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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第46話 交流会

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「……えっーーー!」


「イーナちゃん、どうしたの?」


「なにやら一大事か? もしかして、親御さんに不幸があったとか?」



 お屋敷にイーナの実家から手紙が届き、それを読んでい彼女が突然大声を発した。

 普段の彼女らしくないので、俺たちの視線が……子供たちからも注目されてしまっている。


「実は槍術の交流会があるんだけど……」


「槍は戦場の華だからの。槍術を嗜む者は多く、流派ごとや、多くの流派の者たちを集めた交流会は盛んよな。妾も参加したことがあるぞ」


「テレーゼも槍術を習ってたんだ」


 俺もイーナから少し習って挫折というか……自分でもわかる才能のなさを実感したけど。


「槍術も、帝王学の中に入っておるのだ。貴族は剣を嗜むものじゃが、実は戦場で一番役に立つのは槍というケースが多いのでな。あまり口にはせぬが、大貴族で槍の名手も多いぞ」


「やはり、リーチがある武器は有利なのか」


「弓術も同じじゃが、戦場という命のやり取りをする場所では、一番に自分が怪我をしないことが大切なのでな。槍術を習う大貴族は多い」


「大貴族でない人は?」


「槍を揃えて自己流で鍛錬するくらいはできるが、本格的な鍛練までは……という者は多い。剣術の稽古で精一杯で、家臣に任せる者も多いの」


 そう言われてみると確かに、父上も兄さんたちも槍術をやっているところを見たことがなかった。

 大貴族じゃないからまずは剣が最優先で、そんな余裕はなかったということか。

 家臣任せってのなら、バウマイスター辺境伯家も槍術はローデリヒ任せだったりするけど。


「イーナが槍術の交流会に呼ばれるって、そんなに珍しいことなのか?」


「うちの実家は、ブライヒレーダー辺境伯家の槍術指南家だから呼ばれるけど、私は下の子供で母は正妻じゃないもの」


「ですが、今のイーナさんはバウマイスター辺境伯家の槍術指南家の実質的な当主ですから、呼ばれて当然なのでは?」


「そういえばそうだったわ」


 カタリーナに指摘され、自分もバウマイスター辺境伯家の槍術指南家の実質的な当主であることを思い出すイーナ。

 あまり実感がないというのは俺も同じなので、気持ちはわかる。


「イーナちゃん、そこを忘れちゃダメだよ。ちなみにボクだって、バウマイスター辺境伯家魔闘流指南家の実質的な当主だから」


 ルイーゼの指摘は正しいけど、普段の彼女は道場の経営を弟たちに丸投げしているので、本人以外にモヤっとした感情があった。

 逆にイーナも弟たちに任せている部分は多いけど、道場の事務仕事や経理もちゃんとやっているのに、槍術指南家の実質当主だって自覚がないという。

 こういうのって、性格なのかね?


「ところで交流会って?」


「簡単に言うと、ヘルムート王国中から王都に各流派や道場の代表が集まって情報交換をしたり、最後に試合をしてお互いの成果を確認し合ったりと、そんな集まりね」


 イーナはヴィルマに、交流会について簡単に説明した。


「武芸大会の槍術だけバージョン?」


「そんなところね」


「勝つと偉い?」


「優勝すると名誉が得られるのと、王国が主宰する槍術の武芸大会とは違って、なんでもアリの全力で戦えるから、出場者たちはみんな、気合い入れてるって聞くわ」


「ふーーーん」


 イーナの説明を聞いたヴィルマが、自分も参加したそうな表情を……するわけがなかった。

 そういえば、斧術の交流会ってないのかね?


「イーナ、交流会に出たことないの?」


「昔の私は、ブライヒレーダー辺境伯家槍術指南家の三女でしかないもの。父や兄が参加してたわよ」


「結果は?」


「……」


 イーナが、なんとも言いにくそうな表情を浮かべた。

 俺と出会う前のイーナに勝てず、彼女を他の門下生たちと練習させなかったような人たちだからなぁ。

 交流会で活躍して目立つ、なんてことはあり得ないか。

 それでもブライヒレーダー辺境伯家槍術指南役を世襲できるのが驚きだけど、ブライヒレーダー辺境伯家は武芸の腕前が微妙な人が多いのと、いくら武芸に優れていても、どこの馬の骨ともわからない怪しい奴を大貴族が雇わないってのもあった。

