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弱く愚かになる人間達

Xには定期的にバズる言説がある。曰く、最近の子供は性淘汰で賢くなってる強くなってる美しくなってる或いはその全てを兼ね備えるようになってると。正直この手の言説は「中学校の理科の教科書を読み返せ」で終わる話で、私のnoteの読者なら振り返るまでもないだろうが、義務教育を忘れてしまった方々の為に少しだけ説明する。

また上記の言説を唱える方々は中学校レベルの専門用語も覚えていないと考えるのが妥当なので、厳密性を犠牲に「トランプ」と「スープ」に例えて説明する。

まず「最近の若者の〇〇な特徴は性淘汰の結果だ」的な言説は、「モテる親の遺伝子」がそのまま子供に受け継がれ、その子供もまたモテて子孫を残す…という連鎖が必要だ。しかしコノ時点で壁がある。何故なら遺伝子はトランプのシャッフルだからだ。

・半分しか受け継げない:子供は父親と母親からカード(遺伝子)を半分ずつ貰い、新しい手札(個体)を作る。

・「最強の役」は崩れる:例えば父親が「身長・顔立ち・性格」の組み合わせで「ロイヤルストレートフラッシュ(最強)」を持っていたとする。しかし子供に渡せるのはそのうちのランダムな半分だけ。母親のカードと混ざった結果、子供の手札は当然に全く違うもの(ブタやワンペア)になる可能性が高いのだ。

端的に言えば親世代で起きた「選抜」の結果は、次の世代でリセット(シャッフル)されてしまう。このランダム性により、特徴が定着するには何世代もの積み重ねが必要だ。

また人間の魅力は「複雑なスープ」といえる。例えば「目の色が青い」といった単純な特徴なら早く広まる事もあり得るが、人間が配偶者選択で重視する特徴…容姿ないし性格ないし身長ないし筋肉量etc…は、たった1つの遺伝子で決まるわけではない。

・数千の材料が必要:例えば「身長」や「知能」は、数百〜数千個の遺伝子が複雑に関わり合って決まる。これは数千種類のスパイスを使ったスープのようなのだ。

・1〜2世代では味は変わらない:性淘汰によってスープの味(遺伝的特徴)を変えようとするのは、巨大な鍋にスポイトで数滴の調味料を入れるような作業だ。1〜2回足しただけでは全体の味は変わらない。

人間における性淘汰(進化的な変化)が数世代で起きる事は生物学的にありえないのだ。

こうなると「なら長いスパンで見ると人間はどうなってるのか?」という話になる。直感的に考えれば、基本的に人間は強い配偶者を求めてきたので、我々は昔の人間と比べて強くなってると考えるのが妥当だ。しかし話はそう単純ではない。例えば日本人の身長にしても伸び続けているのではなく増減を続けている。

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https://mag.japaaan.com/archives/81950

これには「栄養が充分ではなかった」「騎馬の登場により低身長の方が有利な時期が産まれた」等、様々な原因が唱えられている。特に前者の影響は大きく、環境によって増減しやすいパラメーターによって人間の方向性を図るのは適切ではない。

では環境で増減し難いパラメーターはどうなってるか?という話になるが、結論から言えば人間は確実に衰退している。

フリン効果の終焉と「アンチ・フリン効果」の台頭

20世紀を通じて、先進国ではIQスコアが10年ごとに約3ポイント上昇するという驚異的な現象が観測された。ジェームズ・フリンによって命名されたこの「フリン効果」は、栄養状態の改善、感染症の減少、教育の普及、そして抽象的思考を要求する複雑な社会環境への適応が主な要因とされた 。特にレイヴン漸進的マトリックス検査のような流動性知能(推論能力)を測定する非言語的テストにおいて顕著な上昇が見られたことは、人類の抽象的思考能力が飛躍的に向上した証拠とみなされた。

しかしIQテストには様々な問題と調整と欺瞞がある。そのうちの1つが「IQテストは文化圏によって解法が自然と身につく」というやつだ。例えば数列の規則性などは、何回かやれば数列の中から規則を見つける事に慣れるし、なんならパターン覚えることで「あっこの問題、進研ゼミで見たやつだ!」と解くことが出来るようになるのだ。

