15.寛ぎ処 おむすび縁-enishi
あえて、反対側へ店を出す理由
千葉県長生郡一宮町。
この町には、およそ5,000世帯が暮らしています。小さな町ですが、海沿いには観光客や若者が集うカフェやショップが並び、まるでリゾート地のような賑わいを見せています。
海岸通りから上総一ノ宮駅へ向かう途中には、田畑が広がり、そこからさらに山側へと町は続いています。
たしかに、新しい店を出すとなれば、このにぎやかなエリアを選ぶのが自然かもしれません。
けれど、僕が選んだのはその“反対側”、国道沿い・玉前神社方面。
そこには、川崎に住む僕にとってはもう見ることも少なくなった、どこか懐かしい風景が広がっていました。
古びた金物店、今も現役で営む鮮魚店、そして消えることなく愛され続けている和菓子屋。
新しさではなく、そこに息づく“暮らし”に、“古き良きまち”の姿が残っていた。
きっとそこには、長い年月をかけて育まれてきた「日常」がある。
僕は、そんな風景にロマンを感じた。
新しい店を出すということは、単に「流行」を追うことではなく、
その地域にとって本当に必要な存在になれるかどうか。
地元の人が気軽に立ち寄れる場所か?
子どもを育てる家族にとって、意味のある場所か?
そして、今もそこに根付いている“日常”をちゃんと受け継いでいけるのか?
東京オリンピックの開催以来、この町にも多くの外国人観光客が訪れるようになりました。
でも一方で、私たち自身が「日本の美しさ」を伝えられているのか?
そんな問いもずっと心の中にありました。
だからこそ、僕は“海沿いではない場所”に、
そして“喫茶という利益度外視の形”で新たな拠点をつくることを決めました。
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「寛ぎ処 おむすび縁-enishi-」で伝えたいこと
僕が目指すのは、ただコーヒーや食事を提供する店ではありません。
ここは、きっかけとなる場所です。
自然と共に生きることの喜び、手間を惜しまない丁寧な暮らし、そして“次の世代に残す価値”。
だから、提供するものも、無添加・無農薬にこだわります。
地域の農家さんと手を取り合い、自然に近いかたちで育てた素材を使う。
そして、自分たちの手で棚田で育てたお米を、一番良い形で届けたい。
この喫茶が大きな利益を生むことは、正直難しいかもしれません。
けれど、それでも意味があると信じています。
大切なものは、お金では測れないから。
この町の風景に寄り添い、地域と繋がりながら、
少しずつ、でも確かな想いを伝えていけたらと思います。
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もつひとつ
この場所が、誰かにとっての「きっかけ」になる場所になればと思っています。
たとえば
いつも何気なく食べているごはんを、「これってどこで、誰が作ってるんだろう?」と考えるきっかけ。
子どもが安心して食べられるものを選ぶことで、未来の暮らしを考えるきっかけ。
友達と久しぶりに集まって、「またここで会おう」と話すきっかけ。
自然に囲まれて過ごすことで、自分の中に眠っていた感覚に気づくきっかけ。
僕たちが今できることは、大きなことじゃないかもしれません。
でも、小さくても確かな一歩を、次の世代に繋いでいくこと。
それがいいものを後世に残すということなんだと思います。
だからこの場所では、
自然の力を借りた無添加・無農薬の食材を使って、
棚田で育てたお米を炊いて、
季節の移ろいを感じるような空間を用意して、
人と人が、自然と繋がる時間を大切にしたい。
この場所に来た人が、ふとした瞬間に
「ああ、これって大事かもしれない」
そんな風に感じてくれたら、もうそれで十分です。
そしてここは日本を横断するレイラインの東の起点、玉前神社がある特別な土地。
僕たちはこの“はじまりの場所”に、小さなお店を開こうとしています。
なんどもいいますが
人が集まり、繋がり、何かを感じ取る、きっかけの場所。
人と人、場所と場所、過去と未来が、一本の線で繋がっているような感覚。そんな“目に見えない力が交わる場所”に店を構えること。
それは僕たちが掲げてきたテーマ
「日本の美しさを後世に繋ぐこと」
と、どこか深く重なる気がした。
僕らが今できることは、
奇抜なことじゃなくて、
ただいいものを、丁寧に残していくことだと思う。
無農薬や無添加といった、身体にも環境にも優しい素材を使い、
棚田で育てたお米を提供し、
地域の農家さんと協力して、
季節の恵みを、料理に、空間に、空気に映し出す。
それは誰かの“きっかけ”になるかもしれないし、
自分自身にとっても、また一歩の始まりになる。


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