ヒカキンの味がただ一度だけうまい

 ここ数日ヒカキン(敬称略)がゲーム『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』のプレイを配信し、その内容がちょっとした波紋を広げていた。これまで数名のゲーム実況者で本作のプレイを見てきたけれど、彼の配信がこう、なんとも味わい深くて……ラストまで追いかけてしまった。

 味わい深い=すばらしい ではない。そう、すばらしくはないけど見ちゃう! ストレスすら感じるのに見ちゃう! なにこのあたらし味~~~!何回もデトロイトをおいしくいただいてきたのにまだ知らなかった味が、そして猛烈にヒカキンの味がする。ヒカキンの味ってみそきんの話じゃないよ。

 2018年に発売されたこのゲームは名作と呼ばれていて、私もだいすきなタイトルのひとつだ。シューティングやアクションではなくストーリーメインのゲーム。脚本がすばらしいうえに映像や音楽の作り込みまで一切の抜け目がない。天才が各分野の天才を集め、ちょっと想像しがたいくらいの時間と金と労力を注ぎ込んで作られている。「プレイする映画」とも言われている。ゲームと呼んでひとつのジャンルに閉じ込めることで損してる気さえする。ゲームに興味のない人にまで届いてほしすぎる。製作チームにはなにか恩返しをしたい。マジで、マジでいいもん作ってくれてありがとう……。

 機械が人類の知性をはるかに超えた近い未来、自我をもったアンドロイドたちが人間のいち種族としての人権を求めて立ち上がる。対話か暴力か、共存か対立か。プレイヤーの選択によって物語は大きく分岐し、プレイヤーの選択によって人間もアンドロイドも死ぬ。

 これまでに私が見てきたゲーム実況者はほとんど全員、まず主人公のアンドロイドたちに共感を向けた。ほんのわずかな目線や言葉からもアンドロイドの思いを拾い上げ、丁寧に解釈し、なるべく人もアンドロイドも傷つけない道を探る。自らゲーム世界に没入し、視聴者を没入させ、製作者が用意した平和へのシナリオを存分に味わって感動させてくれる。見ていて気持ちよく、結末に納得感がある。あえて敵対する人間サイドに立つプレイをするなら、二周目だ。作品のテーマをしっかりとわからせてから二周目で味変する。だから視聴者にもストレスがない。彼らはゲームのおもしろがりかたをよくわかっている。

 デトロイトではわかりやすく人間が愚かで悪、アンドロイドが知的で善の存在として描かれる。だからこそヒカキンのプレイが大きな反応を生んだ。

 まず初手から圧倒的に人間側のプレイスタイル。アンドロイドが主人公に据えられたゲームにおいて少数派だとおもう。人間に仕える奴隷扱いを受けてきたアンドロイドの痛みよりも、アンドロイドの普及によって職を失った人の痛みに寄り添う。当然のように「お前はただの機械だ」と言い放ち、アンドロイドを始末することにも躊躇がない。素直なスタンスなのか盛り上げるためあえてなのかわかんないけどなんだこの人……見たことないプレイじゃん……。

 それで配信コメントには「サイコパス」の文字がずらりと並んだ。ひどい、最低……そういう言葉が滝の速度で流れる。みんな物語への共感性が高い。それに対してヒカキンは「こうやって人間みたいな見た目だからかわいそうと思っちゃうけどさ、実際に居たらおれ、こわいよ」。たしかに。もしも身近にアンドロイドがいて、ある日突然立ち上がりこちらに解放と自由を求めてきたらどうだろう? ヒカキンは誰よりもゲーム内の事態を現実的に捉えている。

 ばばんと人間側を宣言したヒカキンも進めていくうちに難しい局面にぶち当たる。人間を守るためなのに、アンドロイド側に有利なふるまいを強いられたりする。人間とアンドロイドの立場が複雑に絡みあい分かちがたい。「この人の気持ちもわかるよ、でもおれはこっちかな」多くの実況者はこうして多様性を受容し、葛藤しながら慎重に選択を積み重ねるが、もうずっと人間一択、迷わず即決だったヒカキン。それなのに重要なポイントでなかなか選べない。あらゆる方向から価値観がゆさぶられ状況が逼迫して、敵と味方、善と悪がもうよくわからない。ここが本作の核なんだろう。

 ヒカキンの物語は最終的になんともいえない感じになった。幸せになれた者がひとりもいない、達成感も爽快感もないビターな結末。それが何よりもリアルで、苦く、渋い味わい。そこに視聴者からの賛否がザァザァ降りかかる。それを笑って受け止めながらさらりと流すヒカキンにも旨みがある。コメント欄とのやりとりにこそ彼のダシが出まくっている。

 私が彼の選択や配信全体を味わい深いとおもえたのは、さすがに他の人の幸せ感動プレイのおいしさを知っていたからかもしれない。食べる前からスパイスをドバドバかけたみたいに、ゲームをゲームの枠内で楽しみ終えたその次の味をヒカキンは一発目で差し出してきた。あるひとりの成人男性のリアルな言動と、それを目撃した人々のドキュメンタリーとして刺激的な味。この映像を何度も食べたいとは正直おもえない。おかわりはごめんだが、ただ一度だけうまい。

 配信をひと通り見終えたあと、口直しを求めていろんな人のデトロイト実況を見返すことになった。それぞれの哲学にしたがったそれぞれの物語。涙がにじむ場面もある。感動を増幅するあたたかいコメント欄。いやーそうだった。このゲームこんなに美しくなりえたんだったわ……。コナーとハンクのラストシーンなんかは何度見ても鮮やかに心が震える。

 ヒカキンよ、あたらし味を教えてくれてありがとう! なによりもデトロイトを広めてくれてありがとう。彼で本作を知った人に、どうかまっすぐ感動できるほうの実況動画まで手を伸ばして味わってくれと伝えたい。もちろんご自身でもプレイしてみてください、私はしていないのですが……。


【おまけ】
その後、見たことなかったな~と瀬戸弘司バージョンを見たら、ゲーム世界からかなり距離をとった、ヒカキンとはまた違うベクトルのレア味だった。コメントで「ゴミエンド」「人間の変異体」と称されてうれしそうに笑う瀬戸さんが愉快。やっぱりデトロイトは人柄が出るすばらしいゲームですね~~!



ー 別件 ー
「これは私たちの物語」


 デトロイトは人種差別問題をアンドロイドに投影した作品とも言われる。さまざまな実況動画を見直しながら、最近出会ったドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』のことを私は何度も思い出していた。

 イスラエルのパレスチナ侵攻についてよく知らないしイメージできないという人は、デトロイトのなかで起こることそのままだと思っていい。道を歩くだけで標的にされ、居場所がバレたら追い出され、反抗すればかんたんに撃たれる。人間がアンドロイドに対して行うひどい仕打ちと同じことを、人間が人間にしている。いまこの瞬間も。

 イスラエル側はパレスチナ人を「人間ではない」と公言している。うそみたいな差別だが、国の大臣とかが、マジで、実際に言っている。パレスチナ人には人権がない。「アンドロイドに自由を」と「パレスチナに自由を」はまるっきり同じ……いや昔からずっと人間なのに人間でない扱いをされてるんだから、アンドロイドよりもひどいか。

 日本は中立じゃない。イスラエルと経済的・軍事的な関係をもって加担している。日本にいてできることの一歩目は、とにかく知ることだ。こっちは物語が感動的だとかヒカキン味だとか言って距離をとっている場合ではない。これは私たちの現実。


↓この本が読みやすいしわかりやすいです! 私たちはいつからでも知り、行動することができます。


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