ササキアイ『花火と残響』

 ここで好きに文章を書きはじめて数年たった頃から、私は作為的であることについてよく考えるようになった。文章から漂ってくるわざとらしさのことだ。ほんのちいさな、さりげない言葉からでもすぐに作為を嗅ぎとる。こんなふうに読ませたいというねらいとか、なにかこう、欲みたいなものを感じると萎えてしまう。

 それはときに好きな作家の文章からでも、私自身が過去書いた文章からでもにおってくる。におう……におうぞ……「あっほらこの人! なんかいいこと言おうとしちゃってます!」頭のなかに作為警察がやってきて、急に表現を取り締まりだす。ピピーーーッ

 いっぽうでそれは当然のことだとも思う。だって誰にも読ませない日記じゃないんだから、そういうもんでしょうが。表現は書き手から読み手へのサービス精神であってちっとも悪いことじゃない。でもなんだか年々、敏感になっている。そして小賢しくわざとらしさを嗅ぎ分けるくせに、自分で書くとわざとらしくなっちゃったりして苦しい。たまにそこに意識がいきすぎて作為アレルギーになり、楽しく読んだり書いたりできなくなってしまう。

 ササキアイさんの『花火と残響』を読んだ。ここに収録されている話は、そういう鼻を利かせずに読むことができる。作為のにおいを感じさせないのに鋭くも柔くも心に残る言葉が散りばめられている。言葉があるべくしてそこに収まっているような美しさ。他の文章と何がちがうのか、どう違うのか。べつに分析や考察などしていないが、なんとなく、正直さと湿度なんじゃないかと考えながら読んだ。

 とくに過去のみっともない思い出や人生のままならなさについて書くときは、どうしても自分の記憶や感情に対してウェットになりやすい。思い出と湿っぽく接していると、嘘をついてしまうことがある。嘘というのは極端かもしれない。でも自分の経験に特権を与えすぎるというか、実際に起こったことや感じたこと以上にエモーショナルなものになるというか。かんたんにいえば、必要以上に盛ってしまう。どうでもいいことも、まるでかけがえのないことみたいに書いてしまったりして。

 ササキさんの文章はそのへんが正直に見える。もちろん実際のところはわからない。でもそう見える。最初にいいなと思ったのはこの文だった。

しかし今なら分かるが、他人からまんべんなく褒められることにばかり心を砕いているうちは、誰かのとびっきりの天使になどなれないのだった。

ササキアイ『花火と残響』「66と99」p.16

 この人はなんて正直なんだろう。年月が経っていてもここまで正直になるのはなかなか難しい。人から褒められたくて必死だったかつての自分に対して、忖度なしの辛辣な書きぶり。このまるで他人みたいな乾いた視線に惹かれる。自分の身に覚えがあって共感したというのもある。だって若い頃の自分ってなんつーか……あまりにもしょうもないんだもん!

 他にもすきな文章がたくさんある。たとえば「三日月みたいな爪の切り屑」というロマンチックでさびしい話もすきだった。恋愛話はどうしても湿度が高くて苦手がちなのだが、ササキさんの文章ではするんと読めた。これもわざとらしさがなくて正直に書かれている。そう感じた。

 そんな具合で読み進めていったら最後の章でササキさん自身がこんなことを書いていた。

泣かせよう笑わせようという下心が透けて見えるものが私は死ぬほど苦手だ。気分良く自分語りに没頭するうちにそんな居心地の悪さを誰かに感じさせていないかと、書きながら時々不安になる。

ササキアイ『花火と残響』「化粧」p.132

 お~なんだ一緒じゃないか! こういう人の書く文章だから私は最後までさらさらと読めたのだ。彼女のなかにも作為警察がいるのだとしたらなんだか心強い。あとササキさんの感じている不安は杞憂ですよと言いたい。

 長くても百年程度で散る、宇宙にとって取るに足りない私たちの人生。そのひとつひとつは、もちろん、すべてかけがえのないものだ。でも、とりたててかけがえのなさを強調されると、そういう“表現”を嗅ぎとってしまうと、いっきに24時間テレビの感動用ドラマを見せられたような気分になり、アレルギーを発症する。

 はー、私もササキアイさんのような正直でからりとした、表現に気づかせないままに人を吸い込んでしまう文章を書きたい。そう思いながら本を閉じたら、帯に爪切男さんが「こんなにも美しく乾いた文章は、彼女が日々を大切に生きてきた証だ。」とコメントしていた。それそれ~~~!




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