 それに自分が強くても、教えるのが下手な人も多い。

 名選手が名監督になる保証なんてないのだから。


「じゃあ、交流会は初出場か。今のイーナなら、結構いい成績を取れるんじゃいかな?」


「ヴェル、私を煽ててもなにも出ないわよ」


「いや、純粋にそう思っているんだけど」


 今のイーナは中級魔法使いレベルの魔力量を持ち、槍に炎をまとわせることができるのだから。

 なんでもアリの試合なら、かなり有利なのではないかと思う。


「王国主宰の武芸大会では魔力の使用禁止だけど、交流会では使っていいんだろう?」


「ええ、魔力がある人に対し不公平だと文句を言っても、実戦では通用しないから、持てる力をすべて使っていいってルールなの。魔力持ちはそれを使うし、有名な流派の人たちなんて、大金で集めた高性能な槍を使うのが当たり前だから」


「優れた槍を集められる財力も、強さのうちって考えなのか」


「有名な道場の人たちや、門下生が多い流派を率いている人は、交流会の成績で新規の門下生の数が大きく変わるから必死ね」


 交流会で開催された武芸大会で優勝するってとこは、槍術を志している若者たちからしたら英雄に近く、優勝者がやっている道場に通いたくなるのが人情というものだろう。

 月謝なんてどの道場でもそんなに変わらないそうで、それなら有名な人に教わりたいと考えるのが人情だからだ。


「イーナ、目指せ優勝だぜ!」


「槍術は習っている人の数が多いから、そう簡単には優勝できないって。それにねぇ……」


 カチヤがイーナを激励するが、肝心の本人はそこまでやる気がないように見える。


「それになんだ?」


「今回、私は初めて交流会に出るから、変に目立つと面倒なのよ。特に、実家は誰が出るかわからないけど、成績に大きな差がつくとねぇ……」


 最初から新入りが目立つと、出しゃばりだと陰口を叩かれる。

 世界が変わっても、新入りってのは大変だな。


「だから交流会では、ラグレルアル作の双竜の槍を使うってわけにはいかないのよねぇ……」


 イーナがお気に入りの槍は、以前彼女が苦労して手に入れたものだし、槍としてはとても価値が高いものだと聞く。

 だが槍に興味がない人から見たら、ただの趣味の悪い、不気味なデザインの槍でしかなかった。

 アレを新人が交流会に持って行くと、槍術業界の人たちから『新人のくせに生意気な!』と思われるのか……。

 業界の人にしか理解できない考えだよな。


「イーナちゃん、あの趣味の悪い槍は持って行かない方がいいって」


「趣味が悪い? あんなに素晴らしい造りなのに。ラグレルアル作、双竜の槍は、とても人気があるのよ」


 だから交流会に持って行けないし、槍術をやっている人たちからしたら、あの趣味が悪い装飾に大きな価値を見いだせるのだろうが、やはり俺たちには理解できなかった。


「代わりに、普通の槍を持って行くのか」


「火炎魔法をまとわせるから、ミスリルの槍を持って行くけど、それでも実家からなにか言われそう」


「そこを気にするとなにもできなくなるから、仕方がないんじゃないかな?」


「それもそうね」


 俺もそういうのを気にしてしまう方なので、イーナの気持ちがわからなくもない。

 だが、品質の悪い槍に火炎を纏わせるとすぐ駄目になってしまうので、そこは妥協しない方がいいとアドバイスしておいた。

 そんなやり取りのあった数日後、俺は交流会が開かれる王都まで、 『瞬間移動』でイーナを送ってあげたのだった。







「ようこそ、イーナ様」


「初めての参加となりますが、よろしくお願いします(様? どうして?)」


「この交流会は、他の道場や流派の方々と気軽に情報交換などをしていただく集まりですので、あまり固くならなくていいですよ」


「はぁ……」


 バウマイスター辺境伯家槍術指南役とはいえ、初めての交流会への参加なので大人しくしていようと思ったら、会場に入ってすぐに槍術ギルドの会長から話しかけられた。

 普通ならあり得ないと思うのだけど、さすがバウマイスター辺境伯家の知名度ってところね。

 でも槍術ギルドの会長といえば貴族なのに、どうして私を様づけで呼ぶのかしら?


