2025年振り返り
2025年を個人的に振り返りたいと思う。結論は
・AGIという概念を過小評価していた(それがもたらす産業や技術爆発の考慮不足)
・個人的なAGIタイムラインは遅くなった一方でAGIが来なくてもAGIが端的に言えば凄すぎると理解したため産業革命級のインパクトは起こり得ると考えを改めた
・一方で数年以内のAGIの可能性も十分あり、リスクに関する議論は喫緊
の3点だ。
AGIタイムラインの伸び
私はChatGPTが出る以前の2022年の11月には汎用人工知能の実現時期を2035-2040年頃としていたが、2024年までには「Situational Awareness」の影響もあり2027年末までに50%の確率でAGIが実現すると態度を変更していた。
一方で2025年になるとGPT-5は当初ChatGPTリリース時に起こった新たな革命の再来というよりは漸進的な性能の向上だったし、GPT-5.2やGemini 3 Proがリリースされても世界はそこまで変わってないように見える。また、2025年は私はマルチモーダル性能やGUI操作性能が相当高まるのではないかと期待していたが、起こったのはDeepResearchやCodeX/Claude Codeなどのテキストベースのエージェント能力の飛躍だった。
またAGI実現を経済的価値のあるタスクのほぼ100%のタスクの実行と考えると、今OpenAIが得ている売り上げは多く見積もっても年間200億ドル程度として、世界のGWP比率で0.02%だ。年間4倍のペースで売り上げが伸びていくと仮定した場合、2031年頃に世界のGWPがほぼAIによるサービスで占める可能性がある。
もし2027年末にAGIが実現するならば、2025年の段階で数%の経済的価値をもたらすAIがありそうだが、現状は0.1%台かもしれない。(OpenAIや他の先端企業の得ている売り上げ全体は多くて1000億ドルオーダーとする)
そうすると当初の2027年のAGI実現という推測は少し積極的で、2030年代前半にAGIが実現すると推測した方が良いだろう。
AI 2027のDaniel Kokotajloらも2030年代前半にAGIタイムラインをずらしており、イリヤサツケバーも今から5-20年というタイムラインを示している。
しかしAGI実現時期が後ろ倒しになったからといって、AIバブルが弾けるという話にはならない。イリヤサツケバーもAI企業は儲けるし、性能も高まっていくと話している。あとでも話すがあまりにもAGIが凄すぎて、AGI以前のAIでも十分に産業を変革するほどのインパクトがありうる。
2025年を振り返るとサム・アルトマンや他の人が言っていたようなことは起こったと感じる。
DeepresearchやCodexやclaudecodeやnanobanana proやgpt-5.2やGemini 3 proが去年までは存在しなかったと考えると飛躍した1年だったなと感じる。そして引き続き同様の進歩がスケーリングの余地から予測できる。
数年以内のAGIの可能性
識者が2030年代前半へAGIタイムラインをずらす中でAnthropicだけは2027年までの強力なAI(ノーベル賞級の成果を生み出し、ホワイトカラーがリモートでできるような認知タスクなら実行可能なAIシステム)を主張している。それは妥当なのだろうか。
以下でも解説したが、まだまだ強化学習のパラダイムは始まったばかり(GPT-5はGPT-4スケールの学習計算量でしか学習されていないとされる)であり、今後2年以内に実効計算量ベースで1万倍のスケーリングができるだろう。
イメージとしては、GPT-3からGPT-4への変化がおよそ1000倍のスケーリングと考えると、現在の最先端のモデルがおもちゃのように見えてしまうレベルのものが2027年には期待できるかもしれない。
OpenAIのスターゲート計画の計算資源がオンラインに本格的になるのもこの2年以内であり、その成果がMETRのソフトウェア自律性の時間の伸びとしてAI 2027の以下の図のような超指数関数的に観測された場合、2027年までのAGIの実現可能性も高まってくるだろうと思う。
つまり、2026年に上記のようなトレンド、8時間から32時間の自律性の80%成功率でのタイムホライゾンが起こるかどうか、もし実現したらAGIが2027年に実現する可能性も高まってくると思われる。
