありそうです。
こだわりも徐々に変わってきています。若いときはただかっこよければよかったけれど、この歳になると、周りの人が不愉快にならないようにしようと。まあ50歳を前に縮小と衰退の時期ですから、みっともないおっさんだなと思われちゃいけない。とくに個展のときには、清潔感のある服を意識していますね。
――人に会う機会も多いですからね。
服装は会う人と行く場所への敬意の表現だと思っています。ホテルにはホテルの、レストランにはレストランのファッションがあると思います。焼き鳥屋さんに、今日みたいなかっこうでいくのは違うだろうし。やっぱり焼き鳥、食べに来たぞ、というかっこうで行かないと。
――それは具体的にどんなかっこうですか。
もうジーパンにトレーナーですよ。お~い、きたぞ、おっちゃんみたいにね。
(文 宮下 哲)
鹿児島睦(かごしま・まこと)
沖縄県立芸術大学美術工芸学部で陶芸を専攻。卒業後、インテリアショップでのディスプレーやマネジメントを経て、現在は福岡市内にある自身のアトリエにて陶器やファブリック、版画等を中心に制作を行う。
昨年に引き続き、「鹿児島睦の図案展」を開催。ここ数年は、台北、ロンドン、ロサンゼルスと海外でも精力的に個展を開いている。
鹿児島睦公式HP http://makotokagoshima.com/