実際に2015年に行われた分析では、フリン効果による上昇分は環境によって左右されにくい分野(g負荷量)が低く、環境により向上しやすい学習されたヒューリスティクス(解法パターン)の向上を反映している可能性が高いことが確認された。これは「空洞の上昇」仮説と呼ばれ、テストの点数は上がったが、生物学的な脳の処理能力が根本的に強化されたわけではないことを示唆している

要するに人類はテストの解法を(教育推進や文化の発展で)覚えただけであり、フリン効果による上昇は問題自体に対する思考能力関係なしに、覚えた解法を当てはめているだけということだ。

そして更に1990年代半ば以降、この上昇トレンドに異変が生じた。特に国民皆兵制度により長期間にわたる包括的な徴兵検査データを保有する北欧諸国(ノルウェー、デンマーク、フィンランド)において、IQスコアの上昇が止まり、逆に低下に転じる現象が確認されたのだ。これは「アンチフリン効果」と呼ばれている。そして更に例によって2022年以降の研究が進み、フリン効果は解法暗記に過ぎなかった事が疑いようがなくなっている。

これを概念化したのが「コ・オカレンス」モデルであり、この題のまとめも兼ねて説明する。

1.表現型の上昇: 環境改善によるスキルの向上。これはg負荷量が低く、教育やトレーニングによって獲得された「上積み」部分。

2.遺伝型/生物学的低下: 選択圧の緩和や逆淘汰による基礎能力の低下。これはg負荷量が高く、脳の基本的な処理速度や容量に関わる部分

コ・オカレンスとは20世紀の間は環境改善による上昇幅が遺伝的低下幅を大きく上回っていた(1>2)為、見かけ上のIQは上昇し続けた。しかし環境改善の効果が天井に達して、隠されていた生物学的・遺伝的な低下トレンドが表面化し始めた(1<2になった)という解釈だ。

生理学的基盤の崩壊

知能の低下を示唆する証拠は心理テストや出生統計だけではない。より根源的な脳の神経生理学的な処理速度においても、驚くべき低下が報告されている。

「ウッドリー効果」とは、単純反応時間(Simple Reaction Time: SRT)の歴史的変化に着目した理論である。SRTは光や音が提示された瞬間にボタンを押すまでの時間を測定するもので、文化的バイアスの影響を受けにくく、大脳皮質の情報処理速度や神経伝達の効率性を反映する「生物学的知能」の純粋な指標とされている。

そしてSRTはgと負の相関(反応が速いほどIQが高い)を持つことが知られている(相関係数は約-0.3~-0.5)。ウッドリーの名前の元ネタとなったWoodley博士らは、19世紀末のヴィクトリア朝時代と現代人のデータをメタ分析により比較した。その結果、現代人の反応時間はヴィクトリア朝時代の人々に比べて大幅に遅くなっていることが判明した。

・1880年代の平均SRT: 約183ミリ秒~193ミリ秒

・2000年代の平均SRT: 約250ミリ秒~253ミリ秒

この遅延は神経処理速度の著しい低下を意味しており、これをIQ換算するとヴィクトリア朝時代から現代にかけて約13~15ポイントのIQ低下に相当するという衝撃的な推計が導き出された。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0160289613000470

このデータは前述の「フリン効果(IQスコアの上昇)」と矛盾するように見えるが、コ・オカレンスモデルを用いれば説明が可能だ。つまり我々は教育や訓練によって「ソフトウェア(解法テクニックや知識)」をアップデートしIQテストの点数を上げることに成功したが、その裏で「ハードウェア(脳)」は一貫して劣化し続けていたのである。現代のアンチ・フリン効果は、ついにソフトウェアの改善がハードウェアの劣化を補えなくなった転換点である可能性が高い。

貧弱化する人間

脳以上に深刻なのが身体自体の劣化だ。例えば握力は単なる筋肉の強さではなく、中枢神経系の健全性、全般的な健康状態、そして将来の認知機能低下を予測する強力なバイオマーカーである。その握力であるが、過去のコホートに比して現代人の握力が低下し続けているのだ。

例えば米国の運動部大学生を対象とした研究では、1973年から2016年にかけて握力が継続的に低下していることが確認された。なんでも1984年のピーク時と比較すると、2016年の時点で8.1kgも低下したらしい。

