初見日記『ツイン・ピークス』
2025/07/08 第1話
どうやら頭のなかでツイン・ピークスとパルプ・フィクションがごちゃ混ぜになっていた。なぜ! ツイン・ピークスはオダギリジョーが主演をした『熱海の捜査官』の元ネタのドラマだと連れあいが教えてくれて、そういう目で見るとたしかに田舎町の鬱蒼とした森を捉えた映像がやけに多い感じで納得いく。
第一話は一時間半もあった。初回90分スペシャルって日本だけじゃないのか。
冒頭で女の死体が見つかる。発見者が通報時の第一声で「女が死んでる」を“She is dead”と言った。指示語が指示語だけで登場するとはこなれた英語!
死体は女子高生のローラ。ローラ母は死と向き合うたびにキンキン声で絶叫しながら泣く。日本のかなしいシーンでなかなか見ないほどのホラー的絶叫でうるさい。この事件が痛ましいとの理由(?)で翌日学校が休校になっておどろいた。現実なら人が亡くなっても授業はなくならないような気がするけどどうだろう。
わんさか人が登場してもう大変。ざっと20人くらいか。これわざとでしょう? 犯人がわからないとかのレベルじゃないよ。あといろんな人がいろんな人と恋愛してて、誰と誰が付き合ってんのかさっぱりわからないよ。身近な範囲で色恋が自由に歩きまわっているのは田舎町っぽい。
外からやってきたFBI捜査官(たぶん主人公)が町の保安官に住人ひとりひとりの身元を尋ねる。両腕で丸太を大事そうに抱える中年女性について、保安官は「丸太おばさん」とだけ言い、捜査官もそれ以上何も聞かず「いや誰!」私が代わって言った。
熱海の捜査官みたいに一話完結で次々と事件が起こる形式かと思ったら、まったく解決しない。盛り上がる場面で毎度同じ曲ばかりかかり、BGMのバリエーションがほしい。携帯電話以前のドラマだから固定電話のやりとりと人づての伝言がたくさんでてきておもしろい。
2025/07/09 第2話
クーパー捜査官はツイン・ピークス(町の名前だった!)を気に入ったらしい。ホテルでコーヒーの感想を言うためだけにウェイトレスを引き止める彼の間合い。よい。やな感じなく自分中心の時間のなかで生きている人にはあこがれる。
保安所では時折ドーナツ・タイムがある。捜査官の大好物らしい。大きなテーブルいっぱいに並ぶドーナツたち……いいですなあ。
今日も今日とて町では恋が入り乱れていた。ペアがありすぎて一組を取り上げるのが難しいし、まず登場人物が多すぎて知らん男と知らん女がとにかく求めあっている。不倫している男のひとりが「もし浮気が妻にバレてたら、おれは今ごろ天国さ」みたいなことを言い、天国に行けると思っていてずうずうしい。
なんと丸太おばさんが再登場した。しかもこの方、丸太と会話できそう! 事件の鍵を握っていてほしい。とても気になる存在。
前回の半分の時間であっという間に終わり、話は何も進まなかった。
2025/07/13 第3話
数日空いてもう忘れかけている。いそいそ続きを見るが、まだ知らない人が増えていく。もしかしてそういうチャレンジしてる?
相変わらず暴力と性愛にまみれた山が美しい田舎町で、ただクーパー捜査官まわりの空気だけが穏やかだ。あと保安所の電話番をしている女の子・ルーシーがとってもキュート! ずっと捜査官とルーシーが画面にいてくれたらいいのに。
殺人事件の犯人候補としてイニシャル「J」が浮かび上がるも、町にJがいすぎてしまう。ジェームズ、ジョシー、ジャコビー……わかってたけどこれって犯人を探すミステリードラマなんだ。
クーパー捜査官が夢で学んだらしい「石投げで犯人を絞りこむ方法」を試す。結構ばかげているのに保安所の誰もが疑いの目をしていない。単なる占いの様相だがクーパーの迫りくる感じで、なぜか真実めいている。
その夜クーパーはさらに夢を見た。そこで被害者のローラに会って話す。夢の夢たる演出なのか謎の赤いカーテンに包まれた小さな部屋にいる。私はこんな突飛な空間に自分がいる夢を一度も見たことがない。
2025/07/13 第4話
「右上がりの字は恋に溺れがち 気をつけて」多くに当てはまりつつもその気にさせる、クーパー捜査官のおしゃれなセリフ。クーパーは頭が切れるうえにかなり善良な人間で、個性もあるが町の人より目立たない存在感がちょうどいい。
ローラの葬式が行われた。神父の隣に丸太おば発見。葬式は途中まで形式に沿ったものだったが、ローラの公式彼氏(?)のボビーが急に暴れて乱闘騒ぎ。連鎖的に感情が飛び火しローラ父が錯乱。
自殺や他殺による死は、残された人に深い悲しみをもたらすいっぽう、死に至るたしかな道理がないせいで興奮させてしまいもする。
事件についてもそれ以外についても、とにかくみんながみんなそれぞれに思惑があり、隠し事をしていてよくわからない。整理されないカオス。世界の真実だ。ローラは例えばコカインをやっていたが、周りの人に慕われていたのもほんとうで、悪くも善くもあった。人間の真実だ。
今日も話が進んでいるようで進んでいない。とにかく人の顔と名前を覚えるのが苦手である私の性質が、このドラマを理解するのに致命的なことだけはわかる。
2025/07/14 第5話
ローラ母まで犯人のヒントになりそうな夢幻を見はじめた。いまのところ事件解決への向かい方が非科学的すぎる。ミステリーとしてあまり見たことがなくてよい。刑事コロンボも名探偵コナンも、仕掛けはとんでもないけどロジカルではあるのに。
