身体がだるい。頭も痛く、机に突っ伏したままになってしまっている。体調は大丈夫なはずだ。最近、勉強やアルバイトをしすぎたからだろうか?
「…はぁ」
周りはもう帰っており、教室には私だけ。紫陽花の机にはまだ鞄がかかっているので、帰っていないらしい。帰らないと。そう思い、鞄を手に取り席を立つ。そのとき、教室の後ろの扉が開いた。
「紗月ちゃん、まだいたんだ?」
「ええ」
返事をした途端、少し、いや、かなり視界が歪んだ。足元がふらつき、座り込んでしまった。
「紗月ちゃん!?どうしたの!」
紫陽花が私を心配して、駆け寄ってくる。
「大丈夫。大丈夫だから…」
立とうとするが、力が入りにくい。立てない…
「紗月ちゃん、大丈夫じゃないでしょ!家、帰れるの?」
「…」
そう言われても、何とかして帰るしかない。熱がある気配もないし、体調が悪い訳でもないから何とかなるはずだ…
「紗月ちゃん、うちくる?」
「え?」
予想外の申し出に、戸惑いを隠せなかった。
「私の家の方が近いし…どうかな?」
「でも、弟さんがいるんじゃ?」
「私以外はお父さんの出張に付き添ってるんだ」
「そうなの?」
「うん、私も、家に1人だと寂しいから」
紫陽花は少し微笑んでそう言った。
「けど…」
「…家に来るのはやめる?紗月ちゃんが嫌ならいいんだよ?」
「嫌な訳じゃないけど…」
「大丈夫だよ。冗談だったし。けどね」
「?」
紫陽花は、座り込んでしまっている私の前に寄って私の目線に合わせるよう、しゃがんだ。そして、そっと私の頭の上に柔らかい手を置いた。
「紗月ちゃんが頑張ってるのは私、分かってるよ。だけど、それで体調悪くなっちゃったら、私、やだな?」
私の頭を撫でていない方の手でぎゅっと私の手を握りながら、言い聞かせるように私にそう言う。紫陽花は目を細め、私の頭を撫でる。頭を撫でられるのなんて、いつぶりだろうか。少し、懐かしい気持ちになる。
「…わかったわ。次から気をつけるわね」
自分でも、甘やかされて口元が緩んでしまっていることがわかる。少し、恥ずかしい。
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紗月ちゃんの頭の上から、私の手をどかす。
「紫陽花…?」
紗月ちゃんは私と2人きりのとき、私のことを「紫陽花」と呼ぶ。少し特別な関係のようでドキドキする…いや!違うよ!?れなちゃん、違う、違うからっ!私は少し頭を振り、紗月ちゃんを見る。紗月ちゃんは座り込んでいるので、私の方が少し目線が高い。
「どうしたの?」
紗月ちゃんは私を上目遣いで見て、少し恥じらっている様子だ。
「あ、の…」
「?」
言葉を絞り出すように紗月ちゃんは口を開く。
「もっと、撫でてくれ…ないの?」
「へ、?」
予想外の要求で、私はフリーズする。
紗月ちゃんは、どうやら私に撫でて欲しいみたいだった。私は弟が居るが、妹が居ないので、小さい女の子が可愛くて仕方ないのだ。今の紗月ちゃんはまさに、小さな女の子のようだった。
「嫌だったら、いいのだけれど…」
紗月ちゃんは顔を少し赤らめて言う。なんだかものすごく可愛く見える。いつも可愛いけれど、もっと可愛い。
「いいよ」
「…いいの?」
首を傾げる紗月ちゃんは本当に小さな女の子みたいだ。
「うん。紗月ちゃんが満足するまで、撫でてあげる」
そう私が言うと、紗月ちゃんの顔はぱあっと明るくなり、喜んでいるのが目に見える。
紗月ちゃんの要求通り、頭を撫でる。サラサラした窓から差し込む光を反射した黒い髪は本当に綺麗だ。私に撫でられている間、紗月ちゃんは目を閉じて眉尻を下げて口を固く結んでいる。口元が緩んでしまうのを固く結ぶことで誤魔化しているのかと思うと、ものすごく可愛い。
「どう?立てそう?」
「うん…」
気の抜けた返事をする紗月ちゃんはふわふわしている。
「もう少し…もう少しだけでいいから…」
目を閉じながら紗月ちゃんはそういう。
なでなでがそんなに気に入って貰えたのなら良かった。
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教室に忘れ物をした私、甘織れな子は今、教室の扉の前で固まっている。それは…紗月さんが紫陽花さんに撫でられて(それだけでも衝撃的だけど!)めちゃくちゃに口元が緩んでいるから!やばい!あれ、紗月さんなの?!何、紗月さんじゃなくて、紗月ちゃんになっちゃってるの!?そんなことを考えながら私は固まっていた。少ししか開いていない扉を少しだけでも開けようとした。ガタッと音がした。え、嘘だろ?嘘だろ!?音!音ぉぉ!
紗月さんが、私の方をバッと見る。その途端、紗月さんは元々少し赤らんでいた顔をもっと赤くした。
「───っ!」
紗月さんは、急に立ち上がり、鞄を手に取り逃げるようにして帰って言ってしまった。早っ!?
「れなちゃん?」
教室には、私と紫陽花さんと、窓から差し込む夕日の光だけが残されたのだった…
私、何かしちゃいました…?
この後がものすごく気になる あじさつ強い