現状Gemini 3 ProはEpochAIの推定によると5時間程度で、これは7ヶ月で倍増するMETRの予測を超えている。そのため今後来年のモデルの評価によっては状況が変わるかもしれない。
AGIが数年以内に来るとしても来ないとしても、AIの性能向上によってサイバー攻撃のリスクが高まるとOpenAIは最近警告し、バイオテロのリスクも懸念が高まっている。
そしてもしAGIが数年以内に来るならば、2025年9月に発刊されたAI Safety分野のゴッドファザーのEliezer YudkowskyのいうようなAIが制御不可能になることで人類が絶滅するようなリスクが深刻化するだろう。それについては以下で解説した。
またYudkowskyのいうようなハードテイクオフによるリスク以外にもPaul Christianoが懸念しているような段階的な権限剥奪のリスク、つまりじわじわとAIが社会に浸透していって徐々に人類によるコントロールが効かなくなっていくリスクは現実味を増している。
いずれにしてもAIの悪用やそれ自体が制御不能になることを前提として、AIアライメントに対する技術的な投資に加えて、社会全体を堅牢にするd/accやAIレジリエンスやシンギュラリティ以後のAIとの共生を考える分野(ポストシンギュラリティ共生学)が必要になってきているだろう。
AGIがなくても世界は変わる(AGIは凄すぎる)
AGIがなくても世界は大きく変わると今年は理解した年だった。そしてその前に、まず大前提として私はAGIがもたらすインパクトを過小評価しすぎていた。
AGIがもたらすのは全ての仕事を奪い、不老不死技術を開発していくだけではない。AGIがもたらすのは10年という短いスパンでの産業の爆発であり、エネルギー消費量の短期間での桁の増加と、カルダシェフスケール文明への飛躍だ。
言うなれば、ホワイトカラーやブルーカラーの仕事を奪い、街には自動運転とドローンが配送で飛び交い、みんな平均寿命が100歳以上になり、若返りしている人もいるといった未来像はある意味「保守的」であって、本来は見た目からして産業規模が宇宙スケールになるような出来事がAGIの実現からは起こる蓋然性が高い。以下イメージで言えば上がAGI以後10年以内に起こる保守的な未来像で下の画像が本来AGIが実現しうる未来像だ。
半内生的成長モデルと呼ばれる1990年代に提唱され様々な技術成長や過去数千年の人類史の経済成長を説明するモデルから、AGIは労働力を初めて「複製可能」にし、人口増加率数%から導かれる経済成長率の上限数%を圧倒するような成長が可能になる。
その成長率は産業革命以前の0.1%から現代の3%前後まで人口増加率によって説明されてきた。そしてその増加率自体は世界的な少子化によって20世紀に逓減し始めている(人口転換)。そのため、現在の経済成長率を維持するためには何らかの技術革新で生産性を高める他ないが、その技術革新を生み出す労働力も人間でありしかもアイディアを見つけるのは難しくなっていく。技術革新の成長を維持するのでさえ、指数関数的な研究者のインプットが必要になるため、どこかで頭打ちになり、AIがなければ今後経済成長率はどんどん低減していくと予想されている(だから世界的にパイの奪い合い、右傾化が起こっているのかもしれないと私は考えている)。
現状何とか技術革新が指数関数を維持しているように見えているのは低減する人口増加率を補うように、科学者や技術者になる人間の割合が増えているからだと思う。しかしそれもどこかで限界があるだろう。
しかしもし優秀な科学者やエンジニアや肉体労働者自体を、生物学的な人口増加率の限界(およそ数%)を超えて、任意に投資すれば拡大できるとしたらどうなるのだろうか。
その結果は息を呑むようなものになる。経済成長率は数%から理論的には無限大にまで発散するような双曲線的な成長を生み出す。まさに特異点、シンギュラリティが起きる。
しかしもちろん物理的な限界が世界に存在するので、おそらく年間経済成長率の限界はあるだろうが、それがどこにあるのかは定かではない。
