「太平洋戦争と銀行」で、戦争を遂行する「財」に蒙を開くーまだまだ理解不足ですが、一刻も早く紹介したくご紹介
ネットで紹介されていて、中の人も全く詳しくない分野ですので、これは読まねばと先日、近所の書店で見つけて購入した「太平洋戦争と銀行」。とにかく一通り読んだだけで、まだまだ自分のものとできていませんが、早くご紹介できればと思い、取り上げる次第です。
著者の小野圭司さんは防衛省防衛研究所主任研究官で、元々は京大経済学部を卒業後、住友銀行を経て防衛庁防衛研究所に入所され、社会・経済研究室長などを経て2024年より現職であると。つまり、経済を勉強され、金融の実務も担い、その上で書かれた本ということです。これまで戦史関連では軍票の濫発ぐらいしかうまく思いつかなかったのですが、戦費の調達と清算という流れをつかむのに、大変良い本だと思いました。
こちら、まえがきを一読いただいただけでも、複雑な戦争の流れを理解するのに、金融の知識が役立ち、なおかつ必要かが感じられます。そして、日本が盧溝橋事件を発端に1937(昭和12)年から1945(昭和20)年まで、とにかく戦争をなしえた結論が、さっそく示されています。「金融による『国力の水増し』」と。
そして、お金というものが、結局のところ「信用」によって価値を生み出されていることも。その「信用」をいかに生み出すか、もポイントになってくるのです。それは、敗戦後の清算にまでつながるという視点も新鮮でした。
よく、山本五十六連合艦隊司令長官が1940(昭和15)年の日独伊三国同盟締結後、近衛文麿首相に対米戦の見通しを尋ねられた時の返事、「初め半年か1年の間は随分暴れてご覧に入れる。然しながら2年3年となれば全く確信は持てぬ」を、この本でも引かれています。そして「半年や一年であれば、『今あるもの』で戦えばよい。軍事力の勝負だ。ところが二年や三年となると、『作りながら戦う』ことになる。戦いは経済力の勝負に変質する」(同書引用)と指摘しています。米国の経済力を知る、山本五十六らしい、正しい返答であったのは間違いありません。
そして、その経済力とは、生産を行うことで初めて生まれるものとします。例えば、資源があるだけでは生産にならず、それを加工して付加価値を付けることが生産であるというのです。米国の強さは、自ら資源があり、かつ、生産能力があるという点です。
日本には資源がありません。そこで外部から調達し、生産するということを続けなければなりません。その付加価値を増やすため、金融緩和や増税や軍事国債の発行となり、軍需品を調達していくと。戦争が終局に向かうほど、臣民に課せられる貯蓄目標の額が莫大になっていくのは、この無理がどんどんかかってくるからなのです。それは、戦時生産の先送りが、雪だるま式に増えていったというわけなのです。
そして敗戦になっても、この数字は帳尻をつけないと財政が破綻することになります。そのために日本が戦後とった手段が、新円発行、旧円は無効になるとし、預金させて封鎖、引き出し金額を制限という手で、すりまくった紙幣を市中から回収してのインフレ対策でした。それでもインフレは上昇していきましたが、もしこれをしなかったら、それはもっと酷い状態だっただろうと著者は指摘します。
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一方、「金融による『国力の水増し』」という点について。これは、植民地や中国などの傀儡政権に銀行をつくり、日本銀行との間に特殊銀行や外国為替銀行をかませて、日本が外国銀行に資金を貸し付け、それを現地通貨で引き出し、軍事費などに使う手です。例えば、中国での戦費は、汪兆銘政権下の2つの中央銀行に貸付けをして、軍事費として引き出すという形です。この方法ですと、現地でインフレが進行しても、現地通貨を使うため、日本にインフレの影響が来ないというからくりになります。
初期に濫発された軍票が現地銀行の通貨に切り換えられていきますが、それが現地通貨の膨張になり、結局各地でのインフレを止めることができないまま、それら現地通貨を通じた水増しで戦争を継続できたと指摘しています。
ただ、その結果として、支配地におけるインフレが日本への反発となっていったこと、そして現地銀行の発行する紙幣の信用が落ちていったことは否めない事実です。お金は、あくまで信用されるからお金なのです。かつては、金や銀と引き換えられるという、動かぬ価値で発行されていましたが、これでは発行できるお金に限度があり、経済が発展するにつれて、兌換紙幣が姿を消し、国の中央銀行の信用による、現在のようなお金が主流となるわけです。敗戦間近となれば、日本の信用はどんどん落ちるわけですから、それも急激なインフレにつながっていったでしょう。
本書では、さらに戦時下の最前線で、軍の金庫番として活動した銀行の話、敗戦による各国の資産接収の話など、経済と絡む人間模様も描かれていて、そうしたストーリーも大変面白いです。ソ連の接収は略奪だったとか、平穏な接収では銀行員らの帰国の手当てまでされたとか。
また、ポツダム宣言受諾の海外向けラジオ放送が1945年8月10日にあったのを受けて、中国における戦費が傀儡政権の銀行から引き出されている分は負債なので、接収される前に日本で動かせた金17トンを当時金が高騰していた中国で現地銀行に売却して一気に清算するなど、興味深い話は尽きません。
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戦後の預金封鎖も、実は戦争の軍事会計閉鎖に向けた動きの一環と知り、なるほどとつながりました。そして、外地銀行の預金を持って帰国した人たちが、それを換金してもらえないことになって、話がちがうとすったもんだするうちに、どんどんインフレが進行し、影響がなくなったころに「額面で」引き換えるという形で清算する国の冷徹さ。戦争とは、そういうものだと、つうづく思わされました。
まだまだ、読み込んで、もっとお話しできるようになりたいと思いますが、あくまで中の人のこれからの知識としておいて、とにかく良書ですのでオススメいたします。そして、今、戦時下でもないのに膨らみ続ける先送りの国債を当時と比べながら眺めると、実に暗澹たる思いがしてきます。そんな現在にもつながりうる内容ですので、特に簡単に戦争戦争という方たちにも読んでいただきたいものです。軍事にも、分相応というものがあります。GDPが下がり続けるとき、新たな価値を生み出さない軍事費を増大させる危険性も、感じてもらえると思います。
追記・満州国建国の功績といえるのは、通貨の統一だったというのも、この本で知りました。やはり、国が乱れるというのは付け入らせる隙になる教訓ともいえそうです。
追々記・過去に書いた通貨関連記事です。本書を読む前の荒刷りの記事ですが、ご参考になれば幸いです。
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いつも情報発信有難うございます。私もこの本をまだ読めずにいたのでご紹介助かります。 戦争と経済の恐ろしいカラクリ。既にご存じかもしれませんが、こんな動画紹介されてきたのですが、偶然でしょうか? ドイツが破産していたとき、ヒトラーはどうやって巨大な軍隊に資金を提供したのか? https:…