第28話 テーラーサイバへようこそ

「もっ、もうらめっ……死んじゃう……っ」


 何度も絶頂を果たしたクラリッサは、濃厚なメスの匂いを部屋中に撒き散らしながら、天井を仰いでいた。

 行為を始めてから、二時間は経過しただろうか。その間、何度もクラリッサを抱き、処女を喪失させたばかりだというのに、俺は続けて愛を注ぎ込んだ。


「お腹が膨れてしまうわ……」

「そうか、じゃあ押してみるか」

「なっ、あっ……バカ! 何してるのよっ!」

「ははっ、悪い悪い」


 クラリッサの体内には俺の子種を大量に注ぎ込んでやった。

 手でお腹を押してみると、彼女のお腹に溜まっていたものが下半身から零れてきた。


「これじゃあ本当に孕んじゃうじゃない……」

「――でも、魔法がかかってるんだろ?」

「そうだけれど……」


 クラリッサに言われるまで俺は知らなかった。

 実はこの世界には避妊魔法なるものがあるらしく、クラリッサは今日、それをかけてからやってきたらしい。だから俺がいくら彼女の中に注ぎ込んでも子は孕まないのだとか。


 アーリィには聞いたことがなかった魔法だ。もしかするとあの小さな村では教わらなかったのかもしれない。


「俺みたいな平民の子なんて産んだら、伯爵家の名に傷がつくもんな」

「っ……そ、そうね。あなたの子供なんて産んだら最悪よっ」


 減らず口を叩くクラリッサ。だが、これこそが普段の彼女である。そう言いながらも、今は俺の腕枕に包まれて、寄り添っているのだからわからない。


「――背中は痛くないか?」


 ふと、俺は聞いてみた。


「ええ……痛くないわ……それに、不思議とあなたには本当の私を見せてもいいと思っているから、少しだけ気が楽よ」


 ただ性行為したわけではなかった。俺なりにクラリッサの傷を癒そうと、わざと背中側が見えるようにして、彼女の火傷痕を指でなぞったり、舌で舐めたりした。

 これで少しでも自分の体が好きになれたのかはわからないが、思いの外クラリッサは背中で感じていた。


「はぁ……今回はあなたにやられっぱなしだったわ……でも、最初なんてこんなものでしょう。次は私があなたがひーひー言うまで責めてあげるんだから」

「――いや、お前……対価は今回で終わりだろ。次があるのか?」

「っ……し、知らないっ! どうせ私の身体の虜になったのでしょう? 仕方ないから私が相手をしてあげようじゃないっ」


 ぷいと顔を背けたクラリッサだったが、その頬は赤く染まっていた。なんとも可愛らしいではないか。だから俺はグイとクラリッサの顔をこちらへ向けて、キスをしてやった。


「――んっ……ぅ…………あなたって、強引よね」

「自分でも驚いてる。昔の俺はこうじゃなかったはずなんだけどな。クラリッサみたいな高飛車な相手だとこうなるのかもしれない」

「へえ……そうなのね」


 意味深に頷いたクラリッサは再び身を寄せて俺の胸に顔をうずめた。

 そこで報告されたのは、実に朗報と呼ぶにふさわしい内容だった。


「――実はね、あの場に王族がいたんだけれど、アドリアノ宝穣祭の催しの一つを任せるって言われたの」

「それって……望みが叶ったってことか?」

「ええ、そうよ……だからこそ、あなたには感謝しているの。体を差し出しても良いと思ったくらいにはね」


 それで店に足を運んだというわけか。ドレスだけで終わっていれば、約束を反故にされていた可能性もあっただろう。

 だが、それ以上に意外だったのは仕事を得られたことだ。クラリッサが本当に求めていたのは、称賛ではなく結果――仕事そのものだったのだから。


「良かったな……」

「ええ……」


 既に胸に顔をうずめていたクラリッサの頭を抱き寄せ、軽く頭を撫でてやった。

 クラリッサは無言でそれを受け入れた。そんな彼女は小さく微笑んでいるような気がした。


 それから少しだけベッドで過ごしてから部屋を出てクラリッサを見送ろうとすると、部屋の外に倒れていたアーリィを発見した。

 何やら俺達の行為を覗いていたようで、アーリィは下半身を弄りすぎて気絶したようだった。


 それを見た俺とクラリッサは、顔を見合わせて笑ったのだった。



 ◇◇◇



 ――あれからさらに一週間が経過した。


 相変わらず、俺の店には客が来ていなかった。

 アーリィがせっせとチラシを作って配ってくれてはいるのだが、クラリッサのようにそれを手にして訪ねてくる客は一向に現れない。


 ここは王都だ。少し歩けば、それぞれの生活様式に合わせた大きな店がいくつも並んでいる。だからこそ、新しくできた小さな店に、わざわざ足を運ぶ理由がないのだろう。


 そんなことを考えていた、その時だった。

 カランカラン、と入口の扉の鈴が鳴り、誰かが入ってくる。


 ――ついに新しい客か!?