物質が倍増するスピードの例として、ネズミは数ヶ月、ショウジョウバエは数日、細菌は数時間であり、雑に1ヶ月で倍化する経済があれば1年で1000倍の経済だ。3%の成長率だとそれは233年分の経済で、今のGWPの1/1000は数万年前の世界である。数時間で倍化する経済があれば天文学的な成長が太陽系の資源を使い尽くすまで1年で起こるだろう。
興味がある人はEpochAIのGateというシミュレーションで世界経済の成長がAGI以後どうなるかを確認できる。デフォルトでAGIができてから10年以内にGWPが現在の100兆ドルの100万倍になっている。もはや100万年前から2025年にタイムスリップしたようなことがAGI実現以後10年で起こり得るのだ(規制などなければ)。
一方でAGIが実現せず、世界経済の20%~30%程度を自動化するAIが実現した結果現在の世界成長率の3%が10~20%になっている。これは産業革命が年間0.数%の成長率を百年というスパンを経て数%という桁にしたレベルの大きな変化が起きるということだろう。
つまり、たとえAGIが来なくても世界経済は大きく発展しうるし、世界は大きく変わりうる。
個人的には世間の人が「AGI」という場合、世界経済の数十%を自動化するレベルのAIを想像している気がする。多くの人が失業し、一方で生産性は大きく高まり、ほとんどの指示を忠実にこなすようなヒューマノイドやホワイトカラーを支援するAIが存在する世界。しかし、どこか主体性や継続性や創造性がなく、世界経済の100%すべてを自動化するレベルには至っていないため、「産業革命」にはなっても「産業爆発」を起こすレベルには至っていない。
多くのSFアニメで描かれるAIもこのレベルにとどまっているのではないだろうか。自動運転やヒューマノイドは存在し、様々な分析や自動化には役立つAIは存在するし、高層ビルや広大なゆったりとできる空間はある。
しかし、カルダシェフスケール文明への飛躍が起こって東京23区をすっぽり覆うような巨大なスペースコロニーのオニールシリンダーや、地球を覆うような巨大なオービタルリング、宇宙工学的なレベルの巨大なダイソン球が作られていたりはしてないし、マインドアップロード技術もない未来だ。
産業爆発に加えて、技術爆発についてもこのサイトで勉強できるためおすすめだ。半内生的成長モデルによればAGI実現後300年以上の技術進歩が10年で達成される蓋然性は高いとされている。300年あれば確かにマインドアップロードのようなあらゆる技術ツリーの中でも相当難しいとされる技術も開発されるのではないだろうか。
まとめ
2025年は個人的に予想していたほどAIの性能が高くならなかった。
しかし、それは私がAGIのもたらすインパクトを過小評価していた裏返しでもあったように思う。そしてAGIがたとえ数年以内に来なくても、産業革命と言えるようなこの数百年経験のないイベントが起こる可能性は2030年までに来る可能性は高いと感じているし、もしAGIが本当の意味で実現するならば、それは誰もがSF的だと感じる技術爆発、産業爆発が起こるだろう。それを私は過小評価していたと感じる。
去年までマインドアップロード技術が開発されるのは2090年と予想していたが、技術爆発や産業爆発の議論を知って、AGIが実現してから10年以内に実現する可能性も高いと思うようになった。そのため現在では21世紀半ばには人間はコンピュータの中で生活できるように技術的にはなるかもしれないと思う。
その一方でAGIがそこまで強力ならば、そのリスクも甚大なものになり得る。人類の数百万倍の経済活動を駆動するAI群が織りなすネットワークをどのようにコントロールできるのだろうか。コントロールが不可能だとして、どのように共生が可能になってくるのだろうか。AIに限らず、人類自身が進化することでポストヒューマンが現れてきた場合、彼らの意志とどのように調和すれば良いのだろうか。
課題は山積しているし、AGI実現が数年ならもちろん喫緊だし、数十年以内の話だとしてもAGI以前のAIでも産業革命レベルであり、それがAGIになれば数十年後でもAGIがもたらすインパクトは天文学的なものになる可能性が高いと感じているため、今から議論していくことが大切だろう。


AGI 以前の AI が産業革命級の変化をもたらす過程で、最も早く変革が起こりそうな産業や社会システムはどこだと予想していますか?