「南ガトル大陸は、魔物の巣窟だと報告を受けています。無事に一つ目の道場設立が終わりましたが、今後ガトル大陸の開発が進めば、もっと槍術道場が必要となるでしょう。バウマイスター辺境伯様には、よろしくお伝えください」


「お館様には確実にお伝えしておきます」


 あっ、そうか。

 会長は、実家とバウマイスター辺境伯家槍術指南役も所属している最大流派のトップだから、ガトル大陸に道場網を張り巡らせるため、ヴェルの協力が必要だと判断しているのね。

 だから、その妻である私にへりくだった口調と態度なのね。


「では、こちらにどうぞ」


「はい?」


 会長と挨拶をしたらそれで終わり。

 あとは、会場で壁の花になる……ヴェルはどんなパーティーに出てもそうしたいって言ってるけど、叶えられたことはない……だけだと思ったら、なぜか会長のエスコートで壇上に……。


「(どういうこと?)」


 戸惑いつつも壇上に上がると、給仕役の若い男性からワイングラスを渡された。


「みなさん、本日は王孫アキウス様の許嫁であるアンナ様のご生母イーナ様が交流会にご参加されています! いやあ、実にめでたい。早速ではありますが、ぜひ、イーナ様より乾杯のご挨拶を賜りたく存じます!」


「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」


「(ええーーーっ!)」


 私の娘と、陛下のお孫さんが婚約した件はまだ内緒なんじゃないの?

 突然の発表だったようで、交流会の参加者たちは大いに驚き、私に注目している。

 この交流会には父と跡継ぎである異母兄も出席しているけど、これまでに見たことがない驚愕の表情を浮かべていた。


「イーナ様?」


「ええと……本日は交流会へのご参加、お疲れ様です。普段なかなか会えない同流派、他流派問わず、槍術を習っている方々とご歓談を楽しみ、午後から始まる試合では全力を尽くしましょう。乾杯」


「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」


 どうにか切り抜けたけど、どうしてアンナの婚約者がアキウス様だってバレてるのよ!

 私は誰かに声をかけられる前に慌てて会場を出て、急ぎ魔導携帯通信機でヴェルに連絡を取った。


『ヴェル、大変よ!』


『大変? 思わぬトラブルで交流会が中止になったとか?』


『それならまだよかったわよ……』


 私は、アンナの婚約者がアキウス様であることが、槍術ギルドの会長に知られていたことを伝える。

 しかも、乾杯の時にすべての参加者に向けて発表してしまったこともだ。


『えっ! バレたの? ルックナー侯爵が機密保持は完璧だって豪語してたけど、あのおっさん、案外いい加減だなぁ……』


『ヴェル、どうしよう?』


『どうしようかぁ……。まさか、なかったことにもできないしなぁ……』


 いくらヴェルでも、そんな魔法は使えないでしょうしね。


『バレてしまったことは仕方がない。となると……』


『となると?』


『臨機応変に今日を切り抜けてくれ。残念ながら、俺は交流会に参加する資格がないから、イーナに手を貸せないんだよ』


 いくらヴェルがバウマイスター辺境伯でも、槍術を習っていない彼が交流会に参加する資格はなかった。

 爵位を盾に強引に参加する手もあるけど、それは決して好ましいことではなく。

 だから私一人で今日を切り抜けないと。


『(午後からは試合があるから、そこまで耐えれば……)』


 まさか試合中、私に話しかける人はいないだろうから、今日は試合をしている時だけが私の安寧の時なのね。

 こうなったら一つでも多く勝って、交流会の参加者たちが私に話しかける時間を一秒でも減らさないと。


『(ヴェルの気持ちがよくわかるわ)』


 私が王孫の婚約者の母親だと知られてしまった以上、言い寄ってくる人たちはすべて怪しいと思わないと。

 下手に便宜を図る約束なんてしてしまったら、ヴェルにもアンナにも迷惑をかけてしまうのだから。


「(とにかく、愛想笑いを浮かべて社交辞令に徹するのよ)」


「イーナ様、ここにおられましたか。イーナ様にご挨拶したい者たちが多数詰めかけておりまして」


 私がいないことに気がついたようで、槍術ギルドの職員と思われる男性が私を連れ戻しにやって来た。


「ほほほっ、ちょっとお館様から連絡がありまして」


「バウマイスター辺境伯様から? ああっ! イーナ様は魔導携帯通信機をお持ちでしたか。さすがは、バウマイスター辺境伯様の奥方様ですね」


「はははっ……」


 このあとパーティー会場に戻ったら、私は多くの参加者たちに囲まれ、その対応で昼食どころではなかった。

 そして、お腹が空いたまま午後の試合へと突入するのであった。





「ミルトンじゃない。久しぶり」


「……(ふふふっ……。見てなさい、イーナ。この私、疾風のミルトンがあなたを倒してあげるから)」


「ミルトン?」


「試合中なのに、感動の再会にでも浸りたいの? 出世なされるとのん気になるのね、イーナ」


 どうやらこの私、ミルトン・ルミナス・バーフェットのことを覚えていたようね。

 ブライヒレーダー辺境伯領地に隣接する、ルーグラ子爵家の槍術指南役家バーフェット家の三女である私と、ブライヒレーダー辺境伯家槍術指南役家の娘であるイーナは、何度か道場の練習試合で戦ったことがあった。