そして更に直接的なのがテストステロンの低下だ。テストステロンは男性ホルモンであり、意欲、時空間認知力、性欲etc…そして全体的なエネルギーレベルに深く関与している。これが米国や欧州の男性を対象としたメタ分析によって、テストステロンレベルは1980年代以降は年間約1%という驚異的なペースで低下し続けていることが明らかになったのだ。肥満の増加も1因であるが、BMIをコントロールしてもなお低下傾向は消えない。

現在これの原因はハッキリしておらず、プラスチックが悪いとか、デジタルが悪いとか、ポルノが悪いとか色々言われているが決定打はない。

その他色々

またIQスコアの停滞と並行して、創造性の指標においても深刻な低下が見られている。例えば30万人のデータを分析した大規模研究では、米国の子供たちの創造性スコアは1990年まで上昇していたが、それ以降は有意に低下し続けていることが明らかになった。

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10400419.2011.627805

精神的な強靭さも若い世代ほど低くなっていることが示されている。18歳から24歳の層は、65歳以上の層と比較して、不安、抑うつ、ストレスへの脆弱性が著しく高いことが示唆されている。これは単に「診断が増えた」だけでなく、実際にストレスに対する心理的な緩衝能力が低下している可能性が高い。

人類の黄昏

ここで最大の問題が生じる。我々のハードウェア(脳・身体)は劣化トレンドにある1方で、我々が作り出した「社会システム」は指数関数的に複雑化しているという点だ。

つまり我々の社会インフラ、金融システム、食料生産、高度なテクノロジーは、かつての「フリン効果」で嵩上げされた時代の、あるいはそれ以上の知能を持つ人間が管理することを前提に設計されている。しかしメンテナンスを担当する次世代の人類の知能は低下し、精神も身体も脆弱化している。

良い悪いは別に我々は法の下の平等、推定無罪、内心の自由の保障といった近現代国家の原則を維持出来なくなりつつある。全部女性の社会進出に関連している気がしないでもないが、この記事では本題ではないので置いておく。まぁとにかく原因が何であるにせよ、我々がソレを維持出来なくなっているのは確かである。

以上のデータから導き出される結論は、「人間は進化している」という希望的観測とは真逆のものだ。我々は恐らく「自己家畜化」の過程にある。

野生動物が人間に飼い慣らされると、脳の容量が減少し、攻撃性が減り、ストレス耐性が下がり、幼形成熟が進むことが知られている。狼から犬への変化が分かりやすいが、現代の人類に起きていることはコレと言える。

・脳の縮小: 実際にクロマニヨン人などの旧人類と比較して、現代人の脳容量は約10%以上減少している(約1500ccから1350ccへ)。

・依存の増大: 野生を失い、システムなしでは餌も取れず、暖も取れない存在。

要するに「最近の子供は進化している」という言説は、トイプードルを見て「狼より進化して可愛くなった」と言うようなものだ。確かに愛嬌はあるし、今の環境には適応してはいる。しかし野生下で求められるような能力は劣化しているのだ。(なによりそんなに早く変化は訪れない)

勿論、野生・人工下に問わず自然界は「弱肉強食」ではない。現にトイプードルは人間を虜にし、世界中に分布を広げてる中で狼は個体数を減らしている。それに野生においても動作が鈍く、攻撃手段を持たないナマケモノは現在の世界にも生息しており、巨大な牙を持つサーベルタイガーは絶滅した。自然界は「弱肉強食」ではなく「適者生存」であり、「強い・弱い」以上に「環境への適合性」が重要なのだ。

しかしながらソレを踏まえても我々が弱く愚かになっているのは危機感を覚える。我々が適合した近現代社会という巨大な揺り籠は現在崩壊の1途を迎えている。

我々が直面しているのは「高度に複雑化したシステム」と「それを維持できない生物学的劣化」という致命的なミスマッチだ。要は動物園が破産の危機を迎えつつある。動物園の飼育員(高度な社会システム)がいなくなった時、檻の中に残されたトイプードル(家畜化された人類)を待っているのは、かつてのような「野生」への回帰ではないだろう。

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コメント

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ほかの説でも産業革命以降人類は退化、もしくは自己家畜化してるって話もありましたね。要するに野生が足りなくなって、使わない部分がどんどん廃用症候群のように退化してると。そして退化…

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えぬ

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山羊牧太郎

『知能低下の人類史』という本に似たような話が詳しく書かれていると思った

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