山のどの地点であいさつがはじまり、終わるのか(8/23-9/1)
2025年8月23日
長野に来てむしろ暑い。旅の初日におしゃべりの場を一番盛り上げた話題は「最近たぶん瀬戸環奈とまちがわれて外国人の男性からInstagramをたくさんフォローされている」だった。一文字違いで紛らわしいとは思いますが、どうか写真で判断してください。Kanna Satoより。
2025年8月24日
長野の里山に出かけた。「ぼくのなつやすみ」の舞台・月夜野もきっとこういうところだと思う。山を歩いたら動物の頭蓋骨が落ちていて、木漏れ日で静かにふしぎな光をまとっているように見えた。私のなかのボクくんが、なんだこれ? と写真を撮ったけれど、後で見返したらグロテスクでこわい。
2025年8月25日
旅先で仕事するのは悪くない。近所にある信州そばの名店で昼ごはんを食べ、地元ロースターで買った豆でコーヒー休憩。オンライン会議では宿Wi-Fiがどうも弱くて、バレないようそっとテザリングに切り替えたりする。旅と日々を混ぜた知らない味わいが、旅の数だけあると思うだけできもちよい。
2025年8月26日
人生初登山で乗鞍岳に登った。初心者向けと聞いていたのに終盤、一歩踏み外せば転がり落ちるであろう岩場がつづき、うそだろと言いながらも登頂。子どもから老人までいる。人間けっこう登れるもんだな。絶景もすごかったが、山に入ると急にみんな他人にあいさつしだすことのほうが私にはぐっと来る。足場がおぼつかないからすれ違う人とコミュニケーションをとっておく登山マナーとのこと。山のどの地点であいさつがはじまり、終わるのかを見きわめ歩いた。
高山病なのか下山したあとに頭が痛くなって、帰りのバスに揺られて吐き、電車に乗っても吐いた。行きのバスで、連れあいが昨日博物館で撮ったらしいクジラの剥製写真を見せてきて「ほえー(whale)」「ほげー(捕鯨)」とか言って笑ってた頃はあんなに楽しかったのに。幼児よりもおじいおばあよりもずっと頼りない、都内リモートワーク製のからだである。帰っておかゆだけ食べて寝た。
2025年8月27日
友人夫妻と霧ヶ峰にでかけた。平日で人がおらず自分たちさえ黙れば鳥の声だけがひびく。人間が来ても来なくても山たちはただずっとそこにある、その事実に圧倒された。涼しくさわやかな風が吹きわたり、これはエアコンに霧ヶ峰と名付けたい人のきもちがわかるねと言いあった。遠くに野生の鹿がたくさん見えてみんなで眺めた。繁殖しすぎた未来を想像してすこしこわかった。
2025年8月28日
「長野に来て上高地に行かないなんてありえない」と連れあいが言い、昨日急遽バスを予約した。乗鞍岳とちがって余裕の山道ハイキング。絶景ポイントでは、去年行ったノルウェーのフィヨルド内にある町を思い出した。高い山と澄んだ川で涼しい。逆に世界はもうこの高度まで来ないと涼しくないのかよ。
英語圏から来たらしき家族に写真を頼まれる。撮影時の呼びかけをスリー・ツー・ワンかワン・ツー・スリーか脳内で迷っているうちに、口は無意識でカウントダウンしてバシャバシャ撮りカメラを返していた。
2025年8月29日
松本市美術館でロイヤルコペンハーゲンと北欧デザインの展示を見た。ロイヤル〜の展示品はほとんどが塩川さんという人の持ち物らしく、オタクも行くところまで行けば社会貢献である。北欧デザインをつらぬく「日用品をより美しく」の思想は、他者に見られない私だけの生活への興奮に通じてすきだ。
草間彌生の常設展もおもしろかった。四面鏡の部屋にたくさんの電球とともに閉じ込められるインスタレーションで、係員の方に「20秒間中に居てください」とドアを閉められ、ほんとうに20秒で「では出てください」と開けられる。草間氏の脳内におじゃまするような奇天烈体験ときっちりルールに則ったオペレーションの差異、係員が真顔すぎるのも含めて味わい深かった。
2025年8月30日
多趣味な連れあいがこんどは打楽器に興味をもちだし、旅行中にメルカリでまあまあ高いボンゴを買った。それが届いたから今日は記念すべきファースト・ボンゴの日である。練習が近所迷惑にならぬよう、ウキウキと川に出かけていって3時間も帰ってこなかった。ボンゴ上手くなってね。
2025年8月31日
人生初のダル作り。レシピに「マスタードシードが1〜2粒はぜたら」とあり、まさか爆ぜるがこんなに身近な言葉だったとは! しかし熱々の粒が弾け飛ぶのがこわくて火入れに度胸がなかった。味はけっこうおいしくできたから次回は気合いを入れてきちんと爆ぜさせたい。
2025年9月1日
キッチンで焼肉パーティーしよう、立ち飲み屋だぜと家庭内の気分を盛り上げ、台所に並んで肉と野菜をただ焼き食べた。
✧ ひとこと ✧
長野に一週間滞在していました。のんびりするつもりだったのに案外毎日遠出して忙しかったな。松本市の書店「栞日」に、完売していた『おろおろオスロ』の再納品とごあいさつに直接うかがいたかったのが旅のきっかけです。新たに『不在日記』も置いてもらえたので、お立ち寄りのかたは手にとってくださったらうれしいです! 前やっていたバンドで「りんご音楽祭」というフェスに何度も出演させてもらい、2017〜2020年は松本に毎年行っていたのですが、まちを歩いたりいろんな店でごはん食べたりできたのははじめてで、いいとこすぎてびっくり。連れあいも「今んとこ住みてー」と言っていました。今んとこって何に対して保険かけてんだろう。
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