 その結果はいつもあなたの勝ちだったけど、あなたが王都に引っ越してから私の魔力が増えて、風魔法が使えるようになったことを知らないはず。

 風魔法を体と槍に纏わせ、一気に敵を屠る。

 冒険者としても名を馳せたこの私の相手が、たまたまバウマイスター辺境伯の妻となり、さらに娘が陛下のお孫さんの許嫁ですって!

 将来の王の義母だかなんだか知らないけどいい気になって!

 会長以下幹部たちや、他の参加者たちにチヤホヤされていい気になっているみたいだけど、別にあなたが強くなったわけでもない!


「(みんなにチヤホヤされてたのに、私の疾風のごとき槍捌きで瞬殺されて大恥をかくといいわ)」


 この交流会では、槍術の実力がすべてなの。

 いくらイーナが偉くなったところで、槍術の腕前が上がったわけではないわ。

 この私が、容赦なくボコボコにしてやるんだから!

 パワーアップした、私の風を纏った一撃を食らって、地べたに這いつくばるといいわ。


「(風魔法を槍に纏わせられる私が、魔法を出せないイーナに負けるわけがないんだから!)」


 早速試合が始まり、私はこれまで多くの勝利をもたらしてきた疾風突きでイーナに迫っていく。


「(パワーアップした私の槍術を食らいなさい!)」


 今度こそイーナに勝利できる。

 そう確信した私は、その身と槍に風魔法を纏わせ、イーナへと突進していく。


「イーナ! 以前よりも大幅にパワーアップした、この私の一撃をかわせるかしら?」


 私のあまりの速さに、イーナは驚いているようね。

 まさか交流会の試合で大怪我をさせるわけにいかないから、彼女の槍を弾いて……。


「(ミスリル製の槍……羨ましい……じゃない! 私だって、バウマイスター辺境伯様に見初められていたらぁーーー!)」


 イーナなんかよりも私の方が圧倒的に可愛いはずなのに、いまだ私が結婚できないなんて、世の中がおかしいのよ!

 それなのにイーナは、バウマイスター辺境伯の妻、そして娘は陛下の孫の許嫁だなんて。

 こんな不平等があっていいはずない!


「だから、この試合だけはぁーーー!」


 風魔法を纏った槍先が、イーナの持つ槍へと迫っていく。

 肝心の彼女の反応は鈍く、私は勝利を確信した……と思ったら……。


「えっ?」


 突然私の目の前に炎の壁が出現し、半ば本能で突進を止め、動きを止めてしまった。


「イーナが、あのイーナが火魔法を?」


 驚きのあまり、私はほんのコンマ数秒ながらその場で立ち止まってしまった。

 だが槍術の試合では、それは致命的なミスだ。

 『炎の壁』がなくなると、すでに目の前からイーナの姿が消えていて、同時に審判が彼女の勝利を告げた。


「審判! どうして私の負けなのよ?」


「後ろを見てみたまえ」


「……えっ?」


 私が後ろを振り返ると、そこには槍の穂先を私の背中に突きつけたイーナの姿が……。

 完全に後ろを取られてしまったら、もう負けを認めるしかない。


「参りました……」


 せっかく風魔法を使えるようになったのに!

 しかも、これまで魔法なんて使えなかったイーナが火魔法を使えるようになっていたなんて!

 魔法なんて卑怯……なんて言い分は交流会の試合では通用せず、私も風魔法を使っているから文句なんて言えるわけもなく……。

 次こそは、必ずあんたに勝ってやるんだから!




