第3回首相の「不用意」答弁で日中関係悪化 不満漏らす経済界、打開の道は

小野太郎 清井聡

 険悪化の一途をたどる日中関係。ただ、この状況は高市早苗首相(自民党総裁)が当初思い描いていたものとは違う。対中強硬派で知られる首相だが、まずは看板政策の経済政策に力を入れることを優先し、政権発足直後に石破前政権と同じ「戦略的互恵関係」を踏襲する意向を示した。中国とも経済的に良好な関係を維持する必要があると考えたからだ。

 だが、その計画が壊れた直接の原因は、他ならぬ首相自身の「不用意な発言」(政府関係者)だった。昨年11月上旬の臨時国会で、首相は立憲民主党(現中道改革連合)の岡田克也元外相の追及を受けるうち、「(台湾有事は)存立危機事態になりうる」と従来の政府見解を踏み越えて答弁。想定問答集にはない文言で、首相がアドリブで答えたものだった。

 もともと首相を保守派の政治家と位置づけ、親台湾派的な言動にも警戒感を持っていた中国側。首相答弁を理由に日本への渡航自粛要請や日本産水産物輸入の事実上の停止など経済威圧策を相次いで打ち出し、高市政権への圧力を強めていった。

「けんかの仕方間違っている」、経済界に不満

 日本側が今、最も警戒するのが、中国産レアアース(希土類)の対日輸出規制だ。レアアースとは、ハイテク製品に欠かせない17の元素の総称のこと。モーター用の高性能磁石などにも使われ、電気自動車や高性能なスマートフォンをつくるのに欠かせない。米中貿易摩擦が激化した昨年4月に中国が輸出を許可制にすると、日本でも供給が滞り、スズキが小型車「スイフト」の生産を一時止める事態が起きた。

 首相答弁で日中関係が悪化する中、中国政府は1月上旬、デュアルユース(軍民両用)製品の対日輸出の規制強化を打ち出した。詳細は今もはっきりしないが、製造業を中心に日本企業は、レアアース供給に支障が出るのではないかと神経をとがらせている。中国側は「民生用途に関わるものは影響を受けない」としているが、日本商工会議所の小林健会頭は15日の会見で、民生用途であっても、許可が遅れ始めていると指摘。「中国のさじ加減で輸出許可が下りたり下りなかったりする。遺憾であるといっても入ってこないと日本経済は本当に困る」と述べた。

 日本政府や企業は近年、中国以外の国に調達先を広げたり、レアアースの再利用技術を高めたりして「脱・中国依存」を進めてきたが、対策は十分ではない。

 ある自動車部品メーカー幹部は「首相として普通に振る舞ってほしい。余計なことをしないで欲しい」と訴える。大手電機メーカー幹部は「首相は産業界にどれだけのマイナスのインパクトがあると思っているのか。けんかの仕方を間違っている」と不満を漏らす。

 レアアースの供給不足が深刻化し工場の稼働などに影響が出れば、経済界で高市政権へのこうした不満が強まる可能性もある。

解散で局面打開ねらう高市政権

 日中関係が行き詰まるさなか、首相は今回の衆院解散に踏み切った。首相周辺は「政権が安定すれば中国側の見方も変わる」と語り、今回の解散には衆院選勝利で強い政権基盤を作ることで、日中関係の局面打開を図る狙いもあったと明かす。とはいえ、与党勝利でも中国側が政権への態度を変える保証はない。

 一方、日本がこれまで台湾問題を始め対中政策で足並みをそろえてきたはずの唯一の同盟国・米国の外交政策も、不確実性が高まっている。

 昨年11月下旬の日米首脳電話協議では、首相答弁から始まった日中対立問題も議題となったが、対中通商交渉を重視するトランプ米大統領は首相答弁への支持は表明せず、代わりに事態の沈静化を図る必要があるとの認識を示した。トランプ氏は新たな国家安全保障戦略で、米国が西半球の権益確保に集中する「ドンロー主義」を打ち出しており、ベネズエラ攻撃やグリーンランド領有要求など、既存の国際秩序を壊す動きを加速させている。米中両国を「G2」と表現するトランプ氏のもと、米中が接近し互いの勢力圏を認め合うようなことが起きれば、日本にとって最悪の事態となる。

 日本政府は長らく日米同盟を外交安保政策の基軸としてきたが、ある外務省幹部は「米国の関与を前提とした外交の土台が揺らぎつつある」と危機感を示す。選挙後の政権には、対中、対米ともに難局が待ち構える。

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この記事を書いた人
小野太郎
政治部|防衛省担当
専門・関心分野
国内政治、沖縄、安全保障
清井聡
経済部
専門・関心分野
企業経営、ガバナンス、産業政策
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