春におがる
――おばあちゃん、きたよ。
「はいどうも。わい、かんなだが。ずいぶんおがってまってわがんねがったじゃ」
――うん、かんなだよ。
「わいはー、昔っからかんなは手ぇーしゃっこくてまいねぇな」
――ははは、ごめんごめん。おばあちゃん今日も畑の格好だねぇ。
「んだよぉ。春になって雪ぃなぐなったら、雑草もどぁーっと伸びるはんで、一生懸命に刈らねばまいねべな。野菜の栄養ば奪っちゃうの」
――んだね。おばあちゃんの畑はトマトもなすも、なんでもかんでもおいしいもん。
「やーっと雪なぐなったと思ったら、今度は虫だよぉ」
――おいしい野菜作るのって大変だったんだね。そのへんに勝手に生えてるみたいなアスパラも大好きだったけどさ、いまはもうぜんぶ道路になっちゃったよ。
「そうかぁ。ま、仕方ないべな。かんなぁ勉強はちゃんとしてらが? もうすぐ四月だべさ。学校いつからはじまるんだが」
――学校はずっと前に卒業して、もう仕事してるよ。東京で働いてるよ。
「んだったが。はっはっはっは。孫もひ孫も、もう誰が何歳かわがんねぐなってまったじゃ」
――でもちゃんと名前覚えてて、ありがとうね。もうだいぶ前におばあちゃん家の目の前まで行がさって見たらさ、あの広い庭もなくなって向かいにローソンもできてた。よくけんちゃんと鬼ごっこして遊んだでっかい部屋も、いまは外国から来た人たちに貸してらんだってよ。
「んだびょん。ぜーんぶ子どもたちにやってもらっておばあちゃんは知らねぇけど、あの家にだぁーれも住まないより、さびしくなくていいべな」
――そうだね。こないだは、たいこおばちゃんが亡くなったよ。もう二ヶ月も経った。
「んだんだ。たいこがこっちさ来たはんで、ひさしぶりにいっぱいしゃべってらの。今年は雪のそのそと降ったってな。雪かきも雪囲いも、こっちさ来たらもうしなくていいって喜んでらんだよぉ」
――んなの! たしかに今年はいっぱい雪降ってた。おばあちゃんのときはコロナのせいで最後まで会えなかったでしょ。お葬式も行けなくてさ。でもたいこおばちゃんとは、ちょうど東京から帰ったときに会えて手ぇにぎってお話しできた。あれが最後になるとは思ってなかったけど。雪すごくても帰ってよかったよ。
「んまー、いがったいがった。とにかくおらだぢはこっちで元気だ。かんなはちゃんとごはん食べてらが? 昔っから体ぁ細して、背ぇばっかりおがってまってのー」
――ごはん食べてるよ。もうさすがに大人になって身長は止まったよ、あとはいつか縮むだけだねぇ。
「んだばって春が来たら、どんな人間もおがるんだはんでな」
――えー、どういうこと?
「人間はさ、雪の下でこそらーっと練習したり勉強したりして、湯っこさ浸かってちゃんと休んでれば、春におがるんだ。調子いい春もいぐねぇ春もあるけど、かならずおがってるんだ」
――そっかぁ。
「おめだぢはすーぐ大人になったって言うべさ。だばって、わぁも毎年なんかの野菜だめにしたりして、育てかたひとっつ知るべな。おばあちゃんでもそうだはんで、かんなだっきゃまだまだおがるよぉ」
――でもさ、うまくいかさんなくて泣きたくなるようなことばっかりだよぉ。
「おばあちゃんはかんながちーっちゃい頃から見てるべさ。何十年かして、いまこんなにおがったべ。このあとも同じようにおがる。どったに自分でダメだと思っても、おがってるんだよぉ」
――ありがとうねぇ。おばあちゃんに次に会ったときに、またずいぶんおがったなーって言ってもらえるようにがんばるよ。
「焦ればダメだよ。おばあちゃんもたいこも、ちゃーんと見てるはんで。ズルもしちゃダメだぁ」
――うん。わかった! そせば、おばあちゃんもう行くね。またね。
「はいはい、へばの」
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