豊臣秀吉は侵略者?日韓の高校生が歴史認識のギャップに直面 「うらみはしない」戦争中に多数死亡の事故現場で共に花たむける

韓国の南星女子高の生徒も参加して行われた萩光塩学院高の韓国語の授業=2025年10月、山口県萩市

 2025年10月中旬、釜山の南星女子高校の生徒10人が、山口県萩市の萩光塩学院高校を訪問した。韓国政府傘下の財団が日本に高校生を派遣し、各地の生徒と交流する事業の一環だ。
 韓国からの生徒らが参加した韓国語の授業で、日本の生徒らが「この日本人は知っていますか」と質問をした。「大谷翔平は知っていますか」「坂口健太郎は知っていますか」…「豊臣秀吉は知っていますか」
 韓国の生徒らの表情は一瞬緊張した。
 韓国語教諭が場を取りもつ。「豊臣秀吉は朝鮮半島を侵略していて、韓国では(一般的な受け止めとして)『悪い人』なんだよ」。日本の生徒からは「へー、(日本では)悪くないよね」との声も上がった。 
 日本と韓国の間の歴史認識の差を縮め、異なる視点に目を向けるきっかけづくりを目指す交流事業だが、生徒らの認識の差が、思いがけずに出た場面だった。
 日韓の生徒らは交流を通して、どんなことに驚いたり共感したりするのか、密着した。(年齢は取材当時、共同通信ソウル支局 富樫顕大)

▽「立派な人」?
 萩光塩学院高校の近くには、幕末の思想家、吉田松陰ゆかりの松陰神社がある。両校の生徒がフィールドワークで訪問した。おみくじを引いて盛り上がった後、引率メンバーの東北アジア歴史財団の朴漢珉・研究委員(43)は、次のように解説した。
 「(松陰は)日本で明治維新に影響を与えた立派な人物と紹介される。だが、ここから輩出された伊藤博文たちは韓国を植民地にすると政治的に決定した」
 韓国では、初代韓国統監を務めた伊藤博文は「侵略の主導者」として否定的なイメージが強く、松陰はその師匠に当たる。
 日本の生徒からは「聞いたことがなかった」との反応もあり、朴さんは「皆さんは交流を進めながらお互いを知っていってほしい」と語った。

松陰神社を訪れた日韓の高校生。右奥は「東北アジア歴史財団」の朴漢珉研究委員=2025年10月、山口県萩市

▽「部活を一生懸命やっていて不思議」
 韓国からの生徒らは、日本の生徒らの家でホームステイをし、学校では部活も体験した。 実際、そうした時間が一番面白かったと話す生徒らは多かった。
 「(韓国の歌手)IUは好きですか」「(日本のアニメ)『チェンソーマン』が好きです」。好きなK―POPアイドルや日本のアニメを聞いたり教え合ったりし、教室は熱気であふれた。 
 韓国は、日本よりも受験競争が激しいといわれる。韓国の生徒からは「数学の授業は進度が韓国より遅かった」とか「部活を一生懸命やっていて不思議だった。韓国では内申のためにやるくらいなのに、こっちの子たちは本気で楽しんでいた」という感想があった。

韓国の南星女子高の生徒も参加して行われた萩光塩学院高のダンス部の活動=2025年10月、山口県萩市

▽韓国政府の予算で

 筆者は韓国語の授業の翌日、豊臣秀吉について尋ねられた時、どう思ったかを韓国の生徒たちに聞いてみた。金芸娜さん(17)は「韓国で豊臣秀吉が何をしたのか知らないのだろうから、質問者の気持ちは理解できる」と話し、「日本は(韓国が被害を受けたことについて詳しく)歴史を教えていない」と訴えた。

 日韓は2025年、植民地支配からの解放80年、国交正常化60年の節目を迎えた。政治や経済、文化の交流が進んでいるが、歴史認識の差が残る。韓国の公共放送KBSが2025年8月に実施した世論調査では、日本に「好感がある」と答えた人は52%に達するが、「歴史問題で日本の反省、謝罪は不十分だ」と答えた人は80%をしめた。

 東北アジア歴史財団は、「未来の世代が対立を克服するため、相互理解を高める」との目的で、2024年から韓国政府の予算で交流事業を始めた。中学生や中国との交流も一部あるが、中心は日韓の高校生だ。日本の高校へは25年度、韓国の12校の生徒約10人ずつを派遣。訪日しての交流の前と後に、オンラインでつなげての合同授業も実施している。学習内容は学校ごとに決め、萩光塩学院高以外の学校では、原爆被害や在日コリアンの歴史などを取り上げたという。
 財団の南相九・教育広報室長(56)は「韓国の考えが正しいと一方的に伝えるのではない。生徒らがお互いに話をして歴史認識の差を縮められれば」と期待する。

長生炭鉱を訪問した日韓の高校生ら=2025年10月、山口県宇部市

▽戦争中、多数の犠牲出した炭鉱跡地で慰霊
 今回の交流では、山口県宇部市の海底炭鉱「長生炭鉱」跡地も訪れた。太平洋戦争中の1942年に海水が流れ込む事故が起きて日本人47人と戦時動員者ら朝鮮人136人が死亡、遺骨は今も海底にあるとみられる。
 韓国では従軍慰安婦問題を含めて朝鮮人の動員は「強制連行」として関心が高いが、長生炭鉱について日本で注目が高まったのは近年、地元民間団体が潜水遺骨調査を始めてからだ。

 同県山陽小野田市のサビエル高校の生徒らも一部の日程に合流。サビエル高校の野口美奈子教諭(52)は、朝鮮人が多数動員されたことや遺骨が放置されたことは「2023年ごろに知ったばかり。たぶん教えられていなかった」と打ち明けた。
 生徒らは、炭鉱の通気口が海中から突き出た浜辺で追悼の白い花を投げた。
 長嶺壮一郎さん(17)は「韓国の人の犠牲が伝わらなかったら、歴史として間違ったことを伝えることになる」と語り、浅井咲智さん(16)は「(歴史を)うやむやにせず、遺骨を遺族に返すことができれば」と願った。
 一方、李知娥さん(18)は「日本人の死者も多くて驚いた。私は朝鮮人が犠牲になったからと日本を恨みはしない。日本と韓国の学生が真実を学び、伝えるのが大事だ」とかみしめた。

 萩光塩学院高は以前から力を入れていた国際交流がコロナ禍を経て減った。そのため、こうした交流事業を歓迎している。中村柔道校長(55)は「日本と韓国の歴史観を両方学んで自分なりに解釈できるようになってほしい」と話し、日本から韓国を訪問する交流事業も進んでほしいと期待する。現地学習を引率した田中愛教諭(41)は「(参加した生徒らが)将来もっと良い日韓関係を築いてくれたら」とエールを送った。

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