「ふう……」


 一回戦は、昔よく道場同士の交流試合で戦っていたミルトンが相手だった。

 懐かしさもあり話しかけてみたのだけど、あんなことがあったせいか、どうやら私のことをよく思っていないみたい。

 勝負自体は、なんとミルトンが下級ながら風魔法を使えるようになっていて、それを槍に纏わせて攻撃してきたけど、『火の壁』を目くらましにして勝利することができた。

 ミルトンには悪いけど、早く負けると大勢に取り囲まれて面倒なことになるから、私は一回でも多く勝つ必要があるの。

 槍術の腕前は上達を続けているし、火魔法とも組み合わせることができるから、あと何回かは勝てるはず。


「二回戦! サーベルト流総師範ベルドー・マーティン!」


「この俺に、コケ脅しの火炎なんて通用しないぜ」


「(ええっーーー! この人が相手なの?)」


 まさか二回戦で、優勝候補に当たってしまうなんて……。

 サーベルト流は、私が所属する最大流派『オベルクス流』に次ぐ規模を誇り、ベルドー・マーティンは一番の実力者だ。

 

「(勝てるかどうか怪しいけど、もし負けると……)」


 交流会の参加者たちに囲まれ、胃が痛い思いをしないといけない。 

 ヴェルを見ているとわかるけど、なにか便宜を図ってほしいと言ってくる人たちをあしらうのも面倒なので、どうにか勝利しないと。


「(でも、ミルトンほど甘くないわよねぇ……)」


 それでも、私は勝たないといけない! 

 試合に負けて観戦する側に回ったら、大勢の人たちに囲まれて大変なことになってしまうから。

 私はなにも変わっていないのに……槍を介さないと駄目だけど、火魔法は使えるようになったわね……というか、アンナとアキウス様の件が会長にバレていなかったら、こんな狭苦しい思いをしないで済んだのに!


「(絶対に、ルックナー侯爵に文句を言ってやるんだから!)」


 今はこの最強の敵、ベルドー・マーティンを倒すことだけに集中しましょう。







「交流会の試合で優勝とは凄いじゃないか」


「絶対に秘密だったはずの、アンナの婚約者がアキウス様だって事実が、槍術ギルドの会長にバレたことに比べれば凄くないですね」


「……まさか、うちを辞めた使用人から漏れるなんて思わなかったんだ。あいつ、うちの屋敷で働いている時に聞き耳を立てていたようで……」


「不用心にも程がありますよ」


「……なにも言い返せない……」


 翌日、私とヴェルはルックナー侯爵に苦情を言うため、彼のお屋敷にいた。

 ルックナー侯爵は私が交流会の試合で優勝したお祝いを述べたが、正直なところあまり嬉しくはない。

 早く試合に負けると試合が終わるまでずっと多くの人たちに囲まれ、無茶な頼まれ事をされてしまうかもしれないから一回でも多く勝とうと頑張ったら、結果的に優勝してしまったからだ。

 二回戦のベルドー・マーティンは本当に強くて、彼に僅差で勝利したあとも疲労感が凄いし、火魔法だって頻繁に使用できないから、決勝戦まで苦労の連続だったのだから。

 それよりも、アンナとアキウス様の婚約が漏れた件よ。

 ヴェルはなんとなしに、ルックナー侯爵の情報管理が甘かったのではと疑ったんだけど、本当に彼のお屋敷から情報が漏れていたとは……。


「うちの屋敷を辞めた使用人が、槍術ギルドの会長の屋敷に再就職しているとは思わなかったんだ。会長はベルト伯爵家の三男だが若い頃から槍の名手として有名で、家柄がいいのもあって槍術ギルドのトップになったのだ。しかし困った……。ベルト伯爵家と我が家の関係は決して良好とは言えず……。だから交流会の席で漏らしやがったんだな!」


 そんな突然怒られても、私もヴェルも困惑するしかない。

 

「三男が槍の名手って、ベルト伯爵家は軍系貴族なんですか?」


「それが、財務系貴族なのだよ。たまに文官の家から武芸に長けた子供が出ることもあるのでな」


「事情はわかりましたけど、どうするんです?」


「……どうもこうも。まさか、アキウス様とアンナ嬢の婚約を破棄するわけにも……」


「そんなことは認めない!」


「「「うわぁ!」」」


 突然怒鳴り声が聞こえたので驚いてしまったけど、その声の主がヴァルド殿下であることが判明して、私たちは二度驚いてしまった。


「ヴァルド殿下、この度は大変申し訳なく……」


 ルックナー侯爵は、ヴァルド殿下に必死に謝っていた。

 さすがにこれは、滅多にない失態だからだ。

 