今回はずっと展開が激しくシーンも変わりまくり、しかもハイコンテクストで半分も理解できていない気がする。難しかった。もう後半なのに何ひとつ明らかになってこない。
ただ新しく「こいつとこいつもデキてんのかい!」と思えるのは、ようやく少し登場人物を覚えはじめたからか。この田舎の人間関係がはちゃめちゃなのはもう十分すぎるくらいわかった。
唯一の癒しだった保安所カップルのルーシーとアンディがケンカ? をしてしまいかなぴい。
一緒に見ていた連れあいが途中でハライタになり、トイレに駆け込んだりしてばたついているうちに終わってしまった。
何も信じられない現実のなかで、とにかく夢だけが信じられる。
2025/07/15 第6話
昨日はちょっとずつ覚えてきた気になってたけれどダメだ、人が多すぎる。誰の父親だとか、誰の不倫相手だとか、もう最後まで覚えるの無理かも。犯人を考えるのはやめて、ただそこで起こることを見るモードに私は入っている。
今日のドーナツ場面。クーパー捜査官がひとくち食べたドーナツを手に預けられたアンディが、当たり前につづきを食べた。ルーシーはアンディにクールであってほしそうだけど、こういうかわいいところが結局すきなんじゃないかな。
丸太おば大活躍回! 木は見ている。フクロウは見ている。森で何があったのかを。それを丸太おばが代弁する。本気で鍵握ってるじゃん。町そのものが口をきけたら事件のすべては明らかになる。もしかして、そういう発想でこのドラマ全体が作られてたりして。夢と自然、やはり論理でない何かが真実をもたらすぞ。
でもあと二話だっていうのに、いや毎回言ってるけど、事件の真相が全然見えてこない。すさまじいペースでいろんな人が自分の思惑にしたがって動いてるんだけど、何かつかめそうで、何もつかめない。
クーパー捜査官の勘や運がやたらとよいのだけが頼りだ。ちゃんと謎がそれなりに明らかになって終わってくれることを祈る。
2025/07/16 第7話
「僕がしたいこととすべきことは違う」「君に必要なのは悩みを話せる友達だ」女子高生からの誘いを傷つけずにかわし、「毎日自分にひとつプレゼントをするんだ 計画したり待ってたりしてはダメ 偶然でないと」急なコーヒーブレイクの言い訳をする。
クーパーから飛び出すセリフは豊かな教養に裏打ちされた詩のようだ。知的なものごとは、相手を理詰めしたり正しさで勝負する地点からは遠くにあらわれる。
さて、いよいよ事件に迫ってきている雰囲気がある。あるぞ。雰囲気はぱんぱんに満ちている。ほうぼうの動きに激しさが増してきている。
保安所。犯行現場で飼われていた九官鳥が人間の声をまねて当時の様子を伝えるシーン。やっぱりどうやら人間以外が真実を語るらしい。決定的なことを口走った瞬間、窓からライフルで撃ち殺されその下に置いてあったドーナツに鳥の血が滴る。ついにあの、安全地帯だった保安所にまで銃弾がおよび、平和の象徴たるドーナツが赤く染まったのだ!
精神科医ジャコビーの部屋が、レトロ・ハワイアン? クラシカル・エキゾチック? とも言えそうな雰囲気でおしゃれ~とか思っていたらジャコビーも何者かに襲われてしまった。どうなる。
いっぽう「片目のジャック」にクーパー捜査官一味やオードリーらがそれぞれに潜入。いやーどうなるどうなる、最後はどうなるのいったい。
2025/07/16 第8話(最終話)
「片目のジャック」にて、ジャック・ルノーと話すクーパー捜査官の切れ者っぷりがすばらしくて見入る。こういう力強い演技を見ていると、たくさんの個性的な人物が登場したけれどやっぱりクーパーが主人公なのだと実感させられる。
ジャックを捕らえるシーンでアンディの弾が足に命中。よくやった! ちょっと気弱で頼りないヤツが健闘するとうれしい。自分の中にいるそいつの部分が報われる気がするからか。
製材所のジョシーと、仮釈放中の男(ヘンリー・“ハンク”・ジェニングス)がキルアと父ちゃんみたいな血の誓いをしたんだけど、何の話なのかさっぱりわからない。最終話なのにこんなにわからなくて大丈夫なのか? 不安募る。
ルーシーとアンディ、仲直りだよかったーと思いきや妊娠しておりビビる。いつもドラマや映画で身ごもる場面に出会うとフィクションだと再認識する。フィクションでは、人はなかなか死なないのにかんたんに生まれる。現実と逆だ。
えっ!? おわり!? えーーーっ!! 最後は大声で叫んだ。急に終わった。何もわからずに終わった。血の誓いあたりからいやな感じはしてた。これ本当に全部回収できる? 投げて終わらない? って。思ってたけど、やっぱりぜんぜん解決しないじゃねえかーーー! も~~~~、なんだよ~~~~~~。丸太おば~~~~!
2025/07/17 町の中華屋にて
連れあいが「ツイン・ピークスはシーンがいいから見てられる」と言って、まさにそう。
登場人物も不倫も秘密も多くてさっぱりわけがわからないまま進んでいくなか、事件にかかわる場面もそうでない場面も、とにかくワンカットの画、ひとつの言葉に耳目を惹きつけて離さない強烈さがある。その強い引力によってわれわれは第八話まで運ばれてきた。そしてシーズン2も見ないわけにはいかなくなってしまいました。
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