 そう思い、寝そべっていた椅子から勢いよく立ち上がって出迎えると――


「――また来てやったわよ、レイジ!」


 傲岸不遜な態度で店に踏み込んできた相手――それは、クラリッサだった。


「なんだ、お前かよ」

「なんだとは何よ! 私が来てあげたんだから、ちゃんと出迎えなさいよねっ!」

「へいへい……それで、今日は何の用事なんだ?」


 今回は後ろにエイラも控えており、クラリッサに続いて店内へ入ってきた。

 初めて訪れた場所だからか、エイラは物珍しそうに、並べられた衣服へと視線を向けている。


「アドリアノ宝穣祭!」

「おう。それがどうした?」

「あなた――私に協力しなさい!」

「絶対無理! 帰れ!」


 俺は即答で断った。

 アドリアノ宝穣祭は、四年に一度開かれる王国最大級の祭りだと聞いている。言ってみればオリンピック級の一大行事。

 そんな祭りを手伝えだなんて、どう考えても面倒な仕事になるに決まっている。


「――あ、あなたの好きな格好をしてあげるわ……それで、前以上に好き勝手してもいいのよ?」

「クラリッサ様!? 何を仰って……!?」

「…………そういえば、エイラには伝えてなかったわね」

「な、なんのことでしょうか!!」


 正直、クラリッサが好きな格好をしてくれるということについては、かなり心が揺らいだ。裸の付き合いにはなったが、えっちな服装を着せて何かのプレイができると考えたら、それはそれは興奮して仕方ないからだ。


 この世界にはないであろう日本の体操着とかスク水とか、セーラー服だっていい。そんなことを妄想していたのだが、その前にエイラがクラリッサに質問責めをしていた。


 体を対価に差し出してドレスを作ったことは、あれだけ近い立場のエイラにも言っていなかったらしい。でも、言っていれば止められていたかもしれない。


 この後、クラリッサはエイラとの言い合いが続いた。「そんなに簡単に体を許してはいけません!」と言いながら、怒ったり悲しんだり……とにかく大変だった。

 だが、最終的にはなぜかエイラが「私も抱いてください!」と俺に迫ってきたところでクラリッサが止めに入り、ひとまずは話を終えたが、問題はまだ残っていた。


「――とにかくだ。俺は手伝わないからな」

「いいわっ。また来るから。絶対に協力させてみせるわっ!」


 そう言い残し、クラリッサは勢いよく店を出ていった。

 どうやら、あっさり引き下がる気はないらしい。今後のことを思うと、自然と憂鬱な気分になる。


「ふふっ。クラリッサ様、なんだか以前より元気になりましたねっ」

「まあ……そうかもしれないな」


 奥から出てきたアーリィが、どこか楽しそうに声をかけてくる。


 今日のクラリッサの表情は、確かに自信に満ちていた。

 あの社交界での大成功が、彼女にとって相当な自信に繋がったのだろう。


「――私は、結局レイジさんが手伝っちゃうと思うんですけどねっ」

「アーリィ……変なこと言うなよ……俺は絶対に嫌だからな……」


 そう言った直後だった。


 ――カランカラン。


 またクラリッサが戻ってきたのか。

 そう思いながら、鈴の鳴った扉へと視線を向ける。


「あ、あの……ここって、このチラシのお店で合っていますか……?」


 そこに立っていたのはクラリッサではなく、一人の女性客だった。

 俺は思わずアーリィと顔を見合わせる。

 そして――


「「いらっしゃいませ! テーラーサイバへようこそ!!」」


 二人揃って、これまでで一番元気な声で客を迎えたのだった。






――――――


ということで、今回で第一章を終了とさせていただきます!

ここまで読んでいただきありがとうございました!


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