2/14
翌日
締め切ったカーテンの隙間から、夏の容赦ない日差しが差し込んでいる。
優奈は、まるで深い水底から浮上するようにゆっくりと目を開いた。
明け方に肌寒さを感じ、薄手のタオルケットを必死に手繰り寄せた記憶は微かにある。しかし、はっきりと意識が覚醒した今、タオルケットの下の肌が、自分の汗とは違うねっとりとした不快感に覆われていることに気づいた。
その中で、覚えのない微かな香りが鼻の奥をくすぐる。
(これは…ムスク?誰の?)
慌てて上体を起こすと、昨夜着用していたブラウスやタイトスカート、そして上下揃いのピンク色の下着までもが、まるで暴風に晒されたあとのようにベッドの周囲に無残に散乱している。ここで初めて、優奈は全裸でベッドにいた事に気づいた。
「……うそ……なんで?」
震える声が、静かな部屋に空虚に響く。
記憶の糸を辿ろうとしても、泥のように濁った意識の中にあるのは、男の荒い鼻息と、自分の身体を内側から破らんばかりに突き立てられた「何か」の熱い感触……。その断片的なフラッシュバックが、二日酔いの頭痛よりも鋭く優奈の脳を抉った。
昨夜、二次会のバーを出たところまでは覚えている。けれど、そこからどうやってこの部屋まで帰ってきたのか。
思考を邪魔するほどの激しい喉の渇きに耐えかね、飲み物を取ろうとベッドから足を下ろした、その瞬間だった。
……ドロリ
膣の奥から、滑り落ちるように重い熱が太腿の内側を伝った。同時に、何か得体の知れないものが挟まっているような違和感。
優奈は氷ついたように立ち尽くした。自身の経血ではない。それは、自分以外の誰かが、自分の内側を容赦なく汚したという動かぬ証拠だった。
「……えっ……そんな…」
慌てて股間を押さえ、浴室へと這いつくばりそうになりながら駆け込む。昨夜、この部屋で何が起きたのか。優奈の全身は、冷たい汗に支配されていた。
いつもより熱めのシャワーを浴びながら、優奈は身体中の異変を探る。乳房が張ったように痛むのは、記憶にない昨夜の出来事に起因しているのだろうか。
もはや二日酔いの頭痛も、喉の渇きさえも忘れ、泣き出しそうになりながら優奈は自らの身体を洗い流す。
下腹部に飛沫を向け、膣の奥から溢れてくる体液を洗い流そうとした時。いつもはきつく閉じている自身の肉の穴はだらしなく開き、スムーズに指を受け入れてしまう。
ここで初めて、否定したかった膣の違和感の正体が確信に変わり、優奈は言いようのない絶望感に浸る。
(昨日、誰かが…私を…)
重い足取りでシャワーから出た優奈は、湯気で曇った姿見を拭い、そこに映る自分の姿を見て息を呑んだ。
白皙の太腿の内側、付け根に近い部分に、赤紫色の小さな痕がいくつか浮き出ている。それは、抗う隙も与えず強引に脚を割られ、固定された際についた指の痕だった。
「……えっ」
優奈はその場所を、自らの手で覆い隠した。
恋人である智也との穏やかなセックスで、こんな痕がついたことなど一度もない。昨夜、この部屋にいた「誰か」は、それほどまでに獣のような力で自分を蹂躙したのだ。
鏡の中の自分は、いつも通り凛として見える。しかし、その内側には、正体不明の男に刻まれた「暴力的な熱の記憶」が、まるで消えない汚印のように居座っていた。
優奈は髪を拭き上げながらテーブルの上に置いてあったスマートフォンを手に取る。
SNS、通話履歴、データフォルダ…
震える手で全てを確認してみるが、特に昨日の事に繋がるような痕跡は見当たらなかった。
その後、ベッドの周りに散乱している衣服を拾い集める。その時、先ほどベッド上でも感じた微かな匂いをブラウスから嗅ぎ取った。
(これは…ムスクでも…甘い。フローラルと…サフランが混じったような)
優奈は受付という仕事柄、訪れる男たちが纏う香水の銘柄に敏感だった。しかし、このブラウスの襟元に染み付いた、男の体温を想起させる野卑な匂いは、自分の知るどの紳士的なビジネスマンとも合致しなかった。
優奈はブラウスに顔を埋め、その匂いを思い切り吸い込んでみる。その瞬間、吐き気を催すような嫌悪感と同時に、下腹部の奥が「ズキン」と熱く疼いた。
優奈に得体の知れない恐怖心が訪れる。
シャワーで濡れた髪を掻きむしりながら、昨夜の記憶を呼び戻そうとする。微かに思い出されるのは、智也との優しい夜には決して訪れなかった、身体の芯が痺れるような、暴力的なまでの充足感。
(……そんなはずない)
否定すればするほど、昨夜の男のムスクの香りが、彼女の肌の奥から甘く疼き始めていた。
優奈を犯した夜の動画を、平井は暗い自室で何度も見返していた。