「普通に考えると大失態なんだが、残念ながら槍術ギルドルート以外でも、すでにバウマイスター辺境伯の子供たちの嫁ぎ先がバレている。なかなか人の口に戸口は立てられないようだ。エドガー侯爵家、アームストロング伯爵家、他の大貴族たちも同じような理由でほぼ同時期に情報が洩れてしまった。こうなっては仕方がない。王家から正式に発表することになるだろう」


 長期間秘密を保つのって難しいのね。

 そしてアンナは、アキウス様に嫁ぐまではバウマイスター辺境伯領の外に出にくくなってしまった。

 バウマイスター辺境伯家の娘が気軽に領外に遊びに行けないから、あまり問題はないと思うけど。


「ところでイーナ殿は、槍術ギルドの理事に任命されたと聞くが……」


「はい。試合の優勝者は理事に任命されると会長から言われて、断ることができませんでした」


「理事なんて本来は年寄りが席を埋めるものだから、そんなルールは存在しないはずだがね」


「そうなんですか?」


 ヴァルド殿下って、槍術ギルドの内情にも詳しいのね。


「会長の実家であるベルト伯爵家としてはルックナー侯爵家が邪魔で、バウマイスター辺境伯家とのつき合いが薄かったという事情がある。今回の件を皮切りに、バウマイスター辺境伯家とのつき合いを深める意図があるのだろう。ベルト伯爵家の三男は槍術ギルドの会長で、イーナ殿は槍術ギルドの新理事になった。これからは定期的に会合等で顔を合わせることになるのだから」


 そのために、私を槍術ギルドの理事にしたの?

 なんか面倒くさそうね。


「理事なんてそんなにやることはないから、夫であるバウマイスター辺境伯と一緒に屋敷に遊びに来ませんか? とか、そんな感じでつき合いが始まり、そこに『たまたま』ベルト伯爵がいたりする。貴族はこうやって交友関係を広げていくものなのさ」


「……俺もですか?」


「会長がイーナ殿だけを屋敷に誘ったりしたら、彼の評判と立場が地に落ちるからな。断るのも角が立つし、バウマイスター辺境伯もイーナ殿も忙しい。なので、その分ルックナー侯爵家とのつき合いを減らせば問題ないと思う」


「殿下ぁーーー」


「仕方があるまい。貴殿が性根の悪い使用人を、屋敷の奥にまで入れてしまい、内密の話を聞かれてしまったのだから。貴族がよくやる失敗ではあるがね」


「とほほ……」


 ヴァルド殿下にそう言われ、萎れた菜っ葉のようになるルックナー侯爵。

 でもさすがは次の国王陛下。

 ヴェルがつき合いのある財務閥の貴族って、ルックナー侯爵家とその寄子たちだけだったけど、ベルト伯爵家とのつき合いも始めさせて、財務系貴族におけるルックナー侯爵家の影響力を削ぎにいくなんて。

 そうでなくても彼は、特別な事情があって財務卿を五年以上続けたりして、退任後も影響力が大きかったのだから。


「しかし、試合の優勝賞品は理事への任命だけなのかね?」


「それがですね、ヴァルド殿下。優勝者は、ラグレルアル作の槍を貰えたんです。見てください、この素晴らしい造りを。柄の部分の彫刻なんて芸術的じゃないですか」


 私は苦労してラグレルアル作の槍を一本手に入れたけど、これで二本目を手に入れることができた。

 

「この多くのムカデが蠢く彫刻がリアルで、最高に素晴らしいんですよ。ヴェルもそう思うでしょう?」


「……あっ、うん。独創的だよね」


「ルックナー侯爵もそう思いません?」


「……ラグレルアル作の槍は評価は高いと聞くからな。そう、評価は高いんだ……」


 昨日の交流会は色々と大変だったけど、唯一のご褒美はこのラグレルアル作『ムカデの蠢動』を手に入れたことね。

 屋敷に戻ったらアンナと遊んであげてから、この槍の手入れをしないと。

 ラグレルアル作の槍は、手に入れられれば手に入れるほど、もっと欲しくなっちゃうから不思議ね。

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― 新着の感想 ―
ルックナー侯爵、貧乏籤ばかり、、、 財務卿なのにw
ムカデは勝ち虫だからなー ヴェル以外にも転生者がいたか日本人と同じ感覚を持った者たちが居たか······· (ミヅホやアキツシマを考えるとどっちもある) まぁある意味ルックナー家が貧乏くじ枠になるの…
魔力もそうだけど文字通りの実戦経験の多さが功を奏したか。
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