武田薬品の成功、東芝の失敗
「資産の部」に並ぶ勘定項目の中には、硬度が高いものも低いものもあります。それを見分けながら読まなければ、そこで表現されている財政状態を正確に推理することはできません。
会計は信頼性が大切ですから、硬度の低い項目に警戒心を持たなければいけないことはいうまでもありません。そして「資産の部」でもっとも硬度が低いのは、これまでも何度か触れてきた「無形資産」です。
第1章では、2019年に武田薬品がシャイアーを推定6.8兆円で買収した話をしました。工場の設備、土地、棚卸資産など有形の固定資産は1,7兆円分程度しかありませんでしたが、買収金額の75%は収益力をもたらす無形資産の値段だったわけです。
それに対して、これも前述したとおり、東芝は米国のウェスチングハウスを54億ドルで買収して失敗し、わずか1ドルで売却しました。ウェスチングハウスの無形資産としての価値が、ほんの10年ほどのあいだにそこまで低下してしまったのです。その後、ウェスチングハウスを1ドルで買った会社は、それを46億ドルで売却しました。ブランド価値に代表される無形資産とは、それぐらい値動きが激しく、硬度が低いわけです。
その次に硬度が低いのは、やはり「貸付金」でしょう。
貸付金のない会社はない
私は年に50〜100社の財務諸表を見ますが、貸付金のない会社はありません。貸借対照表を一見して、貸付金がないように見える会社でも、「その他」の内訳を調査すると、必ず貸付金が存在します。どんなビジネスでも、手形決済や信用売りによる売掛金はどうしても発生します。相手の資金繰りがうまくいかず、売掛金の支払いが滞れば、やむを得ず短期の貸付金という形にせざるを得ません。
しかし1年以内に回収できず、長期化することもしばしばあります。それを無理に回収しようとすれば、相手が倒産してしまうこともあるでしょう。それでは回収不可能になって元も子もなくなるので、支払えるようになるまで業績が改善するのを待つしかないのです。
実際には、そういう長期貸付金はまず返ってこないと思ったほうがいいのですが、仕方がありません。まだ相手の会社は倒産していないのですから一縷の望みは残っています。だから貸付金は、資産としての硬度がとても低い。もちろん「受取手形」や「売掛金」も、踏み倒される可能性があるという意味で硬度の低い項目です。