スマートフォンの小さな画面の中で、あの気高い受付嬢がペニスを突き上げられるたびに無防備に身体をよじらせ、時には弓なりに反らし上げている。
乳房を揺らし、顔を歪めながらシーツを固く握り締めている様子は淫らの極みだった。
欲望を叩きつけたあとの秘部を接写した場面では、膣口がヒクヒクと痙攣し、中に放出された体液を溢れさせている。
その様子は、清楚な雰囲気を放つ優奈からは考えられないほどの痴態だった。
情事を終えた後の全身ヌード、固く尖って乳房に影を落とす乳首。見事な曲線を描くウエストからヒップのライン。
その様々な映像は、平静になったはずの平井の理性を破壊するほどの衝撃だった。
(……足りない。もっと、あの感触をもう一度…)
到底収まりのつかない昂ぶりを抱えた平井は、スマートフォンを操作して風俗の情報サイトを開いた。
条件はただ一つ。「北条優奈」に似ていること。
長い茶髪、清楚な顔立ち、そしてスレンダーながらも豊かなバスト。ようやく見つけた「優奈の面影」を持つ女「ユキ」を、平井は即座に指名した。
股間を膨らませながら訪れたのは、フェラチオ抜き専門の高級ファッションヘルス。
部屋に案内され、シャワーを終えてベッドに横たわった平井の「緊張した塊」を見た瞬間、担当した嬢の手が止まった。
「……すご……。お兄さん、これ、本物?」
プロとして数多の男を見てきたはずの彼女が、驚愕を隠せずに目を見張っている。
平井はこれまで、人並みに何人かの女性と経験を重ねてきた。
その誰もが、彼のモノを受け入れる際に顔を歪め、「大きい」「痛い」「そんなの入らない」と声を漏らした。だが平井は、それを女特有の「大げさな演技」か、あるいは「自分が下手だから拒絶されている」のだと、解釈してきたのだ。
「……お兄さん、これ、自分がどれだけ凄いか分かってる? 本職のAV男優でもなかなかお目にかかれないわよ。この太さと、この亀頭の張り……。上に反り返ってるのも反則級だし。これに本気で突かれたら、普通の女は逃げられないわ」
その道のプロに、いわば「規格外の凶器」としてのお墨付きを与えられたことで、平井の中の何かが弾けた。
自分のコンプレックスだと思っていた「巨大さ」は、実は女を支配するための「最強の牙」だったのだ。
平井が黙って見下ろす中、彼女はうっとりとした手つきで、平井のペニスをなぞり、口に含む。
脳裏には優奈の掠れた喘ぎ声が響いている。サイトで探した「北条優奈」の面影を持つ女が、今、自身に口を使っている。
そんな状況に平井は酔いしれていた。
「こんな大きいの…口が疲れちゃうから…素股でいい?」
ユキは含みのある表情のまま平井に跨ると、ローションをまぶしたペニスに股間を押し付けて腰をゆっくりと動かし始めた。
目の前で柔らかな乳房が揺れ、彼女は身体を弓なりにして湿った吐息を吐き続けている。
やがて…その前後の動きが大きくなり、平井の亀頭が彼女の膣口あたりに触れる。
「……ねぇ、お兄さん。今日だけ……特別。我慢できない……ピル…飲んでるから…入れていい?」
髪を乱した彼女は、眉を下げた表情で平井に哀願の言葉を口にした。
プロの嬢に、金をもらう立場であることを忘れさせ、ルールを破ってまで「挿れてほしい」と哀願されたという事実は、平井を歓喜させると共に、これまでにない全能感を植え付けた。
「くっ……スゴい…届いてる…あぁっ……こんなの…」
固く緊張した平井を受け入れたユキは、顔を歪めながら絶賛の言葉を口にし、激しく腰を振り立てる。
その悲鳴に似た喘ぎ声は、平井がその体内に欲望を放出するまで続いていた。
(本職の嬢ですらこうなるんだ。あの素人の、ましてや潔癖そうな北条優奈が、これを受け入れて無事であるはずがない……)
放出の快感に震えながら、平井は微かな笑みを浮かべていた。
帰宅後、平井はスマートフォンの動画を再び再生した。今度はスローモーションで、優奈の反応を細かく観察していく。
何度も巻き戻し、一時停止を繰り返すうち、平井はあることに気づいた。
「…ここか」
優奈が最も激しく身体を反らし、白目を剥くほどに理性を飛ばしている瞬間。それは、平井の巨大な亀頭が、彼女の膣内の特定の角度…子宮口を下から斜めに抉るように突き上げた時だった。
優奈本人すら気づいていないであろう、彼女の肉体の最奥にある「急所」。それはあの風俗嬢に言わしめた「反則級に反り返ってる」というペニスの形状の賜物だろう。
プロの嬢でも耐えきれない自らの質量を、この角度で叩き込めば、北条優奈という女は二度と自分なしでは満足できない身体になる…
平井は暗い部屋で、獲物の急所を完全に見抜いた狩人のような、冷徹な笑みを浮かべていた。